相違、 格差
世界的に「 格差 」が注目されている。
21世紀に入り、インターネットとSNSの普及に伴い、
当事者自らが発信できるようになった効果が大きい。
そのため、従来型のメディア( legacy media )報道を
待つまでもなく、世間一般が実態を知るところとなり、
より身近な話題になったのが「 格差 」。
日本で「 ブラック企業 」「 パワハラ 」「 セクハラ 」「 虐待 」が
表沙汰になる 際も、 個人レベルの情報発信が契機となる昨今。
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1960年代末頃から「 一億総中流 」との国民意識を保ってきた
我が国では、2006年の国会で「 格差社会 」が議論されている。
当時から、 構造改革と規制緩和が槍玉に挙げられていた。
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あれから10年以上経過した。
今や「 格差 」を見聞きしない日はないほど。
時代のキーワードよろしく、手近な日常語に格上げされている。
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◆ 今月2019年8月発表の 国内ニュースの「 格差 」例。
- 賃金格差
- 所得格差
- 報酬格差
- 情報格差
- 通信格差
- 放送格差
- 教育格差
- 学力格差
- 雇用格差
- 労働格差
- 地域格差
- 医療格差
- 福祉格差
- 消費格差
- 経済格差
- 貧富の格差
- 世代間格差
この中に、今回初めて出会う言葉は含まれるだろうか。–
現在も、メディアが頻繁に取り上げる語であるとすれば、
「 格差社会の到来 」を裏付けていると考えることもできる。
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◆ 「 格差 」は、名詞では ” gap ” と ” disparity ” が多用される。
【発音】 gǽp
【音節】 gap (1音節)
【発音】 dispǽrəti
【音節】 dis-par-i-ty (4音節)
前者は過去に記載したので、 本稿では ” disparity ” をご案内。
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【参照】 ” Bridge the gap ” ( 橋渡しをする )
英語圏でも問題視されている「 格差 」。
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特に米国では、もともと貧富の差が激しいのに、ますます拡大中。
近年頻発する乱射事件の一因に、 格差社会のひずみが指摘されている。
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◆ 不満をもたらす格差が、難問 を突き付け、 課題が浮き彫りになる。
話題に事欠かないおかげで、新鮮な英文素材が日々提供されて
いる点は強調したい。
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” disparity ” で ニュース検索 すると、わんさと出てくる。
それでも、英単語全体から見れば、” disparity ” の頻出度は高くない。
- 重要度:<6001~9000語以内>
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
( ロングマン “ LDOCE6 ” 指標より )
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◆ ” disparity ” の字面からは、意味を推測しにくい。
多義でないので、語源を学べば、きっと頭に残りやすい。
- 接頭辞 ” dis ” ( 無、不、非 )
- 名詞 ” parity ” ( 同等、等価 )
【参照】 語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る
” disparity ” の主な意味は、冒頭の通り「 相違 」「 格差 」の2つ。
似通った意味合いなので、厳密に区別せず使う場面が少なくない。
しかし、 ” disparity ” の成り立ちを調べると違いが見られる。
(1) 種類の異なるものの間の違い 「 相違 」
< 異種 > 間の違い 「 相違 」
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難しいことを考えるまでもなく、本質的に違う ” disparity “。
価値判断抜きで、 客観的に同じでないと分かる様子を指す。
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そうい【相違】
たがいに違っていること。一致しないこと。ちがい。
( 広辞苑 第七版 )
二つの物・事の間に ちがい があること。
( 大辞林 第四版 )
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初出は、1550年代。
語源は、中期フランス語「 不同 」「 不均衡 」( disparité )。
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” unequal “( 不同 、等しくない )と説明する語源辞典が多い。
