Consensual
2023/04/11
合意に基づく
性的暴行のニュース報道によく出る形容詞。
加害者とされる側は、
■ consensual sex ( act )
–
「 合意に基づく性交渉 」
だったと主張する。
–
対して、 被害者 ( 性別不問 ) はそれを否定する。
■ non-consensual sex ( act )
–
「 合意のない性交渉 」
–
未来永劫不変の争点である。
–
◇ ” non- ” = 否定の接頭辞 ( 非・不・無 )
–
–
◆ 今回調べた 英英辞典6冊 すべての例文で、
” consensual sex ” が挙げられている。
–
【参考】 ※ 外部サイト
「 同意のない性行為 」にNO! スウェーデンの性犯罪規定
https://forbesjapan.com/articles/detail/32564
2020年2月26日付
◆ 日常会話にはあまり出てこない法律用語でもあるが、
ニュースに加え、実務で出会う機会は珍しくない。
例えば、
- consensual agreement
( 合意に基づく契約 )
– - consensual contract
( 諾成契約 )
– - consensual marriage
( 合意に基づく婚姻 )
– - consensual divorce
( 合意離婚 )( 協議離婚 )
– - consensual relation
- consensual relationship
( 合意に基づく関係 )
–
◆ ” consensual ” の品詞は形容詞のみ。
–
語源は、ラテン語「 同意する 」( consentīre )から
生じた名詞 ” consensus “( 合意、コンセンサス )に、
接尾辞 “ al ” を加えたもの。 ※ 末尾の “ s ” は落とす
–
” al ” がつくる形容詞の意味は、「 ~ の( 性質の )」。
【例】
- postal ( 郵便の )
- tribal ( 部族の )
- accidental ( 偶然の )
- seasonal ( 季節の )
したがって、” consensual ‘ は「 合意の 」で、
「 合意に基づく 」となる。
–
◆ なお、似た成り立ちで同義の ” consentual ”
もあるが、通常は ” consensual ” を用いる。
–
” consentual ” は、 3大学習英英辞典( EFL辞典 )はおろか、
著名な “ Black’s Law Dictionary “ にも記載がない。
–
米国の 『 ブラックス法律辞典 』。
判例などに最も引用される辞典である。
1891年刊で、 130年以上の歴史を誇る。
英米法を学ぶ学生で、 知らない者は皆無レベルの 存在感。
2014年刊の 「 第10版 」。
( Amazon Japan / Amazon US )–
2019年刊の 「 第11版 」。
( Amazon Japan / Amazon US )
いずれにも、 ” consentual ” の項目立てはない。
” consensual ” は、 それぞれこちら。
–
–
–
“ Black’s Law Dictionary, 10th Edition ”
p. 368. (Thomson Reuters 2014).
–
“ Black’s Law Dictionary, 11th Edition ”
p. 379. (Thomson Reuters 2019).
–
なんと、 一言一句一致している。
◆ 英語学習者向けの 『 オックスフォード現代英英辞典 』 もチェック。
「 第9版 」と「 第10版 」 はほとんど変わっていないが、
なぜか、 語釈 1. の 関係代名詞 ” which ” が ” that ” へ。
関係代名詞 ( relative pronoun ) の典型的な論点だが、
ここの ” which ” と ” that ” は代替可能ということ。
–
【参考】 ※ 外部サイト
関係代名詞 「 That 」 と 「 Which 」 の簡単ルール
–
” consensual “
■ formal
1. which people in general agree with.
2. ( of an activity ) which the people
taking part have agreed to.
–
–
( OALD9、オックスフォード ) 2015年刊
Oxford University Press アプリ版
–
■ formal
1. that people in general agree with.
2. ( of an activity ) which the people
taking part have agreed to.
