プロ翻訳者の単語帳

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Let somebody down

      2022/05/21

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 8 minutes

~ をがっかりさせる、  ~ を失望させる

Don’t  let  X  down.

( Xさん をがっかりさせるな。)


待てど暮らせど、 納期遅れのスピーチ原稿が上がってこない。

高官の指定日に基づき、 なにもかも実行してきた。

なのに、そのご本人が肝心の 締め切り を守ってくれない。

多忙で不在。
とかく絶えがちな連絡。
皆目見当がつかない進捗状況。

「 ちゃんと着手しているのだろうか … 」

次第に疑心暗鬼が広がる。

「 いっそのこと、飛んで しまおうか … 」

やけっぱちな蛮勇が頭をもたげる。

度重なる約束破りに業を煮やし、ついに意を決して、
高官直下の上役に相談に行った。

  •  式典が目前に迫っています
  •  早急に完成する必要があります
  •  本当に困っているのです
  •  お力添えをお願いできませんでしょうか

焦りといらだちが募り、 ぎりぎりの本音を 吐き出した

–   原稿がなければ、 翻訳者は身動き取れない
–   部下たちに、 原稿作成を委任( delegate ) できないものか
–   そもそも、 ご自身で決められた締め切り日なのです
–   このままでは、 翻訳する時間がなくなってしまう


最後はもう半ベソ。

幸運にも式典は無事終わり、 お口添えのお礼に参上。

すると、 恩人は得たり顔でにっこり微笑み、 こう述べられた。

I told him not to let X down.

( Xさん をがっかりさせないよう、言っておいたんだ。)


間接目的語 ( X ) を入れた間接話法。

冒頭の表現をくるんだ、ソフトな言い回しである。

だが、 “ let – down ” が分からなければ、 おそらく意味不明。


約束は 守りましょう



ここでの 「 X 」は、私の名。

人称代名詞ならば、目的格の
me / you / him / her / us / them / it。

表題の  “ somebody ” ( だれか )も代名詞。
上記の代表形の機能を有する。

いわば目的格のワイルドカード。

代名詞 ” someone ” は同義であるが、以下の通り、

「 somebody は、someone より口語的 」

” somebody ”  も  ” someone ”  も、不定代名詞
( an  indefinite  pronoun )の複合語。

[ somebody someone ]

(1) somebody は someone より口語的 で、
呼びかけなどの場合に好まれる。

(2) 話し手と親密な関係にある特定の人を
念頭に置いている場合は someone が好まれる。
somebody はだれでもいい、とにかくだれか、
という気持を含む。

(3) 堅い書き言葉には通例 somebody は
用いない。


ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、2001年刊 ( アプリ版 )
…  “ somebody ”  の語釈より
<大修館書店HP>


◆  英英辞典の見出しは、
” somebody ”  だらけ。

後掲のEFL辞典も同様。

” someone ” は、語釈本文では使われるものの、
辞書見出しは慣習的に ” somebody ” 中心となっている。

◇  「 人称代名詞 」の解説は、ここが秀逸  ↓
ちょいデブ親父の英文法 「 人称代名詞


◆  ” let somebody down ” で鍵を握るのは ” down “。

【発音】  dáun  (1音節)

日本社会にも久しく根付いている ” down “。

常日頃から見聞きするため、すんなり把握しやすい。

よい機会なので、これから深堀りしてみたい。

” down ” の語源は、 古英語「 丘を下って 」( dūne )。

この「 下って 」を引き継ぐ英語  ” down ” の基本的意味は、
国語辞典の「 ダウン 」がほぼ網羅する。

  ダウン【down】

  •  1.  下がること。落ちること。
    2.  ボクシングで、倒れること。
    3.  疲労・衰弱して倒れること。寝込むこと。
    4.  コンピューターなどが、故障・事故で働かなくなること。
    5.  野球で、アウトと同義。
    6.  主に球技の試合で、差引き一定数を負け越していること。
    7.  アメリカン・フットボールで攻撃の一単位。
    ファースト・ダウンからフォース・ダウンまである。
    ( 広辞苑 第七版 )
  •  1.  下げること。 下がること。 引き下げ。 値下げ。
    2. 〔 ボクシング 〕打たれて たおれること。
    3.  病気・過労などで たおれること。
    4.  〔 機械が 〕故障で動かなくなること。
    ( 三省堂国語辞典 第八版 )

