Once and for all
2021/02/17
これを最後に、 今度限り、 きっぱりと
本来の英語の意味は単純なのに、
和訳すると、文脈次第で意味合いに
開きが生じがちの英語表現がある。
和訳時の置き換えで、どうしても
差異が生じてしまう英語である。
単語の好例は、“vulnerable“(〜に傷つきやすい)。
熟語であれば、”once and for all”。–表題である。
どちらも、英英辞典の語釈は、かなりシンプル
なのに、文章を和訳すると煩雑になっている。
無論、英和辞典が悪いのでない。
–
言語の本質的な違いのため、
翻訳が<1対1>のように応じにくいケース
である。
和訳すると、品詞が変わる場合さえ少なくない。
–
【参照】
・ “vocal” は動詞でなく、形容詞
・ “aware” は動詞でなく、形容詞
・ “sick” は名詞でなく、形容詞
・ “limbo” は形容詞でなく、名詞
・ “dead” は動詞でなく、形容詞
–
◆ 日英では言語ルーツが大きく異なる。
–
例えば、親戚であるドイツ語とは比較にならない。
日英では、語源的な関係が極めて薄く、関連性が乏しい。
私たち日本語ネイティブが、英語学習に手間取る一因である。
【参照】 言語ルーツが異なるから工夫が必要
学習上、母語を活かせる手がかりが少ない。
引っかかりがないので、習得するのに難儀する。
英語は「宇宙人」の言語とみなす方が、腹を据えて
学べるのでは、と感じたりもする。
法律上・行政上、外国人は ” alien ” と表現する。
学習者自ら「エイリアン」くらいに思う気概が
あってもよいかもしれない。
- “an illegal alien”(不法在留外国人)
【発音】 éiliən
【音節】 al-ien (2音節)
英語ネイティブが日本語を学ぶ上でも、
同様の困難に直面するのは言うまでもない。
–
【参考】 ※ 外部サイト
外国人 を「 エイリアン 」と呼ぶな、バイデン政権 が当局に指示
https://forbesjapan.com/articles/detail/39874
2021年2月17日付
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◆ それでは、”once and for all” について、
英和辞典と英英辞典の語釈比べをしてみたい。
まず英和。–代表格の「大辞典」3冊。
-
『新英和大辞典 第6版』
“once (and) for all“
一度だけ、今度限り、きっぱりと、これを最後に– -
『ランダムハウス英和大辞典 第2版』
“once and for all“
1. これを最後に(言うが)、今度限り
2. 最後の(once-and-for-all)
3. 最終的に、きっぱりと– -
『ジーニアス英和大辞典』
“once (米 and) for all“
この1回限りで(二度といわない)
(in a final manner)
(これを最後に)きっぱりと(止める)
(definitely) and のある方が強意的
※ 「この1回限り」は、「今度限り」同然
青字は、共通語3つ。
- これを最後に
- きっぱりと
- 今度限り
–
◆ 次に英英。 合計7点。
–
3大学習英英辞典(EFL辞典)に次いで、
英語ネイティブも使うオンライン辞書4点を挙げる。
–
学習者向けのEFLのみだと、公平さに欠ける
と考えた。
-
“LDOCE6″、ロングマン
“once and for all”
a. if you deal with something once and for all,
you deal with it completely and finally.–
–
b. British English spoken
used to emphasize your impatience when
you ask or say something that you have
asked or said many times before.
– -
“OALD9″、オックスフォード
“once and for all”
now and for the last time;
finally or completely
– -
“CALD4″、ケンブリッジ
“once and for all“
completely and finally
–
-
“Webster’s New World College Dictionary, 4th Ed.”、ウェブスター
“once (and) for all” in American
finally, decisively, conclusively
– -
“Macmillan Dictionary”、マクミラン
“once and for all”
completely and finally
– -
“Merriam-Webster”、メリアム ウェブスター
“once and for all”
1. with finality:definitely
2. for the last time
こちらも共通語3つが青字。
- finally
- completely
- conclusively
日英青字同士を比較してみる。
「これを最後に」「今度限り」「きっぱりと」
“finally“ ”conclusively“ ”completely“
十分に符合していることは、中級学習者であれば、
理解できるだろう。
–
◆ ここまではよいのだが、問題は具体的な文章
に組み込まれた際である。
先の3つの和訳は、実質的に「定訳」である。
–
とすれば、少なくとも1つは自然に合うはず。
しかし、実際はそうもいかないのである。
次の例文をご覧いただきたい。
–
「これを最後に」「今度限り」「きっぱりと」
がそのまま当てはまるものはあるだろうか。
- “This should solve everything once and for all.”
