プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Let somebody down

      2019/10/18

~をがっかりさせる、~を失望させる

Don’t let X down.
(Xをがっかりさせるな。)

待てど暮らせど、納期遅れのスピーチ原稿が上がってこない。

高官の指定日に基づき、なにもかも計画・実行してきた。
なのに、そのご本人が肝心の締め切りを守ってくれない。

多忙で不在。とかく絶えがちな連絡。
皆目見当がつかない原稿の進捗状況。

ちゃんと着手しているのだろうか。
次第に疑心暗鬼が広がる。

いっそのこと、飛んでしまおうか。
やけっぱちな蛮勇が頭をもたげる。

度重なる約束破りに業を煮やし、ついに意を決して、
高官直下の上役に相談しに行った。

  • 式典が目前に迫っています
  • 早急に完成する必要があります
  • 本当に困っているのです
  • お力添えをお願いできませんでしょうか

焦りといらだちが募り、ぎりぎりの本音を吐き出した

–  原稿がなければ、翻訳者は身動き取れない
–  部下たちに、原稿作成を委任(delegate) できないものか
–  そもそも、ご自身で決めた締め切り日なのです
–  このままでは、翻訳する時間がなくなってしまう!

幸運にも式典は無事終わり、お口添えのお礼に参上。
すると、恩人は得たり顔で微笑み、こう述べられた。

I told him not to let X down.
(Xをがっかりさせないよう、言っておいたんだ。)

間接目的語(X)を入れた間接話法。
冒頭の表現をくるんだ、ソフトな言い回しである。

だが、”let – down” が分からなければ、おそらく意味不明。

image.png
ここでのXは、私の名。

人称代名詞であれば、目的格の
me / you / him / her / us / them / it。

表題の “somebody”(だれか)も代名詞。
上記の代表形の機能を有する。
いわば目的格のワイルドカード。

代名詞 “someone” は同義であるが、

「somebody は、someone より口語的」
ジーニアス英和大辞典)。

後掲のEFL辞典の通り、英英辞典の見出しは、
“somebody” ばかり。

“someone” は、語釈本文では使われるものの、
辞書見出しは慣習的に “somebody” 中心となっている。

※「人称代名詞」の解説は、ここが秀逸↓
ちょいデブ親父の英文法「人称代名詞


◆ “let somebody down” で鍵を握るのは “down“。

【発音】  dáun

日本社会にも久しく根付いている “down”。
常日頃から見聞きするため、すんなり把握しやすい。

よい機会なので、これから深堀りしてみたい。

“down” の語源は、古英語「丘を下って」(dūne)。

この「下って」を引き継ぐ英語 “down” の基本的意味は、
国語辞典の「ダウン」がほぼ網羅する。

  ダウン【down】

  • 1. 下がること。落ちること。
    2. ボクシングで、倒れること。
    3. 疲労・衰弱して倒れること。寝込むこと。
    4. コンピューターなどが、故障・事故で働かなくなること。
    5. 野球で、アウトと同義。
    6. 主に球技の試合で、差引き一定数を負け越していること。
    7. アメリカン・フットボールで攻撃の一単位。
    ファースト・ダウンからフォース・ダウンまである。
    (広辞苑 第七版)
  • 1. 下がること。下がること。引き下げ。値下げ。
    2. [ボクシングで]打たれてたおれること。
    3. 病気・過労などでたおれること。
    4. 故障で機械が動かなくなること。
    (三省堂国語辞典 第七版)

※ 羽毛「ダウン」も “down”。 発音も同じ。
しかし、こちらは語源の異なる別物。
古ノルド語「ちりのように細かい」(dūnn)が語源。

【発音】  dáun

英語 “down” は非常に多義である。
それでも、次の基本的意味は、下方へ向かう方向性を保つ。

  • 副詞「下へ」「下がって」「落ちて」「向こうへ」「落ち込んで」
    「寝込んで」「停止して」「書き留めて」「アウトになって」
  • 前置詞「~の下へ」「~に沿って」
  • 形容詞「下にある」「停止した」「倒れている」「落ち込んだ」
  • 名詞「下降」「倒れること」 ※ 可算名詞
  • 他動詞「降ろす」「撃墜する」「沈める」「飲み干す」
  • 自動詞「降りる」 ※ まれ

