Follow through
2021/01/01
(1) 最後まで約束を守り通す (2) 最後までやり抜く
この2つの意味は、大して違わない。
二分して分かりやすくしたものの、趣旨は同じ。
–
「 完遂する 」とひと括りにしても、的外れとまでは言えない。
かんすい【完遂】
完全に成し遂げること。
|最後までやり遂げること。
(精選版 日本国語大辞典)
終わりまですっかりなしとげること。
(明鏡国語辞典 第二版)
何があっても「最後まで」「終わりまで」突き進むのが、
“follow through”。
それぞれ図で表すと、こんな具合。
–
(1) 最後まで約束を守り通す

–
取り決めに従う
–
–
(2) 最後までやり抜く

目標を遂行する
–
◆ “follow through” のあかつきには、小躍りしたくなる
喜びと、果てしない安堵が胸いっぱいに広がったりする。
あぁ、やっと終わった … よかった …
誰しも味わったことのある満足感ではないだろうか。
目的を追求し、立派にやり抜いたのだから、
本人に自信と達成感をもたらすに違いない。
行動力と実力を発揮して生み出した成果。
信用が増し、周囲の評価もぐっと上がる。
こうして、すがすがしい好感を与えるのが、
“follow through” の基本イメージ。
やり遂げる人は、このような効果に精通している。
–
◆ “follow through” は、句動詞(phrasal verb)。
- 動詞 “follow“
- 副詞 “through“
句動詞 “follow through” は、自動詞にも他動詞にもなる。
すなわち「句自動詞」及び「句他動詞」。
–
句動詞の場合、自他動詞を兼ねるものは少数派である。
「句自動詞」または「句他動詞」のいずれかが一般的。
<句自動詞と句他動詞の区別>
数あるオンライン英英辞書のうち、
句自動詞と句他動詞の区別が明確なのが、
マクミラン。
他に比べると、識別が容易。
※ 2021年1月 現在
“follow through”
PHRASAL VERB
[INTRANSITIVE / TRANSITIVE]
to continue doing something until it has been completed.
https://www.macmillandictionary.com/dictionary/british/follow-through_1
【発音】 ˈfɑːl.oʊ.θruː
【強勢(アクセント)】 fóllow thróugh
- 句動詞 (phrasal verb)
- 句自動詞 (intransitive phrasal verb)
- 句他動詞 (transitive phrasal verb)
【参考】 ※ 外部サイト
まずは、「句動詞」のおさらい。
「前置詞または副詞と一緒に用いることで、
元々の動詞とは異なる意味となる複数の単語」
これが、句動詞の基本的定義。
定義を当てはめると、
- “follow” → 「元々の動詞」
- “through” → 「副詞」
そして、”follow through” の内容は、既記の通り、
(1) 最後まで約束を守り通す
(2) 最後までやり抜く
(1) と (2) は、“follow” に通じるため、
「異なる意味」ではないだろう。
したがって、句動詞 “follow through” は、
定義にぴたりと当てはまるものではない。
定義にあつらえ向きの句動詞を挙げると、例えば、
- “rule out” ※ 句他動詞
(排除する、不可能にする)
– - “beef up” ※ 句他動詞
(強化する、増強する)
– - “square off” ※ 句自動詞
(対決する構えをとる、対決する)
「元々の動詞」である “rule”、”beef”、”square”
から推測しにくい意味をなす。
皆目見当がつかない「複数の単語」セット。
–
よって、3つとも句動詞の基本的定義に該当する。
いわば「句動詞中の句動詞」。
–
◆ これから表題 “follow through” を分解していく。
2単語の中身とつながりを確認し、「句動詞中の句動詞」に
なりえない理由を考察してみたい。
■ “follow” には、他動詞・自動詞・名詞がある。
【発音】 fɑ́lou
【音節】 fol-low (2音節)
【活用形】 follows – followed – followed – following
語源は、古英語「後についていく」「従う」(folgian)。
どの品詞の語義も、語源に忠実なものが中心。
「追う」と押さえておけば、基本はOK。
– 他動詞「~に続く」「~についていく」
– 自動詞「~に続く」「~についていく」
– 名詞「追うこと」 ※ マイナー用法
自他動詞の基本的意味は重なり合う。
自他動詞を兼ねる “follow through” から推察できるように、
“follow” は自動詞も他動詞も等しく存在感が強い。
現に、動詞 “follow” は英単語として最頻出かつ最重要。
- 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
- 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
