プロ翻訳者の単語帳

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Not a fan

      2018/08/16

あまり好きではない 

I’m not a fan of my wrinkles.

あるアメリカ人女優の発言である。
40歳代半ばの頃。

雑誌のインタビュー記事で目にして、
「何言ってるんだ」と思った。

「私は自分のシワのファンではない」?
シワ好きな女性は、ほとんどいない。
そんなの当たり前。わざわざ言うことかよ。

当時の私は、まったく分かっていなかった。

“I don’t like my wrinkles.” とのニュアンスの差。
読者に与える印象の違い。
きちんと受け入れつつ、やんわり否定するような、
“not a fan” の婉曲作用。

何にも知らなかった。

「シワは大っ嫌い!」などとわめきたくなる嫌悪感も
理解した上での、しっとり落ち着いた大人の言い振り
だったのである。

◆ 常用する辞書の独立項目に、”not a fan” は存在
しなかった。すなわち、

以上の9点すべてで、項目立てされていなかった。

◆ 有力辞書に載っていないため、英語情報交換サイトで調べた。
参考になったのは、次の2つの英文サイト。
専門家の手による解説ではないが、概ね的確だと考える。

https://ell.stackexchange.com/questions/74098
https://english.stackexchange.com/questions/419031

<要約>

(1)相手を傷つけない目的で使う。
ーー(”the speaker uses in a non-derogatory fashion.”)
※ “derogatory” = 軽蔑的な(形容詞)

(2)嫌っていることを露骨に言いたくないために使う。
ーー“you don’t want to explicitly state that you hate
ーー→ those people.”

(3)「私は好きでない」の慣用語
ーー→ “idiomatic way of saying ‘I do not like'”

(4)”fan” の語義から、無生物にも使う。
ーー→ 後述の “OALD9” の語釈を参照

(5)堅い文脈では使われない。
ーー“this expression is not used in a formal context.”

(6)”fan” の代わりに、以下の可算名詞も使える。
ーーーadmirer(崇拝者)
ーーーfollower(信奉者)
ーーーdevotee(信者)
ーーーsupporter(支持者)

ーー→ ※ 4語とも “fan” の同義語

◆ 表題 “not a fan” の直訳は「ファンでない」。
“fan” の語源は、”fanatic”(熱狂的愛好者)の短縮形。
※ 扇風機 “fan” は、語源が異なる別物。発音は同じ。

「ファン」はカタカナでも定着している。
日常用途は完全一致。

ファン 【fan】[フアンとも]
芸能・スポーツなどの熱心な愛好者。また、特定の俳優・
選手・人物・団体などをひいきにする人。
(大辞林 第三版)

fan
a person who admires somebody / something or enjoys
watching or listening to somebody / something very much.
(OALD9、オックスフォード)

※ 人物に加えて、”something”(何か、無生物)も可

【英英辞典の基本表記】スラッシュ( / )=「または (or) 」

◆ 意味を強調(強意)するため、形容詞 “big”(大変な)
を加えることもある。
a big no-no“(ご法度)と同じく、強意の “big” なので、
趣旨は変わらない。

“a big fan” =「大ファン」のイメージ。

image.png

表題の “not a fan” は、「大ファンではない」が直訳。
<本音>は「嫌い」に近いはず。

image.png

◆ “not a fan” は、be動詞に続けて “no fan
とも表現できる。
「ファンではない」→「好きではない」のパターン
は同じ。

冒頭の一文であれば、

I’m not a fan of my wrinkles.
→ I’m no fan of my wrinkles.

be動詞 は「’m」。”am” の縮約形である。

趣旨は重なり「私は自分のシワが好きでない」。
しかし、”no fan” の方がより強い否定。

表題の副詞 “not” は、be動詞 “am” を否定するのに対し、
この形容詞 “no” は、名詞 “fan” を否定。

この場合、
”no” の方が “not” より否定の度合いが強い。

少し分かりにくいので、主格とbe動詞を変えてみる。
下線が be動詞。

  • “She is not a fan of wrinkles.”
  • “She is no fan of wrinkles.”
    (彼女はシワがあまり好きでない)
  • “We are not fans of wrinkles.”
  • “We are no fans of wrinkles.”
    (私たちはシワがあまり好きでない。)

副詞 “not” は be動詞(is / are)を否定。
形容詞 “no” は名詞(fan / fans)を否定。
否定が強いのは、”no” の方。

「どちらかと言えば」の強弱で、大差はない。
だから、言わんとしていることは共通する。

 【参照】
It’s no joke.
(冗談ではない)
no need
(不要です)

 

◆ それよりも差が出るのは、”don’t like” との違い。

  • “I don’t like my wrinkles.”
  • “I’m not a fan of my wrinkles.”
  • “I’m no fan of my wrinkles.”

