Fast forward to -
2024/07/05
~ まで話を進めて、 ~ まで早送りして、 ~ に時は流れて
再生機器のボタンでお馴染みの 「 早送り 」。
ISO規格で標準化されている記号がこちら。
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5108B : Fast run ; fast speed
https://www.iso.org/obp/ui#iec:grs:60417:5108B
ISO 7000 / IEC 60417
” Graphical Symbols for Use on Equipment ”
( 機器に用いる図記号 )
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◆ ” fast forward ” は、名詞及び動詞として使われる。
「 早送り 」の趣旨は一貫する。
※ 形容詞用法もあるが、 まれ
「 早送り 」から、 なにかを早く進める 意味に発展した。
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語源は、 テープデッキの早送り。
初出は、 名詞 1948年、 動詞 1974年。
カセット、 ビデオをはじめとする磁気テープに
親しんだ世代であれば、「 早送り 」 のじれったさ
を覚えておられるだろう。
キュルキュル鳴る音に耳をそばだてつつ、 やきもき
しながら、 目当ての箇所を探る 「 早送り 」 の苦労。
命中の暁には、 新鮮な喜びに包まれたもんだ。
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1990年代までは、 ラジオは主にラジカセで録音していた。映画は、 ビデオデッキから、 オーディオケーブル1本で音声出力。
VHSからカセットテープに音声入力し、 ウォークマンで音声再生。
インターネット普及後に振り返ると、 なんだか冗談めいた話だが、
私にとっては、 なんの変哲もない学習習慣で、 久しく定着していた。
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◆ ここでの ” fast ” は、 形容詞 「 素早い 」。
「 ファストフード 」は素早く作れる食品だから、 ” fast food “。
語源は、 古英語 「 しっかりした 」( fæst )。
【発音】 fǽst
【音節】 fast (1音節)
◆ ” forward ” には、 形容詞・副詞・名詞・他動詞・自動詞
がある。
【発音】 fɔ́ːrwərd
【音節】 for-ward (2音節)
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成り立ちは、
- for – ( 前へ )
- – ward( ~ の方向へ )
– 形容詞 「 前方の 」「 進歩した 」「 早熟の 」
– 副詞 「 前へ 」「 先へ 」
– 名詞 「( バスケ・サッカーなどの )フォワード 」「 先物 」
– 他動詞 「 転送する 」「 進める 」
– 自動詞 「 早送りする 」「 転送する 」
既記のように、初出は名詞が先( 1948年 )。
デッキの「 先送り 」が始まり。
ー
よって、副詞の「 先へ 」が該当すると考えられる。
動詞であれば、 自動詞 「 早送りする 」。
◆ 球技の ” FW ” とは、 ” forward ” の略。
最前線に位置する前衛である、FW のイメージぴったり。
また、 電子メールの ” FW “、 ” FWD ” も ” forward ” で、
「 転送( する )」。
- “Please feel free to forward this email to anyone else
who would be interested in attending.”
( ご参加されたいと思う方に、 ご自由に転送ください。)
– - “Forwarded for Action“
( 転送させていただきましたので、 ご対応願います )
※ 社内メールの件名または本文 → 決まり文句に近い
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なお、 四輪駆動の ” FWD ” は、 ” forward ” に無関係で、
” four-wheel drive ” または ” four-wheel driving ” の略。
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◆ 反意語の筆頭は、” backward “。
- back – ( 後へ )
- – ward ( ~ の方向へ )
【発音】 bǽkwərd
【音節】 back-ward (2音節)
” move backward ” なら、「 後退する 」。
” move backward and forward ” で、「 行ったり来たりする 」。
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◆ “fast – forward” とハイフン入りの「複合語」で
表記されることも多い。
ハイフンの有無には、ばらつきが見られる。
その旨を明記する辞書もある。
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” fast-forward “
noun
1. ( sometimes not hyphenated )Collins English Dictionary, 12th Edition
【参考和訳】 ハイフンを用いない場合もある
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◆ まず、英英辞典9点の項目立てを確認する。
- fast-forward ( LDOCE6、ロングマン )
ー動詞・名詞
– - fast-forward ( OALD9、オックスフォード )
ー動詞
fast forward
ー名詞
– - fast-forward ( CALD4、ケンブリッジ )
ー動詞
– - fast forward ( COBUILD9、コウビルド )
