A long time coming
2020/01/05
長い時間がかかった
<4語ワンセット>の形容詞イディオム。
“a long time in coming” の省略形であるが、
前置詞 “in” 抜きで普及している。
“long in coming” と “long coming” も同義。
“in” 入りは、時に<文語扱い>されるほど後退している。
この由来を知らない英語ネイティブが普通にいる印象。
ー
◆ 頻出には至らないものの、見聞きする機会は
珍しくない形容詞句。
ー
口頭でも文面でも、日常的に出てくる。
にもかかわらず、このイディオムを説明する
一般辞書は非常に少ない。
主要な英和・英英辞典もろとも見つからなかった。
–
1語ごと(word by word)と異なり、
<4語ワンセット>では、なかなか載っていない。
だから、ここで取り上げたい。
有名どころのオンライン英英辞典で、唯一記載
されていたのが『メリアム ウェブスター』。
『ウェブスター』がついているので、アメリカ系の辞書。
→【参照】”LDOCE(ロングマン現代英英辞典)”
“a long time coming”
arriving or happening after a lot of time has passed.
(Merriam-Webster)
この直訳は「長い時間をかけて達した、または生じた」。
時間的に「長い道のり」だったことを示している。
苦労したけど、今、ようやくたどり着いたよ…
こんな安堵の気持ちが含まれることの多い表現である。
–
“finally it is coming” という感じ。
主格となる内容は、必ずしも有益なものとは限らない。
–
しかし、この4語を用いた当事者にとっては、その価値を認める
からこそ、「長い時間をかけて」追求し続けている。
その気持ちは、上記直訳には明確に表出されていない。
だが、使用例を多数確認すると、その大半に喜びと安堵が
含まれている様子。
ー
とすれば、そうした場面に使われるのが一般的と推測できる。
よって、和訳時は、その心情を適宜考慮して訳出する。
◆ 英文和訳は、
直訳で間に合うものと、含意を読みとるべきもの
とに大きく分けることができる。
“a long time coming” は後者であり、
暗に意味する要素も表現する方が的確になったりする。
これは「解釈」というよりも、実質的な意味合いとなる。
恣意的に推量し、付け加えているのではなく、この形で
常用されているのであれば、その方が自然という流れ。
ー
辞書には、カッコ入りで記載される箇所である。
この辺りが言語の難しさで、学習者を悩ませる。
日本語でも同様だろう。
「長い時間をかけて到達した」と見聞きすれば、
これに伴う喜怒哀楽がいろいろ浮かび上がる。
- やっとこさ
- 辛うじて
- つらかった
- よくやった
- 遅すぎ
- ぐず
- 怠慢
- 弱虫
- 遅刻
- 負け犬
最適解は文脈次第。
–
この点、”long overdue“(延び延びになっている)
と意味も用法もよく似ている。
“a long time coming” の場合、使い手にとっての含意は、
概ね「喜び」「安堵感」。
「やっとこさ」「よくやった」という感情。
和訳は、必要に応じてニュアンスを反映させる。
<分かりやすい>翻訳には大切な考え方である。
「直訳」が分かりづらい一因は、この部分が足りないため。
→【参照】日英は言語が大きく異なるので工夫が必須
その度合いは状況によるが、主観的すぎるのはご法度。
<原文が主、翻訳は従>の主従の原則は重要。
いわゆる「超訳」は、この原則を崩していたりする。
読みやすくなるはずである。
◆ 冒頭に記したように、”a long time coming” は、
“a long time in coming” の省略形
- 不定冠詞 “a“
- 形容詞 “long“(長い)
- 可算名詞 “time“(時間)
- 前置詞 “in“(~の状態) ※ 省略が多め
- 形容詞 “coming“(来るべき)
a long time + in + coming → 形容詞句
— 名詞句 前置詞 – 形容詞
この中で、焦点となるのは、形容詞 “coming”。
“coming” には、形容詞と名詞がある。
自動詞・他動詞・名詞の “come” から派生した。
ここでは、(1)「来るべき」。
–
したがって、直訳は「長い時間をかけて来るべき状態」。
–
先述の「長い時間をかけて達したまたは生じた」
(Merriam-Webster)と重なる。
–
◆ 形容詞句なので、be動詞の直後が基本となる。
すなわち、
be、am、was、been、will be、is、were、are
に続く。
- “True success is a long time coming.”
(真の成功には時間がかかる。)
– - “The answers to all your questions
will be a long time coming.
I’ll get back to you later.”
(あなたの質問すべてに回答するには
長い時間がかかります。
後ほど、ご連絡いたします。)
–
- “My father’s promotion was a long time coming.”
(父の昇進には長い時間がかかりました。)※ 過去形
–
- “We hired a new employee.
It’s been a long time coming.”
(新たに従業員を雇用した。
長い時間がかかりました。)※ 現在完了形
–
- “I passed the exam at last.
It was a long time coming.”
(ついに試験に合格しました。
ここまで長い道のりでした。)※ 過去形
––
- “Finally I got a new car.
It’s been a long time coming.”
(やっと新車を手に入れた。
ものすごく時間がかかった。)※ 現在完了形
–
ニュアンスの問題も、既に述べた。–
引っかかるとすれば、<時制>だろう。
–
特に、例文にもある「過去形」と「完了形」。
→「※」のある最後の4文
私たち日本人学習者には、この区別が難しい。
特に勘案しないで訳すと、同じ和訳になってしまうが、
どちらも間違っていない。
- “it was a long time coming”
過去形(長い時間がかかった) - “it’s been a long time coming”
現在完了形(長い時間がかかった)
※ it’s = it has
「完了形」は、日本語に存在しない概念 に近い。
英語ネイティブであっても、本来の「完了形」の代わりに、
シンプルな「過去形」で口頭表現することは少なくない。
日本人が<時制>が苦手でも、何ら不思議はないのだ。
“I’ve had it” で詳述したように、日本語にそぐわない
時制の文法は、原文で慣れるのがベスト。
以下、再掲。
基本をしっかり 学んだ後は、
文法の教科書から早めに離れ、ひたすら
英文を多読し、慣れてしまう方が早い。
母語に存在しない文法を、母語中心で学ぶ
方法には必ず限界がある。この点に気づくべき。
基礎固めが終わったら、さっさと原文に移ろう。
ー
<時制の復習のためのお勧めサイト>
・ 英語の時制はたったの12種類