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In place

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(1)  正しい位置に      (2)  準備万端に      (3)  実施されて

上記3つの 「 状態 」 を表す < 2語ワンセット >。

「 状態 」なので、形容詞  の役割を担う熟語。

(1)  →  (2)  →  (3)  と順繰りに派生した。

成り立ちは分かりやすい。

この流れをイメージできるよう、どでかく 図示してみたい。

(1)  正しい位置に


手始めに、パズルで例える。

目的の場所・位置( place )に、
ぴったりはめこむ( in )状態。

これが  ” in place ”  本来の意味である。

まさに額面通り。

続く (2)と(3)は、ここから発展した。


正しい位置に、 ぴったり配置 


こうして、あの手この手で万全の策を講ずるならば、
結果的に用意万端ととのう。

そこから「 準備万端に 」の意味合いに。


(2)  準備万端に

準備 ばっちり


「 準備万端 」の勢いに乗って、 しっかり 行動に移す
「 実施された 」「 施行された 」 状態に至る。

かくして、そのまま意味をなすことに。

(3)  実施されて

The new Reiwa era is now in place.

【 墨書出典 】  https://www.sankei.com/politics/news/190419



以上3つが  ” in place ”  の主な意味。


◆  上図はイメージに過ぎない。

それでも、最初に ” in place ” の感触をざっくりつかめれば、
話は円滑に進む。

視覚的な手掛かりの一助になればと願う。

さっそく、語義を逐一検討していこう。

 

(1)  正しい位置に


目的の場所・位置( place )に、
ぴったりはめこむ( in )状態。

◆  “ place “ には、名詞・他動詞・自動詞がある。

【発音】  pléis  (1音節)

語源は、 ラテン語 「 広い通り 」( plātea )。

–  名詞 「 場所 」「 位置 」「 地域 」「 土地 」「 店 」
–  他動詞 「 置く 」「 任命する 」「 注文する 」
–  自動詞 「 入賞する 」「 好成績を収める 」

他動詞 「 置く 」 の堅い言い回しとして、 筆舌不問で多用される。

 

名詞  ” place ”  には、可算名詞と不可算名詞がある。

◆  ” in place ” の場合、無冠詞 から推知されるように、不可算名詞

正しい位置に、ぴったり配置 」という 抽象概念

としての位置だから、「 抽象名詞 」。

そのため、不可算。

◇  適材適所 と似通う表現
→  特定の場所を、取り立てて指し示す意図は ない


■  「 場違いの
 out of place  ( 後述 )
■  「 時間と場所  
time and place 

と同類の 不可算名詞 ” place “。

ぼんやりして、つかみどころのない「 抽象名詞 」

なので、「 不可算名詞 」である。

” time ”  も  ” place ” も、可算・不可算兼用だが、ここでは不可算。

不可算ゆえに、不定冠詞  ” a ” はつかない。

◆  一方、” a better place ” や ” final resting place ” は、

用途を特定・限定した 具体的な場所 を指すため、可算名詞

の ” place ” となる。

  こうした視座は、可算名詞と不可算名詞の区別 の要点そのもの。
  中級学習者 の実力相応の難易度なので、必ず押さえておきたい。


  初学者初級者 の視点であれば、もっとシンプルに、
目に見えるか 」「 形があるか 」「 絵に描けるか


【参考】     ※  外部サイト

可算と不可算を見分ける簡単なコツ
可算と不可算を兼ねる名詞について
可算と不可算についてよくある質問
不可算名詞は「 物質 」「 抽象 」「 固有 」の3つ


【参照】   ” take action “、  ” acting “、  ” paperwork

◆  こちらも、 同様。


I need to find  love  !

love  that will last forever.


■  1文目の  ” love “:
ぼんやりして、つかみどころのない 「 抽象名詞 」の「 愛 」
→  「 不可算名詞 」 だから、無冠詞

■  2文目の  ” love “:
「 永遠の愛 」 として特定・限定した、具体的な 「 愛 」
→  「 可算名詞 」 だから、” a ” つき


  を見つけなければ

永遠に続く    を。


そんな 「 」 は、 衆生界では得難いことからも想像つくだろうが、
つかみどころのない 「 抽象 」 「 不可算 」こそ、名詞  ” love ” の原則。

もっとも、「 恋人 」 を意味する  ” love ” なら、 基本は 「 可算名詞 」。

本物の 「 恋人 」 かは不問。

一応 「 可視の生物 」 ということで、 可算。

【発音】  lʌv  (1音節)