–
–
( OALD10、オックスフォード ) 2020年刊
Oxford University Press アプリ版
–
※ 太字・下線は引用者
–
“ formal ” 表示なので、 やはり堅い言い回し。
語源とOALD9から 自明 なのは、” agree ” ( 同意する )
を前提とすること。
当事者が同意したから、合意に至っている。
そんな 状態 を示す形容詞が ” consensual “。
【発音】 kənˈsɛnʃʊəl
【音節】 con-sen-su-al (4音節)
–
どうい 【同意】
1. 同じ意味。
2. 同じ意見。 同じ意思。
3. 他人の意見に賛成すること。
ごうい【合意】
意志が一致すること。 法律上は契約当事者
の意思表示の合致をいい、 契約の成立要件
となる。
( 広辞苑 第七版 )
–
以上、 語釈全文。
要は、 正しく理解した上で、 お互いにその状況を
受け入れている様子。
内容は問わないため、 次の2例とも ” consensua “。
–
◆ ちなみに、 日本国憲法第24条
「 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し( 以下略 ) 」
の英訳は以下の通り。
–
Article 24Marriage shall be based only on the
mutual consent of both sexes …【 首相官邸版 】 http://japan.kantei.go.jp/
下線の2語 「 相互の同意 」 で 「 合意 」 を表現している。
これを “ consensual ” で言い換えると、 こんな感じ。
Marriage shall be based only on the
consensual decisions made by both sexes …
–
下線部の構造は、
- 形容詞 ” consensual ” ( 合意に基づく )
- 可算名詞 ” decision ” ( 決断 )
ここでは名詞を飾る形容詞( 限定的用法、後述 )なので、
文法的には難しくはないだろう。
–
◆ 片や ” consensual ” を述語で用いる場合は、
「 be動詞 」に続くのが基本。
その理由は、” consensual ” が形容詞だから。
では、なぜ 「 形容詞なので、” be動詞 ” に続く 」 のか。
日本語の形容詞との違いをおさらいしてみよう。
以下、 ” aware ” より再掲。
–
日本語の形容詞は「 用言 」の一つで、
単独で述語 になることができる。
- 私は 悲しい。
- 彼女は きれい。
- それが 楽しかった。
太字は形容詞( adjective )。
「は」と「が」は、助詞( postpositional particle )。
名詞・代名詞の後ろに置き、
他の語との文法的関係を示す語。
前置詞( preposition )の反対の 後置詞( こうちし )。
それが、日本語の助詞。
–
◇ 『 日国 』の語釈全文を後掲
–
一方、 英語の形容詞は「 be動詞 」などの
助けを借りないと、 述語になれない。
日本語の形容詞に比べて、
力が弱いから。
–
- I am sad.
- She is beautiful.
- It was fun.
–
黒の下線部が ” be動詞 “。
※ 「 be動詞 」 = be、am、was、been、will be、is、were、are
要するに、英語の形容詞は、
弱すぎて、述語として自立不能。
–
–
先述の文例を比べると、
–
< 日本語の形容詞 > 単独で述語 〇
強くて独立している ので、「 助詞 」が欠けても可。
少なくとも「 話し言葉 」なら、大抵問題ない。
何もつかなくても、「 述語 」として、 立派に自立。
△ 私、悲しい。
△ 彼女、きれい。
△ それ、楽しかった。
–
< 英語の形容詞 > 単独で述語 ×
弱くて依存している ので、「 be動詞 」などは 不可欠。
よって、以下は完全に間違い。
× I sad.
× She beautiful.
× It fun.
–
「 間投詞 」 や 「 感嘆詞 」( 感動・応答・呼掛け → 単独で文に )
でもない限り、 英語の形容詞には、必ず動詞がついて回る。
–
英語の形容詞
↓
必ず動詞が伴う
とりわけ「 be動詞 」が大活躍
形容詞の力量の違いが、直接文法に表れているのだ。
重要なので、以上おさらいしてみた。
–
◆ 例文でも確認してみよう。
下線が be動詞。
- “He insisted that the sex was consensual.”
(彼は性交は合意の上だったと主張した。)
– - “I believe everything is consensual.”
