Let somebody down
2020/12/09
~をがっかりさせる、 ~を失望させる
Don’t let X down.
(Xをがっかりさせるな。)
待てど暮らせど、納期遅れのスピーチ原稿が上がってこない。
–
高官の指定日に基づき、なにもかも計画・実行してきた。
なのに、そのご本人が肝心の締め切りを守ってくれない。
多忙で不在。とかく絶えがちな連絡。
皆目見当がつかない原稿の進捗状況。
–
「 ちゃんと着手しているのだろうか … 」
次第に疑心暗鬼が広がる。
–
「 いっそのこと、飛んでしまおうか … 」
やけっぱちな蛮勇が頭をもたげる。
–
度重なる約束破りに業を煮やし、ついに意を決して、
高官直下の上役に相談しに行った。
- 式典が目前に迫っています
- 早急に完成する必要があります
- 本当に困っているのです
- お力添えをお願いできませんでしょうか
焦りといらだちが募り、ぎりぎりの本音を吐き出した。
–
ー– 原稿がなければ、翻訳者は身動き取れない
ー– 部下たちに、原稿作成を委任(delegate) できないものか
ー– そもそも、ご自身で決めた締め切り日なのです
ー– このままでは、翻訳する時間がなくなってしまう!
幸運にも式典は無事終わり、お口添えのお礼に参上。
すると、恩人は得たり顔で微笑み、こう述べられた。
I told him not to let X down.
(Xをがっかりさせないよう、言っておいたんだ。)
間接目的語(X)を入れた間接話法。
冒頭の表現をくるんだ、ソフトな言い回しである。
だが、”let – down” が分からなければ、おそらく意味不明。
–
–
ここでの「X」は、私の名。
–
人称代名詞ならば、目的格の
me / you / him / her / us / them / it。
表題の “somebody”(だれか)も代名詞。
上記の代表形の機能を有する。
いわば目的格のワイルドカード。–
–
代名詞 “someone” は同義であるが、以下の通り、
「somebody は、someone より口語的」。
“somebody” も “someone” も、不定代名詞
(a indefinite pronoun)の複合語。
< somebody と someone >
(1)somebody は someone より口語的で、
呼びかけなどの場合に好まれる。
(2)話し手と親密な関係にある特定の人を
念頭に置いている場合は someone が好まれる。
somebody はだれでもいい、とにかくだれか、
という気持を含む。
(3)堅い書き言葉には通例 somebody は
用いない。
(『ジーニアス英和大辞典』 ”somebody” の「語法」より)
英英辞典の見出しは、“somebody” ばかり。
後掲のEFL辞典も同様。
–
“someone” は、語釈本文では使われるものの、
辞書見出しは慣習的に “somebody” 中心となっている。
–
◇ 「人称代名詞」の解説は、ここが秀逸
ーちょいデブ親父の英文法「人称代名詞」
–
–
◆ “let somebody down” で鍵を握るのは “down“。
【発音】 dáun (1音節)
日本社会にも久しく根付いている “down”。
常日頃から見聞きするため、すんなり把握しやすい。
よい機会なので、これから深堀りしてみたい。
“down” の語源は、古英語「丘を下って」(dūne)。
この「下って」を引き継ぐ英語 “down” の基本的意味は、
国語辞典の「ダウン」がほぼ網羅する。
ダウン【down】
- 1. 下がること。落ちること。
2. ボクシングで、倒れること。
3. 疲労・衰弱して倒れること。寝込むこと。
4. コンピューターなどが、故障・事故で働かなくなること。
5. 野球で、アウトと同義。
6. 主に球技の試合で、差引き一定数を負け越していること。
7. アメリカン・フットボールで攻撃の一単位。
ファースト・ダウンからフォース・ダウンまである。
(広辞苑 第七版)
– - 1. 下がること。下がること。引き下げ。値下げ。
2. [ボクシングで]打たれてたおれること。
3. 病気・過労などでたおれること。
4. 故障で機械が動かなくなること。
(三省堂国語辞典 第七版)
英語 “down” は非常に多義である。
それでも、次の基本的意味は、下方へ向かう方向性を保つ。
- 副詞
「下へ」「下がって」「落ちて」「向こうへ」「落ち込んで」
「寝込んで」「停止して」「書き留めて」「アウトになって」 - 前置詞
「~の下へ」「~に沿って」 - 形容詞
「下にある」「停止した」「倒れている」「落ち込んだ」 - 名詞
「下降」「倒れること」 ※ 可算名詞 - 他動詞
「降ろす」「撃墜する」「沈める」「飲み干す」 - 自動詞
「降りる」 ※ まれ
–
◆ 物理的・状況的・精神的に「下がる」「落ちる」ことが、
“down” の基本。
したがって、語感は総じて重くて暗め。
例えば、大型台風の際に飛び交う表現が、
- “The electricity is down.”
