プロ翻訳者の単語帳

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Once and for all

      2023/10/03

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 4 minutes

これを最後に、 今度限り、 きっぱりと

本来の英語の意味は単純なのに、
和訳すると、文脈次第で意味合いに
開きが生じがちの英語表現がある。

和訳時の置き換えで、 どうしても
差異が生じてしまう英語である。

単語の好例は、” vulnerable ” ( 〜 に傷つきやすい )。

熟語であれば、 ” once and for all “。–

表題である。

どちらも、 英英辞典の語釈は、 かなりシンプル
なのに、 文章を和訳すると煩雑になっている。

無論、 英和辞典が悪いのでない。

言語の本質的な違いのため、
翻訳が「 1対1 」
のように応じにくいケース

である。

和訳すると、 品詞が変わる場合さえ少なくない。

この辺りは、 ” aware ” と  ” vocal about ” で詳述した。
–
【参照】

・ ” aware ” は動詞でなく、形容詞
・ ” vocal ” は動詞でなく、形容詞 
・ ” sick ” は名詞でなく、形容詞
・ ” limbo ” は形容詞でなく、名詞
・ “ dead ” は動詞でなく、形容詞
・ “ necessary ” は動詞でなく、形容詞

–
◆  日英では言語ルーツが大きく異なる。
–

例えば、親戚であるドイツ語 とは比較にならない。

日英では、 語源的な関係が極めて薄く、 関連性が乏しい。

私たち日本語ネイティブが、 英語学習に手間取る一因である。

【参照】

・ 言語ルーツが異なるから工夫が必要
・ 母語が日本語だと、英語習得のハードルは恐ろしく上がる

学習上、母語を活かせる手がかりが少ない。

  引っかかりがないので、習得するのに難儀する。

英語は「 宇宙人 」の言語とみなす方が、 腹を据えて
学べるのでは、 と感じたりもする。

法律上・行政上、 外国人は  ” alien ” と表現する。

学習者自ら 「 エイリアン 」 くらいに思う気概が
あってもよいのかもしれない。

  • “an illegal alien”( 不法在留外国人 )

【発音】  éiliən
【音節】  al-ien  (2音節)

 

éiliən
( 2音節 )

 

英語ネイティブが日本語を学ぶ上でも、
同様の困難に直面するのは言うまでもない。
–

【参考】    ※  外部サイト

外国人 を「 エイリアン 」と呼ぶな、バイデン政権 が当局に指示

https://forbesjapan.com/articles/detail/39874
2021年2月17日付

–

◆  それでは、” once and for all ” について、
英和辞典と英英辞典の語釈比べをしてみたい。

まず英和。–

日本が誇る、 名高い「 大辞典 」3冊。

  • 『 新英和大辞典  第6版 』
    ” once (and) for all “
    一度だけ、 今度限り、 きっぱりと、 これを最後に–
  • 『 ランダムハウス英和大辞典  第2版 』
    ” once and for all “
    1.  これを最後に(言うが)、今度限り
    2.  最後の(once-and-for-all)
    3.  最終的に、きっぱりと–
  • 『 ジーニアス英和大辞典 』
    “once (米 and) for all“
    この1回限りで(二度といわない)
    ( in a final manner )
    (これを最後に)きっぱりと( 止める )
    ( definitely ) and のある方が強意的

※  「この1回限り」は、「今度限り」同然

青字は、共通語3つ。

  •  これを最後に
  •  きっぱりと
  •  今度限り
    –

◆  次に英英。  合計7点。
–
3大学習英英辞典(EFL辞典)に次いで、
英語ネイティブも使うオンライン辞書4点を挙げる。
–
学習者向けのEFLのみだと、公平さに欠ける
と考えた。

  • ” LDOCE6 ”  ロングマン
    “once and for all”
    a.  if you deal with something once and for all,
    you deal with it completely and 
    finally.–
    –
    b.  British English spoken
    used to emphasize your impatience when
    you ask or say something that you have
    asked or said many times before.
    –
  • ” OALD9 ”   オックスフォード
    “once and for all”
    now and for the last time;
    finally or completely
    –
  • ” CALD4 ”  ケンブリッジ
    “once and for all“
    completely and finally
    –
  • ” Collins English Dictionary ”  コリンズ
    “once and for all” in British
    conclusively; for the last time
    –
  • ” Webster’s New World College Dictionary, 4th Ed. ”  ウェブスター
    “once (and) for all” in American
    finally, decisively, conclusively
    –
  • ” Macmillan Dictionary ”  マクミラン
    “once and for all”
    completely and finally
    –
  • ” Merriam-Webster ”  メリアム ウェブスター
    “once and for all”
    1.  with finality : definitely
    2.  for the last time

