Shrug off
2023/08/09
受け流す、あしらう、 一笑に付す、 相手にしない、
スルーする
” shrug ” とは、「 肩をすくめる 」 行為。
すなわち、 両肩をちぢめる動作。
欧米人がよく見せるこの身振りは、
多くの日本人には馴染みのないもの。
肩って、 ちぢむ部位なのか?
首なら分かるけど。
説明の煩いを避けるため、 ぶっつけから図示する。
◆ まずは、筋トレの “ shrug ”。
上背部の筋肉を鍛える上で欠かせない種目である。
特に、 首から肩、 背中に伸びる 僧帽筋( trapezius )
に効果がある。
ポイントは、「 腕を伸ばしたまま、 肩を真上に上げる 」 。
肩を高く上げる際に、 肩をすぼめてちぢませる。
肩をすくめる運動なので、 名付けて ” shrug “。
日本でも、 昔から 「 シュラッグ 」。
–
僧帽筋を鍛える肩の筋トレ 「 シュラッグ 」
–
使用器具により、 バーベル・シュラッグ( 左上 )、
ケトルベル・シュラッグ( 右下 )、 ダンベル・シュラッグ
などがある。
◆ お次は、 絵文字の “ shrug ”。
日本発祥の 「 絵文字 」 は、 ” emoji ” として世界中に普及している。
- ” I signed off the post with a sad face emoji. ”
( 悲しい顔の絵文字で投稿を締めくくった。) 😔
たくさんの絵文字なら、 名詞の複数語尾 “ s ” を伴い、 ” emojis “。
【発音】 imóudʒi
【音節】 e-mo-ji (3音節)
「 イ モゥ~ ジ~ 」 「 イ モゥ~ ジ~ス 」 と私には聞こえる。
英語に取り込まれる際、 出だしの母音の発音は、 /i/ になってしまった。
/i/ は、 「 イ 」 と 「 エ 」 の中間的な感じで、 短く発音する母音の
短母音 ( short vowel )。
–
【参考】 UnicodeのEmojiの一覧 ( 外部サイト )
–
–
◆ 2016年に ” unicode ” 入りした、 “ shrug ”( U+1F937 )は、
顔文字では、
–
¯\_(ツ)_/¯
–
有名な海外の辞書サイトでは、 こうやって使っている ( Urban Dictionary )。
どうしても 「 ツ 」 に見えてしまうが、 目と口のつもり。
◆ 実際の絵文字は、使用機器やソフトウェアの種類でデザイン
の異なる場合がほとんど。
ここで、主要企業の “ shrug ” 女子をご紹介したい。
十人十色の名花、と堂々披露の晴れ舞台になるはずが、
一様にぽかんとした顔持ちで、 万歳する絵姿。
–
ー
–
【出典元】 https://emojipedia.org/shrug/
※ 2018年10月23日 アクセス
全部この時点の図柄 → その後、 大幅に改善されている
けったいな美女10名。
なんだかもったいない。
十把一絡げの駄作に感じてしまう。
ー
もうちょい丁寧な絵図に仕上げられなかったのだろうか。
それでも、肩をすくめる姿勢は確かに認められる。
◆ なお、「 降参 」する際に、 両手を挙げることがある。
ー
両肩をすくめず、「 お手上げ 」するだけ。
多くの国で共通する手振りである。
- throw up one’s hands
- throw one’s hands up
( 降参する )
複数形 ” hands ” で、 まさしく「 お手上げ 」。
両手を、上に( up ) 投げ出す感じ。
–
◆ ” one’s ” には、通常は人称代名詞の 所有格 を入れる。
すなわち、次のいずれか。
- my 私の
- your あなたの
- his 彼の
- her 彼女の
- their 彼らの
- our 我々の
- its それの
” one’s ” は、所有格の代表形 として、
辞書などで起用される。
具体的には、不定代名詞( an indefinite pronoun )
” one ” の所有格が ” one’s “。
上記の所有格を代表する。
–
いわば、所有格のワイルドカードとして使われる。
【参照】 ” On one’s terms ”
–
おてあげ【御手上げ】
( 両手をあげて、降参を表すことから )
全くどうにもしようがなくなり、 途方にくれること。
( 大辞林 第四版 )
–
旗幟鮮明で、分かりやすい。
◆ ” shrug off ” は「 お手上げ 」と違い、 意味深長である。
のっぺりした無表情のオンパレードから推察できるが、
あまり感じのよい仕草とは言えない。
” shrug ” 女子の残念な表情は、 単に絵柄の問題ではない。
その内心を素直に反映しているのである。
- さあね
- 知らんわ
- 分かんない
- ばっかみたい
- こいつ、なんなの
明け透けな無関心(indifference)をうそぶく態度。
これが「肩をすくめる」= “shrug” の含む意味合い。
具体的な言動は、
どれも定訳に近い。
状況に応じて適用する。
–
■ うけながす【受け流す】
まともに応じないようにして、さりげなくかわす。
ほどよくあしらう。
■ かわす【躱す】
身をひるがえして避ける。
■ あしらう
いい加減にあつかったり、応対したりする。
■ いっしょうにふす【一笑に付す】
笑ってとりあげない。
■ いなす【去なす・往なす】
相手の攻撃・追及を軽くあしらう。
( 広辞苑 第七版 )
–
◆ 単語としても、 ジェスチャーとしても、 この有様。
ー
「 相手にしない 」素振りをむき出しにする。
状況にもよるが、一応の礼儀に欠けるに違いない。
「 一応の 」と書いたのは、「 相手にしない 」方が
都合よい場面も、 往々にして生じるのが衆生界だから。
” shrug ” することで、 不快な相手を 上手にかわす。
ぷいと横を向いたり、 さっと 席を立つ 具合。
罵詈雑言を浴びせるよりも、よほど品がある。
こうした態度も ” shrug ” で描写できる。
したがって、 悪いばかりではない行為と考えられる。
時に あっぱれな振る舞い として、 称賛される ことすらある。
※ 例文参照
–
例えば、 挑発された時や事実無根のうわさを流された時。
うまく ” shrug ” して、 相手にしないこと。
- “I am shrugging off him for now.”
