末期症状の
病状が終わりに近い様子が「 末期(まっき)症状 」
または「 末期的症状 」。
無論、病気が治る意味での終わりではない。
すっかり悪くなって、救いがたい状態。
すなわち「 末期(まつご)」に近い。
こちらが一般的な解釈。
まっき【末期】
〘名〙
末の時期。終わりの時期。
まっきてき【末期的】
〘形動〙
終わりの時期にあるさま。
また、もはや救いがたいさま。
まつご【末期】
〘名〙
(「ご」は「期」の呉音)
命の終わる時期。人の死にぎわ。臨終。最期。
(精選版 日本国語大辞典)
–
◇ 「 呉音(ごおん)」
日本漢字音のひとつ。中国南方系の音に基づくとされる。
【例】 男女 = なんにょ、 行 = ぎゃう
–
今際の際( いまわのきわ )には、「 まっき 」と
「 まつご 」の両方該当するケースもあるだろう。
縁起でもない言葉だが、人間誰しも末期( まつご )を迎える。
だから、” terminally ill ” の話題に事欠かない。
具体的には、事故などの被害者の状態や病床に伏す著名人
の現況を報道する際に使われる。
類似表現は次の通り。
–
-
critically ill
= so ill that you might die -
gravely ill
= extremely ill -
seriously ill
= very ill
( LDOCE6、ロングマン )
–
病状の重い順に付番した( 1 → 3 )。
いずれも日常的に見聞きする。
副詞+形容詞 ” ill “( 病気の ) のパターン。
英和辞典を引くと、一律「 重病の 」の意味合い。
特に、” critically ill ” と ” gravely ill ” は、両者とも
「 危篤の 」「 瀕死の 」で、死にかけているレベル。
1~3は、病状の深刻さに視点を置くのに対し、
表題 “terminally ill” は病気の段階に着目する。
” incurably ill “ は「不治の病にかかっている」。
名詞形は、” an incurable ill” または ” an incurable disease “。
※ ” ill ” と ” disease ” の相違点は後述
したがって、” incurably and terminally ill “
は、「 不治で末期症状の 」。
深刻さと段階を同時に示している。
すべて重篤に違いない。
一般ニュースでは、ほぼ同様に使われている感がある。
医療関係者 向けの情報でなく、関係者以外の一般人
にとって、そこまで厳密な区別は不要。
よって、病気が著しく重いとの趣旨がつかめれば、
報道として十分。
そもそも部外者が、詳しく知る必要はない。
情報の性質上、本質的に
” don’t need to know “( 知る必要のないこと、DNK )
だと考える。
ー
◆ それでも報道される。
今月2018年8月に亡くなった大物女性歌手の場合、
- 〇〇 gravely ill
( 〇〇が危篤 )
※ 英日の速報見出し
– - 〇〇 is ‘gravely ill’ as devastated family
gather to ‘say goodbye’.
( 危篤の〇〇に別れを告げるため、悲嘆の家族集合 )
–
このようなニュースが、亡くなる数日前から連日届いた。
米国発の速報だが、日本も負けじと追随した印象がある。
各報道機関から、相次ぎ「 〇〇危篤 」との速報が入っている。
あたかも選挙合戦。
お祭り騒ぎのようで、違和感を覚えたものだ。
- ご本人は今、命がけで闘っている。
- 配慮なさすぎ。 失礼だよ。
- プライバシーの最たる情報のはず。
- そっとしてあげなよ。
などと考えもするが、上記表現はどれも日頃から珍しくない。
” terminally ill “
■ having a very serious illness that you
will die from.
(LDOCE6、ロングマン)
■ having a disease that cannot be cured
and will cause death.
