プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Stand tall

      2020/11/10

堂々としている。  断固たる態度をとる。  負けない。

コーヒー店で人気のドリンクサイズが「トール」。
「背の高い」を意味する形容詞である。

【発音】  tɔ́ːl  (1音節)

“stand tall” の “tall” もこれ。
ただし、こちらの “tall” は 副詞(後述)。

背の高い “tall” は、背の低い「ショート」(short)の対になるが、
ほとんどの有名チェーン店では、中間層の「M」サイズと同等。

つまり、容量の上回る「L」「LL」相当が、別途設けられている。

スターバックスの場合、「グランデ」と「ベンティ」がそれ。
後に追加された “Grande” と “Venti” で、イタリア語由来。

それぞれ「偉大な、大きい」と「20」を意味する。
「20オンス」だから「ベンティ」。  約591ml。

海外のスタバには「31オンス」の特大「トレンタ」もある。

“Trenta” は、イタリア語で「30」を意味する。  約916ml。
https://customerservice.starbucks.com/app/answers

となると、“tall” は、せいぜい十人並みの「中背」にとどまる。

完全に名前負けした「トール」。 約354ml 。

それでも、安定した注文数を誇り、高止まりなので救われる。


◆  本来の “tall” は、威風堂々とした、かっこいいイメージが強み。

形容詞と副詞がある。表題では 副詞(後述)。

語源は、古英語「すばやい」(getæl)。
16世紀に「背が高い」「勇敢な」の意味合いが加わった。

敏速で自信満々の勇姿は、頼りになりそうで好印象。
だから、”tall” の基本はポジティブである。

この自信が卑しく誇張され、「偉そうに」「得意げに」「大げさに」
を表す口語・俗語まで発展したものの、マイナー用法にとどまる。

「堂々と」「胸を張って」「誇り高く」と聞くと、
反射的に嫌悪する人々も大勢いるのが衆生界。

上記のような<嫌な奴>との反発・反感が世間一般で育んだ末、
ネガティブな語義が発生する流れは、言語不問でよくある現象。

しかし、大半の位置づけは副次的なままだったりする。
後発の、ひねくれた解釈が優越する例はそうそうない。

語源に基づく語意こそ、総じて優勢であり、主流を占める。
歴史という後ろ盾が底力を発揮し、手ごわく生き残るようだ。

換言すれば、「転義」に比べて、
「本義」と「原義」の方が、ずっとしぶとい。

  • 転義 (a transferred meaning)
    →  転じて移り変わって生じた意味
  • 本義 (the basic meaning)
    →  根本をなす本来の正しい意味
  • 原義 (the original meaning)
    →  最初にもっていた、おおもとの意味

【参照】   語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る

“tall” も、成り立ちに沿って、概ね好意的に使われている。

◆  “stand” には、他動詞・自動詞・名詞がある。

語源は、ラテン語「立つ」(standan)。

【発音】   stǽnd  (1音節)
【活用形】   stand – stands – stood – stood – standing

非常に多義だが、表題では語源に沿った自動詞「立つ」。
カタカナ「スタンド」よろしく、気圧される勢いを放つ。

なお、平板で、均一なリズムの日本語では、4音節の
–  – 」だが、英語では「1音節」。

腹の底から ゲロする 迫力で、一息に発声する。

タン

「タン」を強調。

音節」(syllable、シラブル)とは、発音の最小単位。

→  音節の差異が顕著な日英比較は、”integrity” 参照


これから見ていくように、”stand tall” はポジティブな文脈
で使われるのが普通である。


◆  “stand tall” は、ニュース見出しで映えるフレーズ。

さっそく、今月2019年6月発表の記事をご覧に入れたい。

  • “X standing tall in face of adversity”
    (逆境に立ち向かう誇り高き X)
  • STANDING TALL : Y WINS NIGHT TWO
    OF
    THE NATIONALS”
    (Yが堂々優勝、全国大会2日目の夜)
  • “Print ads standing tall even in digital era”
    (印刷広告はデジタル時代にさえ負けない
  • “Texans Standing Tall To Host Forum
    About Underage Drinking”
    (テキサス州民が未成年飲酒のフォーラムを堂々主催)
  • “X standing tall in Stanley Cup Final”
    (スタンリー・カップ決勝で押しも押されぬ X )
  • “Bionic legs get paralyzed veteran back
    standing tall”       ※  掛詞

    (まひに負けず人工義足で再び立ち上がる元軍人)

※ 「X」「Y」 →  原文では、特定のチーム名または選手名

5分程度で採集完了。

かなり楽ちんだったのは、見出しに多用されていたから。
6月の季節柄か、催し物が多数開催されており助かった。

ただ、堂に入るレベルの和訳は容易でない。
日本語で、こざっぱりと人を称えるのは難しいのだ。

称賛しあうような文化でないため、受け手の嫉妬・ひがみ
を刺激しない工夫が必要となる。

【参照】   “integrity“、 “well-liked

気を抜くと、心持ち嫌味を帯びた訳に仕上がる。

そうなると、原文の意向に反した残念な翻訳で終わる。
今回の和訳はいかがだろう。

とにかく、”stand tall” の和訳は一筋縄ではいかない。


◆  上掲の採れたて見出しを教材に、以下考察していく。

集客・販促目的を伴う見出しには、シンプルで見栄えする
華やかさが好まれる。

S” と “T” は、ともに大振りで華のあるアルファベット。
識別が簡単で、人目を引かずにはおかない面構えである。

両者を頭文字に据えた<2語ワンセット>が、”Stand Tall”。

見よ、この惚れ惚れとするインパクトを。

人目に立つので「見出し」にうってつけ

加えて、「堂々と」「胸を張って」「誇り高く」と、
立派な外見にふさわしい中身なので、もう最強。


  見出し英語では、現在時制が基本となる。

過去の出来事であっても、現在形で表すのが原則。
この点、日本の新聞に重なる書式。

したがって、”stand tall” を用いた見出しの場合、

  • 現在形 “stand”(複数)
  • 現在形 “stands”(単数 = 三人称単数現在形の “s”)
  • 現在進行形standing” 

