プロ翻訳者の単語帳

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英文法の参考書 『一億人の英文法』

      2022/09/26

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 7 minutes
  •  網羅性 :  ★★★★★ ( 充分網羅している )
  •  読みやすさ :  ★★★★★
    ( 配色・書体・画像・枠組みに配慮が行き届き、引き込まれる見やすさ )
  •   :  ★★★★☆  ( 詳細な説明で手が込んでいる )
  •  学参 専門書   ★★★☆☆
    ( 副題  「 すべての日本人に贈る 『 話すため 』 の英文法 」 )
  •  中級者 への推奨 :  ★★★★★
    ( 実務的な深みがあり、大学入試に限定されない充実ぶり )
  •  目次と索引 :  ★★★★★  ( 両方とも丁寧な作り )

【 概評 】

TBD


【発音】ˌtiː biː ˈdiː


一億人の英文法

大西 泰斗、 ポール・マクベイ (著)
東進ブックス、 2011年刊、
A5判、 688頁
【 「 アプリ 」 及び 「 CDブック 」は別売り 】

<出版社HP>    <アマゾン>    <楽天ブックス>

 

 

 

 

  東進Web書店様 HPより   ※  PDF 全5頁、 422KB


物の見事にまとめ上げた、完成度の高い文法書である。

「 飛びぬけて優れている 」 と言いたいほどの集大成。

読みやすさに徹した、配慮の行き届く構成が目を引く。

落ち着いた渋い色味のオールカラーで、 書体と枠組みに創意
工夫がうかがえ、 文章とイラストの配置も巧みに整っている。

イラストは全部、 著者( 大西氏 )自らが描いたという気の入れよう。

使用紙は、 かすかに黄みを帯びた薄クリーム色で、 目に優しい感触。

見た目が心地よく、 開始前にして、 知的刺激と好感をそそり立てる。

魅力的な外観ゆえに、 好印象を受ける相手は、 人間に限らないのか。

 

◆  まずは、 帯からチェック。

 「 話すため 」の英文法が  日本の英語を変える。

 

   話すための英文法 ! 


どこぞの見出しばりに、 多彩を極める帯であり、 先に掲げた表紙
同様 「 話すための英文法 」 のキャッチで、 首尾一貫している。

この旗幟鮮明な方針を、 きっちり具現するのが、 本書の強み。

笑顔で仲良く肩を寄せ合う姿は、 場末の居酒屋でたちまち意気投合した
おっさんたちの 「 ほろ酔い気分でツーショット 」風に見えなくもない。

いいえ。   滅相もない。

こちらのご両所こそが、 画期的な 『 一億人の英文法 』 を、
この世に送り出してくださったのだ。

本書カバーの折り返し ( 「 そで 」 )


ご両人そろって、立派な経歴の持ち主である。

「 共著, テレビでの共演多数 」と鬼に金棒の二人組。

その叡智を結集した1冊が、学参価格で入手できる幸せよ。

これほど輝かしいプロフィール欄に、先ほどの生酔いめいた、
ご近影を使い回すのは、ちょっといただけない。

◆  学生対象の学習参考書( 学参 )の場合、 新旧入り混じって
立ち並ぶ教材の山々から、 明確に差別化を図る必要がある。

若者に向けて、 特色を端的に伝える姿勢と技量が問われる模様。

前出の著者 プロフ に加えて、 表紙カバーを内側に折り曲げた
「 そで 」部分を飾るのが、 次の「 特長 」。

「 話せる英語 」を最速で達成するための文法書  

  高校生から 社会人まで すべての人が 読者対象 

 

大学入試はもちろん、社会で実際に英語を使うため
おおいに役立ちます。


本書カバーの折り返し(「 そで 」)


「 本書が対応する大学受験のレベル 」 がグラフ化
されているので、 主目的は入試対策と考えられる。

今一つ、 意味が読み取りにくいグラフと感じる反面、
箇条書きのチェック欄は、 押し並べて分かりやすい。

高校生から社会人まですべての人が読者対象 」、
英語を必要とする 日本人すべて 」と明記してある。

ざっくり言えば、 国民全体が対象ということ
だから、「 一億人の 」英文法

英語教材にありがちな大風呂敷、 つまり現実味に乏しく、
不相応に崇高すぎる理念に該当するかどうか。

これから検証していきたい。
– 

◆  上掲「 本書の特長 」を具体的に説明するのが、 以下4頁。

「 特長 」ではなく「 特徴 」とあるから、特別すぐれた利点以外の
説明も展開されているはず。

 



