Against all odds
2022/10/05
あらゆる困難をものともせず
悪条件を克服し、 周囲をあっと言わせる成功を
勝ち得た様子を表す 「 副詞 」 的フレーズ。
刻苦の果てに、 勝者になった人を称える典型表現。
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- against all the odds
–
または 形容詞 ” all ” 抜きの
– - against the odds
–
◆ 初めて見聞きすれば、 意味不明かもしれない。
だが、個性的な言い回しなので、一度覚えたら忘れにくい。
文法的には基本に忠実で、そう難しくない。
一目で意味が分かるようにしておくとよい。
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◆ ” against ” には、 前置詞・副詞・形容詞・接続詞がある。
【発音】 əgénst
【音節】 a-gainst (2音節)
前置詞は多義だが、 それ以外の品詞はマイナー用法。
– 前置詞 「 反対して 」「 不利に 」「 対して 」
– 副詞 「 反対で 」「 不利で 」
– 形容詞 「 反対の 」「 不利の 」
– 接続詞 「 ~ に備えて 」 ※ 方言
ここでは、前置詞 「 反対して 」。
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◆ ” all ” には、 形容詞・代名詞・名詞・副詞がある。
【発音】 ɔ́ːl
【音節】 all (1音節)
最頻出は形容詞だが、 それ以外も多用される。
– 形容詞 「 全部の 」「 すべての 」「 いかなる 」「 もっぱら 」
– 代名詞 「 全員 」( ← 複数扱い ) 「 万事 」( ← 単数扱い )
– 名詞 「 全財産 」「 森羅万象 」
– 副詞 「 すっかり 」「 まったく 」「 ひどく 」
ここでは、 形容詞 「 すべての 」。
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◆ ” odds ” は、通例「 複数 」扱いの「 複数名詞 」( plural noun )。
【発音】 ɑ́dz
【音節】 odds (1音節)
最初から ” s ” つきで、 単数にならない名詞。
つまり、 単数形では使われず、 複数扱いが原則の用法。
【例】
doldrums、 grounds、 leftover
belongings、 strings、 clothe
名詞以外に自他動詞もあるが、 動詞はマイナー用法。
辞書によっては、自他動詞を【 俗語 】とする。
( 『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』 など )
– 名詞 「 見込み 」「 勝ち目 」「 確率 」
– 自動詞 「 うまく逃れる 」 ※ マイナー用法
– 他動詞 「 一か八かやってみる 」 ※ マイナー用法
名詞 ” odds ” は細かく見ると多義だが、 基本は上記の通り。
ここでは、名詞「 勝ち目 」。
競馬・競艇・競輪などの掛け率 「 オッズ 」 と重なる。
すなわち、 掛け金に対する配当の率、 倍率を指す。
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◆ 日本最大の国語辞典 と名高い『 日国 』の全文はこちら。
全14巻( 全13巻+別巻 )。
2001年発行。
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『 日本国語大辞典 第二版 』 第2巻、 p. 1223.
小学館( 2001年刊 )より転載
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” against all odds ” では、 語釈(2)が該当する。
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◆ 2020年発行の「 カタカナ語辞典 」は、 もっとシンプル。
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–
『 コンサイス カタカナ語辞典 第5版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 2020年刊
<三省堂HP>
–
前出『 日国 』の語釈(1)には触れていない。
さらに、 2021年発行の国語辞典2点では、
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オッズ 【 odds 】
[名]
競馬・競輪などで、レース前に発表する概算配当率。
掛け金に対する倍率で表される。
『 明鏡国語辞典 第三版 』
北原保雄(編集)大修館書店、 2021年刊
( 物書堂 アプリ版 )
<大修館書店HP>
–
オッズ 【 odds 】
[名]
〔競馬・競輪など〕掛け金に対する配当の率。
予想配当。
『 三省堂国語辞典 第八版 』
見坊 豪紀 ほか(編集)三省堂書店、 2021年刊
( 物書堂 アプリ版 )
<三省堂HP>
–
それぞれ語釈全文である。
◆ 直訳はこんな風。
” against all odds “
- 前置詞 ” against ” ( 反対して )
- 形容詞 ” all ” ( すべての )
- 名詞 ” odds ” ( 勝ち目 )
【直訳】
- すべての勝ち目に反対して
- すべてのオッズに反して
–
転じて、「 あらゆる困難をものともせず 」。
やや脚色めいている気がする。
上掲の直訳のままだと、 日本語として分かりにくい。
穏当な和訳にすると、 こういう感じになる。
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◆ 成り立ちは、名詞・形容詞 の ” odd “( 奇数、 奇妙な )の特殊用法。
【発音】 ɑ́d
【音節】 odd (1音節)
” odd ” の語源は、 古ノルド語 「 奇数 」( oddi )。
「 奇数 」 から 「 奇妙な 」 へ。
” odd ” から ” odds ” に展開した過程は不詳とされる。
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–
the exact sense evolution is uncertain.
