これを最後に、 今度限り、 きっぱりと
本来の英語の意味は単純なのに、
和訳すると、文脈次第で意味合いに
開きが生じがちの英語表現がある。
和訳時の置き換えで、 どうしても
差異が生じてしまう英語である。
単語の好例は、” vulnerable ” ( 〜 に傷つきやすい )。
熟語であれば、 ” once and for all “。–
表題である。
どちらも、 英英辞典の語釈は、 かなりシンプル
なのに、 文章を和訳すると煩雑になっている。
無論、 英和辞典が悪いのでない。
言語の本質的な違いのため、
翻訳が「 1対1 」のように応じにくいケース
である。
和訳すると、 品詞が変わる場合さえ少なくない。
この辺りは、 ” aware ” と ” vocal about ” で詳述した。
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【参照】
・ ” aware ” は動詞でなく、形容詞
・ ” vocal ” は動詞でなく、形容詞
・ ” sick ” は名詞でなく、形容詞
・ ” limbo ” は形容詞でなく、名詞
・ “ dead ” は動詞でなく、形容詞
・ “ necessary ” は動詞でなく、形容詞
–
◆ 日英では言語ルーツが大きく異なる。
–
例えば、親戚であるドイツ語 とは比較にならない。
日英では、 語源的な関係が極めて薄く、 関連性が乏しい。
私たち日本語ネイティブが、 英語学習に手間取る一因である。
【参照】
・ 言語ルーツが異なるから工夫が必要
・ 母語が日本語だと、英語習得のハードルは恐ろしく上がる
学習上、母語を活かせる手がかりが少ない。
引っかかりがないので、習得するのに難儀する。
英語は「 宇宙人 」の言語とみなす方が、 腹を据えて
学べるのでは、 と感じたりもする。
法律上・行政上、 外国人は ” alien ” と表現する。
学習者自ら 「 エイリアン 」 くらいに思う気概が
あってもよいのかもしれない。
- “an illegal alien”( 不法在留外国人 )
【発音】 éiliən
【音節】 al-ien (2音節)
éiliən
( 2音節 )
英語ネイティブが日本語を学ぶ上でも、
同様の困難に直面するのは言うまでもない。
–
【参考】 ※ 外部サイト
外国人 を「 エイリアン 」と呼ぶな、バイデン政権 が当局に指示
https://forbesjapan.com/articles/detail/39874
2021年2月17日付
–
◆ それでは、” once and for all ” について、
英和辞典と英英辞典の語釈比べをしてみたい。
まず英和。–
日本が誇る、 名高い「 大辞典 」3冊。
-
『 新英和大辞典 第6版 』
” once (and) for all “
一度だけ、 今度限り、 きっぱりと、 これを最後に– -
『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』
” once and for all “
1. これを最後に(言うが)、今度限り
2. 最後の(once-and-for-all)
3. 最終的に、きっぱりと– -
『 ジーニアス英和大辞典 』
“once (米 and) for all“
この1回限りで(二度といわない)
( in a final manner )
(これを最後に)きっぱりと( 止める )
( definitely ) and のある方が強意的
※ 「この1回限り」は、「今度限り」同然
青字は、共通語3つ。
- これを最後に
- きっぱりと
- 今度限り
–
◆ 次に英英。 合計7点。
–
3大学習英英辞典(EFL辞典)に次いで、
英語ネイティブも使うオンライン辞書4点を挙げる。
–
学習者向けのEFLのみだと、公平さに欠ける
と考えた。
-
” LDOCE6 ” ロングマン
“once and for all”
a. if you deal with something once and for all,
you deal with it completely and finally.–
–
b. British English spoken
used to emphasize your impatience when
you ask or say something that you have
asked or said many times before.
– -
” OALD9 ” オックスフォード
“once and for all”
now and for the last time;
finally or completely
– -
” CALD4 ” ケンブリッジ
“once and for all“
completely and finally
–
-
” Webster’s New World College Dictionary, 4th Ed. ” ウェブスター
“once (and) for all” in American
finally, decisively, conclusively
– -
” Macmillan Dictionary ” マクミラン
“once and for all”
completely and finally
– -
” Merriam-Webster ” メリアム ウェブスター
“once and for all”
1. with finality : definitely
2. for the last time
こちらも共通語3つが青字。
- finally
- completely
- conclusively
日英青字同士を比較してみる。
「 これを最後に 」「 今度限り 」「 きっぱりと 」
” finally “ ” conclusively “ ” completely “
十分に符合していることは、中級学習者であれば、
理解できるだろう。
–
◆ ここまではよいのだが、 問題は具体的な文章
に組み込まれた際である。
先の3つの和訳は、 実質的に「 定訳 」である。
–
とすれば、 少なくとも1つは自然に合うはず。
しかし、 実際はそうもいかないのである。
次の例文をご覧に入れたい。
–
「 これを最後に 」「 今度限り 」「 きっぱりと 」
がそのまま当てはまるものはあるだろうか。
- “This should solve everything once and for all.”
