Perceive
2021/01/06
知覚する、 気づく、 感じる
英語では日常的に出てくるが、日本人学習者には
ハードルが高い動詞の典型。
目で見て、意味は茫と理解できる。
ところが、自ら使う機会はめったにない。
「見る」 「聞く」 「感じる」を表す、
「 知覚動詞 」 ( perception verb ) のひとつ。
主に「第5文型」(SVOC = 主語+動詞+目的語+補語)
で使われる際の呼び名が「 知覚動詞 」。
知覚・心理・感情を表すその他の動詞、例えば、
“see“、”notice“、“hear”、”like“、”know“、
“believe“、”hate“、”love“、”think“、”want”
に比べ、意味合いが分かりにくい。
【参照】 “aware”
使いこなせないがゆえに <机上の知識>で終わってしまっている。
もったいない。
–
◆ 3大学習英英辞典(EFL辞典)の語釈をご案内。
“perceive“
1. written: to understand or think of
something or someone in a particular way.
→ perception
2. formal: to notice, see, or recognize
something.
→ perceptive
↑ (LDOCE6、ロングマン)
formal
1. to notice or become aware of something.
(This pattern is usually used in the passive.)
2. to understand or think of somebody/something in a particular way.
(This pattern is usually used in the passive.)
↑ (OALD9、オックスフォード)
to think of something or someone
in a particular way.
↑ (CALD4、ケンブリッジ)
【発音】
・ perceive / pərsíːv / 動詞
・ perception / pərsépʃən / 名詞
・ perceptive / pərséptiv / 形容詞
【音節】
・ perceive per-ceive (2音節)
・ perception per-cep-tion (3音節)
・ perceptive per-cep-tive (3音節)
【活用形】
perceives – perceived – perceived – perceiving
–
◆ 語源は、ラテン語「把握する」(percipere)。
初出は14世紀。
他動詞 中心の動詞。
自動詞はまれで、その記載がない辞書も多い。
ー
<進行形>では使えない。
また、OALD9に “passive” と明記されているように、
通常は <受動態>(受け身)で用いる。
ー
CALD4に至っては、前述の通り、たった1行。
<参考和訳>
“perceive”
1. 書き言葉:特定の方法で何かまたは誰かを
理解したり、考えたりすること。
→ perception = 知覚 (可算名詞、不可算名詞)
2. 正式:気づく、見る、認識する。
→ perceptive = 知覚の鋭い (形容詞)
CALD4 では、LDOCE6 の 1. の語義だけ
取り上げている。
多義でなく、シンプル。
よって、難しくないはずなのだが、
私たち日本人には、取っつきにくい。
そもそも、定訳の「知覚する」が意味不明。
「知覚」
1 [仏] 知り覚ること。分別すること。
2 [心]( perception )感覚器官への刺激を通じて
もたらされた情報をもとに、対象の性質・形態・関係
などを把握するはたらき。
「感覚器官」
数理的・化学的刺激を受容するのに特別に分化
した構造をもち、その刺激を感覚信号として
中枢神経系に伝える器官。触覚器・視覚器・
聴覚器・嗅覚器・味覚器など。感覚器。
(広辞苑 第七版)
日本最大の国語辞典の名を誇る『日国』はこちら。–全文である。
『日本国語大辞典 第二版』第8巻、p. 1299、
小学館(2001年刊)より転載–
–
<ポイント>
■ 明治初期までの「知覚」は、
“feel“、”feeling“、”sense“、”
–
■ 西周などの起用後、” perception ” の定訳になった。
◆ 要は、五つの感覚器官(五官)で感じること。
<Perceive イメージ>

五官でとらえた感覚が「五感」
すなわち、視・聴・嗅・味・触。
「五感」とは、感覚の総称である。
- 五官 (five sensory organs または five sense organs)
- 五感 (five senses または the senses)
“the sense of ○” ときたら、「〇の感覚」「〇覚」。
“sensation” は、「感覚(作用・機能)」が定訳。
上記『日国』にあるように、もともと「知覚」。
「知覚動詞」のうち「五感動詞」の代表格が、
- look (視)
- sound (聴)
- smell (嗅)
- taste (味)
- feel (触)
五感以外の心の働きが「第六感」(six sense)。
五官を用いて、五感を味わう
それが「知覚する」であり、 “perceive“
普段は<無意識>に作用するため、
当たり前すぎて、言語化しにくい。
これが、”perceive” が理解しにくい一因。
–“perceive” は、五感を網羅する語。
しかし、日常使用では <五感を同時に表す>
のではなく、五感の一部のみ を示す。
その例は、上掲LDOCEの参考和訳の述べる、
「気づく、見る、認識する」。
ここで、”perceive” の類義語を見てみよう。
中級の英語力の持ち主であれば、見たことある動詞ばかり。
- recognize (思い出す・認める、他動詞)
→ 既知の知識・記憶と一致し、あっと思い出す
※ 自動詞はまれ
– - become aware of (気づいている、形容詞)
→ 状態「知っていて」「気づいていて」「承知していて」
【ご注意】 “aware” に動詞は存在しない ( aware で詳述)
- see (見る・見える、他動詞・自動詞)
→ すっと目に入るものに視線を向ける
– - look (見る、自動詞・他動詞)
→ 見る意思をもって、真剣に直視する
