Hands-on
2020/03/24
直接関与する、実地の、実用向けの
He is a hands-on dad.
(彼はイクメンなのです。)
「イケメン」でなく、「イクメン」。
いくメン【育メン】
[育児とイケメンの合成語]
俗に、子育てを積極的に楽しむ男性。
イケメン
容姿がすぐれている男性。
[若者語。「いけてる(=カッコイイ)」
の略に「面」あるいは「メン(men)」を
つけたものといわれる]
(大辞林 第三版)
「イケメン」は、次の通り、2018年1月発売の
広辞苑 第七版 にも初登場。
「イクメン」は、未掲載。
いけめん【いけ面】
(「いけてる」の略「いけ」と顔を表す「面」
とをあわせた俗語か。多く片仮名で書く)
若い男性の顔かたちがすぐれていること。
また、そのような男性。
(広辞苑 第七版)
いきなり「イクメン」「イケメン」の語釈。
その理由は、”hands-on” のニュアンスを
うまく具現する姿が「イクメン」と考えるため。
ー-
これはイメージ。あくまでイメージ。
「イクメン」の現実は、半端ではなく大変な有様。
ワーキングマザーとは違った性質の葛藤も伴い、
人知れず苦しむ折も多々あるに違いない。
–
◆ “hands-on” は、形容詞。
名詞 “hands” と 副詞 “on” をハイフンで
つなげて形容詞にした「複合語」。すなわち、
「複合形容詞」(compound adjective)。
< “hands-on” の語源 >
初出は1969年。比較的新しい。
というのは、もともとコンピュータ用語だった
からである。
机上の知識でなく、実際にキーボードを用いて、
現場でコンピュータを動かす様子。
“hands are on“(両手が載っている) の略。
キーボードは両手使いなので、複数形 “hands“ 。
それを、キーボード上に載せるので、
接触の副詞 “on“(上に)。
※ “on” を形容詞とする説もある
–
まさに、実地訓練 “OJT” = “on-the-job training”
の雰囲気(相違点は後述)。
【出典】
・『ジーニアス英和大辞典』
・『NHK やさしいビジネス英語実用フレーズ辞典』2003年刊
・ 語源サイト https://www.etymonline.com/search?q=hands-on
–
■ なお、“hands-off“(不干渉、口出ししない)
の類推による、との説もある
・『ランダムハウス英和大辞典 第2版』
成り立ちを詳細に述べたのは、以下の意味合い
に関係するからである。
現在、ビジネス用途では、
「現場で自分の手を使い、しっかり取り組むこと」。
そこから、「自ら直接関わること」「直接関与する」、
ひいては「直接参加する」。
これらは、先述の「実際にキーボードを用いて、
現場でコンピュータを動かす」から生じる。
さらに「机上の知識でなく」の側面から、
「実地の」「実用向けの」「実際的な」。
以上より、同義の形容詞の代表格は、それぞれ
- “involved“(関係している)
- “practical“(実用的な)
“hands-on”
doing something rather than just talking about it.
(オックスフォード、OALD9)
【発音】 ˈhændzˈɑːn
その他、マイナー用法として、文字通り、
「手動の」「実際に手で操作する」も意味する。
しかし、日常的にはあまり出てこない使い道。
技術分野で使うカタカナ「ハンズオン」は、この意味中心。
基本的に、”hands-on” はポジティブな印象
の形容詞である。
特にビジネス視点から上記青字を見ると、
ネガティブな要素は感じにくいはず。
「イクメン」についても同様。
ただし、「直接関与する」→「何でも自分でやりたがる」
とのよくない解釈もある。これまたマイナー用法。
めったに見聞きしないが、英英辞書には記載されている。
“hands-on”
a hands-on person is involved in something
and does not let other people do all the work
and make all the decisions.
(マクミラン)
※ 下線は引用者
【下線の参考和訳】
他の人にはすべての仕事やすべての決断を
させようとしない。
→ 自分で抱え込む、またはしゃしゃり出て、
他人から権利を奪う煩わしい人
◆ “hands-on” は形容詞なので、
名詞の前に置くのが大原則。
だが、次のような使い方も珍しくない。
- “I like to be hands-on.”
(私は直接関わるのが好き。) - “He has been hands-on with his sons.”
(彼は息子たちに直接関わっていた。)
“hands-on” は名詞の前になく、述語になっている。
ー
◆ よい機会なので、ここで基礎文法のおさらい。
“aware” より、再掲する。
日本語の形容詞は用言の一つで、
単独で述語 になることができる。
- 私は悲しい。
- 彼女はきれい。
- それが楽しかった。
太字は形容詞。
「は」と「が」は、助詞(postpositional particle)。
名詞・代名詞の後ろに置き、
他の語との文法的関係を示す語。
前置詞(preposition)の反対の 後置詞(こうちし)。
それが、日本語の助詞。
※ 本稿末尾に『日国』語釈を全文掲載している
–
◆ 一方、英語の形容詞は「be動詞」などの
助けを借りないと、述語になれない。
日本語の形容詞に比べて、
力が弱いから。
- I am sad.
