Across-the-board
2020/01/01
全員一律に、全面的な
組織において多用される常套句。
形容詞と副詞を兼ねる。
<形容詞>
→ 名詞を修飾
ハイフンを2本入れる
–
<副詞>
→ 名詞でないものを修飾
=形容詞でない修飾する語
ハイフン不要
2語以上の語(複合語、compound words)が、
形容詞と副詞を兼ねる場合、ハイフンの基本は
上記のようになる。
ただし、ハイフンの付け方には、例外が多くある。
厳密に文法を適用すると、相当厄介なのがハイフン。
実際に、誤用がまかり通っている感がある。
※ ネイティブ校閲者による解説 ↓
ハイフンの2用法と誤用例について
表題はハイフン入りなので、形容詞。
択一ならば、形容詞を取るだろう。
なぜなら、副詞は形容詞より派生したからである。
“across-the-board” =
ADJECTIVE
involving everyone or everything in a place
or situation.
DERIVED WORD(※)
“across the board”
ADVERB
※ “derived word” = 派生語
もっとも、今回調べた英英辞典の6点すべてに、
形容詞と副詞の両方が記載されていた。
どれもハイフンの原則に従っている。
- LDOCE6 ※ 書籍版も確認済
- OALD9 ※ 同上
- CALD4 ※ 同上
- Macmillan
- Merriam-Webster
- Collins COBUILD
複合語とはいえ、使い方は形容詞と副詞の基本に沿う。
すなわち、上掲黄枠の通り。
また、「全員一律」の意味合いは両品詞に共通する。
「全員一律」から「全面的」に展開するが、多義でない。
よって、意味的にも文法的にも、特に難しい点は見当たらない。
◆ 最も説明を要するのは、その成り立ちであろう。
なぜ、”across the board” が「全員一律」を示すのか。
実はこのフレーズ、競馬用語の流用なのである。
<3語ワンセット>で、初出は1945年。
比較的新しい。
↑ボードゲーム(盤上ゲーム)の佳作。1975年米国発売。
そのため、”across” や “board” の語源から分析するよりは、
競馬から学ぶ方が的確。
“across the board” とは「複勝式」を指す。大雑把に言えば、
<ある馬に対して、1着・2着・3着の馬券を買う賭け方>を指す。
英国の競馬界では “each way” という。
「複勝式」
出走頭数によってことなるが、
1着から3着までの入着馬を
勝馬とする勝馬投票法のこと。
JRA競馬用語辞典
“each way”
you win if your horse, etc. comes
first, second or third in the race.
(オックスフォード、OALD9)
8頭以上のレースでは、複勝式が最も的中しやすいとされる。
1頭選択して、3着以内に入賞すれば的中となる掛け方から、
「全員に一律」を意味し、一般社会に広まった。
Phrase across the board
“embracing all categories” (1945)
is said to be originally from horse-racing,
in reference to a bet of the same amount
of money on a horse to win, place, or show.
https://www.etymonline.com/word/across
※ “win” = 1着、”place” = 2着、”show” = 3着
→ 単勝と複勝を組み合わせた掛け方
“board” には、名詞・他動詞・自動詞がある。
語源は、古英語 “bord” で、「板」「テーブル」
を意味する。
表題は、競馬場の掛け率掲示板
(the odds board または the betting board)
から来ている。
これは、基本的な可算名詞の “board” である。
黒板(a black board)、まな板(a cutting board)
と同じく、一枚板の様相を呈する。
現代の巨大な電光掲示板にも該当するが、競馬場では
「その1枚」だけが拠り所。
特定された唯一の対象だから、定冠詞 “the” がつく。
一方、”across” には、前置詞・副詞・形容詞がある。
語源は、古フランス語「十字に横切って」(a croix)。
“a croix” は、”in cross” または “at cross” と同義。
どの品詞も、基本的に「十字」または「横切る」
のイメージを帯び、語源を引き継ぐ。
表題では、前置詞「横切って」。
よって、”across the board” の直訳は、
「掛け率掲示板を横切って」。
これは、先述の競馬の賭け方を示唆しており、
掲示板上の全レースをいっぺんに賭ける
ような活きのよさがある。
ここから「全員一律」も想起できよう。
–
成り立ちは、競馬一色。
だが、日常使用は多義でなく、意味と文法面も
シンプルである点には既に触れた。
冒頭に記した通り、組織で多用され、
形容詞と副詞の意味合いは重なる。
「全員一律」「全面的」。
“across-the-board” =
affecting everyone or everything in a
situation or organization.
(ロングマン、LDOCE6)
affecting everyone or everything within
an organization, system, or society.
(ケンブリッジ、CALD4)
“across the board” =
involving everyone or everything in a
company, an industry, etc.
(オックスフォード、OALD9)
青字「全員またはすべて」をはじめ、
3大学習英英辞典(EFL辞典)の語釈が酷似
することからも、単純な意味合いが分かる。
「全面的」を意味する場合、組織内外に限定されないが、
「すべての面」を指すため、やはり組織絡みが多い。
この用法では、強意の副詞 “right”(完全に)
を加えた副詞 “right across the board” と
表現することもある。
“I need across-the-board support.”
(全面的な支援が必要です。)
“We will support you right across the board.”
(我々はあなたを全面的に支援します。)
“The president has approved an across-the-board
pay raise.”
(全員一律の賃上げを社長が承認した。)
“The huge budget deficits caused cutbacks
right across the board.”
(その巨額な財政赤字は、全面的な縮小を
もたらした。)
“The changes will affect system across the board.”
(今回の変更は全面的なシステムに影響を及ぼす。)
“They are cutting 20% of their employees
across the board.”
(あの会社は全従業員の20%を削減している。)
“We got a 5% pay cut across the board.”
(全員一律5%減給された。)
【関連表現】
“on board”
https://mickeyweb.info/archives/13012
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