語源は、 古英語 「 愛情 」( lufu )。


◆  不可算名詞の  ” place ” ( 場所、 位置 ) に付随する ” in ” は、
これまた場所・位置を表す前置詞。

「 ~ に 」 「 ~ で 」 「 ~ の中に 」などと和訳される。

前置詞  ” in ” の最も基本となる意味である。

” in place ”  を直訳すると、「 場所に 」 「 場所で 」。

(1)では 「 正しい位置に、ぴったり配置 」 の文脈で使う。


◆  ” COVID-19 ” 関連の頻出表現

【発音】  koʊ.vɪd.naɪnˈtiːn

Coronavirus Disease 2019  ( 新型コロナウイルス感染症 )

【発音】  kəˈroʊ.nəˌvaɪ.rəs


形態が王冠 ” crown ” に似ていることからギリシャ語で王冠を
を意味する ” crown ” という名前が付けられた。


https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
国立感染症研究所  「 コロナウイルスとは 」
2021年09月30日 改訂


【参照】  ” Joce’s YouTube ”  ←  ” crown ” ( 王冠 ) の説明
( 図入り、 写真入り )


◆  2020年3~7月の米国発ニュース見出しをご案内する。

” X ” とは、外出禁止令の対象地域。

■  shelter in place
■  shelter-in-place

今回の ” COVID-19 ” のような感染症の拡大や、有害な
化学物質・放射性物質が放出された際に、屋内へ避難すること。

米国の公衆衛生 ( public health )  用語として確立している。


◆  2020年3月下旬に、私が受信したメール文言をご紹介。


Subject : Shelter-in-Place for X

Residents should remain in their homes
to the maximum extent possible.
Remain in place and wait for further instructions.

( 件名 : X地区は外出禁止
住民は、可能な限り自宅にいること。
その場で、次の指示を待つこと。)

行政などによる警告・勧告( warning )は、

■  shelter in place warning
■  shelter-in-place warning

略して、

■  SIP
■  SPW

この用法の ” in place ” は、(1)  正しい位置に

(2)  準備万端に としても、概ね筋は通る。

(3)  実施されて でも通じそうだが、本来の意味合いは次の通り。

米疾病対策センター( CDC )の解説から一部引用したもの。

2020年4月、地球をうねる潮流は「 人類みな巣ごもり 」か。

◆  加えて、2020年3月発表のニュース見出しがこちら。

上記2つの ” in place ” は、(3)  実施れて


◆ ” shelter in place ” の趣旨は、

安全な場所を目指して「 移動 」することでは ない

そうではなく、

■  Get Inside,  Stay Inside
■  Stay Indoors


現在いる建物から 「 動かない 」 こと。

外出時なら、 最寄りの屋内が原則。

■  Stay at home
■  Stay-at-home
■ 
Stay Home


現実として、自宅内がほとんど。

■  Stay in place
■ 
Stay Put


その場から動くな。
じっとしてろ。


◇  ここでの ” put ” は、「 静止した 」状態。

「 状態 」なので、形容詞。

put ” は、動詞( 他動詞、自動詞 )が圧倒的。

形容詞用法の  ” put ”  は、極めてまれで、
中型英和辞書には載っていないくらい。

出番は、「 2語ワンセット 」 の慣用句、

■  “ stay put   ( じっとしている )

にほぼ限られている。

【発音】  pút  (1音節)

語源は、中期英語 「 押す、 置く 」( putten )。



■  “ stay still ( じっとしている )

と同義。

【発音】  stíl  (1音節)

” still ”  も、ここでは形容詞。

映画宣伝用の「 スチール写真 」は、
” a still photograph ”  や  ” a still “( 名詞扱い )など。

語源は、古英語 「 静止した 」( stille )。

 

◆  ” Shelter in place ”  に備える訓練が行われる職場もある。

2023年8月、 避難訓練当日に届いた実物メール。

メールの件名は、 ” EX EX EX SHELTER IN PLACE EX EX EX “。


All messages will begin and end with

” EXERCISE,  EXERCISE,  EXERCISE. ”


Exercise,  Exercise,  Exercise ”  は、「 これは訓練です 」の意。

” Excercise  Excercise  Excercise  ”  の略記が、 ” EX  EX  EX  “。

訓練前に周知するため、 文面のみならず、 館内放送・公共放送など
でも使われる、決まり文句。

【参考】    ※  YouTube

https://www.youtube.com/results?search_query=%22+Exercise%2C%C2%A0+Exercise%2C%C2%A0+Exercise+%22