(とりあえず彼をかわしておいたわ。)
◆ こうして意味満載な ” shrug “。
ー
基本的な心証は、 好ましくないことは押さえておきたい。
絵文字をずらり並べたのも、全員の冷たげな表情が
それを象徴しているからである。
人数からして、 1人くらい笑顔を見せてもよさそうなものだが、
皆無である事実が 原則ネガティブ を示唆する。
◆ これまで ” shrug ” の説明ばかりしてきた。
ー
ところで、 表題の ” off ” はどうなったのだろうか。
それでは、 各単語を見ていこう。
” shrug off ” は 句動詞( phrasal verb )。
句動詞の基本的定義は、
「 前置詞または副詞と一緒に用いることで、
元々の動詞とは異なる意味 となる複数の単語 」。
” shrug off ” の場合、” shrug ” の意味をそのまま引き継ぐ。
副詞 ” off ” を加えることで語義は拡大するが、
骨子は ” shrug ” 同然。
よって、定義通りの句動詞から少々外れる。
【参照】 句動詞の詳細 → “ follow through ”
–
◆ 4大学習英英辞典( EFL辞典 )では、
” shrug something off / aside “
to treat something as if it is not important.
( OALD9、オックスフォード )
” shrug something off “
– to treat something as if it is not important
or not a problem.
– to get rid of something unpleasant that
you do not want.
( CALD4、ケンブリッジ )
” shrug off “
If you shrug something off, you ignore it or treat
it as if it is not really important or serious.
( COB9、コウビルド )
” shrug something ↔ off “
to treat something as unimportant and not worry about it.
( LDOCE6、ロングマン )
◇ 「 ↔ 」位置の入れ替え可能
※ 下線は引用者
–
下線部がポイント。
- not important / unimportant
( 重要でない ) - unpleasant
( 不快な ) - ignore
( 無視する )
ネガティブな中身で、上述した内容と一致する。
◆ ” shrug ” には、他動詞・自動詞・名詞がある。
–
【活用形】 shrugs – shrugged – shrugged – shrugging
語源は、中期英語「 肩をすくめる 」( schruggen )。
どの品詞も、語源に沿った意味ばかり。
– 他動詞 「 肩をすくめる 」
– 自動詞 「 肩をすくめる 」
– 可算名詞 「 肩をすくめること 」
” shoulders ” があってもなくても「 肩をすくめる 」なので、
次の2文の基本的意味は同じ。
- “He shrugged his shoulders.”
- “He shrugged.”
( 彼は肩をすくめた。)
英英辞典の語釈も似たり寄ったりなので、列挙するに及ばない。
代表して、CALD4 をご案内。
最も簡潔だったからである。
–
” shrug “
verb [ Intransitive or Transitive ]
to raise your shoulders and then lower them in
order to say you do not know or are not interested.
” shrug “
noun [ Countable ]
the action of raising and lowering your shoulders
to express something.