「 本書の特徴・使い方 」 ( 全4頁 )

 

続きます。insert

 

◆  丁寧な記述に感心しつつ、結びの(5)に差し掛かって、驚き入った次第。

最後に、 酷烈なご鞭撻が待ち受けていた。

これまでの穏当なご指導と打って変わり、なによ、いきなり。



p. 7.  「 本書の使い方 」


「  高校生なら10日以内に本書を読破し、英語の輪郭をつかみとる
ぐらいの知性と勢いが必要です。  大丈夫だよ,  カンタンだから。

えええっ !?

そのレベルの「 知性 」を、高校生に求めるの ?

「 大丈夫だよ,  カンタンだから 」 って  …

◆  ご指示通り、やってみたけど、全然 「 カンタン 」 でなかったぞ。

高校卒業後、 何十年も勉強し、 なおかつ英語の実務に長年従事して
きたものの、 とてもじゃないが  「 カンタン 」 には思えなかった。

英語の輪郭をつかみとるぐらい 」 とおっしゃるけれど、
「 輪郭 」 を把握するまでが、 とてつもなく長い道のりなのです。

当初は私も、「  深さ50cm、 最深せいぜい2m  」 くらいに見積った。

けれども、 実相は底なしの奈落であることを、 数十年後に知りました。

職業選択を間違ったかも、 と絶望して泣きました。

【参照】  ” no need ” ( 動画入り )

◆  思うに、

◇  日本語母語話者( 日本語ネイティブ )の場合、
「 10日以内 」 でつかめる 「 英語の輪郭 」 など、
単なる 「 幻想 」 にすぎない。


おそらく、 間違いだらけの「 輪郭 」 になりやすく、 まあ危険。

つかめるとすれば、 多分、 それは日本の「 受験英語 」の「 輪郭 」。

日英は、 文法のみならず、 発音・音節・語順にも共通点は乏しい。

言語系統が別次元 なので、 糸口が得られがたく、 ハードルが高い。

日本語は、 今なお起源不詳であり、 系統不明な 孤立言語 とされる。

英独仏を含む、 大規模な印欧語族( インド・ヨーロッパ語族 )に、
縁もゆかりもない点は、 幾多の専門家による論証が裏打ちする。

【参照】  インド・ヨーロッパ語族系統図      ※  後掲



◆  本物の「 輪郭 」は、 はるか彼方に存在すると認識する方が正しい。

例えば、 「 冠詞 」「 時制 」「 前置詞 」 は、 勉強すれば勉強するほど
混乱し、  胸突き八丁の プラトー を乗り越え、 ようやく土台が固まる。

中級・上級の英語学習者であれば、 ご体験済みのしんどさに違いない。

私なんか、 40年以上も毎日掘り続けているが、 未だに底が知れない。

掘っても、 掘っても、 定まってくれない 「 英語の輪郭 」。

何を隠そう、 脳に渦巻く猛烈な焦燥のあまり、 半ベソかきながら、
勉強したり翻訳したりと、 情けないあがきの、 星霜ここに幾十年。

受験が苦しいのは言うに及ばず、 プロになっても、 なかなか大変。

やっと勘所を押さえた、 と喜びも束の間、 新たな疑問がすぐ浮き
上がるから、 いつまでたっても、 輪郭がおぼつかない状態のまま。

にもかかわらず、 食い扶持を英語で稼ぎ、 ブログをも書いている。

母語の日本語とは、 言語的に完全に別物なのだから、 そう簡単な
わけないのである。

【参照】  ” no need ” ( 動画入り )


