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A long time coming

      2023/05/10

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長い時間がかかった  

「 4語ワンセット 」 の形容詞イディオム。

” a long time in coming ”  の省略形であるが、
前置詞  ” in ”  抜きで普及している。

” long in coming ”  と  ” long coming ” も同義。

” in ” 入りは、 時に < 文語扱い > されるほど後退している。

この由来を知らない英語ネイティブが普通にいる。

◆  頻出には至らないものの、 見聞きする機会は
珍しくない  形容詞句

口頭でも文面でも、 日常的に出てくる。

にもかかわらず、 このイディオムを説明する
一般辞書は非常に少ない印象。

主要な英和・英英辞典もろとも見つからなかった。

1語ごと( word by word ) と異なり、
「 4語ワンセット 」 では、 なかなか載っていない。

だから、 ここで取り上げたい。

有名どころのオンライン英英辞典で、 唯一記載
されていたのが 『 メリアム ウェブスター 』。

『 ウェブスター 』がついているので、 アメリカ系の辞書。

【参照】 ” LDOCE ( ロングマン現代英英辞典 )

 


a long time coming

arriving or happening after a lot of time has passed.


メリアム ウェブスター
https://www.merriam-webster.com/dictionary/a%20long%20time%20coming

※  2023年5月10日 アクセス


以上が全文である。

“  idiom  ” ( イディオム )と明記する。

すなわち、「 慣用句 」「 成句 」「 熟語 」 。

【発音】  ídiəm
【音節】  id-i-om (3音節)

 

直訳は 「 長い時間をかけて達した、 または生じた」。

時間的に 「 長い道のり 」 だったことを示している。

  苦労したけど、 今、 ようやくたどり着いたよ…  


こんな安堵の気持ちが含まれることの多い表現である。

finally it is coming ” という感じ。

主格となる内容は、 必ずしも有益なものとは限らない。

しかし、 この4語を用いた当事者にとっては、 その価値を認める
からこそ、「 長い時間をかけて 」 追求し続けている。

その気持ちは、 上記直訳には明確に表出されていない。

だが、 使用例を確認すると、その大半に喜びと安堵が
含まれている様子。

とすれば、 そうした場面に使われるのが一般的と推測できる。

和訳時は、その心情を考慮して訳出する。

◆  英文和訳は、

直訳で間に合うものと、

行間に潜む実意( 含意 )を汲み、

ニュアンスに練り込んで訳出するもの

とに大きく分けることができる。


” a long time coming ”  は後者であり、

暗に意味する要素も表現する方が的確になったりする。

これは「 解釈 」というよりも、実質的な意味合いとなる。

恣意的に推量し、付け加えているのではなく、この形で
常用されているのであれば、その方が自然という流れ。

辞書には、カッコ入りで記載される箇所である。
この辺りが言語の難しさで、学習者を悩ませる。

日本語でも同様だろう。

「 長い時間をかけて到達し、 実現した 」 と見聞きすれば、
これに伴う喜怒哀楽がいろいろ浮かび上がる。

  •  やっとこさ
  •  辛うじて
  •  つらかった
  •  よくやった
  •  遅すぎ
  •  ぐず
  •  怠慢
  •  弱虫
  •  遅刻
  •  負け犬

文脈次第で、 適宜盛り込んでいく。

この点、 ” long overdue ” ( 延び延びになっている )
と意味も用法もよく似ている。

” a long time coming ” の場合、使い手にとっての含意は、
概ね 「 喜び 」「 安堵感 」 というポジティブさが目立つ。

「 やっとこさ 」「 よくやった 」 という感情。

和訳は、 必要に応じて ニュアンス を反映させる。

< 分かりやすい >翻訳には大切な考え方である。

「 直訳 」 が分かりづらい一因は、この部分が足りないため

【参照】

その度合いは状況によるが、 主観的すぎるのは ご法度

原文が主、 翻訳は従 >   の主従の原則は重要。
話者が主、 通訳者は従 >  も同然。

いわゆる 「 超訳 」 は、 この原則を崩していたりする。

読みやすくなるはずである。


◆  冒頭に記したように、 ” a long time coming ” は、

“a long time in coming” の省略形

  • 不定冠詞  a
  • 形容詞  ” long ( 長い )
  • 可算名詞  ” time ( 時間 )
  • 前置詞 in ( ~ の状態 )  ※  多くは省略される
  • 名詞 coming ( 到達、 到来  )

a long time  +  in  +  coming  →  形容詞句
 名詞句       前置詞  –   名詞


この中で、 焦点となるのは、 名詞  ” coming “。

“ coming ” には、  形容詞と名詞がある。

自動詞・他動詞の  “ come ”  から派生した。



オンライン語源辞典  ” Online  Etymology  Dictionary ”
https://www.etymonline.com/search?q=coming
2022年12月13日 アクセス