(Merriam-Webster、メリアムウェブスター)
※ 下線は引用者
–
” will die ” と ” will cause death ” と下線部にあるように、
命取りの病( illness、 disease )にかかっている。
この ” will ” は、推定の助動詞「 ~ だろう 」。
現在について、” may ” よりも確信のある推定を表す。
「 死ぬだろう 」と断定するに近い。
それゆえ「 危篤 」「 瀕死 」に行き着く。
–
きとく【危篤】
病気が重く、今にも死にそうなこと。
ひんし【瀕死】
死にそうなこと。死にかかること。
( 大辞林 第三版 )
–
” illness ” と ” disease ” は「 病気 」。
ともに、可算名詞と不可算名詞を兼ねる。
–
◆ 「 病気 」と言えば、” sick ” を思う日本人学習者が多いが、
” sick ” の 基本は形容詞 であり、名詞ではない。
誤解している日本人が大勢いる模様のため、 ここでおさらい。
–
以下、” call in sick “( 病気で休むと電話する ) より再掲。
“ sick ” の 「 名詞 」用法はまれ
しかも、「 病気 」そのものを意味しない。
“ sick ” には、形容詞・名詞・他動詞・自動詞がある。
語源は、古英語「 病気の 」(sēoc)で、形容詞。
基本的意味は、
– 形容詞 「 病気の 」「 病気になった 」「 気分が悪い 」
– 名詞 「 病人 」「 吐くこと 」 ※ まれ
– 他動詞 「 吐く 」 ※ まれ
– 自動詞 「 吐く 」 ※ まれ
このうち、圧倒的に使われるのは 形容詞。
形容詞以外はマイナー用法。
◇ 名詞 「病気」
- ailment
(慢性的で重度ではないもの)
可算名詞
– - disease
(~病、伝染病などの重度なもの)
可算・不可算
– - disorder
(疾患、不調)
可算・不可算
– - illness
(特定の病気、軽い風邪は含まない)
可算・不可算
– - sickness
(病名のはっきりしないもの)
可算・不可算
– - syndrome
(一連の徴候のある「症候群」)
可算
最頻出は ” disease “(LDOCE6の表記による)。
日常的には、” disease ” と ” illness ” で間に合う。
–
“sick” と “ill” の原則は形容詞 で、病気である状態。
状態だから形容詞。
【参照】
・ “aware” は動詞でなく、形容詞
・ “vocal” は動詞でなく、形容詞
・ “dead” は動詞でなく、形容詞
・ “limbo” は形容詞でなく、名詞
・ “necessary” は動詞でなく、形容詞
“sickness” と “illness” が、それぞれの 名詞形 に該当する。
もっとも、”ill” の方は可算名詞「病気」も指すが、”illness”
の方が多用される。
ill のほうが sick より形式張った語である。
《米》では両語は事実上区別なく使われているが、
《英》ではsick の代わりに ill を使うことはできず、
sick は常に「吐き気」の意を含んでいる。
–
He is ill.
《英》《米》彼は病気だ
He is sick.
《英》彼は吐き気をもよおしている
《米》彼は吐き気をもよおしている [彼は病気だ]
ただし限定用法・集合名詞的用法に用いる場合には
《英》《米》共に常に「病気の」の意で sick を用いる。
a sick person
病人
a home for the sick
病人の療養所(◆ ill も副詞を伴えば限定的に用いられる:
a seriously ill man 重病人)
以上、『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』より
◇ 吐き気 ( nausea )
【発音】 nɔ́ːziə
【音節】 nau-se-a (3音節)
–
◆ 繰り返すが、” ill ” も ” sick ” も、原則は
病気の 「 状態 」なので形容詞
2語の違いは、上掲『 ランダムハウス 』の通り。
” ill ” には、形容詞・名詞・副詞がある。
【発音】 íl (1音節)
語源は、古ノルド語「 悪い 」(illr)で、形容詞。
基本的意味は、
– 形容詞 「 病気の 」「 気分が悪い 」「 好ましくない 」
– 名詞 「 悪口 」「 悪 」「 病気 」
– 副詞 「 悪く 」「 不満足に 」
” sick ” 同様、 形容詞中心に使われている。
” terminally ill ” でも、 形容詞。
–
◆ ” terminally ” は、 ” terminal ” の副詞形。
- terminally
【発音】 ˈtɝː.mə.nəl.i
【音節】 ter-mi-nal-ly (4音節)
– - terminal
【発音】 ˈtɝː.mə.nəl
【音節】 ter-mi-nal (3音節)
” terminal ” の語源は、ラテン語「 終点 」「 末端 」(terminālis)。
鉄道・バス・航空の「 終点 」を表す「 ターミナル 」は、
語源そのままということになる。
路線が集中する所も「 ターミナル 」。
それは多数の終点と起点、つまり「 末端 」が数多く集まった
結果としての名称。
副詞 ” terminally ” も「 終点 」を引き継ぎ、「 終点の 」。
転じて「 末期(的)の 」。
形容詞 ” ill “( 病気の )を加えて、「 末期の病気の 」が直訳に。
「 終末(期)医療 」を「 ターミナルケア 」と表す機会が、
日本のメディアでも増えてきている。
–
ターミナルケア 【terminal care】
治癒の可能性のない末期患者に対する身体的・心理的・社会的・
宗教的側面を包括した医療や介護。延命のための治療よりも、
身体的苦痛や死への恐怖をやわらげ、残された人生を充実させる
ことを重視する。
–
(大辞林 第三版)
そのために設けられた施設の代表格が「ホスピス」。
ホスピス【hospice】
( もと宗教団体などの宿泊所の意 )
癌などの末期患者の身体的苦痛を軽減し、残された時間を
充実して生きるとともに心静かに死に臨むことができるよう
幅広い介護につとめるための施設。また、そのような活動。
患者の家族もその対象に含まれる。
–
(広辞苑 第七版)
–
◆ 以上より、” terminally ill ” の大枠はイメージできるだろう。
死に直面する状態に 報道価値 を認めるかどうかは、
おそらく人それぞれ。
スマホのアラートを何気に確認したら「 ●●危篤 」。
どきんとするインパクトがあるのは確か。
ー
◆ 同じく2018年8月、ある米上院議員のご逝去後、