(ロングマン、LDOCE6 の表記より)
全項目、最高ランクの位置づけを誇る。
–
◆ おまけに、SNSが隆興する昨今、カタカナ「フォロー」
の出番もひっきりない。
日本の世間一般に普及し、日頃から身近に感じるレベル。
特定の人を「フォローする」と言えば、固定読者になること。
「フォロアー」は 名詞 “follower” で、その固定読者を指す。
『広辞苑』の「1. 追跡」の範疇であり、”follow” の語源に沿う。
フォロー【follow】
1. 追跡すること。
2. 補い助けること。
(広辞苑 第七版)
※ 語釈の該当項のみ引用
一方、「2. 補い助けること」は、和製語に近い。
“follow” 単独で他者を支援する意味合いは、英語にはないと考える。
今回、4大学習英英辞典(EFL辞典)に加えて、
ネイティブ用辞書など5点の “follow” を丹念に調べてみた。
結果として、”help” や “assist” 周辺の語義は見つからなかった。
名詞 “follow-up” または 句動詞 “follow up” であれば、
その要素を若干含むかもしれないが、それよりは、
- 継続調査
- 追跡調査
- 追い打ちをかける
これらの方が、普通の意味。
相手のためよりは、目的に向けての補足に主眼を置く。
むしろ、利己的な印象。
「他者の補助」を意味する “follow” を、私は見聞きしたことはない。
好意的に他者を助ける “follow-up” にも、ほとんど接したことがない。
【参考】 ※ 外部サイト
にもかかわらず、調べた国語辞典5点全部がその種の「補う」を記す。
そのため、「2. 補い助けること」は和製語に近いと考える。
動詞 “follow” の基本イメージ
■ 目標達成のために、ひたすら追い続ける
■ 執念深いほど生真面目な執拗さを帯びる
真摯な「追求」こそ、”follow” の持ち味。
だが、ガツガツしたしつこさは、対人関係では嫌われがち。
–
“follow” は、思いやりから漂う、心温まる雰囲気とは無縁である。
既述の「すがすがしい好感」とは、主に実行力に対する称賛。
–
上掲の図を、今一度ご覧いただければと思う。
–
「最後まで」「終わりまで」従う真剣勝負の世界。
「新人をフォローする」みたいな親身な情はそぐわない。
–
「部下をフォローした」と業務報告すべく、
- ” I followed her. “
見上げた話だが、この表現はまずい。
–
ことによると「 彼女を尾行した 」になってしまう。
助けるどころか、ストーカー。
- I helped her out.
- I offered my assistance to her.
- I lend her a hand.
- I gave her a hand.
日本流の「フォロー」=「2. 補い助けること」
ならば、上記の英文の方が適切。
シンプルな上、変に勘ぐられないで済む。
英語ネイティブもよく使う。
–
–
◆ 一途なひたむきさが持ち前の “follow” に、
副詞 “through” を付け足すとどうなるか。
“through” もまた、生一本な性質を有する。
■ “through” には、前置詞・副詞・形容詞がある。
【発音】 θru (1音節)
ー→ “th”(θ) の発音は、”smooth out” 参照
語源は、古英語「通して」(thurh)。
“follow” と同じく、語源に忠実な語義中心。
– 前置詞「~を通り抜けて」「~を貫いて」「~を通して」
– 副詞「通り抜けて」「ずっと」「通しで」「最後まで」
– 形容詞「通り抜けられる」「直通の」
漢字「通」を多用する、この一覧から読み取れるように、
「通る」「貫通」の意味合いばかりで、まさに語源通り。
ゴール目指して一筋を貫く様子が “through” であり、
自律的でポジティブな語感を放つ。
“sit through” より再掲すると、
前置詞と副詞の “through” は、重要度・頻出度とも最上位を占める。
こちらも、動詞 “follow” と同様。
“follow through” では、副詞の “follow”。
若者に人気の和製俗語「スルー」は、煩わしさを「切り抜ける」
ための、胸のすくような対抗手段を表す。
–
以下、”shrug off”(受け流す、あしらう)より、これまた再掲。
スルー【through】
■ 〔原義は通過などを意味する前置詞・副詞・形容詞〕
俗に、やり過ごすこと。気にしないこと。無視すること。
(大辞林 第三版)
■ 〔俗〕聞き流すこと。やり過ごすこと。無視。
(明鏡国語辞典 第二版)
–
◆ “through” は、ひたすら追求の “follow” と似た者同士で、相性抜群。
–
2語が組む相乗効果により「完遂」するまでの描写が強化されていく感じ。
動詞 “follow” と内容がかぶるため、
「元々の動詞とは異なる意味」を旨とする句動詞の定義から外れる。
–
その反面、”follow through” の一貫性は理解しやすく、強みとなる。
中級学習者なら、英文の語釈もすっと把握できる。
“follow through”
■ to do what needs to be done to complete
something or make it successful.