◆  本書全編に散りばめられているキーワードが、

  •  ネイティブの 感覚
  •  ネイティブの 意識
  •  ネイティブの キモチ

これらを、至れり尽くせり図示し、解説している心意気は素晴らしい。

本書に限らず「 ネイティブの ○○ 」を日本語でじっくり解き明かす
英文法書は増えてきており、 このこと自体は望ましい傾向と考える。

ところが、

  ◇  日本語母語話者にとって、
「 感覚的に 」とらえにくいのが、
  ネイティブ( 英語母語話者 )の感覚  


手取り足取り教えてもらっても、 あらかた「 よく分からない 」。

なんとなく頭では分かった気になるので、 英会話・英作文の際に、
喜び勇んで 「 ネイティブの意識 」 を試みるが、 戸惑うばかり。

—–ちゃんと覚えたはずなのに  …    なんで  …

実のところ、上辺だけの見せかけの英語力だったことに気づき、自身の
自惚れた勘違いに愕然とするのも、 おおよそ 中級学習者に達してから。

私もそうだった。

悔しくて、 意地になって、何度も読み込むが、一向に合点がいかず、
自信をもって活用する水準に到達することはなく、 成長が止まる。

これが、先述の 「 胸突き八丁の プラトー 」。

半ベソ期の到来。

頑張るのが馬鹿らしくなってきて、 なにもかも投げ出したくなる。

—–こんなのやってられるかよ  …    くだらね  …

母語に比べて、「 言語系統が別次元 」とは、 こういうこと。

■  学習上の手掛かりを、 日本語から得にくく、
習得の困難なのが英語。

■  母語を踏み台にして、 理解への足掛かり
を作る好機が、 極端に少ない。


◆  英語もじりの和製語やカタカナ語は、 大意をつかむ目的では確かに有効。

しかし、大半の外来語は、 両言語間の文法の壁を乗り越える力量に欠け、
そのまま適用できず、 英語学習の難易度をむしろ上げている
印象がある。

カタカナで学ぶ英語学習法は、 昔から出ては消えての繰り返しで、 正統
な手法として浸透しなかった理由に、 このような理屈があると推察する。

本当に効果があるならば、 日本人の英語力は今とは違う形になっていた。

日英の文法に精通している指導者は、 きっとお勧めしない学習法である。

【参照】   詐欺教材大国の日本、 

■  「 本能的に 」 習い覚えた第一言語( 母語 )の影響力は、 常に絶大 
■  人間は言語を用いて考えるため、 母語こそ「 思考の土台 」を形作る 


一般的な環境に育った日本人が、 どうやって学んでも、
「 感覚的 」 には身につかないのが英語であり、
もはや宿命的なもの、 と言い切っても過言ではない。

言語面にとどまらず、物事の見方を左右する、文化的な違いも顕著

そのため、 ある程度の 「 異文化理解力 」 を具えていなければ、
円滑なコミュニケーションは遠のく。

語学力と両輪をなす能力  で、 これまた修めるのに時間を要する。

それなりに高度な語学の4技能 「 聞く・読む・書く・話す 」 の実現
には、 文化的側面に対する教養が欠かせない。

異文化を知ることは 「 語学力より不可欠 」 と説く論も根強い。

国際結婚が難しいと言われるのは、 言葉のみの問題であるまい。

ネイティブの視点や思考を、 机上で知ったからとて、
おいそれと会得できるわけなく、 紙上に兵を談ず。

大抵は限界を伴う。

ほぼ無意識に作用する「 感覚 」へ、 すっと吸収される見込みは薄め。

したがって、 自然な流れで、 すとんと腑に落ちるような学び方は、
私たち日本人には 「 現実的でない 」 と自覚する方が妥当だろう。

こうした話は、 “ conclusive ” ( 地図入り ) と  ” integrity ”  に
事細かに記した。

結局、 英語が苦手なまま、 ぽっきり心が折れてしまう。

「  あんなに、頑張ったのに  …  」

日本人の大勢に見られる、 哀しい現象である。

 

◆  「 前置詞3年、冠詞8年 」 は、先達の経験を踏まえた教え。



英語の冠詞がわかる本  改訂版 』 

正保 富三 (著)
研究社、 2016年刊
四六判、 180頁

<出版社HP>    <アマゾン>    <楽天ブックス>


「 何十年勉強しても、冠詞の用法を体得するのは至難である。 」


さらに、 英学界の巨人、 斎藤秀三郎 ( 1866-1929 ) のたまわく、

  • ” English, though a comparatively easy language,
    is far from being so to the Japanese student.
     ”
    ( 英語は比較的平易な言語であるが、日本人学習者に
    とっては、平易から程遠い。 )
  • a pronunciation wholly alien to that of his mother-tongue
    ( 母語の発音に対し、完全に異質な発音 )



p. 5.   “ PREFACE ”

正則英文教科書 第4冊 ( 第4学年用 )
斎藤秀三郎 (著)
興文社、  1908年刊

※  斎藤秀三郎は、 世界初の EFL辞典を生んだ 影の立役者
→  辞書は 「 紙 」 か 「 電子版 」

日英の音は、 舌・唇・歯・呼吸間の相互作用が
まったく違います

  英   語 「 息の音 」
  日本語 「 声の音 」

 

