プロ翻訳者の単語帳

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Take somebody under one’s wing

      2019/04/12

~をかばう、〜の面倒をみる

ずばり「かばう」こと。
未成年はもちろん、時に危うい状態の大人をも対象とする。

堅めのニュース記事・番組でも使われる確立した表現。

“take somebody under one’s care” とほぼ同義。
ただし、”wing” の方が積極的な勢いを放つ感がある。

弱い立場に置かれた者の世話を、自ら引き受ける姿勢を表す。
つまり、慈しみ深い凛々しさで、保護役を務める言動全般。

  かばう【庇う】

■ 他から害を受けそうなもの、また、他から悪く
思われそうなものを、そうならないように守ってやる。
いたわり守る。
(精選版 日本国語大辞典)

■ 他からの危険や非難などが及ばないように守る。
(大辞林 第三版)

■ その人・そのものが苦しみを受けなくてすむように、
おおい包むように守る。
(三省堂国語辞典 第七版)


  ほご【保護】

■ 危険・損害・迫害などが及ばないように、弱い
ものなどをかばい守ること。
(明鏡国語辞典 第二版)

■ 気を付けてまもること。かばうこと。ほうご。
(広辞苑 第七版)

 

※ 語釈の該当項のみ引用

「かばう」「保護」同様、自分より弱い者に対して
用いるのが通常。

例外的に、羽振りがよい人が窮した際にも使われる。
偉い人が不祥事を起こし、四面楚歌に追い込まれた苦境
が代表例。

高転びに転ぶ大物の転落は、無慈悲な好奇の目にさらされがち。
打って変った周囲の冷たさ。 きつい。

ざまあみろ

そんな針のむしろに、いたたまれない恥辱感。 つらい。

  非難を浴び、傷つき、参ってしまった者を、
 そっと自分の翼の下にかくまうイメージ。  

image.pngーー  複数形 “wings” も使われている  


こうした構図は、表現内容から想像可能であろう。

◆ 表題の直訳は、「ある人を誰々の翼の下に連れていく」。

  • 他動詞 “take”(連れていく)
  • 代名詞 “somebody”(ある人)
  • 前置詞 “under”(下に)
  • 所有格 “one’s”(誰々の)
  • 可算名詞 “wing”(翼)

例えば、”take him under my wing” の直訳は、
「彼を私の翼の下に連れていく」。

「彼を私の翼の下に連れてくる」の方が和訳は自然。

所有格 “one’s”(誰々の) は、我が翼を提供する本人。
翼を「所有」する主(=持ち主)を指すから「所有格」。

人称代名詞の所有格は、
my / your / his / her / their / our / its。


◆ 表現の意味からして、無生物の所有格は不適切な気がする。

実のところ、普通に使われている。
よって、3人称所有格 “its”(それの)もOK。

ここで気になるのは、無生物における和訳。

結論から言えば、「傷ついた者を、翼の下にかくまう」
ような感情的な要素は少ない。

論より証拠。
2018~2019年発表のニュース見出しを挙げる。

  • “X to take trainee lawyer under its wings.”
    (X社が見習い弁護士を採用予定)
  • “X Ministry ready to take Y Agency under its wings”
    (X省がY機関を傘下に収める構え
  • “X Airlines Take the Y Under its Wings”
    (X航空がY社を合併)
  • “X to take Y under its wing”
    (X社がY社を合併予定)
  • “Air Force Likely to Take Space Force Under Its Wing”
    (空軍が宇宙軍を傘下に置く見通し)

上の例文では、X、Y双方が無生物の「組織」を表す。
表題の “somebody” は Y、”one’s” は X。

このように、所有格が「組織」の場合、「傘下」に近い
意味合いとなる。

「傘下企業」の「傘下」で、「傘下に置く」「傘下に入る」。
先述の直訳「翼の下に連れていく」「連れてくる」と重なる。

  さんか【傘下】

■ 勢力のある人物や組織に属して、その支配・影響・庇護
などを受ける立場にあること。翼下
(大辞林 第三版)

■ [会社・団体・軍などの]支配下。翼下
(三省堂国語辞典 第七版)

■ 大きな勢力を持つ人物・組織などの下で、
その指導や支配を受ける立場にあること。翼下
(明鏡国語辞典 第二版)

さらに、『広辞苑 第七版』『精選版 日本国語大辞典』
の「傘下」の語釈末尾も「翼下」。

  よっか【翼下】

■ 支配力の及ぶ範囲内。保護下。傘下
(大辞林 第三版)

■ 勢力の及ぶ範囲内。傘下
(広辞苑 第七版)

■ 勢力または保護の範囲内。傘下
(精選版 日本国語大辞典)

