Lessons learned
2024/08/20
学んだ教訓
トラブル発生後、 実務担当者などの当事者が、
よく書かされる報告書に ” lessons learned ” がある。
組織によって、 この文書の位置づけは異なるだろうが、
–
トラブルから得た教訓
–
これに焦点を定める点は共通する。
なぜなら、
「 学んだ教訓 」
–
が直訳だからである。–
–
‐
—きょうくん 【 教訓 】
- 教えさとすこと。 また、その言葉。
( 広辞苑 第七版 )
–- おしえさとすこと。 またその言葉。
( 岩波 国語辞典 第八版 )
–- 教えさとすこと。 また、その教え。
( 大辞林 第四版 )
–- 教えさとすこと。 また、その言葉や内容。
( 明鏡国語辞典 第三版 )
–- 将来に役立ちそうなことを言ってきかせること。
また、そのようなおしえ。 いましめ。
( 三省堂国語辞典 第八版 )
–
それぞれ語釈全文である。
–
–
◆ 主な役割は、 内部資料としての報告書。
私の所属してきた組織でも、 概ねこうだった。
文書名は、そのままずばり、
–
” Lessons Learned “
–
対外的で正式な報告書でも使われている名称。
【 英文報告書の実例 】 “mishap lessons learned” filetype:pdf
–
–
Stars and Stripes
※ 星条旗新聞 ( 米軍の準機関紙 、 創刊 1861年 ) の見出し
https://epub.stripes.com/docs/MID_MID_220223/MID_MID_220223.pdf
2023年2月22日付
–< 参考和訳 >
–
戦場の教訓
ウクライナ戦争の1年、米軍が改善すべき点を露呈 – アナリスト分析
–
【発音】 bǽtlfìːld
【音節】 bat-tle-field (3音節)
◇ 「 見出し 」 英語の解説は、 こちらが秀逸 ↓
英語ニュースの読み方( 見出し編 )RNN時事英語–
–
◆ 翻訳者として、 今も年がら年中、 携わっている。
結構な数の ” mishap lessons learned ” を翻訳 ( 英 ⇄ 日 )
する機会に恵まれたおかげか、 本稿の執筆にも身が入る。
まったくもって不謹慎な話だが、 私の大好きな翻訳素材なのです。
その道のプロたちが不面目な失態をさらし、 反省文を書いている。
生々しい描写と緊張がぎゅう詰めで、 ついつい興奮してしまう。
激しい情動が全身を駆け巡り、 臨場感にほんのり汗ばむくらい。
英訳も和訳も面白く、 並の事務文書とは段違いの力の入れよう。
脳が高揚し、 意欲の血潮が心身の内奥から熱く込み上げてくる。
中身が暗い割に、 普遍的な教訓が凝縮されており、 専門用語だらけの
難解さにめまいがするものの、 ごく身近な職場周辺で起きた出来事・
設備・登場人物のリアルさにしびれ、 えも言われぬ陶酔が押し寄せる。
うっとりとした夢現の境を漂いつつ、 夢見心地でひたすら没頭。
わくわく胸を躍らせ、 大喜びで取り組んでいることを白状する。
極力あってはならない 翻訳依頼 を、 密かに心待ちにしている。
依頼が届き、 ドーパミンの脳内分泌される瞬間がたまらんわ。
親しい同僚らが、 懲戒処分( disciplinary action )を受けて
いたりするのに、 意地悪すぎ。
◆ 柱は3つ。
- 経緯説明 ・ 事故概要 ( descriptions または events )
- 根本原因 ( root causes )
- 是正処置 ( corrective actions )
時に、「 3. 是正処置 」 の代替または追加として、
—4. 推奨事項 ( recommendations )
を記すこともある。
以下の用語も頻出。
–
◆ 死亡、 重傷、 または長期休業を伴う重大事故であれば、
適正手順に従い、専門家を交えた調査が実施されたりする。
担当者で処理するレベルを超えており、 組織の社会的責任
の一環として、 適法で厳格な検証が必要となるからである。–
◆ しかし、そのような深刻な事態は、 めったに発生しない。
そのため、その都度 ” lesson learned ” で自省する手法に落ち着く。
過ちから教訓を学び取ると言えば、殊勝な心構えに聞こえる。
実際のところ、それ以外に手の施しようがない現実も大きい。
時の流れは不可逆的。
過去は取り返しがつかない。
–
もう、 後の祭。
どうにか 前進 しなければ …
きつい責任が重くのしかかる。
––
いざ起きてしまえば手遅れで、 ほぞを噛むしかない。
–
–
◆ そこで、今回得た「 教訓 」を 予防措置 として機能させようとする。
–
◇ 視点を未来に据え、 再発防止に重点を置く
–
そうすれば、 どんな災難も無駄なく意味づけることができる。
予防にまさる対策はない。
ー
” It won’t happen again. ” と趣旨が重なる。
–
–
失敗から学ぶ
◆ 労働災害や品質管理に欠かせない原理は、 経験則 に基づくものが中心。
–
責任追及に終始しない姿勢 が、すべての根底を流れる。
心の救済のためにも、 今後に活かすしかない。
活動していれば、 ミスの完全回避は無理難題。
行動には、 失敗がついて回る。
けれども、 学びもついて回る。
間違えることで、 学習できる。
次の名言も、 それを示唆する。
–
Experience is the name that
everyone gives to their mistakes.
–
( 経験とは、皆が自分の失敗につける名前である。)オスカー・ワイルド
Oscar Wilde ( 1854 – 1900 )
–
A person who never made a mistake
never tried anything new.