  羽毛「 ダウン 」 も  ” down “。

発音も同じ。

しかし、こちらは語源の異なる別物。

古ノルド語「 ちりのように細かい 」( dūnn )が語源。

【発音】  dáun  (1音節)


◆  英語 ” down ” は非常に多義である。

それでも、次の基本的意味は、下方へ向かう方向性を保つ。

  • 副詞
    「 下へ 」「 下がって 」「 落ちて 」「 向こうへ 」「 落ち込んで 」
    「 寝込んで 」「 停止して 」「 書き留めて 」「 アウトになって 」
  • 前置詞
    「 ~ の下へ 」「 ~ に沿って 」
  • 形容詞
    「 下にある 」「 停止した 」「 倒れている 」「 落ち込んだ 」
  • 名詞
    「 下降 」「 倒れること 」   ※  可算名詞
  • 他動詞
    「 降ろす 」「 撃墜する 」「 沈める 」「 飲み干す 」
  • 自動詞
    「 降りる 」   ※  まれ


◆  物理的・状況的・精神的に「 下がる 」「 落ちる 」ことが、
” down ” の基本。

したがって、語感は総じて重くて暗め。

例えば、大型台風の際に飛び交う表現が、

  • “The electricity is down.”
    “The power is down.”
    (停電している。)    ※  ” out ” も可
  • “Trees are down.”
    (木が倒れている。)
  • “Trains are down.”
    (電車がとまっている。)    ※  ” out ” も可

◆  ” down ” を漢字1字で表すなら、「 下がる 」の「 下 」よりは、
「 落ちる 」の「 」の方が、ここでは的確かも。

 

 

この代表例が、“ fall down ”( 下へ落ちる )を名詞化した
” downfall “。

図を再掲すると、

■  downfall  ( 転落、 没落、 失脚 )

 

おまけに、

■  bog down  ( 行き詰まる、 動けない )

 

 

■  step down  ( 辞任する )



◆  こうして救いのない図ばかり見せつけられると、気が滅入る。

そんな落ち込んだ気分こそ、” let somebody down ” の ” down “。

すなわち、自分の希望・期待にそぐわぬ結果に落胆すること。

使役動詞  ” let “( 後述 )に続くと「 ダウンさせる 」となり、
落胆させる 」 「 失望させる 」。

もっと平たく言えば、「 がっかりさせる 」。

以下、全文。

  がっかり  

  •  失望・落胆し、元気をなくすさま。
    ( 明鏡国語辞典 第三版 )
  •  1.  事が思いどおりにいかず、気落ちしたさま。
    2.  疲れて元気をなくしたさま。がっくり。
    3.  がっくりに同じ。
    ( 大辞林 第四版 )
  •  失望したり つかれたりして、ひどく元気がなくなるようす。
    ( 三省堂国語辞典 第八版 )


◆  句動詞  ” let down ” が名詞になったものが、 ” letdown “。

ハイフン入りの  ” let-down ” と表記することもある。

【発音】  ˈlet.daʊn
【音節】   let-down  (2音節)

  •  落胆、失望
  •  低下、減少
  • ( 着陸前の飛行機の )降下

同義語の筆頭は  ” a disappointment “。

  • “That job was a letdown.”
    (その仕事にはがっかりした。)
  • “The investigation was a letdown.”
    (調査は期待外れだった。)
  • “It feels like a really big letdown.”
    (めっちゃがっかりした感じ。)

” let somebody down ” の場合は、目的語( 目的格 )
を挟むため「 誰々をがっかりさせる 」。

「 がっかり 」な点は共通する。

◆  上掲の国語辞典が示すように、カタカナ「 ダウン 」は、
ネガティブ一辺倒に近い。

一方、英語  ” down ” は、印象のよい「 落ち着く 」や
「 書き留める 」意味にも使う。

  •  settle down ( 落ち着く、 身を固める )
    ※  句自動詞・句他動詞
  •  calm down ( 落ち着く )
    ※  句自動詞・句他動詞
  •  cool down ( 冷静になる、 鎮まる )
    ※  句自動詞・句他動詞
  •  write down ( 書き留める )
    ※  句他動詞
  •  jot down ( ささっと書き留める )
    ※  句他動詞