ー動詞・名詞
– - fast-forward ( Macmillan Dictionary )
ー動詞
fast forward
ー名詞
– - fast-forward ( Merriam-Webster )
ー動詞・名詞
– - fast-forward ( 同 Learner’s Dictionary )
ー動詞・名詞
– - fast-forward ( Collins English Dictionary, 12th Edition )
ー動詞・名詞
– - fast-forward ( Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition )
ー動詞
fast forward
ー名詞
動詞・名詞ともに < ハイフンつき > が最多。
< ハイフンなし > は、COBUILD9を除けば、名詞のみ。
だが、ハイフンの有無に有意義な違いがある
とは言い難い。
信用の置ける英語サイトの実例を調べてみると、
品詞を問わずハイフンなしも相当目立つ。
この点、 ” as is ” と似た傾向。
「 もう適当すぎだわ … 」 と感じ入るほど。
上掲の 名だたる英英辞典でも不統一。
ー
そう神経質にならずに、 論は分かれるものくらいに
考えればよい。
とはいえ、 ハイフンの基礎知識 は押さえておきたい。
【発音】 háifn
【音節】 hy-phen (2音節)
名詞を飾る形容詞の場合、ハイフンを入れて表記するのが原則。
2語以上の語が他の語を修飾する場合は、 ハイフンでつなぎ、
「 複合修飾語 ( compound modifier )」 にする。
「 ハイフネートの原則 」 である。
” fast-forward ” は、 名詞と動詞ゆえ、 それぞれ
複合名詞( compound noun )と複合動詞 ( compound verb )。
本稿では、 便宜上ハイフンなしを採用する。
ー
◆ 「 早送り 」 の意味合いを貫く点は、 既に触れた。
ー
すなわち、「 早送り 」 から想定できる語義ばかりで、
多義ではないということ。
派生語義の代表は 「 なにかを早く進めること 」。
殊に < 時点 > の案内に起用される。
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例えば、
fast forward to 2050
- 2050年まで、話を進めて
- 2050年まで、時を進めて
- 2050年まで、時は流れて
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Fast forward to 2050
What does the future hold ?
( 2050年には、 どうなっているのやら )
【 初稿日 】 2018年10月17日
◆ ニュース記事では、 過去から現在に向けての
事象を解説する際に多用される。
ー
” fast forward ” を用いて、 未来への展望を述べている
上図のようなケースは、 はるかに少ない印象がある。
ー
なぜなら、 検証済みの内容を語る方が、 リスクが低いからである。
未来予想の当否が、 専門家としての能力を反映する
となれば、 むやみに取り上げる機会を回避するはず。
「 ◯◯ 年 の ■■ 」 などと銘打つ、 近未来の予測本を
上梓したものの、 大外れだった事例は枚挙にいとまがない。
とりわけ、 投資分野で目立つ。
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–
–
未来は 誰にも 分からない
–
きっと 「 未来は未知 」 こそ、 この世の定めであり、
世の理 ( ことわり ) ・ 世の常 ・ 世の習いなのだ。
–
-
You never know
what the future holds.
– -
No one knows
what the future holds.
–
-
Who knows
what the future holds.
–
◆ 先行き不確実の中で事業継続していくためには、 企業は競合他社に
先んじて手を打ち、 投資を重ね、 将来の事業を創造していく必要がある。
方向性を確認の上、 ロードマップを作成し、 共有するのが初歩的な戦略。
既述の通り、 本質的に未来予測が困難なのは致し方ないのだが、 競争の
優位に立つべく、 技術の進化を予想する技術予測に大金を払ったりする。
未来の市場・展望を分析した産業別情報を販売する専門機関も複数ある。
◆ 概ね的中しているのは、 人口統計 ( demographics ) くらいか。
出生率 ( birthrate ) などの数値から、 今後の推移を見通せる。
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The future that has already happened.( 既に起こった未来。 )
Peter Ferdinand Drucker ( 1909-2005 )
ピーター・F・ドラッカー 社会生態学者
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◆ さて、上記9点の英英辞典の中から、分かりやすい
語釈を精選してみる。
「 早送り 」の語義は、 五十歩百歩で無個性だったため、
列挙せずに抄出したい。
最初に、 語源通りの基本的意味から。
単純なので、 語釈も例文も1つずつ。
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「 早送り 」
録音・録画の再生を、通常より早い速度で
進めること。
( 広辞苑 第七版 ) 2018年1月発行
▼ 広辞苑の旧版の語釈 ▼
録音・録画テープなどを、通常より早い速度で
進めること。
( 広辞苑 第六版 ) 2008年1月発行
( 広辞苑 第五版 ) 1998年11月発行
” fast forward ”
■ noun [ uncountable ]
a button or control that moves a recording
forward to a later point without playing it.
