At no charge
2022/08/02
無料で
日常場面で 「 無料で 」 と表現するには、 どう表すか。
代表格は次の8つ。
-
for free
-
for nothing
-
at no cost
-
at no expense
-
for free of charge
-
without charge
-
with no charge
-
at no charge
◇ 太字がキーワード
“free“、 “nothing“、 “cost“、 “expense“、 “charge”
いずれも基本的で、多用されている。
正式な商取引ではなく、日常用途(”everyday English”)
であれば、区別に神経質になる必要はないだろう。
–
◆ では、この中より1つだけ、日本人学習者にお勧めするなら、
どれか。
私は ” at not charge ” を選びたい。
だから表題にした。
8つとも、日常生活で用いる常用表現。
違いを意識し、慎重に使い分ける類の言い回しではない。
普段遣いであれば、違いはないに等しい。
その中で、”at no charge” を抜擢した理由は、
応用しやすく、ほどよく上品であるから。
以下解説してみる。
–
◆ 手始めに、キーワード5語(黄枠太字)の重要度と頻出度
を “LDOCE6″(ロングマン)で調べた。
英単語として、最重要かつ最頻出な位置づけは、
- 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
- 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
形容詞 “free“、名詞 “nothing“、名詞 “cost“、名詞 “charge”
の4語はこの範疇。
唯一、名詞 “expense” は、
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
◆ <消去法>に基づいて分析した。
8つとも、基本的で多用されるのは間違いなく、
欠点を見つける方が早いと考えたため。
1) 最初に、”at no expense” を排除
【理由】
他と比較すると、”expense” の難易度・専門性は高い。
語源は、後期ラテン語「支払った」(expēnsa)。
可算・不可算名詞 “expense” は、「費用」「出費」「経費」。
ビジネス然としており、純然たるプライベートには堅すぎる傾向。
結果的に、応用範囲に難あり。
加えて、重要度・頻出度が格下なのは、先述の通り。
–
2) 次に、”free” と “nothing” を排除
【理由】
重要度・頻出度には申し分なく、幼児でも分かる容易な両単語。
だがそれゆえに、どこか気安く軽い印象がつきまとう感触。
形容詞 “free” の意味の2柱は、「自由な」と「ただの」。
語源は、古英語「親愛なる」(frēo)。
「親愛」 → 「愛情」 → 「自由」 → 「ただ」
と派生した。
「自由」で「ただ」なのは素晴らしいが、時として軽佻感を伴う。
この点、日本語にも似た要素がみられる。
日本語の「ただ」は、「ろは」ともいう。
ろは
名詞
(「ただ」にあてる「只」の字が片仮名のロとハを続けた形
であるところから)代金を要さないこと。 ただ。 無料。
(精選版 日本国語打英辞典)
「ただ」は、いつでも気兼ねなく使えるとは言い難い。
非公式には「タダ」と片仮名書きで使われたりする。
例えば、 「タダ飯」。
- “There is no free lunch.”
(ただで手に入るものはない。)
という成句が示唆するように、あまりよい感じを与えない。
相手に対する非難を含む語勢が生じることがある。
また、状況によっては、下品に聞こえるリスクがある。
だから、”free” は最適ではないと判断する。
名詞 “nothing” も似たようなもの。
こちらも古英語が語源で、「何もない」(nāthing)。
「無料」なので「何もない」。
単純だが、つかみどころに欠ける。
この漠とした感じが、お金の話題には適さないこともある。
要するに、”free” と “nothing” は、使用場面を選ぶ。
厄介なので外す。
3) 次いで、”at no cost” をカット
【理由】
重要度・頻出度は、”expense” より格上である。
2名詞とも、可算・不可算を兼ね、ビジネスライクな側面は共通。
「費用」「経費」「値段」を指し、語源に忠実。
すなわち、ラテン語「費用がかかる」(constāre)。
日本社会にも完全定着した「コスト」。
無料なのに「コスト」云々と言われたら不快だろう。
これは英語でも変わらない。
なお、”at cost” は、<2語ワンセット> の熟語で、
「実費で」 「原価で」の意。
- “We offer X testing at cost.”