- 接頭辞 ” un ” ( 不、無 )
- 形容詞 ” equal ” ( 同一の、~ と同じ、~ と等しい )
【発音】 ʌníːkwəl
【音節】 un-e-qual (3音節)
◆ 続いて、1590年代に生じた語義が、
–
(2) 同類のものの間の格付け上の差 「 格差 」
< 同類 > 間の水準の差 「 格差 」
–
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” inequality “( 不平等 )ということ。
- 接頭辞 ” in “( 不、非、無、欠 )
- 名詞 ” equality “( 平等、対等 )
先述(1)の ” unequal ” は、 単純に「 同じでない 」。
片や、 ” inequality ” は「 同等ではない 」。
【発音】 ìnikwɔ́ləti
【音節】 in-e-qual-i-ty (5音節)
つまり、「 等級 」「 程度 」「 水準 」が同じではないこと。
–
一見して分かる外観的・表面的な違いにとどまらず、
格付けするための判断を要する。
ここから、「 不平等 」「不公平」に転じた。
こちらの反対を意味する。
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びょうどう【平等】
差別することなく、同じように扱うこと。
( 明鏡国語辞典 第三版 )
かたよりや差別がなく、すべてのものが一様で
等しいこと。
( 広辞苑 第七版 )
–
こうへい【公平】
判断や行動が公正でかたよっていないこと。
特定の人のえこひいきをしないこと。
また、そのさま。 くびょう。
( 精選版 日本国語大辞典 )
ひいきをしないで、 すべてを平等にあつかうようす。
( 三省堂国語辞典 第八版 )
–
さらに、「 格差 」につながる。
–
かくさ【格差】
同類のものの間の、価値・資格・等級・水準などのひらき。
( 三省堂国語辞典 第八版 )
同類のものの間における、価値・資格・等級・水準などの
格付け上の差。
( 大辞林 第四版 )
–
◆ 格差の代表格が 「 男女格差 」。
よく起用される表現は、
- a gender gap
- a disparity between men and women
複数形は、
- gender gaps ※ 頻出
- disparities between men and women
” gender “( dʒéndər ) は、社会的・文化的役割の性を表すため、
専門用語としては同義ではないものの、 日常的には併用されている。
-
見栄えのする 「 頭韻 」( head rhyme、alliteration ) の
” Gender Gap ” で記事見出し ( headline ) を飾る。
すなわち、 語頭で韻を踏む ( 押韻 )。
本文中は ” disparity ” で言い換える英文記事はざらに見かける。
頭韻は、 下記で取り上げた。
Wonder Wonders、 First and Foremost、 Works Wonder、
Crystal Clear、 Blond Bombshell
「 同一労働・同一賃金 」 ” equal pay for equal work ”
–
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◆ 宇宙人と人間は、 明らかに < 異種 >。
上記の国語辞典の語釈によれば、 「 格差 」は該当しない。
–
「 同類のもの 」 でないから、 宇宙人と人間の間の
「 格差 」 は想定しがたい。
男女の場合は、 人間同士なので < 同類 >。
その反面、性別という「 ちがい 」がある。
これまた、価値判断抜きで分かる「 相違 」。
< 同類 >であると同時に、< 異質 > な側面も有する。
したがって、男女間では「 相違 」も「 格差 」も適用できる。
–
◆ 折も折、 先月2019年7月に「 FIFA女子ワールドカップ 」で、
米国が歴代最多4回目の優勝を果たした。
その女子サッカー米国代表選手が、 報酬格差の是正を求めて、
訴訟を起こしている。
米代表にもかかわらず、 常に兼業でプレーせざる得ない現状。
男子のW杯選手なら、 ありえないだろう。
久しく指摘されてきた待遇差別が、 2019年に一気に浮上した印象。
スポーツにおける男女間の賃金格差は、 米国では深刻な社会問題。
- “Women’s soccer World Cup win puts gender pay gap on broader stage“
2019年7月8日付
– - “US Women’s Soccer Team Files Lawsuit Over Gender Pay Gap”
2019年7月25日付
–
- “US Soccer Challenges Claim of Pay Disparity”
2019年7月30日付
–
- “US Soccer enlists lobbying firms to fight pay disparity claims”
2019年8月7日付
–
- サッカー界の男女格差是正を、W杯優勝の米女子代表チームが挑む次の戦い
2019年7月8日付
–
- 米サッカー女子、W杯優勝でも男子より薄給の不正義
2019年7月14日付–
【参考】 ※ 外部サイト
-
米女子バスケ選手がロシアで拘束された複雑な背景– プロスポーツの男女格差の側面も ( 冷泉彰彦 )
