Fast forward to –
2021/01/06
~まで話を進めて、 ~まで早送りして、 ~に時が流れて
再生機器のボタンでお馴染みの「早送り」。
ISO規格で標準化されている記号がこちら。
5108B: Fast run; fast speed
https://www.iso.org/obp/ui#iec:grs:60417:5108B
ISO 7000 / IEC 60417
“Graphical Symbols for Use on Equipment”
(機器に用いる図記号)
“fast forward” は、名詞及び動詞として使われる。
「早送り」の趣旨は一貫する。
※ 形容詞用法もあるが、まれ
「早送り」から、何かを早く進める 意味に発展した。
ー
語源は、テープデッキの早送り。
初出は、名詞 1948年、 動詞 1974年。
カセット、ビデオをはじめとする磁気テープに
親しんだ世代であれば、「早送り」のじれったさ
を覚えておられるだろう。
キュルキュル鳴る音に耳をそばだてつつ、やきもき
しながら、目当ての箇所を探る「早送り」の苦労。
命中の暁には、新鮮な喜びに包まれたものだ。
–
◆ ここでの “fast” は、形容詞「素早い」。
語源は、古英語「しっかりした」(fæst)。
【発音】 fǽst
【音節】 fast (1音節)
“forward” の語源は、
“for – “(前へ)+ “- ward”(~の方向へ)
【発音】 fɔ́ːrwərd
【音節】 for-ward (2音節)
既記のように、初出は名詞が先(1948年)。
デッキの「先送り」が始まり。
ー
よって、ここでは副詞の「先へ」「先に」が該当
すると考えられる。
ー
◆ “fast – forward” とハイフン入りの「複合語」で
表記されることも多い。
ハイフンの有無には、ばらつきが見られる。
その旨を明記する辞書もある。
“fast-forward”
noun
1. (sometimes not hyphenated)
Collins English Dictionary, 12th Edition
「ハイフンを用いない場合もある」
まず、英英辞典9点の項目立てを確認する。
- fast-forward (LDOCE6、ロングマン)
ー動詞・名詞
– - fast-forward (OALD9、オックスフォード)
ー動詞
fast forward
ー名詞
– - fast-forward (CALD4、ケンブリッジ)
ー動詞
– - fast forward (COBUILD9、コウビルド)
ー動詞・名詞
– - fast-forward (Macmillan Dictionary)
ー動詞
fast forward
ー名詞
– - fast-forward (Merriam-Webster)
ー動詞・名詞
– - fast-forward (同 Learner’s Dictionary)
ー動詞・名詞
– - fast-forward (Collins English Dictionary, 12th Edition)
ー動詞・名詞
– - fast-forward (Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition)
ー動詞
fast forward
ー名詞
動詞・名詞ともに<ハイフンつき>が最多。
<ハイフンなし>は、COB9を除けば、名詞のみ。
だが、ハイフンの有無に有意義な違いがある
とは言い難い。
信用の置ける英語サイトの実例を調べてみると、
品詞を問わずハイフンなしも相当目立つ。
もう適当だなぁ、と感じ入るほど。
上掲の 名だたる英英辞典でも不統一。
ー
そう神経質にならずに、論は分かれるものくらいに
考えればよい。
本稿では、便宜上ハイフンなしを採用する。
ー
◆ 「早送り」の意味合いを貫く点は、既に触れた。
ー
すなわち、「早送り」から想定できる語義ばかりで、
多義ではないということ。
派生語義の代表は「何かを早く進めること」。
殊に<時点>の案内に起用される。
–
例えば、
fast forward to 2020
- 2050年まで、話を進めて
- 2050年まで、時を進めて
- 2050年に、時が流れて
Fast forward to 2050
What does the future hold ?
( 2050年には、どうなっているのやら )
【初稿】 2018年10月17日
事象を解説する際に多用される。
ー
“fast forward” を用いて、未来への展望
を述べている上図のような機会は、
はるかに少ない印象がある。
ーー
なぜなら、検証済みの内容を語る方が、
リスクが低いからである。
未来予想の当否が、専門家としての能力を反映する
となれば、むやみに取り上げるのを回避するはず。
「 ◯◯ 年 の ■■ 」などと銘打つ、近未来の予測本を
上梓したものの、結果的に大外れだったケースは、
枚挙にいとまがない。
とりわけ、投資分野で目立つ。
「 未来は未知 」こそ、この世の定めなのである。
–
未来は誰にも分からない
-
You never know
what the future holds.