(LDOCE6、ロングマン)
“follow through (with something)”
“follow something through”
■ to finish something that you have started.
(OALD9、オックスフォード)
【発音】 ˈfɑːl.oʊ.θruː
【強勢(アクセント)】 fóllow thróugh
–
◆ 句動詞として、2つの意味があることは冒頭で触れた。
(1) 最後まで約束を守り通す
- ”She failed to follow through on her commitment.”
(彼女は約束を守らなかった。)
– - “The government did not follow through on policy promises.”
(政府は方針の公約を守らなかった。)
– - “It is important to follow through all the rules.”
(すべてのルールに従うことが大切である。)
– - “How to Follow Through on Your New Year’s Resolution”
(新年の抱負を守り通す方法)
- “To follow through is to take action that has been planned.”
(遂行するとは、計画された行動を起こすことです。)
(2) 最後までやり抜く
- “How to follow through with your marathon”
(マラソンを完走する方法)
– - “My son wants to be a doctor.
Hopefully, he will follow through.”
(息子は医者になりたがっている。
達成できればいいのですが。)
– - “Don’t just say it, let’s follow through on it.”
(口先だけでなく、これをやり抜きましょう。)
– - “He never follows through to the end.”
(彼は最後までやり抜いたことがない。)
– - “We will follow through on tougher background checks.”
(より厳しい身元調査を遂行します。)
以上は、(1) と (2) の区別が比較的容易な文。
–
◆ 続いて、応用編。–
2019年8月~9月発表のニュースから抽出。
- “US and China follow through on tariff threat”
(米中が制裁関税を発動)
– - “The US administration wants China to follow through
on its promise to buy more US agricultural products.”
(米国政府は、米農産物の購入量を増やすとの約束を
守るよう中国に求めている。)
– - “China did not follow through on its plan to buy more
American agricultural products.”
(中国は米農産物の購入量を増やす計画を守らなかった。)
– - “UN Chief Appeals for Donors to Follow Through on
Ebola Pledges”
(国連事務総長、エボラ公約を守るよう援助団体に懇願)
– - “G7 should follow through with African aid promises.”
(G7はアフリカ支援の約束を守るべきである。)
– - “President talks tough to adversaries –
but doesn’t always follow through”
(敵に対して強気な発言をする大統領、
だが遂行するとは限らない)
(1) か (2) か、迷いそうなものも含まれる。
–
しかし、両者の意味は大同小異。
それほど神経質になる必要はない。
この点も、冒頭で述べた。
◆ 本稿で挙げた用途は、日常会話及びビジネス場面である。
スポーツで使う “follow through” は、日英ともども有力らしい。
今回調べた英英・英和・国語辞典のすべてに載っていた。
名詞の初出は1869年。 ゴルフのスイングから始まった模様。
とんと不案内な分野なので、めぼしい語釈をそのままご紹介する。
フォロースルー【follow-through】
■ 野球・テニス・ゴルフなどで、打球の際、
最後まで振り切ること。
(精選版 日本国語大辞典)
■ [球技で]投球や打球のあと、うでをそのまま
ふりきる動作。
(三省堂国語辞典 第七版)
次いで、EFL辞典から2点。
“follow through”
■ phrasal verb with follow (verb)
to complete the movement of hitting, kicking, or
throwing a ball by continuing to move your arm or
leg in the same direction.
(CALD4、ケンブリッジ)
“follow-through”
■ noun [singular]
the continued movement of your arm after you
have hit the ball in tennis, golf etc.
(LDOCE6、ロングマン)
※ [singular] は「単数名詞」のことで、
単数形で使われるのが一般的な名詞
【発音】 ˈfɑːl.oʊ.θruː
【強勢(アクセント)】 fóllow thróugh