“The power is down.”
(停電している。) ※ “out” も可
– - “Trees are down.”
(木が倒れている。)
– - “Trains are down.”
(電車がとまっている。) ※ “out” も可
–
◆ “down” を漢字1字で表すなら、「下がる」の「下」
よりは、「落ちる」の「落」の方がここでは的確かも。
この代表例が、“fall down”(下へ落ちる)を名詞化した
“downfall”。
図を再掲すると、
■ “downfall” (転落、没落、失脚)
–
おまけに、
■ “bog down” (行き詰まる、動けない)
–
■ “step down” (辞任する)
–
◆ こうして救いのない図ばかり見せつけられると、気が滅入る。
–
そんな落ち込んだ気分こそ、”let somebody down” の “down”。–
すなわち、自分の希望・期待にそぐわぬ結果に落胆すること。
–
使役動詞 “let“(後述)に続くと「ダウンさせる」となり、
「落胆させる」「失望させる」。
–
もっと平たく言えば、「がっかりさせる」。
がっかり
- 失望・落胆し、元気をなくすさま。
(明鏡国語辞典 第二版)
– - 1. 事が思いどおりにいかず、気落ちしたさま。
2. 疲れて元気をなくしたさま。がっくり。
(大辞林 第三版)
“let down” が名詞になったものが、”letdown“。
ハイフン入りの “let-down” と表記することもある。
–
【発音】 ˈlet.daʊn
【音節】 let-down (2音節)
- 落胆、失望
- 低下、減少
- (着陸前の飛行機の)降下
同義語の筆頭は “a disappointment“。
- “That job was a letdown.”
(その仕事にはがっかりした。)
“let somebody down” の場合は、目的語(目的格)
を挟むため「誰々をがっかりさせる」。
「がっかり」な点は共通する。
–
◆ 上掲の国語辞典が示すように、カタカナ「ダウン」は、
ネガティブ一辺倒に近い。
一方、英語 “down” は、印象のよい「落ち着く」や
「書き留める」意味にも使う。
- “settle down” (落ち着く、身を固める)
※ 句自動詞・句他動詞
– - “calm down” (落ち着く)
※ 句自動詞・句他動詞
– - “cool down” (冷静になる、鎮まる)
※ 句自動詞・句他動詞
– - “write down” (書き留める)
※ 句他動詞
– - “jot down” (ささっと書き留める)
※ 句他動詞
句動詞の ”down” は、ほとんどが副詞。
“let somebody down” でも副詞。
また、神経作用を落ち着かせる鎮静薬の俗称は “downer“。
対となる “upper” は、神経を興奮させる「覚醒剤」。
【発音】 ˈdaʊ.nɚ / ˈʌp.ɚ
【音節】 down-er (2音節) / up-per (2音節)
複数形 “downers”、”uppers” で使われるのが一般的。–
–
他動詞 “down”(おろす) と “up”(上げる) に、
「~するもの」を意味する接尾辞 “er” を加えて、
それぞれ名詞にしたもの。
–
主な “downers” は、「バルビツレート」(barbiturate)。
“uppers” なら、「アンフェタミン」(amphetamine)。
違法薬物扱いの “uppers” は、洋画にもよく出てくる。
–
◆ “down” を押さえた後は、”let” に話頭を転ずる。
【発音】 lét (1音節)
「レッツゴー」(Let’s go)の “let”。
これまた、日本人にとって親しみがある単語と言いたいところ。
けれども、「ダウン」と異なり、中身は知られていない感がある。
“let” は、「 使役動詞 」(causative verb)のひとつ。
人やものに「 ~させる 」「~してもらう」を表す動詞である。
–
使役動詞として、教科書で紹介される3つがこちら。
- let
- make
- have
さらに、英文法上は使役動詞ではないものの、「to 不定詞」
を伴うと、同然の機能を有するようになるのが、
- get
“I got my son to look after the dog.”