– -
No one knows
what the future holds.
–
-
Who knows
what the future holds.
–
◆ さて、上記9点の英英辞典の中から、分かりやすい
語釈を精選してみる。
「早送り」の語義は、五十歩百歩で無個性だったため、
列挙せずに抄出したい。
最初に、語源通りの基本的意味から。
単純なので、語釈も例文も1つずつ。
「早送り」
録音・録画の再生を、通常より早い速度で
進めること。
(広辞苑 第七版) 2018年1月発行
▼ 広辞苑の旧版の語釈 ▼
録音・録画テープなどを、通常より早い速度で
進めること。
(広辞苑 第五版) 1998年11月発行
(広辞苑 第六版) 2008年1月発行
“fast forward”
■ noun [uncountable]
a button or control that moves a recording
forward to a later point without playing it.
(OALD9、オックスフォード)
“fast-forward”
■ verb [intransitive, transitive]
1. to wind a tape or video forwards quickly
in a machine without playing it.
(LDOCE6、ロングマン)
【発音】 ˌfæst ˈfɔːrwərd
ここでは、先述のキュルキュル音の「早送り」
を説明する名詞と動詞。
デジタル世代には、イメージするのは少々難しいかも。
これが広辞苑の「テープ」部分が消えた一因であろう。
名詞は、不可算名詞(uncountable)。
動詞は、自動詞(intransitive)と他動詞(transitive)。
意味は、「早送り」そのもの。
- “Press the fast forward button.”
(早送りボタンを押して。)
– - “Let’s fast forward the tape.”
(テープを早送りしましょう。)
【活用形】
fast forwards – fast forwarded –
fast forwarded – fast forwarding
以上は、理解しやすい「早送り」。
–
◆ 次いで、「何かを早く進める」の “fast forward”。
–
先の図を思い出していただきたい。
若干複雑なので、語釈は2つずつ。
“fast forward”
■ noun
2. the act or condition of speeding up
and advancing.
(Webster’s New World College
Dictionary, 5th Edition)
■ 2. (informal) a state of urgency or
rapid progress.
(Collins English Dictionary, 12th Edition)
“fast-forward”
verb [intransitive, transitive]
2. to move quickly to a later point in a
story.
(LDOCE6、ロングマン)
to advance to a later time at an accelerated
speed.
(Webster’s New World College
Dictionary, 5th Edition)
–
◇ “accelerated” = 形容詞 「加速された」
→ 「早送りされた」
【発音】 ˌfæst ˈfɔːrwərd
名詞「早送りすることまたはその状態」。
動詞「時を早送りして進めること」。
「早送り」から派生した中身であることは、
容易に分かるだろう。
起点を過去に置く傾向については上述の通り。
その理由も考察した。
表題に “to” を加えたのは、この用法こそ
メディア報道で使われやすいからである。
「時の終点」を示す前置詞 “to”(~まで)。
- “Fast forward to 2010, I got fired.”
(2010年には、解雇されたのです。)
– - “Fast forward to Tokyo at the end of the century.”
(その世紀末の東京に話を進めます。)
ー - “The movie scene fast forwards to 1920s.”
(映画の場面は1920年代に飛ぶ。)
– - “Fast forward nine years when I marry her.”
(彼女と結婚する9年後に話を一気に進めます。)
※ 「終点」でなく目的語なので、”to” 不要
ー - “I wish I could fast forward to the future.”
(未来に飛べたらいいのに。)
– - “I want to put her career in fast forward.”
(彼女のキャリアを急成長させたい。)
ー - “We always fast forward through commercials.”
(皆たいていコマーシャルを飛ばす。)
ー - “Let’s fast forward to the present.”
(話を現在まで進めましょう。)
【関連表現】
“move forward”
https://mickeyweb.info/archives/7144
(前進する、行動を起こす)