(すべてが合意の上だと信じている。)
– - “Their relationships were consensual.”
(彼らの関係は合意の上でした。)
– - “We had engaged in sex, but it had been consensual.”
(性交渉はありましたが、それは合意の上でした。)
– - “Sexual shoots were consensual.”
(性的な撮影は合意の上だった。)
–
- “Everything I have done has been consensual.”
(私のやったことすべては合意の上でした。)
– - “The bullying had been consensual.”
(そのいじめは合意の上だった。)
上記は、形容詞 ” consensual ” 自らが「 文の要素 」となる「 叙述用法 」。
次のように、名詞を直接修飾する「 限定用法 」でも使われる。
- “The law cracks down on non-consensual distribution
of sexual content.”
(その法律は、合意のない性的コンテンツの配信を取り締まる。)
– - “All non-consensual recording of conversations
at the workplace is prohibited.”
(この職場における会話の秘密録音は、全面禁止されている。)
–
◇ ” non- ” = 否定の接頭辞 ( 非・不・無 )
–
【参考】 ※ 外部サイト
・ 形容詞の「 叙述的用法 」と「 限定的用法 」
・ 形容詞の限定用法と叙述用法
・ 英語の連結動詞とは?
◇ 詳細は、 ” Please be aware that – ”
- 英語の形容詞の用法は2つ
→ 「 限定的用法 」 と 「 叙述的用法 」
– - 日本語の形容詞の用法は3つ
→ 「 限定的用法 」 と 「 叙述的用法 」 と 「 副詞的用法 」
※ 「 用法 」 の直前の 「 的 」 が抜けても同義
–
「 助詞 」 全文は、 以下の通り。
–
–
『 日本国語大辞典 第二版 』 第7巻、 p. 357.
小学館( 2001年刊 )※ 傍線は引用者
–
おまけに、「 形容詞 」 全文。
–
–
『 日本国語大辞典 第二版 』 第4巻、 p. 1287.
小学館( 2001年刊 )※ 傍線は引用者
–
緑の傍線が、 既記の
–
< 英語の形容詞は「 be動詞 」などの 助けを借りないと、述語になれない >
–
に該当する。
–
◆ 英語も「 印欧語 」。
インド・ヨーロッパ語族( the Indo‐European languages )とも言う。
–
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–
【出典】 小学館 日本大百科全書 ( ニッポニカ ) より
–
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「 印欧語 」 と 「 形容動詞 」 は、 ” conclusive ” で取り上げている。
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◆ 日本語の文の種類は、3種類に大きく分けられる。
1. 名詞文
2. 形容詞文
3. 動詞文
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1. 「 名詞文 」 → 述語に名詞が使われる
1-1 私は学生です。
1-2 父は今ニューヨークです。
2. 「 形容詞文 」 → 述語に形容詞または形容動詞が使われる
2-1 富士山は美しい。(形容詞)
2-2 京都は有名である。(形容動詞)
3. 「 動詞文 」 → 述語に動詞が使われる
3-1 彼はそこに行きました。
3-2 私は昼食を食べました。
–
上記を英訳してみる。
青字は動詞 ( 下線部は 「 be動詞 」 )。
1-1 I am a student.
1-2 My father is in New York now.
2-1 Mt. Fuji is beautiful.
2-2 Kyoto is famous.
3-1 He went there.
3-2 I ate lunch.
–
動詞が「 3. 動詞文 」に用いられることは言うまでもない。
ところが、
「 1. 名詞文 」 と 「 2. 形容詞文 」 にも
動詞 ( be動詞 ) が使われている。
–
日本語の「 1. 名詞文 」「 2. 形容詞文 」には動詞はないのが普通なのに、
–
英語になると、必ず 動詞 が出てくる。
「 名詞文 」 「 形容詞文 」 「 動詞文 」
の すべて に、 英語では 動詞 が使われる。
–
日本語と英語の大きな違いである。
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【参照】 日本語と英語の違い ( 図入り )
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