- She is beautiful.
- It was fun.
黒の下線部が “be動詞“。
※「be動詞」= be、am、was、been、will be、is、were、are
要するに、英語の形容詞は、
弱すぎて述語として自立不能。
–
先述の文例を比べると、
<日本語の形容詞> 単独で述語 ○
強くて独立しているので、「助詞」が欠けても可。
少なくとも「話し言葉」なら、大抵問題ない。
△ 私、悲しい。
△ 彼女、きれい。
△ それ、楽しかった。
–
<英語の形容詞> 単独で述語 X
弱くて依存しているので、「be動詞」などは不可欠。
よって、以下は完全に間違い。
X I sad.
X She beautiful.
X It fun.
–
“be動詞” などと組み、述語になれば、名詞の前に限定
されないで済むということ。
“I like to be hands-on.” では、”be” が「be動詞」。
–
◆ “hands-on” は、公私不問で幅広く使われる。
辞書の指標では重要・頻出に至らないものの、後掲するように、
決まり文言として多用されるものが存在する。
冒頭の「イクメン」もこのパターン。
「イクメン」= “a hands-on dad” にかなり重なる。
ー
◆ 日本の厚生労働省が「イケメンプロジェクト」
を立ち上げたのが、2010年。
男性の育休取得率を上げる狙いがあった。
同年6月、「イクメンという言葉をはやらせたい」と
国会で発言した当時の労働大臣に端を発する。
そこから、「育児に積極的な男性」として
一般社会に普及していった流れ。
“hands-on” 以上に、成り立ちが作為的である。
したがって、解釈によっては、「イケメン」が
“hands-on dad” にならない場合もありうる。
その逆も然り。
一般的なニュアンスの一致として、<ほぼ同義>
くらいに考えていただければと思う。
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◆ 次の7つは、辞書の例文に頻出な上、実際に活用
されている言い回し。
-
hands-on training
(実地訓練)
※ 実機に触れることを主眼とする教育訓練。
一方、”OJT” は、現場で働きつつ仕事を覚える
ことが趣旨。
-
hands-on experience
(実地体験)
※ 無冠詞の不可算名詞が通例 -
hands-on management
(実務にも直接従事する経営陣) -
hands-on parenting
(積極的な子育て)
※ “hands-on parents“(~両親) も同様 -
hands-on activities
(体験活動)
※ 教育課程としてのボランティア活動など -
hands-on approach
(現場主義)
“hands-on” の成り立ちを押さえて
おけば、7つとも理解は難しくない。
【関連表現】
“hands down“
https://mickeyweb.info/archives/26312
(楽々、断然)
◆ 日本最大規模の国語辞典の名を誇る『日国』がこちら。
「助詞」全文であ
『日本国語大辞典 第二版』第7巻、p. 357、
小学館(2001年刊)より転載–
おまけに、「形容詞」全文。
『日本国語大辞典 第二版』第4巻、p. 1287、
小学館(2001年刊)より転載–
緑の傍線が、既記の
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<英語の形容詞は「be動詞」などの助けを借りないと、述語になれない>
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に該当する。
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◆ 英語も「印欧語」。
インド・ヨーロッパ語族(the Indo‐European languages)とも言う。
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–
【出典】 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説より
「印欧語」と「形容動詞」は、”conclusive” で取り上げている。
◆ 日本語の文の種類は、3種類に大きく分けられる。
1. 名詞文
2. 形容詞文
3. 動詞文
1. 「名詞文」→ 述語に名詞が使われる
1-1 私は学生です。
1-2 父は今ニューヨークです。
2. 「形容詞文」→ 述語に形容詞または形容動詞が使われる
2-1 富士山は美しい。(形容詞)
2-2 京都は有名である。(形容動詞)
3. 「動詞文」→ 述語に動詞が使われる
3-1 彼はそこに行きました。
3-2 私は昼食を食べました。
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上記を英訳してみる。 青字は動詞 (下線部は “be動詞”)。
1-1 I am a student.
1-2 My father is in New York now.
2-1 Mt. Fuji is beautiful.
2-2 Kyoto is famous.
3-1 He went there.
3-2 I ate lunch.
動詞が「3. 動詞文」に用いられることは言うまでもない。
ところが、
「1. 名詞文」と「2. 形容詞文」にも
動詞(be動詞)が使われている。
日本語の「1. 名詞文」「2. 形容詞文」には動詞はないのが普通なのに、
英語になると、必ず動詞が出てくる。
「名詞文」「形容詞文」「動詞文」
のすべてに、英語では動詞が使われる。
日本語と英語の大きな違いである。
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