We parted ways.
2020/08/20
我々は別の道に進んだ。
We had a disagreement how to handle
a situation and we parted ways.
(ある状況にどう対処するかで意見が食い違い、
我々は別の道に進むことになった。)
日本でも人気のある、あるベテラン俳優を
担当する男性マネージャーの発言である。
自分たちが別々の道を進むことになった旨を
説明する<3語ワンセット>が青字部分。
シンプルな決まり文句なので、覚えておくとよい。
勧奨する理由は「人生は別れの連続だから」
などと、うそぶきたいからではない。
–
そうでなく、
相手の追及をかわす効果が期待できる表現
だから。
–
◆ “We parted ways.” と静かに述べれば、
相手は突っ込んでこない可能性が高い。
–
「別れたのです」に似た感じ。
こう言われて食い下がるのは、よほど失敬な人だろう。
まともな社会常識と思いやりのある大人であれば、
ちゃんと察してくれる。
「えっ」と驚いても、それ以上は聞いてこない。
家族と親友を別とすれば、これが普通と考える。
別れた理由を根掘り葉掘り尋ねるのは、幼稚でみっともない。
–
当人が味わったであろう離別の苦しみに思いを馳せれば、
どうして執拗に問い詰めることができよう。
“We parted ways“
- 他人の好奇心を無難に振り切ることができる
- 暗い内容にもかかわらず、からっとした言い回し
- 暗鬱な段階を乗り越え、吹っ切れた様子をほのめかす
- 多様な別離をカバー:仕事関係、男女関係、友達関係
かなり実用的な表現である。
これらの美点を知ってしまうと、きっとものにしたくなる。
–
じゃあね
–
冒頭の発言を引き継ぐのは、
We have had a 35-year friendship
and I love him.
I wish him nothing but the best.
(友情は35年間に及んだ。彼のことが大好きだよ。
ただただ彼の幸せを祈ってる。)
もう、わだかまりはない。すべてが過去。
道は分かれたが、今後の彼の幸せを願っている。
35年も続いた友情。
この俳優がアイドルだった、10代からの付き合いである。
–
◆ “have had” に漂う悲しみが、分かるだろうか。
–
中級学習者なら、瞬時に感じ取りたい。
この “have had” は「現在完了形」である。
助動詞 “have” の後に、動詞の過去分詞形 “had“。
–
時制の基本なので、詳しく見ていこう。
<時制の復習のためのお勧めサイト>
・ 英語の時制はたったの12種類
have(助動詞)+
had(他動詞 “have” の過去分詞形)
→ 現在完了形
“had” の原形である他動詞 “have” は、
ここでは「(35年の友情を)経験する」の意。
その “have” の過去分詞形が “had”。
“I’ve had it.”(もうたくさんだ。)と同じ構造。
複数主格 “we” に呼応し、助動詞は複数形の have。
助動詞 “have” の語形変化は、動詞 “have” と同じ。
–
◆ 現在完了形は、過去の時点から現在までの、
継続、経験、完了・結果を示す。
–
<基点となる現在>までの継続。
現在に至る35年間、ずっと続いていた。
–
こんな状態を表す現在完了形。
同時に「ここでいったん、お開き」
と区切る表現にもなるのが現在完了形。
<基点となる現在>から過去を振り返る
ため、未来については不明。
だが、区切る以上、未来は期待薄。
現に “we parted ways.” と明言しており、
今までの関係が終了したのは間違いない。
先に触れた、< “have had” に漂う悲しみ>
が、これで感じられるようになっただろうか。
一方、仕事上の関係が終わっても、個人としての
彼は大好きなまま。ここに救いがある。
何十年も続いた契約の終了にあたり、
互いに修羅場をくぐったはずにもかかわらず。
苦難を経て得た安らぎには、人の心を打つ力がある。
◆ 表題 “We parted ways.” の使い勝手の
よさは、これまでの解説より推察可能だろう。
さらに、単語も文法もシンプルである。
“We parted ways”
(我々は道を分けた)
- 人称代名詞 “we“(我々は)
→ 一人称複数主格 - 他動詞 “parted“(分けた)
→ 過去形 - 可算名詞 “ways“(道)
→ 複数形
動詞 “part” には、他動詞と自動詞がある。
語源は、ラテン語「分割する」(partīre)。
–
ここでは目的語 “ways” を伴う他動詞「分ける」。
“parted” はその過去形「分けた」。
“ways” は、可算名詞「道」の複数形。
語源は、古英語「道路」(weg)。
これまで一緒に突き進んでいた1本の道が、
離別によって複数に分かれるため、
複数形 “ways” に。–上図をご参照のこと。
【名詞 “way” 例】
–
・ “Have it your way.”
・ “Go out of one’s way to – ”
・ “Learn – the hard way”
・ “Way to go ! ”
・ “No way ! ”
–
以上より、”We parted ways” の直訳は、
「我々は道を分けた」。
–
3語の基本的意味を、そのまま適用している。
–
◆意図的に道を分けた以上、進路が別になるのは
当然の結果であり、往々にして強い希望の末である。
そのため、”We parted ways” は、
「我々は袂を分かつことになった。」
などと和訳されることもある。
たもとをわかつ【袂を分かつ】
- わかれる。離別する。人との縁を切る。
袖を分かつ。
(広辞苑 第七版)
– - 行動を別にする。絶交する。
(大辞林 第三版)
– - 今までいっしょだった人と関係を絶つ。
人と別れる。
(精選版 日本国語大辞典)
「我々は道を分けた」は、「別れた」と換言
できるため、「袂を分かつ」でも適切。
3冊の語釈を比較すると、程度に微差が見られるものの、
それぞれ「縁を切る」「絶交する」「関係を絶つ」
とある(青字)。
–
よって、交際を完全に絶つことを含む意味合い。
–
◆ 冒頭のマネージャー氏のように、相手の幸せを
願う別れ方もあれば、それっきり忘却の喧嘩別れ
もあるだろう。
“We parted ways.” が述べるのは、彼らが
何らかの理由で別々になった点にとどまる。
余計な情報提供はない。
いらぬ詮索をはねつける勢いがあるため、
使い手にとって好都合。
“We parted ways.” の利点については、既記の通り。
覚えておくと心丈夫である。
【参考記事】 ※ 外部サイト
“SoftBank’s Masayoshi Son and Alibaba’s Jack Ma part ways”
https://www.japantimes.co.jp/news/2020/06/25/business/corporate-business/softbank-masayoshi-son-alibaba-jack-ma#.Xz4hREFS-Uk
2020年6月25日付