プロ翻訳者の単語帳

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In the same boat

      2020/02/13

(1)同じ境遇にある   (2)運命を共にする  

We’re in the same boat.

周囲から、こう声をかけられたら、どう思うか。
どういう意味だか、即座に理解できるだろうか。

◆ 実際に同船している場合を除けば、意味は次のいずれか。

(1)私たちは、同じ境遇にある
(2)私たちは、運命を共にする

身近な使用場面を3つずつ挙げる。

(1)
・ 就職活動がうまくいかない就活生
・ 婚活を重ねても不首尾に終わる男女
・ 避難所生活が続く被災地の住民

(2)
・ 社運を賭けた新事業に乗り出す経営者と従業員
・ 家計が冷え込み、やりくりに苦しむ自営業夫婦
・ 不採算部門に所属し、切り離されそうな中高年

前後の内容を把握していれば、解釈はそれほど難しくない。
時に(1)と(2)のどちらを指すか、判別しがたいこともある。

しかし、両者の意味合いは似ている。
したがって、初めて意味を学ぶ時は、神経質になりすぎなくてよい
と考える(後述)。

◆ 現に、主な学習英英辞書では区別されていない。

緑ハイライトがキーワード。

“be in the same boat”
to be in the same difficult situation that someone else is in.
(LDOCE6、ロングマン)

“be in the same boat”
to be in the same difficult situation.
(OALD9、オックスフォード)

“in the same boat”
If two or more people are in the same boat,
they are in the same unpleasant situation.
(COBUILD9、コウビルド)

4大学習英英辞典(EFL辞典)のうち、唯一 “CALD4”
(ケンブリッジ)には掲載されていなかった。

代わりに兄弟辞典をご紹介。

“in the same boat”
in the same difficult situation as someone else.
Cambridge Academic Content Dictionary
※ 学術用

どの辞書も似たり寄ったり。軒並み1文で仕上げている。

この点、英語ネイティブ向け辞書も変わらない。

“in the same boat”
sharing the same problems.
Collins English Dictionary, 12th Edition

“in the same boat”
 in the same unfavorable situation.
Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition )

“in the same boat”
 in the same difficult or unpleasant situation.
Macmillan Dictionary

以上7点の語釈を彩る単語がこちら。

difficult / unpleasant / problems / unfavorable

一様にネガティブ満載の形容詞または名詞。

とすれば、”in the same boat” は、否定的な表現と考えられる。

◆ 一方で、中立的に説明する辞書もある。

“in the same boat”
Also,
“all in the same boat”

In a similar situation, in the same position.

The American Heritage Dictionary of Idioms, 2nd Edition

陰気な単語は一切なし。
「同じような状況」「同じ立場」と記すのみ。

さらに、語源が続く。

This expression alludes to the risks shared by passengers
in a small boat at sea.
[Mid-1800s]

The American Heritage Dictionary of Idioms, 2nd Edition

ここでようやく湿っぽい名詞が現れる。
お馴染みの「リスク」、つまり「危険」「恐れ」である。

和訳を試みると、

この表現は、海上に浮かぶ小船の乗客が共有する危険を示唆する。
[1800年代半ば]

図示すれば、こんな感じか。

美しく穏やかに光り輝く海面ばかりでないのが大自然。
19世紀中葉であれば、小型船の操縦手段は格段に未発達であろう。

海が荒れ狂い、波にもまれても、なすすべは限られる。
白波が船をもてあそぶ恐怖から、決して逃げられないのだ。
操船は、同乗者の能力と人間関係にも左右されるに違いない。

船中にある限り、大海原の掌上に運(めぐ)らされる境遇。

はかない定めは皆一緒。すなわち、一連托生である。

  いちれんたくしょう【一蓮托生】

・ 善くても悪くても行動・運命をともにすること。
(広辞苑 第七版)

・ 人と行動や運命をともにすること。
(明鏡国語辞典 第二版)

結果はどうあろうと、最後まで行動や運命をともに
すること。 多く悪いことをともにすることにいう
(大辞林 第三版)

※ 語釈該当引用

基本的に中立的な記述だが、どちらかと言えば「悪い」状態
に傾く印象を受ける。

上掲の “in the same boat” の英英辞典と重なる傾向。
-が
一見「呉越同舟」に通じるような気もするが、こちらは
最初から対立しているため、前提が異なる。

  ごえつどうしゅう【呉越同舟】

仲の悪い者同士が、同じ場所にいたり行動を共に
したりすること。
(三省堂 四字熟語の辞典 新装版)

主義や主張の異なる者が、(その時の都合やある目的
のために)同じ所にいること。
(三省堂国語辞典 第七版)

敵対する者どうしが同じ場所に居合わせること。
また、敵対する者どうしも共通の困難に遭遇すれば
手を携えてそれに立ち向かうということ。

(明鏡国語辞典 第二版)

※ 下線は引用者

「呉越同舟」の英語版を調べると、

“foe”、”enemies”、”strange” こそ、和せぬ様子。

表題 “in the same boat” の英英語釈で示されたネガティブ語
は、客観的な状況描写を指し、当事者の仲に言及されていない。

そもそも「呉」と「越」は、中国春秋時代の争う国同士。
「同舟」は 「同じ舟に乗ること」で、”in the same boat”。

「船」は、最も一般的な表記で、規模・動力に無関係。
あえて書き分ける場合、「船」は大型で動力つきの「ふね」。
「舟」は、手漕ぎの小型船に用いる。
違いがわかる事典


◆ 片や “boat” も、原則「小舟」。

【発音】  bóut

語源からして、古英語「小舟」(bāt)。

以下、『ジーニアス英和大辞典』から、関連箇所を引用。

1. 《海事》では boat は小舟、ship は定期船をいう。
しかし、⦅略式⦆では客船などにも用いられる。

2. ⦅略式⦆(一般に)船(ship)を指す。
通例大きさは vessel、ship、boat の順に小さくなる。
潜水艦は大きさに関係なく boat、漁船もいくら大きくても
(fishing)boat という。

ジーニアス英和大辞典 “boat”)

◆ 表題に加えて、「呉越同舟」でも “in the same boat”。

「船に乗る」の前置詞は、”on” でなく “in” なのだろうか。

実は、両方使える

Both are correct depending on the context.