ここでは、 動詞を名詞の働きに変える 「 動名詞 」
( verbal noun  または  gerund  ) の  ” coming “。



英文法解説  改訂三版 』  p. 361.

江川 泰一郎 ( 著 )
金子書房、 1991年刊

<出版社HP>    <アマゾン>    <楽天ブックス>

※  下線は引用者


直訳は 「 長い時間をかけて到達した状態 」。

先述の 「 長い時間をかけて達したまたは生じた 」
Merriam-Webster ) と重なる。

◆  形容詞句なので、 be動詞  の直後が基本となる。

すなわち、
be、 am、 was、 been、 will be、 is、 were、are
に続くことが多い。

  • “True success is a long time coming.”
    (真の成功には時間がかかる。)
  • The answers to all your questions
    will be a long time coming.
    I’ll get back to you
    later.”
    (あなたの質問すべてに回答するには
    長い時間がかかります。
    後ほど、ご連絡いたします。)

  • “My father’s promotion was a long time coming.”
    (父の昇進には長い時間がかかりました。)  ※  過去形

  • “We hired a new employee.
    It’s been a long time coming.”
    (新たに従業員を雇用した。
    長い時間がかかりました。)    現在完了形

  • “I passed the exam at last.
    It was a long time coming.”
    (ついに試験に合格しました。
    ここまで長い道のりでした。)  ※  過去形

  • “Finally I got a new car.
    It’s been a long time coming.”
    (やっと新車を手に入れた。
    ものすごく時間がかかった。)    現在完了形

 

形容詞がなぜ 「 be動詞 」 に続くのかは、 ” aware ”  にて詳述している。

ぴんとくる ことがなければ、 おさらいしていただければ幸い。


◆  be動詞の直後が基本なので、 文法上は比較的単純。

ニュアンスの問題も、 既に述べた。

引っかかるとすれば、< 時制 >だろう。

特に、 例文にもある「 過去形 」 と 「 完了形 」。

私たち日本人学習者には、この区別が難しい。

特に勘案しないで訳すと、 同じ和訳になってしまうが、
どちらも間違ってはいない。

  • ” it was a long time coming”
    過去形 」  past tense 
    長い時間がかかった
  • ” it’s been a long time coming ”
    「 現在完了形 」  present perfect
    長い時間がかかった
    ※ it’s  =  it has

「完了形」は、日本語に存在しない概念 に近い。

英語ネイティブであっても、 本来の「 完了形 」の代わりに、
シンプルな 「 過去形 」 で口頭表現することは少なくない。

具体例は、 ” He is in a better place now. ”  に挙げた。

過去形と完了形の区別についても、 事細かにご案内している。

 

I’ve had it ” でも触れたように、 日本語にそぐわない

時制の文法は、 原文で慣れるのがベスト

以下、 再掲。

 –
本を
しっかり 学んだ後は、

 文法の教科書から早めに離れ
ひたすら
 英文を多読し、慣れてしまう方が早い。

母語に存在しない文法を、 母語中心で学ぶ
方法
には必ず限界がある。 この点に気づくべき。

  基礎固めが終わったら、さっさと原文に移ろう

さもないと、 まともに英語を使うこともなく、  教材やるだけで人生が終わる。

教材大国ゆえか、 教本に依存したまま寿命が尽きる、 背筋の凍る未来像。

英語教育産業の思う壺。

英語資格と教材学習がもたらすリスクは、 ” no need ”  で暴き出した。

知らぬ間に逸脱し、 あらぬ方向に突き進みがちな日本人学習者の
痛ましき姿を描写し、 予防策も詳らかにした。

→  主として、 中級学習者  対象の長文 ( 動画入り )

【参考】    ※  外部サイト

・  英語の時制はたったの12種類

 

 

 

 

 

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