(息子にその犬の世話をさせた。)
(息子にその犬の世話をしてもらった。)
こんな風に、”get” が「~させる」「~してもらう」を表すことは、
中級学習者であれば、難なく理解できるはず。
使役動詞としての “let“、”make“、”have“、”get” は、他動詞。
- 他動詞とは、主語以外の人やものに影響を及ぼ動作
- 自動詞とは、目的語がなくても、意味が完結する自己完結の動作
人やものに「~させる」「~してもらう」のが使役動詞なので、
当然、他動詞になる。
【参照】 ※ 外部サイト
◆ 4語の使い分けの原則をざっくりまとめる。
- let (許可を「与える」) → 主に目上が使うので強気
- make (無理やり「させる」) → 多くが強制的で強気
- have (当たり前のことをしてもらう) → ごく自然で中立的
- get (説得してやってもらう) → お願いしつつ中立的
『英語ライティングルールブック 第3版』(下記参照)によると、
“let”、”make”、”have” の3語のうち、
「上下関係や強制のニュアンスがなく、
最も幅広い状況で使えるのが have」 (122頁)。
【参照】
- 『 英語ライティングルールブック 第3版 』
デイビッド・セイン (著)、DHC、2019年刊
–
日本語ネイティブ向けの英作文の参考書として、定評がある。
–[初 版] 2004年発行
–[第2版] 2011年発行
–[第3版] 2019年発行
全部読んできたが、丁寧な改訂を重ねてきている。 おすすめ。

–
◇ 米国で発行された “writing style books” は、
MLA、シカゴ大学、AP通信社 が名高い。
法律文書ならば、”The Bluebook” が定番。
いずれも、引用形式(citations)としても活用される。
社内記者用に作成された「APスタイルブック」は、
1953年に一般向けに発行された。
各社で説が分かれる分野も少なくない。
どれを採用するかは、使用者(雇用主)や発注者側の指定に
よりけりだったりする。
–
この他にも、歴史と版を重ねた有名どころが複数存在する。
–
そのため、先ほどご紹介したセイン氏のDHC版も含め、
どのスタイルブックも「絶対視」はしない方がよい
と私は考える。–
–
◇ 日本では、以下4冊が有力視されてきた。
- 朝日新聞 『用語の手引』
- 共同通信社 『記者ハンドブック』
- 時事通信社 『用字用語ブック』
- 講談社 『日本語の正しい表記と用語の辞典』
–
◆ これまで学んだことを、3大学習英英辞典(EFL辞典)で確認してみよう。
代名詞が無生物の “let something down” の語釈は除外した。
表題の趣旨に合わせて、”somebody” に絞るためである。
“let somebody down”
“let down somebody”
phrasal verb
1. to not do something that someone trusts or expects you to do.
(LDOCE6、ロングマン)
–
“let somebody down”
phrasal verb
to fail to help or support somebody as they had hoped or expected.
(OALD9、オックスフォード)
–
“let sb down”
phrasal verb
to disappoint someone by failing to do what you agreed to do or
were expected to do.
(CALD4、ケンブリッジ)
※ “sb” = “somebody”
先述の通り、項目立てに “someone” はなく、
一律 “somebody” が用いられている。–
2語の微妙な違いについても、既に記した。
枠内の “LDOCE6” によれば、目的語(目的格)を後付けにして、
“let down somebody“とすることが可能。
–
片や、”OALD9″ と “CALD4” は明記していない。
本稿で取り上げた意味合いであれは、目的格を中間に置く方が普通。
–
とはいえ、文面においては不自然でもない。
- “X let down her fans.”
( X は彼女のファンを失望させた。)
– - “England let down their fans in World Cup defeat to Wales.”
(イングランドはワールドカップでウェールズに負けて、
ファンを失望させた。)
– - “These YouTubers Let Down Their Fans”
(ファンをがっかりさせたユーチューバーたち)
もっとも、「失望させる」ではなく、「辱める」「威信を傷つける」
の意味であれば、後付けは一般的にみられる。
- “Lazy students let down Japan’s colleges.”
(怠慢な学生たちが日本の大学の威信を傷つけている。)
日常的に多用されるとは言い難い用法であり、本稿では触れなかった。–
–
◆ 自己使用には、次の基礎パターンを覚えておくとよい。
- “I won’t let you down.”
(私はあなたを失望させません。)
(きっと期待に応えてみせます。)
– - “Don’t let me down.”
(私をがっかりさせないで。)
– - “I’m sorry to let you down.”
(がっかりさせてごめんなさい。)
– - “I don’t want to let you down.”
(あなたを失望させたくないです。)
– - “I didn’t want to let you down.”
(あなたを失望させたくなかった。)
– - “I never wanted to let you down.”
(あなたを絶対に失望させたくなかったのです。)
–
【関連表現】
“I won’t disappoint you.”
https://mickeyweb.info/archives/2636
(きっと期待に応えてみせます。)