句動詞の ” down ” は、副詞が目立つ。

” let somebody down ” でも副詞。

また、神経作用を  落ち着かせる  鎮静薬の俗称は ” downer “。

対となる ” upper ” は、神経を興奮させる「 覚醒剤 」。

【発音】   ˈdaʊ.nɚ       ˈʌp.ɚ
【音節】    down-er  (2音節)   /   up-per  (2音節)

複数形  ” downers “、 ” uppers ” で使われるのが一般的。

他動詞  ” down “( おろす ) と ” up “( 上げる ) に、
「 ~ するもの 」を意味する
接尾辞 “er” を加えて、
それぞれ名詞にしたもの。

主な ” downers ” は、「 バルビツレート 」( barbiturate )。

” uppers ” なら、「 アンフェタミン 」( amphetamine )。

違法薬物扱いの ” uppers ” は、洋画にもよく出てくる。

◆  ” down ” を押さえた後は、” let ” に話頭を転ずる。

【発音】   lét  (1音節)

「レッツゴー」( Let’s go )の ” let “。

これまた、日本人にとって親しみがある単語と言いたいところ。
けれども、「 ダウン 」と異なり、中身は知られていない感がある。

” let ” は、「 使役動詞 」( causative verb )のひとつ。
人やものに「 ~ させる 」「 ~ してもらう 」を表す動詞である。

使役動詞として、教科書で紹介される3つがこちら。

  •  let
  •  make
  •  have

さらに、英文法上は使役動詞ではないものの、「to 不定詞」
を伴うと、同然の機能を有するようになるのが、

  •  get

“I got my son to look after the dog.”
(息子にその犬の世話をさせた。)
(息子にその犬の世話をしてもらった。)

こんな風に、” get ” が「 ~ させる 」「 ~ してもらう 」を表すことは、
中級学習者であれば、難なく理解できるはず。

使役動詞としての  ” let “、” make “、” have “、” get ” は、他動詞

  • 他動詞とは、主語以外の人やものに影響を及ぼ動作
  • 自動詞とは、目的語がなくても、意味が完結する自己完結の動作

人やものに 「 ~ させる 」「 ~ してもらう 」のが使役動詞なので、
当然、他動詞になる。


◆  4語の使い分けの原則をざっくりまとめる。

  •  let  ( 許可を「 与える 」) →  主に目上が使うので強気
  •  make  ( 無理やり「 させる 」) →  多くが強制的で強気
  •  have  ( 当たり前のことをしてもらう ) →  ごく自然で中立的
  •  get  ( 説得してやってもらう ) →  お願いしつつ中立的

英語ライティングルールブック  第3版 』 によると、
” let “、 ” make “、 ” have ” の3語のうち、

上下関係や強制のニュアンスがなく、
最も幅広い状況で使える
のが have 

とある。

英語ライティングルールブック  第3版 』  pp. 121-122.
デイビッド・セイン (著)、 DHC、 2019年刊

<出版社HP>    <アマゾン>    <楽天ブックス>


  本書は、日本語ネイティブ向けの英作文の参考書として、定評がある

[ 初  版 ] 2004年発行
[ 第2版 ] 2011年発行
[ 第3版 ] 2019年発行

全部読んできたが、 丁寧に改訂を重ねてきている。  おすすめ。

 