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27214?page=22022年7月8日付
◇ 「 見出し 」 英語の解説は、 ここが秀逸 ↓
英語ニュースの読み方( 見出し編 )RNN時事英語
◆ 不用意な差別発言をしたばかりに、 足をすくわれる人は昔から絶えない。
それは、数々の失脚の歴史が証明している。
キャリアに傷をつけた、 政治家・高官・組織幹部・芸能人・スポーツ選手
は枚挙に暇がない。
辞任・引退を迫られるケースもあり、 これまでの努力があたら台無しに。
人種差別 ・ 男女差別 と併せて、 性の多様性を尊重する 「 LGBTQI+ 」
にも常日頃から配慮したい。
社会的に許容されなくなってきている ( socially unacceptable )。
–
◆ 英語では「 相違 」も「 格差 」も ” disparity ” で表現できる。
そもそも「 相違 」と「 格差 」に大差ない点は、既に述べた。
図を添えて長々と論じたのは、英語学習上の便宜のため。
–
成り立ちに基づく語意の微差を押さえておけば、もっと理解
しやすく、かつ和訳時に予め注意できるようになると考える。
次の 3大学習英英辞典( EFL辞典 )から、このような区別は
読み取りずらいかも。
–
” disparity ”
- [countable, uncountable]
formal
a difference between two or more things,
especially an unfair one.
( LDOCE6、ロングマン )
– - [uncountable, countable](pl. disparities)
formal
a difference, especially one connected with unfair
treatment.
( OALD9、オックスフォード )
– - [C or U]
Formal
a lack of equality or similarity, especially in a way
that is not fair.
( CALD4、ケンブリッジ )
【発音】 dispǽrəti
【音節】 dis-par-i-ty (4音節)
–
キーワードにハイライトを施した。
先ほどの和訳と合わせると、こんな感じ。
–
” disparity ”
(1) 種類の異なるものの間の違い「 相違 」
- difference
- lack of similarity
(2) 同類のものの間の格付け上の差「 格差 」
- lack of equality
- not fair / unfair
–
いかがだろう。
母語の「 相違 」「 格差 」 と一緒だと、すんなり把握できるのでは。
–
◆ 何度も繰り返すように、 普段遣いの(1)と(2) は大同小異。
3大EFL辞典の語釈が、 いずれも二分されていないことからも察知できる。
< 異種 > < 同類 > にも、 触れられていない。
赤枠内が理解できれば、 ” disparity ” の基本はOK。
先に「 多義でない 」 と述べた通りである。
–
◆ 留意すべきは、 可算名詞と不可算名詞を兼ねること。
この点、3大EFL辞典全部が明記している。
ほぼ同趣旨の報道内容であっても、メディアによって、
単数形と複数形に分かれていたりする。
今年2019年発表のニュース見出しから3つ挙げる。
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【 単数 】
“Lawsuits filed to nullify election outcome over vote disparity”
(1票の格差により、選挙無効を求め提訴)
【 複数 】
“Lawyers seek to nullify election over vote-value disparities”
(1票の価値の格差により、選挙無効を求め弁護士らが提訴)
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【 単数 】
“Racial Disparity in Traffic Stops has Gotten Worse”
(交通検問の人種格差が悪化)
【 複数 】
“The truth behind racial disparities in police shootings”
(警官発砲事件における人種格差の真相)
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【 単数 】
“Racial Disparity in Care Starts in NICU”
(新生児集中治療室から始まる治療の人種格差)
【 複数 】
“Racial disparities exist in use of palliative care”
(緩和ケアの利用にも人種格差あり)
——————————————————————–
–
◆ 英単語全体における “disparity” の位置づけが、
目立たない程度であることは既述した。
再掲すると、
- 重要度:<6001~9000語以内>
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
( ロングマン “ LDOCE6 ” 指標より )
その割に、 ” disparity ” のコロケーション( 連語 )
に紙面を割く辞書も見られる。
代表格の辞書2点をご紹介。
–
–
どちらも詳細に記されている。
