Do a little math
2019/12/16
ちょっと計算してみる
英和辞書にはあまり載っていないが、
日常的に出てくる決まり文句。
口頭が多めだが、それに限らない。
軽快な文体の評論でよく見かける。
同時に、政治経済のような堅い内容でも使われる。
「ここで、少し計算してみましょう」という具合。
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【類似表現】※ カッコ内は青字の品詞
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do a math
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do a bit of math (名詞+前置詞)
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do a minor math (形容詞)
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do a quick math (形容詞)
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do a simple math (形容詞)
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do a small math (形容詞)
表題を含め、合計7つすべてが同じ意味合いである。
共通項は、量的・時間的に「少し」。
最頻出は “little” なので、これを表題に掲げた。
青字は基礎英語であるばかりでなく、
“bit of”(少しの)以外は、カタカナでも定着済み。
“quick” は瞬間的な速さだが、結果的に量的・時間的
な「少し」につながるため、ここではほぼ同義。
■ “math“(発音:マース、mǽθ)は「数学、計算」
を意味する不可算名詞
■ “mathematics“(発音:mæ̀θəmǽtiks)の短縮形
■ “th“(θ)の発音は、”smooth out” 参照
後者の発音とスペルは、英語ネイティブにとっても厄介。
したがって、小中学校の算数・数学は “math” が一般的。
“mathematics” は、日常ではほとんど出番がない。
“do” は、ここでは他動詞「する」。
自他動詞 “do” の最も基本的用法である。
不可算名詞 “math”(数学、計算) との組み合わせ
では、無冠詞または定冠詞 “the” となるのが
英文法の原則である。
不可算名詞に直接 “a” がつくのは原則外。
現に、イディオムとして確立しているのは “the”。
相手に再考を促すための決まり表現である。
“do the math”
to think carefully about something before doing it
so that you know all the relevant facts or figures.
(オックスフォード、OALD9)
used for telling someone that a plan or idea cannot
work because it is impossible, too expensive, etc.
(マクミラン)
和訳は「計算する」、さらには「よく検討する」。
※ 下線は引用者
- “You do the math.“(自分で計算してみなさい。)
- “Just do the math.“(とにかく検討してみて。)
“a little” と “a bit of” は不可算名詞につく。
<不可算名詞の数え方>として、中級以上の英語学習者
は学んだはずである。
その他の “minor”、”quick”、”simple”、”small”
も、”a” を伴って不可算名詞に用いることもある。
“a math” に至っては、文法的には不適切レベル。
2語の間に入れるべき単語(「少し」など)が
省略されたまま定着したようである。
無論、”math” 直後に可算名詞があれば別。
(例:do a math problem = 算数の問題を解く)
文法的には、”the”(既述)または無冠詞が正しい。
だが、”a math” もそれなりに使われており、
バツにはできないため、△が適切と考える。
○ “do math”
○ “do the math”
△ “do a math”
もっとも、“do a math” 以外ではほぼ見かけない。
よって、“a math” は限定された例外用法であろう。
<冠詞>には例外が多く、習得は一筋縄ではいかない。
日本人以外の英語学習者も戸惑う分野である。
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◆ 以上より、”do a little math” の直訳は、
「少し計算する」。
基本的には中立的な意味である。
■ 主な用途は二分できる。
(1)他意なく、単純に計算する行為
(2)相手への反駁手段
反駁(はんばく)
他人の意見に反対し、その非を論じ攻撃すること。
他より受けた非難攻撃に対して、逆に論じ返すこと。
(広辞苑 第六版)
(1)は難しくない。
「少し計算してみましょう」と額面通り。
「ここでよく考えてみよう」と促すのが趣旨。
問題は(2)である。
同じく「少し計算してみましょう」ではあるが、
動機が不穏。
相手の提示した内容を疑う様子。
「それならば、少し計算してみますね」
「それでは、私が計算し直します」
との流れが典型。
単に計算するのではなく、相手に反論し、
やり込める意図が見え隠れ。
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文面・口頭とも、険悪な雰囲気が漂う。
つまり、
状況や言い方によっては、相手に対する
嫌がらせや侮辱にもなる挑発表現。
その言い回しの代表は、
Let me do a quick math for you.
(あなたのために、ちょっと計算してみますね。)
一見何でもないが、危うい場面での本音は、
- 「お前、なにほざいてんの。
お前のために、さっさと計算してやるから、よく見とけ。」
“for you”(あなたのために) が、特に皮肉を帯びる。
この場合、”little“、”bit of“、”minor“、”quick“、
“small”、”simple” には、
相手を見くびるニュアンスが加わったりする。
どこか威圧的で、小馬鹿にした感じ。
- 「こんな簡単な計算なのに、お前のオツム空っぽかよ。」
平時であれば、親切心を示す無難な表現のはず。
人間のコミュニケーションは単純でない。
【参照】 “I have a question for you.”
(1)と(2)の判別は、文脈次第。
一文を取り出しても、どちらか分からない。
出所が確かなウェブ記事を調べると、嫌味を放つ
(2)の用法の方が目立つ。
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批評と検証(レビュー)が多く、角立つ傾向ゆえだろう。
- “So let me do a little math here.”
(ではここで少し計算させてください。)
– - “OK, let me do a simple math for you.”
(では、あなたのために簡単な計算を
して差し上げましょう。)
– - “We can do a small math for your team.”
(あなたのチームのために、当方で少し計算できます。)
– - “You need to do a bit of math to determine
which is best for you.”
(どちらがあなたにとってベストか、ご自身で
ちょっと計算する必要があります。)
– - “Just do a quick math to lose weight.”
(減量するには、さっと計算すればよいだけ。)
– - “Do a minor math and you’ll see.”
(ちょっと計算すれば、すぐ分かりますよ。)