こちらも共通語3つが青字。

日英青字同士を比較してみる。

「 これを最後に 」「 今度限り 」「 きっぱりと 」

” finally “ ” conclusively “ ” completely “

十分に符合していることは、中級学習者であれば、
理解できるだろう。
–

◆  ここまではよいのだが、 問題は具体的な文章
に組み込まれた際である。

先の3つの和訳は、 実質的に「 定訳 」である。
–
とすれば、 少なくとも1つは自然に合うはず。

しかし、 実際はそうもいかないのである。

次の例文をご覧に入れたい。
–
「 これを最後に 」「 今度限り 」「 きっぱりと 」
がそのまま当てはまるものはあるだろうか。

  • “This should solve everything once and for all.”
    (これで、ついに万事解決だ。)
    ー
  • “Once and for all, he must step down.”
    (今度こそ、彼は辞任すべきだ。)
    –
  • “I am telling you once and for all that
    I won’t see you again.”
    (あなたには二度と会わないとはっきり
    言っておきます。)
    –
  • “Let’s get it over with once and for all.”
    (もうこれでけりをつけましょう。)
    –
  • “We have to finish this, once and for
    all, so we can move forward.”
    (これをきっかり終えて、前進しましょう。)
    –
  • “The actress proved once and for all
    that she is the best.”
    (彼女こそ最高の女優であることを、
    自ら決定的に証明した。)

ほとんどの辞書に載っている訳であり、「定訳」に近い。
–
なのに、それを和訳時に用いると不自然な印象を与える。
決して珍しい現象ではない。
–
「使いづらい定訳」として弊サイトで詳説したものには、

などがある。

–

◆  こうなると、問われるのは  日本語力。
–
違った表現で、よりよい日本語を表す能力が
必要とされるのである。

大意はつかめているのに、
母語にすんなり
置き換えられない。
–
これまた、よくあること。
–
英語を理解する能力と、 和訳する能力が等しい
とは、
全然限らない  のである。

プロの翻訳者・通訳者が知悉している点である。

けれども、 世間一般には知られていない模様。
–

◆  こうして見てくると、次の考察に至る。

(1) 「 定訳 」であっても、
そのまま翻訳に使えるとは限らない
–
(2) 和訳を介さず、英語のまま理解する 利点

–
◆  職業柄、 外国生まれの日本人と関わる機会が多い。
–
日本語で正規の教育を受ける機会のほとんどなかった方は、
日本語の日常会話に ( 一見 ) 不自由はなくても、
和文を書くことが苦手なケースが大半である。
–
例えば、 日本語の聞き取りを 「 ローマ字 」 で書き取る。
–
日本語をペラペラ話しているように見えるのに、
自分の話している日本語を 「 ひらがな 」「 かたかな 」
で書き起こせない。
–
漢字については言わずもがな。
–
和訳も難ありで、 口頭で一通り和訳できても、
それを文面に落とすことができなかったりする。

和文を読み上げてあげると、 立派な英訳に仕上げる。

にもかかわらず、 その和文原文を、 満足に読めない。

在外教育施設 ( 日本人学校 ) の先生方と話すと、
似たような話で持ち切りになる。
–
素人目には  奇怪に映るが、 決して珍しくない事例。

” conclusive ” にて、 私の経験を事細かにご紹介している。

さらに、 歴史を振り返りつつ、 世上流布しない
「 セミリンガル 」 の苦難を含む、 正負の側面に触れた。

※  地図入り
–


◆  このような方々は、自ずと上記(2)を実行している。–

そうするしかないのが実情だろう。

「 バイリンガル 」 と称するには微妙な有様。

一般的な日本語ネイティブに(2)は容易で
ないものの、 英語表現によっては、 この方法
を採用すると理解が早まる。

和訳しようとすると、 混乱が深まるような表現の場合、
(2)のやり方を一度試していただければと思う。

手始めに、 先述の  ” vulnerable ”  と  ” perceive “。

加えて、 “ unsolicited “  と  “ threshold ” をお勧めしたい。
ー

◆  最後に、使用単語を確認する。

表題に使用されている全4語が、英単語として
最重要かつ最頻出。

LDOCE6(ロングマン)の指標によれば、4語すべて
英単語全体からみて、最高ランクの位置づけにある。
–
–  重要度:最上位 <トップ3000語以内>
–  書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
–  話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>

  •  once  (副詞) 一度
  •  and  (接続詞) 及び
  •  for  (前置詞) ~のために
  •  all  (形容詞) すべての

上掲辞書の項目立てからも明らかだが、
接続詞 “and” 抜きの表記も可能。

つまり、

once and for all  =  once for all

直訳は「一度及びすべてのため」。

何だかすっきりしないが、ここは「定訳」が役立つ。

一度及びすべてのため → この一度がすべて →
これを最後に → 今度に限り → きっぱりと

こうした流れ。

初出は15世紀。

語源については、次に詳しい。
https://ask.metafilter.com

内容に応じて、文頭・文中・文尾のいずれにも
置けるが、文尾が多めの感がある。

 

 

 

 

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