( OALD9、オックスフォード )
” fast-forward “
■ verb [ intransitive, transitive ]
1. to wind a tape or video forwards quickly
in a machine without playing it.
( LDOCE6、ロングマン )
【発音】 ˌfæst ˈfɔːrwərd
–
ここでは、 先述のキュルキュル音の「 早送り 」
を説明する名詞と動詞。
デジタル世代にとっては、イメージするのが難しいかも。
これが広辞苑の 「 テープ 」 部分が消えた一因であろう。
名詞は、 不可算名詞( uncountable )。
動詞は、 自動詞( intransitive ) と 他動詞( transitive )。
意味することは、「 早送り 」そのもの。
- “Press the fast forward button.”
(早送りボタンを押して。)
– - “Let’s fast forward the tape.”
(テープを早送りしましょう。)
– - “Let me fast forward to the next song.”
(次の曲に早送りさせて。)
– - “People tend to fast forward ads while watching television.”
(テレビの広告を飛ばす傾向が見られる。)
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” ad ” とは、 ” advertisement ” の短縮形。
–
可算名詞 「 広告 」、 形容詞 「 広告の 」の意。
–
【発音】 ǽd
【音節】 ad (1音節)
–
【発音】 æ̀dvərtáizmənt
【発音】 ad-ver-tise-ment (4音節)
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” LDOCE6 ” に詳述した。
–
以上は、 理解しやすい 「 早送りする 」。
【 活用形 】
fast forwards – fast forwarded –
fast forwarded – fast forwarding
–
◆ 次いで、 「 なにかを早く進める 」 の ” fast forward “。
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先の図を思い出していただきたい。
若干複雑なので、 語釈は2つずつ。
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” fast forward “
■ noun
2. the act or condition of speeding up
and advancing.
( Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition )
■ 2. (informal) a state of urgency or
rapid progress.
( Collins English Dictionary, 12th Edition )
” fast-forward “
verb [ intransitive, transitive ]
2. to move quickly to a later point in a
story.
( LDOCE6、ロングマン )
to advance to a later time at an accelerated
speed.
( Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition )
–
◇ ” accelerated ” =
形容詞 「 加速された 」 → 「 早送りされた 」
【発音】 ˌfæst ˈfɔːrwərd
–
名詞 「 早送りすることまたはその状態 」。
動詞 「 時を早送りして進めること 」。
「 早送り 」から派生した中身であることは、
容易に分かるだろう。
起点を過去に置く傾向については上述の通り。
その理由も考察した。
表題に ” to ” を加えたのは、この用法こそ、
メディア報道で使われやすいからである。
「 時の終点 」 を示す前置詞 ” to ” ( ~ まで )。
- “Fast forward to May 31, 2022. I got fired.”
(2022年5月31日まで話を進めると、 解雇されたのです。)
– - “Fast forward to today, I often go makeup-free.”
(今はといえば、ノーメイクでいることもよくあります。)
– - “Fast forward to Tokyo at the end of the century.”
(その世紀末の東京に話を進めます。)
– - “Fast forward a few weeks, and the world had become
a different place.”
(それから数週間が経ち、世界は見違えるように変わっていた。)
ー - “The movie scene fast forwards to the 1920s.”
(映画の場面は1920年代に飛ぶ。)
ー - “I wish I could fast forward to the future.”
(未来に飛べたらいいのに。)
– - “I want to put her career in fast forward.”
(彼女のキャリアを急成長させたい。)
ー - “We always fast forward through commercials.”
(皆たいていコマーシャルを飛ばす。)
ー - “Let’s fast forward to the present.”
“Let’s fast forward to the present day.”
(話を現在まで進めましょう。)
– - “Fast forward to now and they have a thriving business.”
(彼らの事業は今では羽振りがよい。)
– - “Fast forward a few more months and I found out
she was cheating on me.”
(さらに数ヶ月後、 彼女が浮気をしていることが分かった。)
※ 「 終点 」 でなく目的語なので、 ” to ” 不要
– - “Fast forward nine years when I marry her.”
(彼女と結婚する9年後に話を一気に進めます。)
※ 「 終点 」 でなく目的語なので、 ” to ” 不要
–
【関連表現】
” move forward ”
https://mickeyweb.info/archives/7144
( 前進する、 行動を起こす、 先に進める )