こうして  ” Exercise ”  を3回反復するパターンが、 最も一般的。

官公庁や米軍でも使われている。

通りがかりの人を含む、 受け手の誤解と混乱を招かないために、
訓練実施中も、 3回反復をワンセットで繰り返し流したりする。

【発音】   éksərsàiz
【音節】   ex-er-cise  (3音節)

語源は、 ラテン語 「 訓練した 」( exercitium )。

乱射 ・ ロックダウン ・ 消防の訓練については、
別稿  ” Open fire ”  に詳述した ( 図入り )。

 

◆  The Professor at His workplace


Simon Winchester, ” The Meaning of Everything:
The Story of the Oxford English Dictionary

Oxford University Press   (2d ed. 2018).


学帽をきっちりかぶる (  “academic cap firmlyin place”  )、
OED ” 編集主幹の  James Murray  博士 ( 1837-1915 )。

独学で言語学を学んだ偉人。  この著作の主人公の1人。

博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 』( 邦題 )

1998年に 英国で 刊行 された ベストセラー。

実におもしろくて、 かなりおすすめ。

原書、翻訳版とも、 読みやすい文章。

まさしく 「 事実は小説より奇なり 」( Truth is stranger than fiction )。

2019年に 映画化 された。


■  OED ( オーイーディー )

=  ” The Oxford English Dictionary ” ( オックスフォード英語辞典 )

[ 公式サイト ]  →   http://www.oed.com/

1884年にイギリスで刊行が始まり、最新版の第2版は1989年刊。

全20巻、2万1730頁、29万1500の見出し語、62kg。
世界最大の英語辞典である。

語義の配列は、頻出順ではなく、発生順の「 歴史主義 」。
成り立ちを、系統的にたどれる利点がある。

▼  「 縮刷版 」及び「 CD-ROM版」も発売されている  ▼

[ 両方入手済み ]  →   辞書の「自炊」と辞書アプリ

in place

  • すっぽり かっちり 頭に被さる帽子  …  (1)  正しい位置に
  • ” as a symbol ” 以下が帯びる含み  …  (2)  準備万端に

(2)  準備万端に


時々、(1)との違いがはっきりしないケースがある。

特に、 主体が人間の場合。

例えば、

ざっと読むと、 全員が 「 定位置にいる 」 のか 「 準備万端 」 なのか、
よく分からない。

  ばんたん【万端】

  •  (その事に関する)あらゆる事柄。
    また、あらゆる手段。  万般。
    ( 広辞苑 第七版 )
  •  (1)  さまざまのものごと。  一切。
    (2) 〔俗〕〔「万端ととのう」から誤解して〕
    ととのっていること。  万全。
    ( 三省堂国語辞典 第七版 )    ※  2014年刊
  •  (1)  さまざまのものごと。  一切。
    (2) 「 万端(1)」 がととのったこと。  万全
    ( 三省堂国語辞典 第八版 )    ※  2021年刊  → (2)の語釈が変更


一切の準備が整った様子が 「 準備万端 」。

各自が適切に 「 持ち場にいる 」 ことが前提となる。

換言すれば、 担当者がそれぞれ受け持つ場で構える。

要は、 全員配置に就いている。

無生物と異なり、 正しい位置に配置された効果として、
(2)の 「 準備万端に 」 の和訳が多用される印象がある。

とすれば、こんな風に訳せる。

(1)も(2)も、英語なら同じ  ” in place “。

どちらも「 正しくそろっている 」ことに違いない。

矛盾は生じにくいため、 和訳者の解釈に任されたりもする。

この辺りは、そう神経質にならなくてもよいだろう。

その反面、「 準備万端に 」では不自然になる例はある。

無生物を主題とする(1)の文例を再掲すると、

ひとつ挙げると、

頭髪が一糸乱れぬ姿であるが、これを「 準備万端 」
を用いて訳すとすれば「 彼女の髪は準備万端だ 」。

きれいに整っている有様は伝わるものの、描写があいまいに。

こうなると「 あるべき位置にある 」ニュアンスが低減してしまう。

つまり、「 場所・位置 」としての ” place ” の存在感が強めなのが(1)。

(1)こそが、” in place ” の「 本来の意味 」かつ「 額面通り 」
先述したのは、こういうことである。

 