When you are “in the boat”,
it means you are getting directly to the seat.
You don’t have enough space to walk around.

When you are “on the boat” it means you find
space to stand and walk.

https://www.quora.com/

on the boat” も日常的に使うのである。

先ほど「船」「舟」の違いに触れたが、”on” と “in” も、
ふねの規模次第。

歩き回れるスペース」がないサイズであれば、
“in the boat”。

■ 小型船 “in the boat”
歩き回れる甲板(deck)がない

小舟、手漕ぎ舟、カヌー

■ 大型船 “on the boat”
広々とした甲板を備え、歩き回れる大型船

船舶、コンテナ船、遠洋定期船

再度『ジーニアス英和大辞典』を引用。

【語法:boat】  動詞との連語:

「小さな舟に乗る[降りる]」は
get in (to) [get out of]。

「大きな舟に乗る[降りる]」は
go on board [get off] /
⦅正式⦆embark on [disembark from]。

ジーニアス英和大辞典 “boat”)


◆ ただし、決まり表現・慣用句として使う場合は、
“in the same boat” が正しい。

四字熟語「呉越同舟」が「呉越同船」とはならないのと同様、
辞書の項目立ては “in the same boat” でイディオム扱い。

なぜなら「小型船」由来の成り立ちだから。
先の図をご確認いただければと思う。

語源の底力は、想像以上に手ごわい。
私たち語学学習に励む者が、念頭に置くべき点である。

【参照】  語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る

“in the same boat” で、「状態」を表す「形容詞」の役割を担う。
そのため、「be動詞」に続くのが基本パターンになる。

※「be動詞」= be、am、was、been、will be、is、were、are

なぜ「be動詞」に続くのかは、”aware” や ”vocal about” で詳述した。

◆ 「歩き回れるスペース」の有無は、前置詞の判断基準のひとつ。

乗り物の “in” と “on” で迷う際に、役立つ基礎知識である。

■ “in 歩き回れない

自家用車、タクシー、トラック

【注意】トラックなどの「荷台」は、荷物を載せる場なので “on”
→ 無生物である物品の積載(積荷)は “on” が基本

■ “on 歩き回れる

バス、電車、飛行機

 

◆ ところで、日本語の「船上」「船中」に違いはあるだろうか。

国語辞典6点とオンライン辞書3点を調べてみた。

  • 船上=船の上
  • 船中=船の中

実質、これに尽きる。

世界に誇る日本最大規模の国語辞典と名高い『日国』ですら、

  ■ せんじょう【船上】
ふねのうえ。また、船の上方。

  ■ せんちゅう【船中】
ふねの中。また、船の中の人々。

日本国語大辞典 第二版』第8巻
p. 90、p. 127

それぞれ全文である。

日本語ネイティブから見ても、不親切な語釈であろう。

英語の前置詞が紛らわしいなどと、文句言える筋ではない。
そんな気弱な気持ちに襲われる。

めぼしい日本語解説は、ネット検索しても見当たらなかった。
※ 2019年10月27日 初稿時点

◆ 今年2019年発表のニュース見出しから、表題の実例をご案内。

  • “Refugees are not in the same ‘boat”
    (難民全員が同じ境遇にはいない。)
  • “How X and Y started in the same boat”
    (同じ境遇のX、Y選手のその後)
  • “We’re all in the same boat on the SDGs.”
    (持続可能な開発目標は運命共同体だ。)
    ※ “SDGs” = Sustainable Development Goals
    SDGs公式サイト
    外務省仮訳「持続可能な開発のための2030アジェンダ」
  • “Is X in the same boat as Y ?”
    (X選手はY選手と同じ運命に陥るか?)
  • “Don’t assume we’re all in the same boat on climate change”
    (皆が気候変動の運命共同体だと決めつけるな)
  • “Asia: Not all in the same boat”
    (アジア:全地域が同じ状況にない)
  • “Shareholders in the same boat”
    (運命共同体の株主たち)

見出しだけでは、和訳しにくい表現である。

本文をよく読まなければ、どちらが的確か見当がつかない。

(1)同じ境遇にある (2)運命を共にする

先述の通り、概ね矛盾は生じにくいと考えられるが、
通常はこうなる。

(1)→ 過去または現在 (2)→ 未来(予測困難)

この視座の違いは、しっかり意識する必要がある。
それには、本文を読み込まなければならないのだが、
論旨が把握できれば、(1)と(2)の区別は比較的容易。

取り上げている話の軸は、過去・現在なのか、それとも未来なのか。
この判断は、中級学習者の英語力があれば、そう難しくない。

おそらく文脈的に気づくので、間違える可能性は低い。
それゆえ、最初は神経質になりすぎなくてよいと述べた。

◆ 再び、冒頭の質問に戻る。

We’re in the same boat.

こう言われたら、どう感じるか。

その時の状況と立ち位置によるものの、主体的で独立心
の強い方であれば、きっと本能的に反発する。

  • No, we’re not.
    (いいえ、違います。)

声に出さなくても、心では否定している。

「同じ境遇」やら「運命共同体」やら、なんだか受け身的で、
意気地がない気がして、不快感を催す人々は少なくないはず。

私自身、その口である。

“in the same boat” は、闇雲に使わない方がよいかもしれない。

 

 

 

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