(これで、ついに万事解決だ。)
ー - “Once and for all, he must step down.”
(今度こそ、彼は辞任すべきだ。)
– - “I am telling you once and for all that
I won’t see you again.”
(あなたには二度と会わないとはっきり
言っておきます。)
– - “Let’s get it over with once and for all.”
(もうこれでけりをつけましょう。)
– - “We have to finish this, once and for
all, so we can move forward.”
(これをきっかり終えて、前進しましょう。)
– - “The actress proved once and for all
that she is the best.”
(彼女こそ最高の女優であることを、
自ら決定的に証明した。)
ほとんどの辞書に載っている訳であり、「定訳」に近い。
–
なのに、それを和訳時に用いると不自然な印象を与える。
決して珍しい現象ではない。
–
「使いづらい定訳」として弊サイトで詳説したものには、
などがある。
–
◆ こうなると、問われるのは 日本語力。
–
違った表現で、よりよい日本語を表す能力が
必要とされるのである。
大意はつかめているのに、
母語にすんなり置き換えられない。
–
これまた、よくあること。
–
英語を理解する能力と、和訳する能力が等しい
とは、全然限らない のである。
プロの翻訳者・通訳者が知悉している点である。
–
◆ こうして見てくると、次の考察に至る。
(1)「定訳」であっても、
そのまま翻訳に使えるとは限らない
–
(2)和訳を介さず、英語のまま理解する 利点
–
◆ 職業柄、外国生まれの日本人と関わる機会が多い。
–
日本語で正規の教育を受ける機会のほとんどなかった方は、
日本語の日常会話に(一見)不自由はなくても、
和文を書くことが苦手なケースが大半である。
–
例えば、日本語の聞き取りを「ローマ字」で書き取る。
–
日本語をペラペラ話しているように見えるのに、
自分の話している日本語を「ひらがな」「かたかな」
で書き起こせない。
–
漢字については言わずもがな。
–
和訳も難ありで、口頭で一通り和訳できても、
それを文面に落とすことができなかったりする。
和文を読み上げてあげると、立派な英訳に仕上げる。
にもかかわらず、その和文原文を、満足に読めない。
在外教育施設(日本人学校)の先生方と話すと、
似たような話で持ち切りになる。
–
素人目には奇怪に映るが、決して珍しくない事例。
“conclusive” にて、私の個人的経験をご紹介している。
◆ このような方々は、自ずと上記(2)を実行している。–
そうするしかないのが実情だろう。
「バイリンガル」と称するには及ばない有様。
一般的な日本語ネイティブに(2)は容易で
ないものの、英語表現によっては、この方法
を採用すると理解が早まる。
和訳しようとすると、混乱が深まるような表現の場合、
(2)のやり方を一度試していただきたい。
手始めには、先述の “vulnerable” と “perceive“。
加えて、“unsolicited“ と “threshold” をお勧めしたい。
ー
◆ 最後に、使用単語を確認する。
表題に使用されている全4語が、英単語として
最重要かつ最頻出。
LDOCE6(ロングマン)の指標によれば、4語すべて
英単語全体からみて、最高ランクの位置づけにある。
–
– 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
– 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
– 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- once (副詞) 一度
- and (接続詞) 及び
- for (前置詞) ~のために
- all (形容詞) すべての
上掲辞書の項目立てからも明らかだが、
接続詞 “and” 抜きの表記も可能。
つまり、
once and for all = once for all
直訳は「一度及びすべてのため」。
何だかすっきりしないが、ここは「定訳」が役立つ。
一度及びすべてのため → この一度がすべて →
これを最後に → 今度に限り → きっぱりと
こうした流れ。
初出は15世紀。語源については、次に詳しい。
https://ask.metafilter.com
内容に応じて、文頭・文中・文尾のいずれにも
置けるが、文尾が多めの感がある。