(3)  実施されて


こちらは(2)以上に、「 場所・位置 」としての  ” place ”  から遠ざかる。

確かに、毛色の変わった意味合いである。
しかし、展開を把握することは難しくはない。

繰り返すと、

「 準備万端 」の勢いに乗って、しっかり 行動に移す と、
「 実施された 」「 施行された 」 状態に至る。


前出の3つの図を見返していただければと思う。


◆  ビジネス場面において
は、この(3)が際立つ感がある。

「 実施された 」「 施行された 」の意味からしてビジネス向け。

  じっし【実施】

  • 計画などを実際に執り行うこと。
    ( 大辞林 第四版 )
  • 実際に施行すること。実行。
    ( 精選版 日本国語大辞典 )

  しこう【施行】

  • (1)  実際に行うこと。 実施。
    (2)  公布された法令の効力を発揮させること。
    ▽ 「 執行 」と区別するために官庁などでは「 せこう 」
    ということが多い。
    ( 明鏡国語辞典 第三版 )
  • (1)  ほどこし行なうこと。政策などを
    実行すること。せぎょう。じぎょう。
    (2)  公布された法令の効力を現実に発生させること。
    〔 補注 〕法律用語としては「 せこう( 施行 )」と読む
    慣用もある。
    ( 精選版 日本国語大辞典 )

「 実施 」や「 施行 」が、 カジュアル会話にそぐわないのは、
日本語でも同じ。

先の(1)(2)に比べて、使用場面が限定されることになる。
その結果、(3)はビジネス用法で引き立つことになる。

◆  これまで見てきた(1)から(3)は、
4大学習英英辞典(EFL辞典)でどう説明されているか。

各語釈と突合の上、青字で付番してみる。

” in place “

  •  a)  in the correct position.   →  (1)
     b)  existing and ready to be used.   →  (3)
    ( LDOCE6、ロングマン )
  •  1.  ( also into place )
    in the correct position; ready for something.   → (1) (2)
     2.  working or ready to work.   → (3)
     3.  (North American English)
    =  on the spot (3)  [ =  in one exact place,
    without moving in any direction.].   「その場で」  → (1)に近い
    ( OALD9、オックスフォード )
  • –  If something is in place, it is in its usual or
    correct position.   →  (1)
    –  Organized.   →  (2)
    ( CALD4、ケンブリッジ )
  • If something is in place, it is in its correct or usual position.
    If it is out of place, it is not in its correct or usual position.   →  (1)
    –  If something such as a law, policy, or an administrative
    structure is in place, it is working or able to be used.   →  (3)
    ( COBULD9、コウビルド )

※  ハイライト ・ 赤字 ・ 下線 は引用者


英語学習者向けのEFLは、やはり基本に忠実。

一様に 「 (1)  正しい位置に 」を筆頭に据える。

すなわち、”correct position“。

至る所で見聞きする「 日常英会話 」レベルの表現。
out of place ”  が反意語と書いてある( COBUILD9 )。

先ほど、不可算用法の ” place ” の例として、 こう記載した。

■  「 場違いの “ out of place ”

他方、(2)と(3)は、 たいてい仕事関連で接する。

自分がビジネスの世界に身を置くためか、 ” in place ”
と来たら、「 位置 」云々よりは 「 準備万端 」 または 「 実施 」。

” COBUILD9 ” の下線部、

などの堅苦しい内容は、 日本では 「 ビジネス英語 」 寄り。

◆  ” CALD4 ” は(3)に触れていないので、 兄弟辞典を援用する。

” in place “


和訳時の(1)と(2)と打って変わり、 4大EFL辞典 を含む
英英辞典の語釈では、(2)と(3) の区別に難儀した。

例文を決め手に分別してみたが、 幾分心許ない。

それでも、 語義の大筋を示す趣旨は達成できたと考える

 

◆  ” in place ” は、< 2語ワンセット >で「 状態 」を表すと冒頭で述べた。

それゆえ 「 形容詞の役割 」 を担う熟語である点にも言及した。

その 「 状態 」 とは、 図示した3つが中心。

(1)   正しい位置に
(2)   準備万端に
(3)   実施されて

形容詞ゆえに、「 be動詞 」 に続くのが基本パターンになる。

本稿で示した例文でも、 be動詞(※) の直後の ” in place ”
が過半数を占める。

ぜひご確認いただければと思う。

(※) be、am、was、been、will be、is、were、are

なぜ、 形容詞が 「 be動詞 」 に続くのかは、” aware
で事細かに取り上げた ( 図入り )。

英文法の基本であるので、 ぴんとくる  ことがなければ、
この機会におさらいしていただくとよいかもしれない。

 

【関連表現】

 

【参考】     ※  外部サイト

 

 

 

 

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