◆  米国で発行された ” writing style books ” は、
MLAシカゴ大学AP通信社  が名高い。

法律文書ならば、” The Bluebook ”  が定番。

いずれも、引用形式( citations )としても活用される。

【例】  Citations:  ” letdown “

社内記者用に作成された「 APスタイルブック 」は、
1953年に一般向けに発行された。

  各社で説が分かれる分野も少なくない。

どれを採用するかは、使用者( 雇用主 )や発注者側の指定に
よりけりだったりする。

この他にも、歴史と版を重ねた有名どころが 複数存在 する。

そのため、先ほどご紹介したセイン氏のDHC版も含め、
どのスタイルブックも「 絶対視 」はしない方がよい
と私は考える。

◆  日本では、以下4冊が有力視されてきた。

◆  これまで学んだことを、3大学習英英辞典( EFL辞典 )で確認してみよう。

代名詞が無生物の  ” let something down ” の語釈は除外した。

表題の趣旨に合わせて、 ” somebody ” に絞るためである。

” let somebody down “
” let down somebody “

phrasal verb
1.  to not do something that someone trusts or expects you to do.
( LDOCE6、ロングマン )

” let somebody down “

phrasal verb
to fail to help or support somebody as they had hoped or expected.
( OALD9、オックスフォード )

” let sb down “

phrasal verb
to disappoint someone by failing to do what you agreed to do or
were expected to do.
( CALD4、ケンブリッジ )

※  ” sb ”  =  ” somebody ”


◆  先述の通り、項目立てに ” someone ” はなく、
軒並み  ” somebody ”  を起用。

2語の微妙な違いについても、既に記した。

枠内の ” LDOCE6 ” によれば、目的語(目的格)を後付けにして、
” let down somebody “とすることが可能。

片や、” OALD9 ” と ” CALD4 ” は明記していない。

本稿で取り上げた意味合いであれは、目的格を中間に置く方が普通。

とはいえ、文面においては不自然でもない。

  • “X let down her fans.”
    ( X は彼女のファンを失望させた。)
  • “England let down their fans in World Cup defeat to Wales.”
    (イングランドはワールドカップでウェールズに負けて、
    ファンを失望させた。)
  • “These YouTubers Let Down Their Fans”
    (ファンをがっかりさせたユーチューバーたち)

もっとも、「失望させる」ではなく、「 辱める 」 「 威信を傷つける
の意味であれば、後付けは一般的にみられる。

  • “Lazy students let down Japan’s colleges.”
    (怠慢な学生たちが日本の大学の威信を傷つけている。)

日常的に多用されるとは言い難い用法であり、本稿では触れなかった。

◆  自己使用には、次の基礎パターンを覚えておくとよい。

  • “I won’t let you down.”
    (私はあなたを失望させません。)
    (きっと期待に応えてみせます。)
  • “Don’t let me down.”
    (私をがっかりさせないで。)
  • “I’m sorry to let you down.”
    (がっかりさせてごめんなさい。)
  • “I don’t want to let you down.”
    (あなたを失望させたくないです。)
  • “I didn’t want to let you down.”
    (あなたを失望させたくなかった。)
  • “I never wanted to let you down.”
    (あなたを絶対に失望させたくなかったのです。)

【関連表現】

” I won’t disappoint you. ”
https://mickeyweb.info/archives/2636
( きっと期待に応えてみせます。)

 

【参考記事】    ※  外部サイト

Prince Charles  ‘Feels Enormously Let Down’
by Meghan Markle andPrince Harry’s Racism Claims,
Says Source

https://people.com/royals/prince-charles-let-down-racism-claims-meghan-harry-oprah-interview/
2021年3月18日付

 

【参考動画】     ※  YouTube

▼  英語のみ  ( 全長 1分33秒 )

Judge Greets Classmate Leaving Jail After Recognizing Him in Court
https://www.youtube.com/watch?v=ILWz8_x9SN4
( 法廷で同級生に再会した裁判官 )

動画開始後  1:15  で、裁判官が力強く声かける。

–   “ Don’t  let us down.

–   ” I won’t.  I promise not to.

そっぽを向きながら愛想なく応え、 さらりと冷たく流した面持ちが
映し出されているが、 実際は気恥ずかしく、 照れていたのかも。

▼  日本語字幕付き  ( 全長 3分31秒 )

同じ中学校を卒業した二人の優秀な生徒、社会人になって「法廷で再会」
 https://www.youtube.com/watch?v=USQKcikyGJ0

裁判官の声かけは、 動画開始後  3:18

 

 

 

 

 

 

 

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