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有力なのは、 複数語尾の ” s ” を加えて、 名詞化したとの説。
(『 ジーニアス英和大辞典 』)
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◆ 一見理解しがたいため、 次の短文で考えてみよう。
–
■ The odds are against us.
【直訳】 勝ち目 は私たちに 反対して いる
→ 勝ち目はない
- against all odds
- against the odds
- against all the odds
これらは、 目的格( me、him、her、us、them、you、it )
を含まないが、 内容は先の短文に重なる。
–
前置詞 ” against “( 反対して )の反義語になる
前置詞 ” for “( 味方して )で置き換えると、
–
■ The odds are for us.
【直訳】 勝ち目 は私たちに 味方して いる。
→ 勝ち目はある
–
” for ” は、 以下の ” against ” に比べ、 めったに出てこない印象。
–
” against all odds “
despite something seeming very unlikely.
( ロングマン、LDOCE6 )
※ 下線は引用者
–
◆ 極端に劣悪の条件下では、 押し潰されても不思議でない。
ところが、 そんな周囲の予想に反して、 どんでん返しを打つ
驚きの結末。
人間の可塑性と無限の可能性を再確認できる鮮やかな展開が、
人々の心を動かし、 興奮させる。
一方で、 他者の成功に対する純粋な称賛は現実には珍しい。
とりわけ、 褒め合う色合いに乏しい日本社会では、 周囲の
嫉妬・ひがみを刺激しないよう、 細心の配慮を要する。
【参照】
” integrity“、 ” stand tall “、 ” well-liked “、 ” dazzling “
–
心持ち皮肉を放つ場面が多々生じるのが、 衆生界の常。
【参照】
“Tough luck ! “、 ” Well done ! ” 、 ” Way to go ! ” 、
” Good job ! “、 ” Nice going ! “
◆ だが、” against all odds ” は、 ほぼほぼ嫌味を帯びない。
諸手を挙げて喜ぶ 「 人間賛美 」 のような、 前向きな気概を含む。
同じく、 日本語の
あらゆる困難をものともせず
–
逆境に立ち向かう、頼もしい勇気に満ちており、
思わず応援したくなってくる思いが湧き起こる。
- “She passed the test against all odds.”
(あらゆる困難をものともせず、彼女は合格した。)
ー - “He became a doctor against all odds.”
(あらゆる困難をものともせず、彼は医者になった。)
ー - “The team managed to win against all odds.”
(勝ち目がなかったのに、そのチームは何とか勝った。)
ー - “Against all odds, she survived cancer.”
(治る見込みはなかったのに、彼女はがんから生還した。)
ー
< 映画 ” Against All Odds ” >
邦題 『 カリブの熱い夜 』 ( 米 1984年 )
暗黒の世界に巻き込まれつつ、 危険な恋におちていく
男女のミステリー・ロマン。
絶体絶命の罠にはめられた 主人公( ジェフ・ブリッジス )
が、 どうにか生き延びる姿 こそ、 ” Against All Odds “。
フィル・コリンズの歌う同名主題歌 も大ヒットした。
曲の邦題 『 見つめて欲しい 』。
1984年発表。
ソロとしてのコリンズ( 1951- )初の全米 No.1
がこの曲。
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↑ ジェフ・ブリッジス( 1949- ) の若かりし頃が堪能できる。
米映画 『 ビッグ・リボウスキ 』 ” The Big Lebowski ” ( 1998年 )
ぐうたら主人公 ” The Dude ” を演じたのも ジェフ。
指摘されない限り、 同一人物であると気づかないだろう。