Against all odds
2021/01/09
あらゆる困難をものともせず
悪条件を克服し、周囲をあっと言わせる成功を
勝ち得た様子を表す副詞的フレーズ。
刻苦の果てに、勝者になった人を称える典型表現。
- against all the odds
–
または “all” 抜きの
– - against the odds
初めて見聞きすると、意味不明かもしれない。
だが、個性的な言い回しなので、一度覚えたら忘れにくい。
文法的には基本に忠実で、そう難しくない。
一目で意味が分かるようにしておくとよい。
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◆ “against” には、前置詞・副詞・形容詞・接続詞がある。
【発音】 əgénst
【音節】 a-gainst (2音節)
前置詞は多義だが、それ以外の品詞はマイナー用法。
– 前置詞 「反対して」「不利に」「対して」
– 副詞 「反対で」「不利で」
– 形容詞 「反対の」「不利の」
– 接続詞 「~に備えて」 ※ 方言
ここでは、前置詞「反対して」。
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◆ “all” には、形容詞・代名詞・名詞・副詞がある。
【発音】 ɔ́ːl
【音節】 all (1音節)
最頻出は形容詞だが、それ以外も多用される。
– 形容詞 「全部の」「すべての」「いかなる」「もっぱら」
– 代名詞 「全員」( ← 複数扱い ) 「万事」( ← 単数扱い )
– 名詞 「全財産」「森羅万象」
– 副詞 「すっかり」「まったく」「ひどく」
ここでは、形容詞 「すべての」。
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◆ “odds” は、通例「複数」扱いの「 複数名詞 」(plural noun)。
【発音】 ɑ́dz
【音節】 odds (1音節)
つまり、最初から “s” つきで、単数にならない名詞。
単数形では使われず、複数扱いが原則の用法。
【例】
“doldrums“、 ”grounds“、 ”leftover
”belongings”、 ”strings“、 ”clothe
名詞以外に自他動詞もあるが、動詞はマイナー用法。
辞書によっては、自他動詞を【俗語】とする。
『ランダムハウス英和大辞典 第2版』 など。
– 名詞「見込み」「勝ち目」「確率」
– 自動詞「うまく逃れる」 ※ マイナー用法
– 他動詞「一か八かやってみる」 ※ マイナー用法
名詞 “odds” は細かく見ると多義だが、基本は上記の通り。
ここでは、名詞「勝ち目」。
競馬・競艇・競輪などの掛け率「 オッズ 」と重なる。
すなわち、掛け金に対する配当の率、倍率を指す。
“against all odds”
- 前置詞 “against“(反対して)
- 形容詞 “all“(すべての)
- 名詞 “odds“(勝ち目)
【直訳】
- すべての勝ち目に反対して
- すべてのオッズに反して
転じて、「 あらゆる困難をものともせず 」。
やや脚色めいている気がする。
上掲の直訳のままだと、日本語として分かりにくいためであり、
穏当な和訳だとこうなる。
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◆ 成り立ちは、名詞・形容詞の “odd“(奇数、奇妙な)の特殊用法。
【発音】 ɑ́d
【音節】 odd (1音節)
“odd” の語源は、古ノルド語「奇数」(oddi)から「奇妙な」へ。
“odd” から “odds” に展開していった過程は不詳とされる。
the exact sense evolution is uncertain.
複数語尾の ” s ” を加えて、名詞化したとの説が有力。
(『ジーニアス英和大辞典』)
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◆ 一見理解しがたいため、次の短文で考えてみよう。
■ The odds are against us.
【直訳】 勝ち目は私たちに反対している
→ 勝ち目はない
- against all odds
- against the odds
- against all the odds
これらは、目的格(me、him、her、us、them、you、it)
を含まないが、内容は先の短文に重なる。
前置詞 “against“(反対して)の反義語になる
前置詞 “for“(味方して)で置き換えると、
■ The odds are for us.
【直訳】 勝ち目は私たちに味方している。
→ 勝ち目はある
“for” は、以下の “against” に比べ、めったに出てこない印象。
“against all odds“
despite something seeming very unlikely.
(ロングマン、LDOCE6)
※ 下線は引用者
極端に劣悪の条件下では、押し潰されても不思議でない。
ところが、そんな周囲の予想に反して、どんでん返しを打つ
驚きの結末。
人間の可塑性と無限の可能性を再確認できる鮮やかな展開が、
人々の心を動かし、興奮させる。
一方で、他者の成功に対する純粋な称賛は現実には珍しい。
とりわけ、褒め合う色合いに乏しい日本社会では、周囲の
嫉妬・ひがみを刺激しないよう、細心の配慮を要する。
心持ち皮肉を放つ場面が多々生じるのが、衆生界の常。
【参照】 “Tough luck ! ”
だが、” against all odds ” は、ほぼほぼ嫌味を帯びない。
諸手を挙げて喜ぶ「人間賛美」のような前向きな気概を含む。
同じく、日本語の
あらゆる困難をものともせず
こちらも、逆境に立ち向かう、頼もしい勇気に満ちており、
思わず応援したくなってくる。
- “She passed the test against all odds.”
(あらゆる困難をものともせず、彼女は合格した。)
ー - “He became a doctor against all odds.”
(あらゆる困難をものともせず、彼は医者になった。)
ー - “The team managed to win against all odds.”
(勝ち目がなかったのに、そのチームは何とか勝った。)
ー - “Against all odds, she survived cancer.”
(治る見込みはなかったのに、彼女はがんから生還した。)
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< 映画 ” Against All Odds ” >
邦題『 カリブの熱い夜 』 (米 1984年)
暗黒の世界に巻き込まれつつ、危険な恋におちていく
男女のミステリー・ロマン。
絶体絶命の罠にはめられた 主人公(ジェフ・ブリッジス)
が、どうにか生き延びる姿 こそ ” Against All Odds “。
フィル・コリンズの歌う同名主題歌 も大ヒットした。
曲の邦題 『 見つめてほしい 』。
『 ビッグ・リボウスキ 』( “The Big Lebowski “、米 1998年)で、
“The Dude” 役のブリッジス(1949 – )の若かりし頃が堪能できる。