Relentless / Unrelenting
2020/10/09
たゆみない、 飽くなき
組織幹部が従業員に対して行うスピーチに
よく出る形容詞が、”relentless” と “unrelenting”。
-
a relentless work ethic
( たゆみない 職業倫理 ) -
an unrelenting professional attitude
( 不屈の プロ意識 )
主要な英和辞典の筆頭語釈を飾る
「 情け容赦のない 」と「 無慈悲な 」は、
このような使用場面には不適切。
ー
2つともネガティブな印象を伴う。
スピーチ趣旨から考えると的外れ。
ー
従業員を鼓舞する前向きな日本語を起用
しないと、士気が下がり、逆効果である。
なさけようしゃ【情け容赦】
相手への思いやりと遠慮。多く下に打ち消し
の語を伴って用いる。
ようしゃ【容赦】
1. 相手のあやまちや失敗などを許すこと。
2. 相手の事情を考慮して、手加減すること。
ようしゃなく【容赦無く】
遠慮することなく。手加減せずに。
むじひ【無慈悲】
思いやる気持ちのないこと(さま)。
(大辞林 第三版)
言葉の与えるインパクトの顕著なのがスピーチ。
ー
直接対顔で語りかける意図で練られた原文ゆえに、
通常の翻訳とは異なる姿勢を要する。
ー
翻訳者としては、幹部がメッセージに込めた
趣意を熟慮し、時に大胆な意訳を組み込む。
ー
さもないと、気の抜けた問わず語りみたいに
仕上がり、間抜けすぎて受け手は白ける。
ー
結果的に、原文の威勢から程遠い、
「ダサいスピーチ」になってしまうのだ。
登壇者は、翻訳されたスピーチの品質が理解
できないため、そのことにまるで気づかない。
ー
なんだか滑稽だが、ままある話。
ご本人の心意気と期待を的確に伝えられるよう、
納期限ぎりぎりまで頭を絞り、出来映えに拘る。
ー
これぞ、我が職務の基幹をなす作業。
そのためには、特段の語学力(日英)が求められる。
職務要件には、”Exceptional Proficiency” と明示されている。
よって、日々読書は欠かさない。 これまた仕事。
一方で、えらく真剣に取り組むと、”relentless”、”unrelenting”
な態度がうざい、などと嫌われたりもする。
ー
ー
◆ “relentless” と “unrelenting” は、相互の同義語とされる。
日常使用では用途も重なる。
だから、ここで一緒に覚えてしまおう。
2語とも、”relent” から派生。
【発音】 rilént
【音節】 re-lent (2音節)
ラテン語「柔らかい」(relentāre)より生じた
動詞「和らぐ」。
否定の接尾辞(less)と反対の接頭辞(un)を
各々加えたものが、”relentless” と “unrelenting” 。
“unrelenting” の 接尾辞 “ing” は、現在分詞の形容詞化。
換言すれば、「Not 柔らかい」「Not 和らぐ」
だから、「容赦ない」「厳しい」の意味合いに。
–
ー
◆ 主な違いは2点。
◇ “unrelenting” の方が、
(1) 堅い表現
(2) 重要度は低め
それぞれ説明してみる。
(1) “unrelenting” は堅い表現
3大学習英英辞典(EFL辞典)のすべてで、
“formal” と表示される。”relentless” にはない。
“unrelenting“
formal
1. an unpleasant situation that is unrelenting
continues for a long time without stopping.
SYN: relentless
2. continuing to do something in a determined way
without thinking about anyone else’s feelings.
SYN: relentless
(ロングマン、LDOCE6)
formal
1. (of an unpleasant situation) not stopping or
becoming less severe.
SYN: relentless
2. if a person is unrelenting, they continue with
something without considering the feelings of other people.
SYN: relentless
(オックスフォード、OALD9)
formal
extremely determined;
never becoming weaker or admitting defeat.
