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Kiss - goodbye

      2019/12/30

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~におさらばをする  

“kiss – goodbye” と「おさらばをする」。
または「おさらばになる」。
ニュアンスがかなり似通った表現である。

おさらばをする
別れる。縁を切る。この世を去る。
(精選版 日本国語大辞典)

おさらばになる
それきりの関係になる。絶交する。
(広辞苑 第七版)

日常用途の「おさらば」には、ふざけた感が伴う
場合が多い。

深刻な絶交や死は、非日常的な出来事であろう。
普段使いは、もっと気軽で気楽。

「おさらば」
1.〚感動〛(「お」は接頭語)
別れる際に言うあいさつの丁寧な言い方。
主として男性が用いる。さようなら。

2.〚名詞〛(「お」は接頭語)
別れること、縁を切ること、この世を去ることを
多少ふざけた気持をこめていう。

(精選版 日本国語大辞典)

※ 下線は引用者

本来の語釈通りだと、重すぎてそうそう使えない。
下線部の要素があってこそ、出番が訪れるもの。

現に、日頃「おさらば」を耳にするのは、おどけた
場面が多い。これぞ日常用途だと考える。

だが「別れる」の本質は変わらない。
つらくて悲しい気持ちがにじみ出るのが自然である。

ここに「ふざけ」「おどけ」の入り込む余地はあるか、
ということだが、大人なら経験上理解できるだろう。

つらく悲しく未練があるからこそ、自虐的に戯れて
しまう、あのハイな状態。切ないものである。

強がりとも言うが、フロイトによれば「防衛機制
(defense mechanism)の一種。

傷つき、もろくなった自我の安定を保つための、
無意識的な心理作用を指す。


◆ この心の働きは、”kiss – goodbye” の使用場面

とも重なる。

つらい、悔しい、恨めしい、そんな無念さを押し殺し、
平気の平左をよそおう心理は、きっと言語不問。

そんな時、”kiss – goodbye” と言ったり、書いたり。

ダッシュ部には目的格を入れる。
つまり、おさらばする対象。

人物に限らず、無生物でもよい(例文参照)。

人称代名詞であれば、
me / you / him / her / us / them / it
のいずれか。

◆ “kiss” も “goodbye” も、日本社会に久しく
根付いた英語である。

表題が「~にさようならのキスをする」を意味

することは、おおよそ分かるだろう。

LDOCE6(ロングマン)の指標によれば、英単語
としての重要度は、2語とも「トップ3000語以内」
で、最高ランクに位置する。

◆ “kiss” には、他動詞・自動詞・名詞がある。
【発音】  kís
語源は、古英語「キスする」(cyssan)。
「チュッ」みたいな擬音語である。

表題では、他動詞「キスする」。

◆ “goodbye” は間投詞のみ。

【発音】  gù(d)bái
「間投詞」(interjection)とは、
感動や応答を表す語で、単独で文となりうる呼掛け言葉。

【例】”Oh ! “、”Oops ! “、”Alas ! “、”Whoa ! ”
Gross ! “、”Snap ! “、”Welcome back ! “、
Well done ! “、”Barf ! “、”Check

語源は、“God be with you(ye)
(神があなたと共にあられますように)
の短縮形。
goodby“、”good-bye“、”good-by” とも表記する。

「~にさようならのキスをする」は、
~に別れを告げる」ということ。

接吻する行為は必須でなく、比喩として使える。

その比喩が、さらに発展して「~におさらばする」。
この派生の流れは、日本語にも見られる。

◆ 冒頭に記したように、日英は似通っている。

使い勝手の共通点についても、先述の通り。
そのため感覚的に把握でき、分かりやすい。

初出は1935年。

 Figurative (and often ironic) 
kiss (something) goodbye is from 1935.

https://www.etymonline.com/word/kiss

※ “figurative (and often ironic)
= 比喩的(そしてしばしば皮肉な)

文字通りの「さようならのキス」と異なり、比喩
用法には “informal” と表示する英英辞典が多い。

すなわち、くだけた非正式な表現。
しかし、ニュースにも使われ、一般的に下品さはない。

3大学習英英辞典(EFL辞典)にもこの記載がある。
※ 黄ハイライト

“kiss goodbye to something / 
kiss something goodbye”

informal
to accept that you will lose something or

lose an opportunity to do something.
(LODCE6、ロングマン)

 

“kiss something goodbye / 
kiss goodbye to something” 

informal
to accept that you will lose something
or 
be unable to do something.

(OALD9、オックスフォード)

 

“kiss something goodbye”
ALSO “kiss goodbye to something”

informal
to accept that you have lost something or
that you will not be able to have
 something.

(CALD4、ケンブリッジ)

3冊の語釈は酷似している。 違いは時制のみ。

前段において、LDOCE6とOALD9は「(単純)未来形」、
CALD4は「完了形」を用いている。

何かを失う(失った)こと、または
何かができなくなることを受け入れること

とある。

チャンスを失った喪失感

「未練」「自虐」「切なさ」「強がり」
「防衛機制」「悔しさ」「恨めしさ」「無念さ」。

どんな感情か、皆様ご存知のはず。

“kiss – goodbye”、「おさらばする」と諧謔的に
表したくなるのも、ボロボロの自我を守る
ためか。

その心は、”I won’t bite you.” にも通じる。

  • “He could kiss his career goodbye.”
    (彼はキャリアを捨てることもできる。)
    (彼はキャリアにおさらばできる。)
  • “You should kiss your boyfriend goodbye if
    you’re suffering from a toxic relationship.”
    (病的な関係に苦しんでいるなら、彼氏と

    別れるべき。)
    (病的な関係に苦しんでいるなら、彼氏に
    おさらばすべき。)
  • “I can kiss my house goodbye anytime.”
    (いつだってマイホームを捨て去ることができる。)
    (いつだってマイホームとおさらばできる。)
  • “She may have kissed goodbye to her
    chances of promotion.”
    (彼女は昇進の機会を棒に振ったかもしれない。)
  • “The team kissed its hopes goodbye after
    losing to Japan.”
    (そのチームは日本に負けて希望を絶たれた。)

 

 

 

 

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