私の Gmail はこんな感じに埋まった。
※ モザイクは故人名
–
–
速報( breaking news、news alert )の受信時刻をチェック( 右端 )。
わずか30分余りで、8本届いた。
次いで、2018年9月。 国際的に有名な映画スターの死。
–
–
–
これらの迫力に、 ぎょっとしないわけにいかない。
–
■ 上記のGmail の全ラベルは、自動貼付された。
事前にフィルタを設定しておいたおかげ。
例えば、黒地に白字の ” Obituary “( 訃報 )ラベル。
口語では、” Obit ” と略すこともある。
–
–Obituary–
フィルタ設定 はこういう風。
・ subject : dead
・ subject : died
・ subject : dies
・ subject : obituary
・ subject : obituaries
・ subject : 訃報
・ subject : 死去
・ subject : 死亡
・ subject : 逝去
・ subject : 逝く
・ subject : 死す
・ subject : 追悼
・ subject : おくやみ
–
これで、 英日のほとんどの訃報に対応できる。
【参照】 「 Gmail 」で作る単語帳—
–
◇ 上掲の英文速報・メルマガは、日本からも無料で登録可能。
–
→ 別稿 「 自分の世界 」 が広がる英語 で、 登録方法・登録先を明記した。
–
◆ 今月2018年8月発表のニュース見出しから、以下を抽出した。
見出しだけでも身につまされるが、いかがだろうか。
- “Terminally ill patient granted her wish to get married”
(末期患者が叶えた結婚の夢)
– - “X is reportedly terminally ill”
(Xは不治の病との報道)
– - “Terminally ill dog finds home”
(新しい家族に受け入られた不治の病の犬)
– - “Terminally Ill Man Awarded Millions in Lawsuit”
(末期患者の男性に数百万ドルの賠償)
– - “Terminally ill children euthanized” ※ 後述
(末期患者の子どもたちを安楽死)
– - “Stop Blaming Terminally Ill for Our Health-Care
Spending Problems”
( 医療費問題を末期患者のせいにするな )
–
→ この ” terminally ill ” は、
集合的に「 末期患者 」 を指す 形容詞。–
英文法上は ” the ” がつくのが原則だが、
見出しゆえに省略されている。
–
◇ 「 見出し 」 英語の解説は、 ここが秀逸 ↓
英語ニュースの読み方( 見出し編 )RNN時事英語
◆ 死の自己決定権、 日本人でも200万円で 「 安楽死 」 できる
【発音】 jùːθənéiʒə
【音節】 eu-tha-na-sia (4音節)
- https://seiwanishida.com/archives/9858
2019年7月11日付
– - https://president.jp/articles/-/24274
2018年1年29日付
– 「 安楽死 」 を考える スイスで最期を迎えた日本人
https://www.youtube.com/watch?v=fgX4v0OruO8
2024年3月17日付 ※ 動画全長 17分10秒
↑ 2024年、 YouTube のコミュニティ ガイドライン違反で削除された
–
–
◇ カナダ ブリティッシュコロンビア州
- ” Request for Medical Assistance in Dying “
( 死に向けた医療支援申請書 )
= 医療的臨死介助 ( MAiD ) の申込書 ( PDF )
https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/health/forms/1632fil.pdf
–
※ カナダ尊厳死慈善団体
https://www.dyingwithdignity.ca/
Dying With Dignity Canada( DWDC )
– ” It’s your life. It’s your choice. ”
– ” Protect Canadians’ end-of-life rights. “
【 「 死 」 関連表現 】
- “ passed away ”
https://mickeyweb.info/archives/347
( 亡くなりました )
– - “ with regret ”
https://mickeyweb.info/archives/318
( 残念ですが )
– - “ declared dead ”
“ Pronounced dead ”
https://mickeyweb.info/archives/1636
( 死亡宣告された、 死亡した )
– - “ Confirmed dead ”
https://mickeyweb.info/archives/2131
( 1. 死亡が確認された 2. 確認された死者 )
– - “ took his / her own life ”
https://mickeyweb.info/archives/4466
( 自殺した )
– - “ do away with oneself ”
https://mickeyweb.info/archives/15503
( 自殺する )
– - “ a moment of silence ”
https://mickeyweb.info/archives/3513
( 黙祷 )
– - “ My prayers are with -. ”
“ My thoughts and prayers are with – . ”
https://mickeyweb.info/archives/3471
( ~ のために心からお祈りいたします。)
– - “ He is in a better place now. ”
https://mickeyweb.info/archives/24805
( 今はもっと快適な場所にいます。)
– - “ the beyond ”
https://mickeyweb.info/archives/29487
( あの世 )
– - “ final resting place ”
https://mickeyweb.info/archives/28844
( 墓、 埋葬地 )