対象(シワ)を否定する意思は変わらないが、
受け手の印象は違ってくる。

一言で言えば、”I don’t like” は意思表明で完結。
他者への配慮が一切ない。

“don’t like – ” は、基本的な英語表現である。
英語学習者でなくても通じやすい英語のひとつ。
“do not like – ” の縮約形であるが、”don’t” の方が
日常的。英語ネイティブ間でもそうである。

伝達上の工夫は含まない
要は、自分の「嫌い」な思いを率直に表しているだけ。
「私は~が嫌いです」。文法も単純。

ところが、一般的なコミュニケーションでは、むき出しの
感情表現は好まれない。

特に、否定的な気持ちのあからさまな表出は避けられる。
露骨にならぬよう気遣うことは、社会人ならば不可欠

受け手の印象や関係者に与える影響を考慮すれば、
ぴしゃり「嫌いです」などと放言できるものではない。
社会人であれば、いささか幼稚すぎる。

これは英語でも同様。

“don’t like – ” は、イヤイヤ期の3歳児でも使う。
清々しい素直さがあるが、周囲に対する視点はない。
大人の場合、場面次第では注意を要する。

そこで、重要なのが婉曲表現。
遠回しに穏やかに表すことによって、角が立たないようにする。
受け手のため、関係者のため、つまり他者のためではあるが、
最終的には自分のためであると考える。

言葉遣いを含む気遣いに欠ける社会人は、コミュニケーション
能力に難ありとみなされがち。
結果的に、本領発揮せずに終わるキャリアも多いとのこと。
「ソフトスキル」の研究は、昨今盛んに行われている。

hopefully” にて触れた話だが、大切なので一部再掲する。

【参照】※ 外部サイト
ハードスキルだけで出世する人はいない
「ハードスキル」と「ソフトスキル」を両立せよ
ソフトスキルの重要性(PDF、4MB)

 

◆「嫌い」→「好きではない」。
さらに推し進めて、
「嫌い」→「好きではない」→「ファンではない」

日本語の例えとしては、しっくりこない気がする。
それでも、流れとして不自然さはないだろう。

“I don’t like – “(嫌い)よりは、”I’m not a fan of – ”
(ファンではない)と表現する方が露骨にならない。
この点さえ把握できれば、決して難しくない。

◆ 和訳は、適宜状況に合わせて、むき出しを回避する。
具体的な人物が対象の際は、特に気を配る。

発言者が遠回しの表現を用いたのであれば、それを勘案し、
和文にも反映させるべきである。

ネガティブ感情の翻訳は、なかなか厄介である。
<本音>の察しはつくものだが、勝手に訳出しないのが基本。

  • “I’m not a big fan of those people.”
    (あの人たちをそれほど好いていません。)
  • “He is not a fan of his teacher.”
    (彼は自分の先生がそれほど好きでない。)
  • “I’m not a big fan of swimming.”
    (水泳があまり好きでない。)
  • “I’m not a fan of wrinkles, so I wear sunscreen everyday.”
    (シワが好きでないので、日焼け止めを毎日塗ります。)
  • “We are no fans of removing wrinkles by surgery.”
    (私たちは手術でシワ取りすることを好みません。)
  • “She is not a big fan of Botox.”
    (彼女はボトックスがあまり好きでないです。)

最後まで、冒頭のシワ(皺)を引きずってしまった。

wrinkle” の発音は、ríŋkl
化粧品「ドモホルンリンクル」の「リンクル」。
語源は、形容詞 “wrinkled”(ねじれている)。

ここでは可算名詞で、通常は “s” つきの複数形。
人体については、1本のシワを取り上げる機会はまれ。
加齢により増える一方ゆえ、複数形が普通なのである。

 

 

 

 

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