加えて、『三省堂国語辞典 第七版』『明鏡国語辞典 第二版』
の「翼下」の語釈末尾も「傘下」。

無個性で代り映えがしない記述ばかりである。
だが、イメージは分かりやすい。

先ほどの「誰々の翼の下」=「誰々の翼下」。
“under one’s wings” で、どんぴしゃり。

◆「組織」は、表記上の単複(単数・複数)が安定していない。

大手メディア間でも、扱いにばらつきが見られるので厄介。
単複に応じて、それぞれ “takes” と “take” となる。

また、「組織」では複数形 “wings” が多い印象だが、
単数形 “wing” も使われている。
人間の場合も、単複両方の実例を見かける。

それでも、後掲の英英辞典の項目立ては、単数形 “wing”
で統一されている。

語源は、中期デンマーク語の「翼」(wingæ)。
「羽」と和訳されることもあるが、本稿では語源に従う。

【発音】 wíŋ


◆ 「傘下」「翼下」に入る契機は、「合併」が多い。

英語では “merger”(mə́ːdʒər が一般的。
すなわち、複数の会社を一つの法人格に統合する手法のこと。

“M&A”(merger and acquisition)は「合併と買収」。

「合併」には、「吸収合併」と「新設合併」の2手法がある。
消滅する法人格が必ず発生するのが「合併」の特徴。

一方、「合併」と似た表現に「経営統合」がある。
双方企業の法人格が存続する点で「合併」と異なる。

“integration”(ìntəgrèiʃən) が正式な表現であるが、
一般向けに “merger” が用いられているケースもある。

消滅する会社の発生有無という大差があるといえど、
素人に区別は難しい。

ビジネスである以上、そこに至る背景はさまざま。
弱い側が消滅対象とは限らなかったりする。
報道記事を読んでも、部外者には複雑難解な事例が少なくない。

大切なことは、”take somebody under one’s wing” が、

1)無生物にも適用されること
2)<組織>の場合、「傘下」「翼下」「合併」の意味合い

この2つを押えておくとよい。


◆ 実際には、所有格は人間の方が多用される。

上図では「我に来たれ」と両手を広げる、天使風の
ネクタイ姿が所有格の人。

直接話しかける時、所有格は “my”(私の)。
間接話法で言い換えると、男性は “his”(彼の)、
女性なら “her”(彼女の)。

当人は、物心両面で余裕のある寛大な心の持ち主。
その雅量を示すため、誉め言葉にもなる好意表現である。

読み手・聞き手にも、慈愛の安らぎをもたらす感じ。
新約聖書「マタイ11章28節」を彷彿させる。

Come to me,
all you who are weary and burdened,

and I will give you rest.

(すべて疲れた人、重荷を負っている人は
わたしのもとに来なさい。
わたしがあなたがたを休ませてあげます。)

Matthew 11:28  New International Version (NIV)
マタイの福音書 11章28節

イエス・キリストのことば。
世界中の教会が看板に掲げる聖句のひとつである。

表題を用いて、あえて換言を試みたい。

“Come to me” の目的格 “me” を所有格に代え、
“I will take you under my wing” など。


◆ これまでのお話で、存外身近な表現であることが、
ご理解いただけたのではないだろうか。

“under one’s wing” が「翼下」に通じる利点は大きい。
今回、裏付けはできなかったが、そのまま和訳された「訳語」
の可能性がある。

状況が目に浮かびやすい英語表現は、とかく学びやすい。

次の4大学習英英辞典(EFL辞典)をご覧いただきたい。
ささっと目を通してみて、表題が面影に立つか。

中級学習者の実力があれば、すぐさま様子が思い浮かぶはず。

“take somebody under your wing”

to help and protect someone who is younger
or less experienced than you are.
(LDOCE6、ロングマン)

to take care of and help somebody who has
less experience of something than you.
(OALD9、オックスフォード)

If you take someone under your wing, you
start to protect and take care of them.
(CALD4、ケンブリッジ)

“take somebody under one’s wing”

If you take someone under your wing,
you look after them, help them, and protect them.
(COBUILD9、コウビルド)

※ ハイライトと下線は引用者

「保護」「世話」「面倒」がちらつく中身。
ハイライトした共通項がそれらを表す。

主に弱き者が対象となるのは明らか。

とりわけ、下線部 “younger” や “less experience(d)”
がそれを強調する。

そもそも、目上の相手に「世話」だの「面倒」だのは、
失礼な物言い。

この辺りは、”take good care of – “ でご案内した。

同じく表題も、目上には基本的に不似合いな言い回しである。

しかし、既に触れてきた通り、一時的に窮地に陥った強者に
対して、例外的に使われることがある。

現に、上掲のEFL辞典のうち、弱輩の要素(下線部)
を明記するのは、4点中2点のみ。

とすれば、社会的立場の上下関係に基づく「弱さ」よりは、
「かばう」(ハイライト部)必要性が今あるか否かが、
焦点になると考えられる。

  弱い立場にある者の世話役を買って出る  

こんな気風がいい行動力を表す表現である。

  • “She took me under her wing after that failure.”
    (あの失敗の後、彼女は私をかばってくれた。)
  • “John always took Ben under his wing during hard times.”
    (つらい時期は、いつだってジョンはベンを守った。)
  • “My boss took the newbie under his wing.”
    (私の上司はその新人の世話をした。)
  • “My sister took me under her wing whenever I felt down.”
    (私が落ち込んでいる時、姉はいつも守ってくれた。)
  • “He had taken the puppy under his wing.”
    (彼は子犬の面倒をみた。)

 

 

 

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