(X検査を実費で行います。)
– - “COVID-19 testing will be provided at cost.”
(新型コロナウイルス感染症の検査を実費で行います。)
4) 残るは “charge”
重要度・頻出度は最高ランク。
しかし、”free” や “nothing” と違い、幼児には通じにくい。
幼児相手に「無料」を講釈するのは、本稿の想定外なので、
この点に問題はないと考える。
“charge” には、他動詞・自動詞・名詞がある。
語源は、ラテン語「荷馬車に荷を積む」(carricāre)。
ここでは名詞。
“expense“、”cost” と同じく可算・不可算を兼ねる。
「費用」「経費」「出費」を指し、意味が重なるばかりか、
ビジネスライクな点も共通。
2語と異なるのは、”charge” が相当多義なこと。
“expense” と “cost” とて名詞以外に存在するが、
どの品詞も、「費用」の意味合いを貫く。
徹底して「お金」。
それぞれ語源に沿うのである。
一方、”charge” は「お金」にとどまらない。
自他動詞とも「請求する」を基本的意味とするが、
それ以外にも「充電する」「突撃する」「告発する」
「管理する」「責任を負う」も示す。
例えば、電池の「チャージ」やサッカーの「チャージ」
は、日本でも普通に使われている。
電子マネーに至っては、発行元も正式名称として採用
しており、「チャージ」以外に思いつかないほど。
これらは、英語 “charge” でも使う用途。
日本人の毎日に欠かせなくなった語である点を、評価したい。
要は、”charge” は多義なため、お金に直結しない点で露骨
になりにくく、かつ近年の日本人が親しんでいる単語。
この点が、他の名詞と異なる強みと考えた。
5) それでは、次の4つを比べたらどうなるか
- for free of charge
- without charge
- with no charge
- at no charge
1は、4語構成でまだるっこい。
そして “free” を用いているので、できれば避けたい。
理由は既に説明した。
2~4の意味に差はほぼなく、前置詞が違うくらい。
ここでの “without charge”と “with no charge” は同義同然。
とすれば、”at no charge” の使い勝手が雌雄を決する。
“at no charge” に軍配を上げたのは、単独で完結した場合の
イメージ及び応用力である。
対面の会話であれば、ひと言「無料で」と付け足すことも
考えられる。
・ 無料です
・ 無償でやります
・ 無料でできませんか
・ 無料でお願いできれば
こんな風にさらりと触れる際、自然に聞こえるのはどれか。
- Without charge.
- With no charge.
- At no charge.
私の感覚では “at”。 発音もずっと楽。
→ “th” の発音の詳細は、”smooth out”
使い分けは、”with” と “at” の文法に従うのが原則。
“at” の方がよく使われる前置詞であることは、中級学習者
であれば、経験上ご理解されているはず。
無料です
- “I will fix this at no charge.”
(これを無償で修理いたします。)
– - “Yes. At no charge.”
(ええ。 無料で。)
– - “We will send you refills at no charge.”
(リフィルを無料でお送りいたします。)
– - “You can join this seminar at no charge.”
(このセミナーには無料でご参加いただけます。)
– - “This service is available to our members at no charge.”
(会員の皆様はこのサービスを無料でご利用いただけます。)
– - “They offered to do this at no charge.”
(彼らは無料でやると言ってくれた。)
– - “They allowed us to enter the park at no charge.”
(遊園地に無料で入場させてくれた。)
– - “COVID-19 testing will be provided at no charge.”
(新型コロナウイルス感染症の検査は無料です。)
◆ 黄枠8つすべて、便利なシンプル表現に違いない。
「 無料 」を伝える上では、全部役立つ。
本稿は、 日本人学習者用に 「 たった一つを選ぶとすれば 」
との前提で、 比較衡量した一考察 にすぎない。
異論が存在することは、 十分承知している。
もとより、 成否を見定めることを目的としていない旨、
ご了承いただければ幸いに思う。