Kick out
2020/08/11
追い出す、 つまみ出す
一見、乱暴な物言いだが、下品さはない。
乱暴に外へ追い出す「つまみ出す」に似通う。
プライベートな会話ではもちろん、普段の
ビジネストークにも出てくる句動詞である。
その一方、それほど上品とも言えない印象が伴う。
非日常的な堅めの場面(例えば、採用面接)では、
使わない方がよいかもしれない(後述)。
ー
◆ 成り立ちから浮かび上がる図は、こんな感じ。
–
彼を追い出した
やっぱり、乱暴かも …
とにかく、常用語として人々の日常に
根付いており、表現そのものは下卑ていない
ということ。
とはいえ、意味する内容がきついので、
よく受け取らない人も少なくないだろう。
ー
◆ 下品かどうかを当て推量で書き散らしても、
埒が明かないので、根拠を示す。
3大学習英英辞典(EFL辞典)及びオンライン
辞典3点の合計6点にて、”slang” などの表示を
確認してみた。
3大EFL辞典(LDOCE6 / OALD9 / CALD4)
については、そのオンライン版が書籍版と
同一の記載であったため、リンクを記す。
< “informal” 表示あり >
・オックスフォード(OALD)
・ケンブリッジ(CALD)
・コウビルド(COBUILD)/ Collins
・マクミラン(MEDAL)
< “informal” 表示なし >
・ロングマン(LDOCE)
・メリアム ウェブスター
–
◆ 6点すべてにおいて、
– “slang” またはそれに準ずる表示はない
– 使用時の注意書きも皆無
以上より考察すると、ごく普通の日常語に
他ならない。
語学上の “informal” は、「非正式」や
「くだけた表現」などと解釈される。
LDOCE6 の凡例は以下の通り。
“informal”
a word or phrase that is used in normal
conversation, but may not be suitable for
use in more formal context, for
example in writing essays or business letters.
(LDOCE6、ロングマン)
日常会話に使われ、お堅いの用途には
不適切かも、と書いてある。
結論としては、下品ではない。
フォーマルな使用場面では、
使わない方がベターということなので、
ので、既記の通りである。
ー
◆ “kick out” は句動詞。
他動詞(→ 句他動詞)と自動詞(→ 句自動詞)がある。
■ 句他動詞「追い出す」
kick somebody out (of something)
- “I kicked him out.”
(彼を追い出した)
–
■ 句自動詞「蹴飛ばす」
kick out (at somebody/something)
- “She kicked out at her stalker.”
(彼女はストーカーを蹴飛ばした。)
上掲リストの辞書のうち、LDOCE6とCALD4
には、他動詞の用法のみ記載されている。
“kick out“
to make someone leave a place,
job etc.
SYN: throw out
(ロングマン、LDOCE6)
※ SYN = synonym = 同義語
自動詞用法は “kick” の語釈に吸収されており、
句動詞 “kick out” としての解説はない。
辞書にはよくある現象である。
句動詞の主要な意味以外は省いている。
逆に言えば、有力な句動詞は項目立てされ、
意味も明記されている場合がほとんど。
少なくとも、上記6点の辞書では、
そういう具合になっている。
とすれば、主要なのは句他動詞「追い出す」。
冒頭に、句自動詞「蹴飛ばす」を掲げなかったのは、
「追い出す」こそが句動詞 “kick out” の
主要な意味と私自身も考えるからである。
したがって、本稿では句他動詞「追い出す」として、
“kick out” を論じていく。
【参考】
「句動詞」「句自動詞」「句他動詞」について
https://mickeyweb.info/
-ー
◆ “kick” には、他動詞・自動詞・名詞がある。
語源不明とされるが、14世紀には英語として
使われている。
– 他動詞「蹴る」「蹴飛ばす」「やめる」
– 自動詞「蹴る」「蹴飛ばす」「抵抗する」
– 名詞「蹴ること」「キック」「興奮」「興味」
基本的意味は、カタカナ「キック」の通り。
生意気な元気さは、日本語の「蹴飛ばす」
「蹴散らす」とかなり重なる。
例えば、
- 悪癖を蹴散らして「やめる」(他動詞)。
“kick the bad habit” - 相手の要望を蹴飛ばして「反抗する」(自動詞)。
“kick at the requirement”
この威勢よさで「外へ追い出す」ため、
副詞 “out” と合体することになる。
句動詞に伴う副詞 “out” の意味は複数あるが、
ここでは「外へ」。
次の句動詞と同じ用法。
「蹴って外に出す」だから「追い出す」。
イメージしやすい句動詞である。
- “She was kicked out of the company.”
(彼女はその会社から追い出された。)
– - “His mother kicked him out of the house.”
(彼の母親は彼を家から追い出した。)
– - “I’ve been kicked out of school.”
(私は学校から追い出された。)
– - “The government kicked the journalist
out of the country.”
(政府はそのジャーナリストを国外に追い出した。)
– - “I kicked her out of my life.”
(私の人生から彼女を追い出した。)
以上の5文は典型的な使用例である。
本人の人生を左右するインパクトのある
出来事ばかり。
「追い出す」には、「解雇」「退学」「国外追放」
など、重大な事由も含むということ。
“informal” とはいえ、このレベルの内容
も表現できるのが “kick out” なのである。
もっとも、”kick out” ではあいまいさが残る。
そのため、新聞やニュースなどの報道メディアでは、
句動詞よりも具体的な単語を用いる傾向がみられる。
例えば、
「解雇」→ dismiss /dɪˈsmɪs/
「退学」→ expel /ɪkˈspel/
「追放」→ deport /dɪˈpɔːrt/
–
【類似表現】
“Get out of here ! ”
https://mickeyweb.info/archives/705
(ここから出て行け!)
“Hit the road.”
https://mickeyweb.info/archives/3657
(出発する、さっさと出て行け)
“Pack your bags.”
https://mickeyweb.info/archives/1580
(出て行け。)
“Get lost ! ”
(失せろ!)
“Just go ! ”
(さっさと行け!)
“Don’t let the door hit you on the way out ! ”
(さっさと出ていけ!)
※ 退室次第、すぐドアを閉めてやるから、
そのドアにぶつかるなよ、との冷たい声掛け
【関連表現】
“Get a kick out of – ”
https://mickeyweb.info/archives/2851
~から快感を得る、~を大いに楽しむ
ー