( CALD4、ケンブリッジ )
【発音】 ʃrʌ́g (1音節)
–
・ verb [ Intransitive or Transitive ] = 自動詞または他動詞
・ noun [ Countable ] = 可算名詞
※ 下線は引用者
–
” not interested ” → 「 興味ない 」 → 「 無関心 」
で、” unimportant ” や ” unpleasant ” と同様、 つれない言葉。
” shrug off ” では、 他動詞の ” shrug ” で「 肩をすくめる 」。
他動詞の句動詞なので、句他動詞( transitive phrasal verb )。
◆ 副詞 “ off ” は、非常に多義。
–
ここでは「 離れて 」という 空間的な分離 を示す。
この副詞 “ off ” と同じ用法には、 次の句動詞がある。
- back off ( 引っ込んでろ、後ろに下がれ )
- stand off –( 近寄るな )
- keep off –( 立ち入るな、立入禁止 )
- hands off –( 触るな )
- laugh off –( 笑い飛ばす、笑ってごまかす )
- fend off –( かわす、 寄せ付けない )
- ward off –( かわす ) ※ “ fend off ” とほぼ同義
- fight off –( 撃退する ) ※ “ fend off ” とほぼ同義
–
◆ 以上より、句他動詞 “ shrug off ” の直訳は、
「 肩をすくめて離れる 」
「 肩をすくめて離す 」
–
要は、 関わり合いになりたくないとの意思表示 である。
勢揃いした女子の冷淡な面持ちを、 今一度思い出そう。
” shrug off ” の心は、
- さあね
- 知らんわ
- 分かんない
- ばっかみたい
- こいつ、なんなの
その結果、
いずれも ” shrug ” の説明に挙げた内容である。
句動詞 ” shrug off ” に重なる旨は既に触れたが、
英和辞典の自他動詞 ” shrug ” は、「 肩をすくめる 」
にとどまる記述が目立つ。
実際には ” shrug ” 1語のみでも、これらの意味まで
カバーし、 ごく日常的に使われている。
もっとも、 英和辞典ではカッコを加えることで、
含意を明示する語釈が多い。
以下は、日本が誇る錚々たる「 英和大辞典 」4点。
” shrug “
研究社 新英和大辞典 第6版
自
( 不快・絶望・驚き・疑惑・冷淡などを表して )
( 両 )肩をすくめる。
他
1. < 両肩を >すくめる。
2. 両肩をすくめて ~ を表す。
–
ランダムハウス英和大辞典 第2版
他
《 無関心・軽蔑・疑問・不快などを表して 》
( 手のひらを上にして )< 両肩を >すくめる。
自
両肩をすくめる。
–
ジーニアス英和大辞典
他
< 人が >< 肩 >をすくめる
《 両肩をあげ、手のひらを上に向けて両手を広げ、
不快・疑い・絶望・無関心・当惑・不賛成などを示す 》
自
1. 両肩をすくめる。
–
新編 英和活用大辞典
肩をすくめる; 無視する, 軽視する.
【発音】 ʃrʌ́g (1音節)
–
各カッコ書き( 緑字 )の補足説明を勘案すれば、
” shrug off ” の意味合いに通じる。
前述の通り、 ” shrug ” も ” shrug off ” も、大抵すげない態度。
その一方で、状況次第では「 あっぱれ 」な評価もなされる。
例えば、
- ” He shrugged off their racial slurs. ”
( 彼らの口にした人種差別的な中傷を彼は受け流した。)
– - ” She managed to shrug off all the pressure. ”
( 彼女はあらゆるプレッシャーを見事かわした。)
– - ” He shrugged the pain off. ”
( 彼は痛みを無視した。)
– - ” She shrugged off sleep and continued her work. ”
( 彼女は眠気を意に介せず、 仕事を続けた。)
– - ” They shrugged off the problem. ”
( 彼らはその問題をかわした。)
– - ” He shrugged off the bullies. ”
( 彼はいじめっ子たちを相手にしなかった。)
– - ” She shrugs off the President’s insults. ”
( 彼女は大統領の侮辱を無視する。)
小気味よい勝ちっぷり。
快哉を叫ぶとは、こういうこと。
鮮やかな対抗手段として、” shrug off ” は有効。
反対側から表現すると、それぞれこんな風。
- ” Their racial slurs were shrugged off by him. ”
( 彼らの人種差別的な中傷は彼に受け流された。)
– - ” All the pressures were shrugged off by her. ”
( あらゆるプレッシャーは彼女にかわされた。)
– - ” The pain was shrugged off by him. ”
( 痛みは彼に無視された。)
– - ” Sleep was shrugged off as she continued her work.”
( 眠気は振り払われ、彼女は仕事を続けた。)
– - ” The problem was shrugged off by them.”
( その問題は彼らに無視された。)
– - ” The bullies were shrugged off by him.”
( いじめっ子たちは彼に相手にされなかった。)
– - ” The President’s insults are shrugged off by her.”
( 大統領の侮辱は彼女に無視される。)
上記の言い換えには、やや不自然なものもある。
” shrug off ” の 受け身用法は、さほど一般的でない。
あくまでも学習上の比較目的なので、 ご了承いただければと願う。
◆ ここで考えていただきたいのは、” shrug off ” の印象が
立場によって大きく異なる点である。
対抗手段として用いると、胸のすく清々しさが伴ったりする。
和製俗語として定着した 「 スルー 」に似通う効果がある。
–
スルー【 through 】
■ 〔 「 通過 」 「 通す 」 などの意 〕
俗に、やり過ごすこと。気にしないこと。無視すること。
( 大辞林 第四版 )
■ (3)〔新〕聞き流すこと。 やり過ごすこと。 無視。
( 明鏡国語辞典 第三版 )
※ 語釈の該当項のみ引用
–
「 原則ネガティブ 」な印象を伴うものの、 使い方次第で、
すこぶる痛快な気分 が込み上げてくる。
これぞ ” shrug off ” の持ち味で、 既記の「 あっぱれ 」である。