–
- watch (じっと見る、他動詞・自動詞)
→ 動くものや動きが予測される対象をじっと見る
– - realize (悟る、他動詞・自動詞)
→ 物事の本質までじっくり理解し、はっきり自覚
– - understand (理解する、他動詞・自動詞)
→ 「含み」までも十分に知るほど深く認識
– - find (見つける、他動詞・自動詞)
→ 偶然見つける、または、努力して探し出す
※ 自動詞は法律用語中心
– - comprehend (理解する、他動詞)
→ 知的に十分に把握する。
– - sense (感づく、他動詞)
→ 五感で感じ取る。 前出『日国』参照。
– - spot (見つける、他動詞・自動詞)
→ 探し出して、突き止める
– - observe (観察する、他動詞・自動詞)
→ 注視する、または、はっと目に留まる
– - notice (気づく、他動詞・自動詞)
→ 変化などをさっと感知
【参照】 ※ 外部サイト
どれも 五感の一部 である。
健康な人なら、難なく行っている動作だらけ。
そうであれば、五感や五官を意識する機会は、
なかなか訪れないだろう。
「知覚」は、日本語ではかなり堅めであり、
普段使いとは言いがたい。
“perceive” も堅いが、「知覚する」に比べれば、
もっと日常生活に馴染んでいる印象がある。
他動詞 “perceive” 名詞 “perception”
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:<2001~3000語以内>
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
さらに、2語とも
<Academic Word List>(※)
入りしている。
※ 英語圏の大学教科書の頻出単語570語
(以上、ロングマン LDOCE6 より)
–
【発音】
・ perceive / pərsíːv / 動詞
・ perception / pərsépʃən / 名詞
【音節】
・ perceive per-ceive (2音節)
・ perception per-cep-tion (3音節)
一般的な小学生は使わないものの、
大学生や社会人なら普通に使うレベル。
それが、”perceive” と “perception“。
以上で、ざっくりイメージすることはできるだろうか。
◆ 問題は和訳。
定訳の「知覚する」がしっくりこない場面が多い のだ。
「知覚」そのものが親しみの薄い言葉なので、
どうしても違和感が生じて、わけ分からなくなる。
日本人学習者にとって、”perceive” が縁遠くなった原因は
ここにもある。
解決策は<意訳>。 –以下、オレンジ字が該当部。
- “I perceived something was not right.”
(何かがおかしいと 感じた。)
– - “Dogs are not able to perceive certain colors.”
(犬は特定の色を 見る ことができない。)
– - “She perceived that there was no way
but to take her own life.”
(自殺するほかないと彼女は 思い詰めた。)
– - “Teachers perceive their roles in different ways.”
(先生方は自分の役目を違うふうに 考える。)
– - “I perceived a change in her looks.”
(彼女の顔つきが変わったことに 気づいた。)
– - “He wants to change the public’s perception of him.”
(彼は自分に対する人々の 受け止め方 を変えたい。)
– - “Smartphones are often perceived as something bad.”
(スマホはしばしば悪者 扱いされる。)
– - “It is commonly perceived that Japan is a safe country.”
(日本は安全な国だと一般的には 受け取られている。)
– - “She did not perceive herself as stupid.”
(バカである 自覚 が彼女にはなかった。)–
– - “The human ear is capable of perceiving
thousands of different sounds.”
(人間の耳は何千もの音声を 聞き取る ことができる。)
– - “My mother perceived that someone was inside.”
(誰かが中にいることに、母は 感づいた。)
– - “It wasn’t perceived as a problem back then.”
(当時はそれが 問題視されて いなかった。)
– - “My daughter was the only one who perceived the danger.”
(その危険を 察知した のは、娘だけだった。)
– - “These boys are perceived as bullies.”
(あの少年たちはいじめっ子と 思われている。)
– - “His words were perceived as a threat by students.”
(彼の言葉は、脅迫として学生たちに 受け取られた。)
– - “He perceived that his son was not doing well.”
(彼は息子の状態がよくないことに 気づいた。)
– - “I had perceived a certain sadness in her voice.”
(ある種の悲しみを彼女の声に 感じ取った。)
– - “Japan is widely perceived as one of the safest
countries in the world.”
(日本は世界で最も安全な国の一つとして、
広く 知られている。)
– - “Most movies are not perceived
as documenting realities.”
(大半の映画は現実を記録しているとは
考えられて いない。)
– - “Bicycle will be removed if perceived to be abandoned.”
