プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

In good hands

      2020/01/13

安泰である 

  • You are in good hands.
  • You will be in good hands.

組織のリーダーが交代する際に見聞きする。

その組織で働くすべての人に対する別れの文言。
<3語ワンセット>で、口頭・文面を問わない。

去る立場から、後任者の優秀さを紹介し、
残される者の安心を保証する心強い言葉。

任期を終えるにあたり、後任に敬意を払うばかりでなく、
公式な引き継ぎを周知する趣旨も伴う。

職場の受信メールを “in good hands” で検索すると、
ざくざく出てきた。

  1. Your organization’s future is in good hands.
  2. We’re in good hands here.
  3. I’m leaving you in good hands.
  4. I leave you in good hands.
  5. I leave knowing that you all are in good hands.
  6. Your office is in good hands for the foreseeable future.
  7. I know you will be in good hands.
  8. I have no doubt that the future of our corps is in good hands.
  9. I believe the future of this organization is in good hands.
  10. Our community will be in good hands.
  11. I promise you are in good hands.
  12. His legacy would be in good hands if he stepped down.

全員一律に送付されたお言葉の数々。

2015年1月から2019年6月現在までの4年余りに
流れてきたメールが情報源。

社内共有用に提供された告知もいくつか含むが、
一般的な内容であり、情報漏洩には該当しない。

中級の英語力の持ち主であれば、どれも一目で読み取れるはず。
“in good hands” が分からなければ、一転して全滅かも。

 

◆ とにかく、出番が多い。

歴代のトップマネジメントが好んで使ってきた
言い回しであることを映し出す。

3つの基礎単語のみで、大勢に安心感を与える強み。

頼りになるリーダーが後釜に決定。新たな期待が
芽生え、社内が高ぶり、新鮮な空気で引き締まる。

一新紀元画する見事な効果が確立しているからこそ、
代々重宝されてきたフレーズなのだろう。

力強いシンプル表現の好例である。
即座に把握できるよう、ぜひ押さえておきたい。

 

◆ 皮切りは、1枚の写真。

拳銃着装の制服に、しかめっ面のグラサン姿。
への字に結んだ口元が、お追従知らずの気性を物語る。

そんないかつい保安官が見せる、手慣れた抱っこ。
職務中であることは、誰の目にも明らか。

” You’re in Good Hands Baby Girl 

「もう大丈夫だからね」と我が子をあやすかのように、
がっちりした両腕で、ふんわり確実に抱きしめている。

乳児のすわらぬ首に優しく添えた、武骨で巨大な掌。
しっとり落ち着いた手付きに、繊細な指運びが目を引く。

背後に垣間見えるのは、大破した車両。
大人の無条件の愛があふれ出た、事故現場のワンシーンである。

どぎつい渋面に柔和な物腰という極端な振る舞いのギャップが、
人々の琴線に触れる。

たちまち感動の嵐を巻き起こし、当時のSNSで拡散された。

インパクト満載の記事見出しを飾るのが、”in good hands”。

「巨大な掌」あたりから、”in good hands” の意味を類推できるか。
あたらずといえども遠からずといった案配。


◆ それでは、各種辞書でしっかり確認していこう。

まず、“in safe hands” と同義扱いする英英辞書より。

“in good / safe hands”

  • being taken care of very well.

(メリアム ウェブスター)

https://www.merriam-webster.com/dictionary/in%20good%2Fsafe%20hands 
http://www.learnersdictionary.com/definition/safe%20hands

【参照】
英英辞典の基本:スラッシュ( / )=「または (or) 」
→ “in good hands” または “in safe hands”

“being taken care of very well” は、「とてもよく大切にされている」。

現在分詞 “being” を使用しており、能動的な生感覚がある。

“good”(よい)と “safe”(無事な)は、両方ともポジティブ一途
の形容詞だが、通常は同じ意味に取り扱われない。

しかし、このフレーズでは、同然とする “Merriam Webster”
のような辞書もあるということ。アメリカ系辞書である。

英語学習者用の英英辞典(EFL辞典)は、イギリス系中心だが、
ウェブスター」の名を冠する辞書は、アメリカ系。

Webster’s New World College Dictionary“ も同系列。
弊サイトが日本人にお勧めしているネイティブ向けの辞書がこれ。

【参照】辞書のご案内(写真入り): “tapped out

枠内リンクは、それぞれ一般用と学習者用のオンライン版の
「メリアム ウェブスター」。

“SINCE 1828” と長い歴史を誇示している。


◆ この語釈を図示すると、こんな風。



両手(hands)にくるまれ、大切に保護される安らかな趣。
あたかも大船に乗った気持ちで、ほっとする。

まさしく安泰。

  あんたい【安泰】

  • 無事で安らかなこと。危険、心配などのないこと。
    安寧。安穏。安康。平穏。
    (精選版 日本国語大辞典)
  • おだやかで無事なこと。不安や危険のないこと。
    また、そのさま。
    (大辞林 第三版)
  • おちついて、安全なようす。
    (三省堂国語辞典 第七版)

    ※ ハイライトは引用者

「安泰である」は、”in good hands” の定訳の筆頭。
語釈には、”safe” の要素も歴然と認められる(ハイライト部分)。

抽象的な “good” に比べて、”safe” の方が存在感が強い印象
がしなくもない。

“in good hands” と “in safe hands” が同義だとすれば、
存在感の上回る語が多用されがちと推量可能。

◆ そこで、3大学習英英辞典(EFL辞典)を調べると、
意外な結果となった

“in good hands” は、3辞書に載っていなかったのである。

見つかったのは “in safe hands” だけ。
※ 2019年6月現在の最新版

“be in safe hands”
to be with someone who will look after you very well.
(LDOCE6、ロングマン)