先の見出しは、すべて現在進行形の “standing”。
見出し英語の原則通りである。

◇ 「見出し」英語の解説は、ここが秀逸 ↓
英語ニュースの読み方(見出し編)RNN時事英語

 

◆  冒頭で、”tall” は “short” の対になる形容詞と述べた。

“stand tall” では、形容詞ではなく、副詞である。
“tall” は形容詞が主で、副詞用法はマイナー。

先述のように、語源の古英語「すばやい」(getæl)
から「背が高い」「勇敢な」。
そして「堂々と」「胸を張って」「誇り高く」、
さらには「偉そうに」「得意げに」「大げさに」と派生した。

このうち、「偉そうに」「得意げに」「大げさに」
の意味合いこそ、マイナーな副詞用法である。

辞書で “stand tall” と引けば、副詞 “tall” で出てくる。

後ほど、英和辞典をご紹介する。

◆  まずは、3大学習英英辞典(EFL辞典)からご案内。

“stand tall”

a) to stand with your back straight and your head raised.
b) American English
to be proud and feel ready to deal with anything.
(LDOCE6、ロングマン)

(especially North American English)
to show that you are proud and able to deal with anything.
(OALD9、オックスフォード)

“stand / walk tall”

to act in a proud and confident way.
(CALD4、ケンブリッジ)

青字が示すように、2語熟語としては、主にアメリカ英語
とされるが、イギリス系のメディア報道でも見聞きする。

またCALD4は、”stand tall” と “walk tall” を同義扱いしている。

【参照】  英英辞典の基本 : スラッシュ( / )=「または (or) 」

3辞書の共通語が、形容詞 “proud“( práud

  • 誇りをもっている
  • 自尊心のある

これまた和訳に難儀する単語。
立場や受け止め方によって、良くも悪くも解釈されがち。

「誇り」のさじ加減で、「気位が高い」と「尊大である」
のどちらとも解釈できる。受け手に与える印象も様々。

既に触れたが、和訳時は日本の文化事情を考慮しなくてはならない。
“proud” は、翻訳者の力量が問われる語のひとつである。

すべての語釈に “proud” が含まれている以上、
“stand tall” の訳も同様に厄介と推量できる。

◆  次いで、英和辞書3点をチェック。

■  ランダムハウス英和大辞典 第2版

“stand tall”
自信を持って立つ;(米軍俗)準備ができている

“walk tall”
(話)非常に自信を持つ、胸を張って堂々と歩く、
自分に(正当な)誇りを持つ

副詞 “tall”
1.(話)得意になって、意気揚々と、偉そうに
2.(話)誇張して、大げさに

■  研究社 新英和大辞典 第6版

“stand tall”
《米》自信満々である、堂々としている

“walk tall”
《米口語》自分に誇りを持つ、自尊心を抱く

副詞 “tall”
《口語》法外に、大げさに;偉そうに

■  リーダーズ英和辞典 第3版+リーダーズプラス

“stand tall”
《俗》頭を高くあげている、胸を張っている、
堂々としている
《俗》注意をひくようになる
《軍俗》用意ができている

“walk tall”
胸を張って歩く、自分に誇りをもつ

副詞 “tall”
《口》大げさに
《口》意気揚々と

“proud” に該当するのは、「自信」「堂々と」「誇り」あたり。

当然のことながら、EFLと英和の語釈に矛盾はない。
辞書の語釈だけ見ると、特に困難を感じさせない。

ところが、実際の用例となると、難易度が上がることも。

◆  先ほどの見出しを再度ご確認いただければと思う。

  • “X standing tall in face of adversity”
  • STANDING TALL: Y WINS NIGHT TWO
    OF THE NATIONALS”

  • “Print ads standing tall even in digital era”
  • “Texans Standing Tall To Host Forum
    About Underage Drinking”
  • “X standing tall in Stanley Cup Final”
  • “Bionic legs get paralyzed veteran back
    standing tall

若干調整しているものの、実物を採用している。

中級学習者の実力なら、意味の把握はできるはず。
本稿においても、日英の辞書で再確認した。

副詞用法の “tall” とはいえ、威張って偉そうな様子はない。

どの記事も好意的な内容であり、賛美の眼差しで描写している。
それは、見出しから読み取れる。

だからこそ、「立ち向かう」「負けない」などの意訳を試みた。

さて、ご自分自身であれば、どう訳されるだろうか。

 

◆  折も折、来月2019年7月にリリースされる
THE CHARM PARK” のミニアルバムの名称が、
“Standing Tall”。

シンガーソングライター、Charm(チャーム)による
ソロユニットである。

https://avex.lnk.to/thecharmpark_standingtall

ご本人は、アメリカ系韓国人でアメリカ育ち。
“standing tall” の意味を会得している点に疑いはない

見出しにとどまらず、アーティストのアルバム名を飾る
ほどなので、”standing tall” の威勢のよさは相当のもの。

副詞 “tall” はさておき、世に喧伝される “stand tall” が、
ポジティブ一辺倒に近いことを示唆する好例と考える。

 

 

 

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