◆ 物理的・状況的・精神的に「下がる」「落ちる」ことが、
“down” の基本。

したがって、語感は総じて重くて暗め。

例えば、大型台風の際に飛び交う表現が、

  • “The electricity is down.”
    “The power is down.”
    (停電している。)  ※ “out” も可
  • “Trees are down.”
    (木が倒れている。)
  • “Trains are down.”
    (電車がとまっている。)  ※ “out” も可

◆ “down” を漢字1字で表すのであれば、「下がる」の「下」
よりは、「落ちる」の「」の方がここでは的確かも。

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この代表例が、“fall down”(下へ落ちる)を名詞化した
“downfall”。

図を再掲すると、

■ “downfall“(転落、没落、失脚)

image.png


おまけに、

■ “bog down“(行き詰まる、動けない)

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■ “step down“(辞任する)

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◆ こうして救いのない図ばかり見せつけられると、気が滅入る。

そんな落ち込んだ気分こそ、”let somebody down” の “down”。
すなわち、自分の希望・期待にそぐわぬ結果に落胆すること。

使役動詞 “let“(後述)に続くと「ダウンさせる」となり、
落胆させる」「失望させる」。

もっと平たく言えば、「がっかりさせる」。

  がっかり  

  • 失望・落胆し、元気をなくすさま。
    (明鏡国語辞典 第二版)
  • 1. 事が思いどおりにいかず、気落ちしたさま。
    2. 疲れて元気をなくしたさま。がっくり。
    (大辞林 第三版)

“let down” が名詞になったものが、”letdown“。
ハイフン入りの “let-down” と表記することもある。

【発音】 ˈlet.daʊn

  • 落胆、失望
  • 低下、減少
  • (着陸前の飛行機の)降下

同義語の筆頭は “a disappointment“。

  • “That job was a letdown.”
    (その仕事にはがっかりした。)

“let somebody down” の場合は、目的語(目的格)
を挟むため「誰々をがっかりさせる」。

「がっかり」な点は共通する。

◆ 上掲の国語辞典が示すように、カタカナ「ダウン」は、
ネガティブ一辺倒に近い。

一方、英語 “down” では、印象のよい「落ち着く」や
「書き留める」意味にも使う。

  • settle down“(落ち着く、身を固める)
    ※ 句自動詞・句他動詞
  • calm down“(落ち着く)
    ※ 句自動詞・句他動詞
  • cool down“(冷静になる、鎮まる)
    ※ 句自動詞・句他動詞
  • write down“(書き留める)
    ※ 句他動詞
  • jot down“(ささっと書き留める)
    ※ 句他動詞

句動詞の ”down” は、ほとんどが副詞。
“let somebody down” でも副詞。

また、神経作用を落ち着かせる鎮静薬の俗称は “downer“。
対となる “upper” は、神経を興奮させる「覚醒剤」。
複数形 “downers”、”uppers” で使われるのが一般的。

【発音】 ˈdaʊ.nɚ       ˈʌp.ɚ

他動詞 “down”(おろす) と “up”(上げる) に、
「~するもの」を意味する
接尾辞 “er” を加えて、
それぞれ名詞にしたもの。

主な “downers” は、「バルビツレート」(barbiturate)。
“uppers” なら、「アンフェタミン」(amphetamine)。
違法薬物扱いの “uppers” は、洋画にもよく出てくる。

◆ “down” を押さえた後は、”let” に話頭を転ずる。

【発音】  lét

「レッツゴー」(Let’s go)の “let”。
これまた、日本人にとって親しみがある単語と言いたいところ。
けれども、「ダウン」と異なり、中身は知られていない感がある。

“let” は「使役動詞」(causative verb)のひとつ。
人やものに「~させる」「~してもらう」を表す動詞である。

使役動詞として、教科書で紹介される3つがこちら。

  • let
  • make
  • have

さらに、英文法上は使役動詞ではないものの、「to 不定詞」
を伴うと、同然の機能を有するようになるのが、

  • get

“I got my son to look after the dog.”
(息子にその犬の世話をさせた。)
(息子にその犬の世話をしてもらった。)

こんな風に、”get” が「~させる」「~してもらう」を表すことは、
中級学習者であれば、難なく理解できるはず。

使役動詞としての “let“、”make“、”have“、”get” は、他動詞
他動詞とは、主語以外の人やものに影響を及ぼ動作。
自動詞とは、目的語がなくても、意味が完結する自己完結の動作。