” LDOCE6 ” ではノーマークに近かったのに、
分不相応で破格の待遇ではないか。
なぜか。
これは < 実務上の需要 > があることを示唆する。
実務分野では欠かせない単語というのが存在する。
–
◆ 仕上げとして、上掲の国内ニュース「 格差 」を
単数形 ” disparity ” を用いて英訳してみる。
–
- 賃金格差 wage disparity
- 所得格差 income disparity
- 報酬格差 pay disparity
- 情報格差 information disparity
- 通信格差 telecommunications disparity
- 放送格差 broadcast disparity
- 教育格差 education disparity
- 学力格差 academic achievement disparity
- 雇用格差 employment disparity
- 労働格差 labor disparity
- 地域格差 regional disparity
- 医療格差 healthcare disparity
- 福祉格差 welfare disparity
- 消費格差 consumption disparity
- 経済格差 economic disparity
- 貧富の格差 wealth disparity
- 世代間格差 generational disparity
各英訳は、あくまでも一例。
言い様はいくつかあったりする。
本稿の表題が ” disparity ” だから、 あえて優先したまで。
現に「 通信格差 」や「 消費格差 」のように、 ” gap ” の方が
一般的なものもあるが、 ” disparity ” でも間違いではない。
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弊サイトでは、 裏打ちのリサーチは、 必ず行っている。
少なくとも、 大手メディアによる使用は確認済みである。–
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【参考】 ※ 外部サイト
- AI翻訳が ” Human Parity “( 人間並み )に達し、言葉の壁崩壊へ—
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/ne/18/00046/00001/
2019年8月19日付––
– - “Disparities push coronavirus death rates higher”
(格差がコロナウイルスの死亡率を押し上げる)
https://www.bostonglobe.com/2020/05/09/nation/disparities-push-coronavirus-death-rates-higher/
2020年5月9日付
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【参考】 ※ 外部サイト
- 社会経済的背景の指標 「 恵まれた家庭 」 ほど好成績 PISA
https://mainichi.jp/articles/20231205/k00/00m/100/138000c
2023年12月5日付
– - 格差社会における教育格差、貧富の差の正当性と不当性。
https://note.com/yuya_h/n/n0b21251ad02a
2024年6月8日付
– - 教育格差の真実。親の所得と知能・学力・学歴の相関について
https://note.com/yuya_h/n/n8ebe5adcc287
2024年6月9日付
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【参考】
アメリカ合衆国憲法 修正第2条 ( 武器保有権 )
Right to Bear Arms
Constitution of the United States Second Amendment
A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State,
the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.Ratified December 15, 1791.
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< 参考和訳 >
武器保有権
アメリカ合衆国憲法 修正第2条
規律ある民兵団は、 自由な国家の安全にとって必要であるため、
国民が武器を保有し携行する権利を侵してはならない。
1791年12月15日成立
https://constitution.congress.gov/constitution/amendment-2/
https://constitutioncenter.org/interactive-constitution/amendment/amendment-ii
https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2569/
趣旨は 「 自由を守る 」 ことであり、 「 国民の権利 」。
自由を脅かすあらゆる敵から、 自らを守るため国民が武器を保有する権利。
大まかに知るだけでも、 いかに繊細で難しい問題か察することができよう。
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