  ◇  英独仏を含む、 大規模な印欧語族 ( インド・ヨーロッパ語族 ) を
母語とする学習者と異なり、  母語が日本語の私たちは、

  手掛かり・足掛かり が全然つかめない

文字表記発音・音節・アクセント・語順  はほとんど重ならない。

舌・唇・歯・呼吸間の相互作用  が大違いで、 発音時の口周りも異次元。

言語面にとどまらず、 物事の見方を左右する、 文化的な違いも天地。

だから、 「 異文化理解力 」  も身につけなければならない。

 

  母語 = 日本語の宿命を担うと、

  英語習得はやたらと難しくなる。


  母語が 「 踏み台 」 になってくれないから

 

やること多すぎ

 

◆  英語は 「 印欧語族 」 ( the Indo‐European languages )。

インド・ヨーロッパ語族系統図


画像の拡大

【出典】  小学館 日本大百科全書 ( ニッポニカ ) より


母語に存在せず、 イメージしずらいことだらけなので、
どうあがいても、 すんなり理解できない。

繰り返すと、

母語に比べて、「 言語系統が別次元 」とは、 こういうこと。

 

◆  一方、 中国人には英語堪能な方が多いとの反論がある。

確かに、 中国語は日本語と同じく、 印欧語族に属さない。

しかし、 日英に比べれば、 文法と語順が似通っていることは検証済み。

中国語( Mandarin )を大学の第二外国語で学んだ際、 自ら実感した。

◆  よって、「 大丈夫だよ,  カンタンだから。」 では後味が悪い。

発破をかけるにしても、「 カンタンだから 」 は見え透いた大嘘。

そもそも、今時の高校生が、こんな子どもだましに乗るだろうか。

さしたる覚悟なく、「 カンタンだから 」と取り組み、 あっさり
挫折した時には、 もう目も当てられない。

実力にそぐわない教材は、混迷脱落を招き、「 英語嫌い 」一直線。

著者自らが、 上調子の言をなすのは、 裏切りに近いものがある。

ましてや、 相手は春秋に富む、 若き俊英の高校生。

我が国の宝。

そこで、 なんとも生意気ではあるが、 私なりに加筆改変を試みたい。

「  高校生なら10日以内に本書  を読破し   に3回素通しで目を通し
英語の輪郭を  つかみとる    大まかに押さえる くらいの
 知性   
勇気 と勢いが必要です。
大丈夫だよ,
  カンタンだから   カンタンではないけれど

◆  「 英語の輪郭をつかみとる 」  に至らなくても、 日本の大学の
一般入試レベルは対処可能。

合格を目指すなら、 試験に頻出の分野を洗い出し、 そこに軸足を置く。

全体的な「 輪郭 」の理解は大づかみでよいので、 必須範囲を特定し、
焦点を絞って、 時間とエネルギーを注ぎ込むべきなのが、受験勉強。

厳格な制限時間を課し、 合否を決する入試の特殊性を考慮すれば、
試験に出にくい方面は後回しどころか、 手つかずで終わったりする。

学者・専門家が重視する系統的な成り立ちより、 頻出度の方が大事。

成立に忠実な段取りは理想的だが、 可処分時間は限られているのだ。

英語に明け暮れるだけで、 万事好都合に事が運ぶ学生なんぞいるまい。

しっかりメリハリをつけ、 手堅く集中し、 さっさと合格してしまおう。

底知れぬ深淵で、 しぶとく踏ん張ってきたからこそ分かる、 英語の深遠さ。

全体像を 「 つかみとる 」 努力は難しくても、 現状欠けている重要知識
を重点的に勉強し、 理解を深める寸法で、 輪郭の一隅をかすめていく。

学者向けの勉強とは、 軌を一にしないと見切る方が、 効率よく捗る。

本来の趣旨に照らして、 高校生の受験勉強と英語を生業とする学者・
専門家らプロの手段を、 一緒くたに論じることは見当違いと考える。

実務家であれば、 顧客満足を優先し、 試験に出る分野か否かは無関係。

とすれば、「 英語を必要とする 日本人すべて 」 と銘打つ「 そで 」の
売り文句に、 過大な期待を託すべきではないかも、 と仄暗い陰りが宿る。

 

 

 

続きます。

 

 

 

 

 

◇  「 英文法の参考書 」 連載

 

 

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