(これで、ついに万事解決だ。)
ー - “Once and for all, he must step down.”
(今度こそ、彼は辞任すべきだ。)
– - “I am telling you once and for all that
I won’t see you again.”
(あなたには二度と会わないとはっきり
言っておきます。)
– - “Let’s get it over with once and for all.”
(もうこれでけりをつけましょう。)
– - “We have to finish this, once and for
all, so we can move forward.”
(これをきっかり終えて、前進しましょう。)
– - “The actress proved once and for all
that she is the best.”
(彼女こそ最高の女優であることを、
自ら決定的に証明した。)
ほとんどの辞書に載っている訳であり、「定訳」に近い。
–
なのに、それを和訳時に用いると不自然な印象を与える。
決して珍しい現象ではない。
–
「使いづらい定訳」として弊サイトで詳説したものには、
などがある。
–
◆ こうなると、問われるのは 日本語力。
–
違った表現で、よりよい日本語を表す能力が
必要とされるのである。
大意はつかめているのに、
母語にすんなり置き換えられない。
–
これまた、よくあること。
–
英語を理解する能力と、 和訳する能力が等しい
とは、 全然限らない のである。
プロの翻訳者・通訳者が知悉している点である。
けれども、 世間一般には知られていない模様。
–
◆ こうして見てくると、次の考察に至る。
(1) 「 定訳 」であっても、
そのまま翻訳に使えるとは限らない
–
(2) 和訳を介さず、英語のまま理解する 利点
–
◆ 職業柄、 外国生まれの日本人と関わる機会が多い。
–
日本語で正規の教育を受ける機会のほとんどなかった方は、
日本語の日常会話に ( 一見 ) 不自由はなくても、
和文を書くことが苦手なケースが大半である。
–
例えば、 日本語の聞き取りを 「 ローマ字 」 で書き取る。
–
日本語をペラペラ話しているように見えるのに、
自分の話している日本語を 「 ひらがな 」「 かたかな 」
で書き起こせない。
–
漢字については言わずもがな。
–
和訳も難ありで、 口頭で一通り和訳できても、
それを文面に落とすことができなかったりする。
和文を読み上げてあげると、 立派な英訳に仕上げる。
にもかかわらず、 その和文原文を、 満足に読めない。
在外教育施設 ( 日本人学校 ) の先生方と話すと、
似たような話で持ち切りになる。
–
素人目には 奇怪に映るが、 決して珍しくない事例。
” conclusive ” にて、 私の経験を事細かにご紹介している。
さらに、 歴史を振り返りつつ、 世上流布しない
「 セミリンガル 」 の苦難を含む、 正負の側面に触れた。
※ 地図入り
–
◆ このような方々は、自ずと上記(2)を実行している。–
そうするしかないのが実情だろう。
「 バイリンガル 」 と称するには微妙な有様。
一般的な日本語ネイティブに(2)は容易で
ないものの、 英語表現によっては、 この方法
を採用すると理解が早まる。
和訳しようとすると、 混乱が深まるような表現の場合、
(2)のやり方を一度試していただければと思う。
手始めに、 先述の ” vulnerable ” と ” perceive “。
加えて、 “ unsolicited “ と “ threshold ” をお勧めしたい。
ー
◆ 最後に、使用単語を確認する。
表題に使用されている全4語が、英単語として
最重要かつ最頻出。
LDOCE6(ロングマン)の指標によれば、4語すべて
英単語全体からみて、最高ランクの位置づけにある。
–
– 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
– 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
– 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- once (副詞) 一度
- and (接続詞) 及び
- for (前置詞) ~のために
- all (形容詞) すべての
上掲辞書の項目立てからも明らかだが、
接続詞 “and” 抜きの表記も可能。
つまり、
once and for all = once for all
直訳は「一度及びすべてのため」。
何だかすっきりしないが、ここは「定訳」が役立つ。
一度及びすべてのため → この一度がすべて →
これを最後に → 今度に限り → きっぱりと
こうした流れ。
初出は15世紀。
語源については、次に詳しい。
https://ask.metafilter.com
内容に応じて、文頭・文中・文尾のいずれにも
置けるが、文尾が多めの感がある。