(ケンブリッジ、CALD4)
◇ SYN = synonym (同義語)
【発音】 ʌ̀nrilε’ntiŋ
【音節】 un-re-lent-ing (4音節)
–
(2) “unrelenting” の重要度は低め
LDOCE6 の指標によれば、こうなる。
“relentless“
- 重要度:<6001~9000語以内>
- 書き言葉の頻出度:ランク外
- 話し言葉の頻出度:ランク外
–
【発音】 riléntləs
【音節】 re-lent-less (3音節)
–
“unrelenting”
- 重要度:ランク外
- 書き言葉の頻出度:ランク外
- 話し言葉の頻出度:ランク外
–
【発音】 ʌ̀nrilε’ntiŋ
【音節】 un-re-lent-ing (4音節)
話し言葉と書き言葉の使用頻度は、両語とも
<トップ3,000語>に入っていない。
ー
◆ 重要度も頻出度も低めの2語。
ー
それでも、本稿に取り上げている理由は、上記の
代表的な和訳では間に合わない用途が多め
と感じるからである。
冒頭の2つが好例。
従業員などに対する督励用途に限定すると、
- ネガティブな「無慈悲な」「情け容赦のない」よりは、
- ポジティブな「たゆみない」「飽くなき」の方が優勢
私の経験からはそう感じる。
たゆみない【弛み無い】
気持がゆるまない。なまけない。
油断しない。とだえることがない。
あくなき【飽くなき】
どこまでも留めない。たゆまぬ。
(広辞苑 第七版)
もっとも、競合企業や競争の激しい市場を表現する
際は、ネガティブな語意に偏ることが多々ある。
ネガ・ポジ・中立にざっくり分けてみる。
<ネガティブ>
- 無慈悲な
- 情け容赦のない
- 冷酷な
- 無情な
<ポジティブ>
- たゆみない
- 不屈の
- 粘り強い
- 飽くなき
<中立>
◇ ネガポジは文脈次第
- 激しい
- 過酷な
- 執拗な
- 手加減のない
先にも触れたが、辞書(英和・英英)の筆頭
に位置するのは、ネガティブな意味合いが大半。
ー
◆ 確かにビジネス以外の日常使用では、
ネガティブ中心に使われている感がある。
「 Not 柔らかい 」「 Not 和らぐ 」
s上掲の成り立ちを考慮すれば、むしろ当然かも。
- relentless health problems
- unrelenting health problems
(情け容赦ない健康問題)
ー - a relentless attack
- an unrelenting attack
(無慈悲な攻撃)
ー - the relentless weather
- the unrelenting weather
(過酷な天候)
しかし、大勢を励ます目的にはそぐわない。
ー
すなわち、激励時にこの語義の “relentless” と
“unrelenting” が起用されるのは無粋で不自然。
ー
ー
◆ 自社の従業員に対する使用例を挙げる。
ー
「無慈悲」がいかに場違いか、ご覧いただければと思う。
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“Their success is due to the relentless pursuit of profit.”
(彼らの成功は、たえゆまない利潤追求に基づく。)
“I admire his relentless determination to succeed.”
(彼の成功への飽くなき決意を尊敬している。)
“She is an artist of a relentless pursuit of perfection.”
(彼女はどこまでも完璧に拘る芸術家である。)
“His relentless energy made him rich.”
(彼の尽きることのないエネルギーが彼を金持ちにした。)
“She has a relentless passion for fashion.”
(彼女はファッションへの激しい情熱をもつ。)
“His unrelenting commitment is just amazing.“
(彼の粘り強い取り組みは、実に驚くべきものだった。)
“Thank you for your unrelenting efforts.”
(たゆまない努力に感謝します。)
“She was unrelenting in her search for the cause.”
(彼女は執拗に原因を追求した。)
“My son has an unrelenting interest in movies.”
(息子は映画に対するとめどない興味がある。)
“She is proud of her unrelenting ethics.”
(彼女は確固とした自分の倫理に誇りを持っている。)
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