–
( ミスしたことのない人は、
新しいことに挑戦したことのない人である。)アルベルト・アインシュタイン
Albert Einstein ( 1879 – 1955 )
– Don’t worry about failures,
worry about the chances you miss
when you don’t even try.
–
( 失敗を恐れるな。
トライせずにチャンスを逃すことを恐れよ。) ジャック・キャンフィールド
Jack Canfield ( 1944 – )–
” Chicken Soup for the Soul ”
( 『 こころのチキンスープ 』 ) の作者
–
–
◆ ” lesson ” には、 名詞と他動詞がある。
語源は、 ラテン語 「 読むこと 」( lēctiō )。
名詞は、 カタカナ 「 レッスン 」 と内容はほぼ一緒。
【発音】 lésn
【音節】 les-son (2音節)
–
‐
—レッスン 【 lesson 】1. 稽古。 練習。
2. 学課。 課。 教程。
( 広辞苑 第七版 )–
‐課業。 けいこ。
( 岩波 国語辞典 第八版 )
–1. 授業。 稽古。 練習。
2. 学課。 教程。
( 大辞林 第四版 )–
‐
1. 学課。 教程。
2. 授業。 また、練習。 けいこ。
特に、日時を決めて個人的に指導を受けるもの。
( 明鏡国語辞典 第三版 )
–1. 〔 習いごとなどの 〕 授業。
2. 学課。
( 三省堂国語辞典 第八版 )
いj-
こちらも、 各全文。
◆ 英語 ” lesson ” の他動詞は、「 教える 」「 訓戒する 」。
他動詞用法は、 現在ではまれ。
《 古 》 と表記するのは、『 ジーニアス英和大辞典 』
や 『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』。
つまり、” lesson ” は名詞用法が基本。
可算名詞である。
上掲の国語辞典の語釈以外に、英語の可算名詞 ” lesson ”
には、こうした意味もある。
- 懲らしめ
- 見せしめ
意地悪い思惑を含む。
前掲 『 三省堂国語辞典 第八版 』 の「 教訓 」も、
–
「 いましめ 」 と明記する。
-
◆ ” learn ” には、 自動詞と他動詞がある。
【発音】 lərn
【音節】 learn (1音節)–
語源は、古英語「 学ぶ、読む、思案する 」( leornian )。
ドイツ語 ” lernen “( 学ぶ )、” lesen “( 読む ) と同根。
原義( もともとの意味 )については、後掲アプリをご参照のこと。
自他動詞ともに「 学ぶ 」「 知る 」「 覚える 」 で意味が一貫している。
【活用形】 learns – learning – learned ( または learnt )
過去形と過去分詞形は、 ” learned ” と ” learnt ” のいずれも使える。
–
◇ ” learned ”
【発音】 lə́ːrnid | lə́ːrnd
【音節】 lear-ned (2音節) learned (1音節)
–
◇ ” learnt ”
【発音】 lə́ːrnt
【音節】 learnt (1音節)
–
< ” learn ” の過去形・過去分詞形 >
一般的に、以下のように区分されている。
- アメリカ英語 ” learned “
- イギリス英語 ” learnt “
どちらも使われているが、 現在は “ learned ” が優勢。
–
—
《米》では learned が普通。
《英》では特に過去分詞で learnt が用いられる
–
–
『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、2001年刊 ( アプリ版 )
… “ learn ” の語釈より
<大修館書店HP>
–
◆ さらに、オックスフォード系のオンライン辞書によれば、
–
Both are acceptable, but learned is often used in
both British English and American English,
while learnt is much more common in British English
than in American English.
–
–
” Learnt ” Or ” Learned ” ?
https://www.lexico.com/grammar/learnt-vs-learned( リンク切れ )※ 2022年6月13日 アクセス
–
文書名に起用されるのは、 ほとんど ” learned “。
こんな印象が強い。
まれには ” lesson learnt ” も見かける。
–
–
◆ ” lessons learned ” の ” learned ” は、
自動詞「 学ぶ 」の過去分詞形。
したがって、既述の通り、直訳は「 学んだ教訓 」。
” action required “( 要行動、 対応必須 ) に似たパターン。
” lessons learned ” の場合、 2語まとめて
「 学んだ教訓 」 として名詞的に扱われている。
–
事故から学ぶ 「 教訓 」 は、 複数 あるのが一般的
–
よって、 複数形 ” lessons ” の方が一段と目立つ様子だが、
単数形 ” lesson learned ” も普通に使われている。
「 学んだ教訓 」 として単複両方使われているということ。
- “Here are the lessons learned from
the incident.”
(これらが今回の出来事から学んだ教訓です。)
– - “The lessons learned from in this incident
should not be forgotten.”
(この出来事から学んだ教訓を忘れてはならない。)
– - “Let’s apply the lessons learned from the incident.”
(この出来事から学んだ教訓を活用しましょう。)
— - “We revised the policy based on the lessons
learned.”
(学んだ教訓に基いて、方針を改訂しました。)
– - “I want to share the lessons learned with
everyone.”
(学んだ教訓を全員と共有したい。)
– - “Lessons learned from COVID-19’s first wave”
(新型コロナウイルスの第1波から学んだ教訓)
※ ニュース見出し
◇ ” learned ”
【発音】 lə́ːrnid | lə́ːrnd
【音節】 lear-ned (2音節) learned (1音節)
–
◇ ” learnt ”
【発音】 lə́ːrnt
【音節】 learnt (1音節)
【関連表現】–
- ” life’s lesson ”
https://mickeyweb.info/archives/778
( 人生の教訓 )
– - ” learn – the hard way ”
https://mickeyweb.info/archives/9990
( 苦労して ~ を学ぶ )