Try to -
2020/01/02
~するようにしてみてください。
“try” という動詞には、数多くのニュアンスを伴う。
主要用法はきちんと英和辞典に紹介されている。
しかし、それでも物足りない部分があると
常々感じているため、ここで取り上げてみたい。
結論から言えば、
ソフトな依頼・命令の “try to”
「~しろ」「~して」ではなく、
「~するようにしてみて」との柔らかい語感。
日常的には、かなり使う用法である。
我が子、教え子、部下の場合は、上下関係
が明らかであり、その分、命令しやすい。
通常は義務も権利も伴うから、当然である。
ところが、普段接する相手には、このような
明確な地位の差異が見られないことも多い。
具体的には、友人、同僚、隣人、他人の子ども
などは、上下関係にそぐわない間柄である。
そんな相手に何かをお願いしなければならない
機会は、決して珍しくない。その際に使うとよい。
◆ 依頼・命令時の言葉遣いは大切。
言葉のセンスのみならず、人間心理への理解度
が如実に出るのが、自分が依頼側にある場面。
下手な言い方をすると、相手の反発を食らい、
思わぬ結果を招いたりする。
言い方を間違ったがゆえに、自分の望む結果を
得られないことは、実に残念なことである。
気を遣っておけば、まったく違う結果となったかも
しれないのだ。
こう考えると、言葉遣いの巧拙で、人生が
変わってくると言っても過言ではないだろう。
少し意識するだけでも、相手の対応が変化する。
それほど<即効性>のあるのが、言葉遣いと考える。
【参照】
・ ”hopefully“(できることなら)
・ “It’s a long story.“(いろいろあって。)
◆ “try” には、他動詞・自動詞・名詞がある。
語源は、古フランス語「ふるいにかけて選ぶ」(trier)。
– 他動詞「試みる」「努力する」「心がける」
– 自動詞「試みる」「努力する」
– 名詞「試み」「努力」「トライ」
以上が基本的意味。
中級学習者であれば、既習の内容。
特別に難しい点はない。
だが現実の使用では、そう単純でない。
冒頭で述べた通り、様々なニュアンスを表せる
のが “try” の特色。
手始めに、次の2文をご覧いただきたい。
違いが分かるだろうか。
- “She tried kicking him out.”
(彼女は彼を追い出してみた。) - “She tried to kick him out.”
(彼女は彼を追い出そうと努力した。)
1.は実際に追い出しにかかっている様子。
それに対し、2.は単に努力しただけ。
一見大差はないが、もし当事者であれば、
看過できない違いを感じるはず。
この種のニュアンスの差が生じがちな “try” は、
なかなか厄介な動詞なのである。
英和辞書を精読しても、見えてこない機微である。
◆ さて、本題に入る。
口頭依頼時の “try” で、相手あっての用法について。
例えば、「遅れないように来なさい。」
と目下の相手に命じる際、一般的には、
- Make sure to come on time.
- Be sure to come on time.
- Don’t forget to come on time.
など。
他動詞 “try” を用いると、
- Try to come on time.
- Try and come on time.
1と2のどちらが、きつく聞こえるか。
答えは2。微差ではあるが、ニュアンスは異なる。
和訳すると、こんな感じ。
- 遅れないようにして来てください。
- 遅れないように来なさい。
2. の方が緊迫性を感じるだろう。
換言すれば、命令の度合いが強い。
以下同様。
- Try to be quiet.
(静かにするようにしてみてください。) - Try and be quiet.
(静かにしてください。)
- Try to finish quickly.
(急いで終わらすようにしてみてください。) - Try and finish quickly.
(急いで終わらせてください。)
- Try to remember this.
(覚えるようにしてみてください。) - Try and remember this.
(覚えておいてください。)
英語学習者に馴染み深い言い回しが、
- Try to speak in English.
(英語で話すようにしてみてください。)
– - Try and speak in English.
(英語で話してください。)
– - Speak in English.
(英語で話して。)
– - Speak English.
(英語を話せ。)
→ 「あなたの英語は理解不能」
の意もある
言わんとしている趣旨は一緒。
しかし、1と4 では印象がかなり異なる。
違いがピンとくれば、各ニュアンスを
把握できていると考えられる。
例えてみると、こんな状況。
英語ネイティブだらけの会場で、日本人は自分一人。
そんなアウェイな場で、直接このように声を
かけられたらどう感じるか、ということ。
いきなり4を浴びさせられた時には、逃げ出したくもなる。
◆ 初学者の場合、区別はよく分からない。
大意をつかむことで精一杯なので、威圧的な
ニュアンスが含まれても、まるで気づかない。
どうにか相手の話が分かって、ほっと一安心する。
ところが、学習が進んでくると、知覚できる対象が
徐々に増えてくる。
相手の放つ人種差別的なニュアンスまで把握できる
ようになってくると、外国人嫌いになったり、自信
と意欲が削がれる打撃も思い知るようになる。
時に、体内が火照る屈辱をかみしめることもある。
ぜひ、知っていただきたい事実がこちら。
頑張って学習を継続し、
英語ができるようになった日本人は、
皆そうした経験を経てきている。
不快な経験には違いないが、自らこういう経験を
味わわないと、使える英語は身につかないし、
人種差別問題の根深さに触れるよしもない。
他言語や他文化に触れることとは、成長の喜びだけでは
済まされない。
憂き目に遭遇する機会も「確実に」増える。
グローバル社会にもまれるとは、きっとそういうこと。
否応なくそんな時代に移行しつつあるのだから、
早いうちに慣れてしまう方がよいと私は考えている。
そして、願わくば、がつんとユーモアで反撃してやる
くらいの英語力と人間性を身につけたいものである。
【参照】
“What’s so funny – ? ”
https://mickeyweb.info/archives/17757
(何がそんなにおかしい ?)