“in safe hands, in the safe hands of somebody”
being taken care of well by somebody.
(OALD9、オックスフォード)

“in safe hands”
being cared for or dealt with by someone skilled.
(CALD4、ケンブリッジ)

これでは話にならないので、兄弟辞書を援用する。
※ 2019年6月現在の最新版、すべて自炊本またはアプリ版

“in good hands”
]行き届いた世話(管理、監督)を受けて、
よく世話されて、安心できる人に任せられて
研究社‐ロングマンイディオム英和辞典

“in safe hands”
比喩的安全な手に、信頼できる人に
オックスフォード 英語コロケーション辞典

“in safe / good hands”
being taken care of by a responsible person or
organization, and unlikely to be harmed or damaged.
Oxford Idioms Dictionary, 2nd Ed.、オックスフォード)

“in good hands, in safe hands”
managed or cared for with great attention.
Cambridge Academic Content Dictionary、ケンブリッジ)

※ 赤字・ハイライトは引用者

主に学習者用とされる以上7点の辞書から結論できるのは、
“in good hands” は、”in safe hands” と同列に論じてよい
ということ。


◆ ご紹介した辞書の項目立ては、”in safe hands” が中心。

本稿のタイトルにはこちらを選択するべきだが、私が
現実に見聞きするのは “in good hands” だらけ。

メールを再検索したが、”in safe hands” はついぞ見つからなかった。

辞書と実用との乖離。なんだか不思議である。
組織の伝統として、”good” が起用されてきただけなのかもしれない。

身近な具体例を採集できなかったため、辞書で優位な “safe”
を差し置いて、”in good hands” と冠することに決めた。

弊サイトの採用基準にて「実際に使われている頻出英語
と標榜する以上、”safe” より “good” を優先した次第。

そもそも同義なのだから、目くじら立てなくてもよいだろう。

とすれば、上掲のメールも、”in safe hands” に置き換え可能。

  1. Your organization’s future is in safe hands.
  2. We’re in safe hands here.
  3. I’m leaving you in safe hands.
  4. I leave you in safe hands.
  5. I leave knowing that you all are in safe hands.
  6. Your office is in safe hands for the foreseeable future.
  7. I know you will be in safe hands.
  8. I have no doubt that the future of our corps is in safe hands.
  9. I believe the future of this organization is in safe hands.
  10. Our community will be in safe hands.
  11. I promise you are in safe hands.
  12. His legacy would be in safe hands if he stepped down.

去りゆくリーダーが「もう大丈夫だからね」と部下をあやすのは妙。

代わりに、定訳「安泰」及び上記『研究社‐ロングマンイディオム
英和辞典
』の和訳を用いて、ざっと和訳してみる。

  1. 皆様の組織の将来は安泰です。
  2. この職場で皆様は安泰です。
  3. 私は皆様を安心できる人に任せていきます。
  4. 私は皆様を安心できる人に任せます。
  5. 全員が安泰であることを知りつつ去ります。 
  6. 皆様の職場はしばらく安泰です。
  7. 皆様が安泰になるだろうと分かっています。
  8. 我が部隊の将来が安泰であることを私は疑いません。
  9. この組織の将来は安泰だと信じています。
  10. 私たちのコミュニティは安泰なはずです。
  11. 皆様の安泰を約束します。
  12. 彼が辞任しても、彼の業績は安全に守られるだろう。

◆ 仕上げに、単語と文法をチェック。

  • 前置詞 “in“(~の中に) ※ 位置 → 状況
  • 形容詞 “good“(よい)
  • 可算名詞 “hand“(手)

ここでは、辞書と図の通り、複数形 “hands“(両手)が常。

“in” と “hands” の関係は、 「手中に収める」「手中にする」
の「手中(しゅちゅう)」と似通っている。

すなわち「手の中」で「よい手の中に」が直訳となる。
safe” なら、「安全な手の中に」。

先述の『オックスフォード 英語コロケーション辞典』が
明記するように「比喩的」。

この英語版には “figurative” とあり、象徴的に使われる
形容詞的表現 あることを示す。

その結果、場所・位置の “in”(~の中に) から転じた、
状況・環境の “in”(~の状態で)を意味する前置詞となる。


◆ 3語は、最頻出かつ最重要の英単語である。

LDOCE6 の指標によれば、全3項目にて最高ランクの位置づけ。

  • 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
  • 書き言葉頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
  • 話し言葉頻出度:最上位 <トップ1000語以内>

片や形容詞 “safe“(安全な)は、少しばかり格が落ちる。

  • 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
  • 書き言葉頻出度:<2001~3000語以内>
  • 話し言葉頻出度:<2001~3000語以内>

“in good hands” と “in safe hands” がともに、
簡素で巧みな言い振りであることに違いはない。

◆ 既述の『研究社‐ロングマンイディオム英和辞典』が「
と表すように、<3語ワンセット>で形容詞的な意味合い。

したがって、次の「be動詞」に続くパターンが基本となる。
→  be、am、was、been、will be、is、were、are

冒頭の2文が典型。

  • You are in good hands.
    (皆様は安泰です。)
  • You will be in good hands.
    (皆様は安泰になるでしょう。)

なぜ、形容詞が「be動詞」に続くのかは、”aware” で詳述した。

ぴんとくることがなければ、ご覧いただければと思う。


【関連表現】

“like you’ve done for me”
https://mickeyweb.info/archives/16191
(あなたが私にしてくれたように、私の時と同じく)

 

 

 

 

 

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