人やものに「~させる」「~してもらう」のが使役動詞なので、
当然、他動詞になる。

◆ 4語の使い分けの原則をざっくりまとめる。

  • let (許可を「与える」)→ 主に目上が使うので強気
  • make (無理やり「させる」)→ 多くが強制的で強気
  • have (当たり前のことをしてもらう)→ ごく自然で中立的
  • get (説得してやってもらう)→ お願いしつつ中立的

英語ライティングルールブック  第3版』(下記参照)によると、
“let”、”make”、”have” の3語のうち、

上下関係や強制のニュアンスがなく、
最も幅広い状況で使える
のが have

(122頁)。

【参照】

  • 英語ライティングルールブック  第3版
    デイビッド・セイン (著)、DHC、2019年刊

    日本語ネイティブ向けの英作文の参考書として、定評がある
    [初  版]2004年発行
    [第2版]2011年発行
    [第3版]2019年発行
    全部読んできたが、丁寧な改訂を重ねてきている。 おすすめ。
image.png

■ 米国で発行された “writing style books” は、
AP通信社MLAシカゴ大学が名高い。

社内記者用に作成された「APスタイルブック」は、
1953年に一般向けに発行された。

  各社で説が分かれる分野も少なくない。

どれを採用するかは、使用者(雇用主)や発注者側の指定に
よりけりだったりする。

この他にも、歴史と版を重ねた有名どころが複数存在する。

そのため、先ほどご紹介したセイン氏のDHC版も含め、
どのスタイルブックも「絶対視」はしない方がよい
と私は考える。

■ 日本では、朝日新聞『用語の手引』、共同通信社
記者ハンドブック』、時事通信社『用字用語ブック
の3冊が、とりわけ有力視されてきた。


◆ これまで学んだことを、3大学習英英辞典(EFL辞典)で確認してみよう。

代名詞が無生物の “let something down” の語釈は除外した。
表題の趣旨に合わせて、”somebody” に絞るためである。

“let somebody down”
“let down somebody”
phrasal verb
1. to not do something that someone trusts or expects you to do.
(LDOCE6、ロングマン)

“let somebody down”
phrasal verb
to fail to help or support somebody as they had hoped or expected.
(OALD9、オックスフォード)

“let sb down”
phrasal verb
to disappoint someone by failing to do what you agreed to do or
were expected to do.
(CALD4、ケンブリッジ)

※ “sb” = “somebody”

先述の通り、項目立てに “someone” はなく、
一律 “somebody” が用いられている。

2語の微妙な違いについても、既に記した。

枠内の “LDOCE6” によれば、目的語(目的格)を後付けにして、
“let down somebody“とすることが可能。

片や、”OALD9″ と “CALD4” は明記していない。
本稿で取り上げた意味合いであれは、目的格を中間に置く方が普通。

とはいえ、文面においては不自然でもない。

  • “X let down her fans.”
    ( X は彼女のファンを失望させた。)
  • “England let down their fans in World Cup defeat to Wales.”
    (イングランドはワールドカップでウェールズに負けて、
    ファンを失望させた。)
  • “These YouTubers Let Down Their Fans”
    (ファンをがっかりさせたユーチューバーたち)

もっとも、「失望させる」ではなく、「辱める」「威信を傷つける
の意味であれば、後付けは一般的にみられる。

  • “Lazy students let down Japan’s colleges.”
    (怠慢な学生たちが日本の大学の威信を傷つけている。)

日常的に多用されるとは言い難い用法であり、本稿では触れなかった。

◆ 自己使用には、次の基礎パターンを覚えておくとよい。

  • “I won’t let you down.”
    (私はあなたを失望させません。)
    (きっと期待に応えてみせます。)
  • “Don’t let me down.”
    (私をがっかりさせないで。)
  • “I’m sorry to let you down.”
    (がっかりさせてごめんなさい。)
  • “I don’t want to let you down.”
    (あなたを失望させたくないです。)
  • “I didn’t want to let you down.”
    (あなたを失望させたくなかった。)
  • “I never wanted to let you down.”
    (あなたを絶対に失望させたくなかったのです。)

【関連表現】

“I won’t disappoint you.”
https://mickeyweb.info/archives/2636
(きっと期待に応えてみせます。)

 

 

 

 

 

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