(放置したものと みなされた 自転車は撤去します。)
※ お知らせ
–
- “Is it your perception or reality ? ” ※ 名詞
(それはあなたの 感覚、それとも現実 ?)
こんな具合。
これら(オレンジ字)の中で、「知覚する」または
「知覚」がぴったりな文章はあるだろうか。
無理やり置き換えると、和文が不自然になるのが目に見える。
「認識する」や「認識」も、似たようなもの。
受け手に、すんなり分かってもらうためには、
こういう風に解釈を加えて、<意訳>してみる。
◆ 繰り返すが、「知覚」の定義(上掲辞書)にもかかわらず、
日常使用の “perceive” は、
五感の一部のみ
を表す場合が大半。
<どの感覚を指すか> きちんと見極め、
工夫して和訳する姿勢が大切。
“perceive” は、五感すべてをカバー
こうして、英語のまま理解し、
和訳なしで済ますのも、英語学習の一手
ではある。ー
◆ 「使いづらい定訳」として弊サイトで詳説したものには、
などがある。
【参照】
◆ 最後に、世界最大の英語辞典 “OED” のご紹介。
先の日本最大『日国』と併せて、ぜひご覧いただければと思う。
“perceive”、”perception”、”perceptive” を順繰りに全文掲載。
◇ 動詞 “perceive” / pərsíːv / per-ceive (2音節)
“Perceive.” The Oxford English Dictionary. 2nd ed. 1989.
◇ 名詞 “perception“ / pərsépʃən / per-cep-tion (3音節)
“Perception.” The Oxford English Dictionary. 2nd ed. 1989.
◇ 形容詞 “perceptive” / pərséptiv / per-cep-tive (3音節)
“Perceptive.” The Oxford English Dictionary. 2nd ed. 1989.
–
◆ “OED“ (オーイーディー)の略称で名高いのが、こちらに掲げた
“The Oxford English Dictionary” (オックスフォード英語辞典)。
–[公式サイト] → http://www.oed.com/
1884年にイギリスで刊行が始まり、最新版の第2版は1989年刊。
全20巻、2万1730頁、29万1500の見出し語、
語義の配列は、頻出順ではなく、発生順の「歴史主義」。
成り立ちを、系統的にたどれる利点がある。
–[両方入手済み] → 辞書の「自炊」と辞書アプリ
“OED” 編集主幹の James Murray 博士 (1837-1915)
については、”in place” で触れている(写真入り)。–
◆ ちなみに、通訳中は、五官と五感をフル活用する感じ。
「味覚」は使わずじまいだが、その他は工場などの現場で使う。
おかげ様で、当面は、機械翻訳の猛追をどうにか振り切れる公算。
日経エレクトロニクス 2019年9月号
「AI翻訳が人間超え、言葉の壁崩壊へ」トランスフォーマー時代到来、翻訳技術から汎用言語系AIに
第2部:技術動向※ AI = 人工知能 (artificial intelligence)
※ NICT = 国立研究開発法人情報通信研究機構
上表は、通訳者が話者の話を、ほぼ同時に訳す「同時通訳」。
現場で主流の「逐次通訳」にも、概ね共通する内容と考える。
逐次(ちくじ)通訳とは、話者と通訳者が交互に話す手法で、
専用機器やブースが不要ゆえ、手軽に複数人に向けて通訳可能。
会場が広ければ、汎用のマイクとスピーカーを使うこともある。
話者の表情・口調のみならず、聞き手側の反応をも看取しつつ、
その場の状況判断を経て、的確に訳していく。
もしも、話が分からないような不満げな顔つきが目立つ場合、
より簡単で身近な言い回しを多く取り入れる方針に即刻変更。
双方の様子を瞬時に感知するべく、「視覚」と「聴覚」を
主軸として、全体の空気と気配を肌でとらえる必要がある。
全身の器官が総力を結集して働くので、”perceive” に重なる。
正直なところ、おいそれと機械が応じられる業務とは思えない。
AIには、大勢の表情は察知できないし、空気と気配も読めない。
たぶん。
とにかく、AIに負けぬよう、今後とも私は精進してまいります。
【 書籍紹介 】 2020年10月発売
『 知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』
神田 房枝 Ph.D. (著)
ダイヤモンド社、 2020年10月刊
A5変並、 264頁
先行きが見通せない時代には、思考は本来の力を発揮できなくなります。
そこでものを言うのは、思考の前提となる認知、すなわち、
知覚 ( perception) です。知覚とは、眼の前の情報を受け入れ、独自の解釈を加えるプロセス。
あらゆる知的生産の〝最上流〟には、知覚があります。(中略)
いま、真っ先に磨くべきは、「 思考〝以前〟の力=知覚力」なのです。
… 前置きより引用
※ ハイライトは引用者
–
◇ 著者の 神田 房枝 博士 は、マーケッター・コンサルタント
としても有名な作家、神田 昌典 氏の実妹である。