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Household name

      2023/04/09

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 7 minutes

誰もがよく知る名称、  有名人


She became  a household name  in 2019.

( 彼女は2019年に有名人になった。)


良くも悪くも有名。

それが  ” a household name “。

  ゆうめい【有名】

世間に広くその名が知られていること。
名高いこと。 また、そのさま。 著名

( 精選版 日本国語大辞典 )


「 名高い 」も「 著名 」も、日頃は好意的な文脈で
出てくる形容詞である。

  なだかい【名高い】

広く世間に名が知れわたっているさま。
[ 使い方 ]多くよい意味で名が知られているときに使う。

( 明鏡国語辞典 第三版 )

  ちょめい【 著名 】

[ すぐれていて ]
よく名前が知られているようす。

( 三省堂国語辞典 第八版 )

※  ハイライトは引用者


” a household name ” も、 メディア報道で見聞きする
限り、 好意的な起用が多い印象。

しかし、悪名高い場面でも使う。

  あくめい【悪名】

悪い評判。 よくないうわさ。 あくみょう。

( 大辞林 第四版 )

※  ハイライトは引用者


大失態  をやらかした政治家や芸能人が好例。

彼らも  ” a household name ”  の当事者になりうる。

不面目を招いた結果としての不名誉な役目。

いわば、 晒し者( さらしもの )。

知名の根拠、 つまり評判の良し悪しは、わざわざ
調べなくても、 普通に生活していれば自ずと知れる。

それほどまでに、 一般社会に浸透した名前を指す。


セレブみたい


◆  学習英英辞典( EFL辞典 )では、

household name

a person, thing or name that has become very well known.
OALD10、オックスフォード )

a famous person that most people know of.
CALD4、ケンブリッジ )

【発音】   háushòuld  néim


3大学習英英辞典( EFL辞典 )のうち、唯一、LDOCE6
( ロングマン現代英英辞典 )には項目立てされていなかった。

もっとも、” household ” の例文には顔を出す。

” be a household name / word ”

to be very well known.
( LDOCE6 )

【 英英辞典の基本表記 】 スラッシュ( / ) = 「 または  (or) 」
→  ” be a household name ”  または  ” be a household word


これだけでは物足りないので、 兄弟辞典をご案内。

ロングマンのビジネス版である。


【 iOS版 】    ※  アプリ版 より転載
Longman Business English Dictionary

【 書籍版 】
https://amzn.to/2HEfeZ0


2007年刊。

例文がなんだか微妙。

  • Nintendo is now a household name.
    ( 任天堂は今では有名である。)
    ( 任天堂は今や有名である。)

130年の社歴を誇る、 我らが 任天堂

” now a household name ”  だと

21世紀に

なにをほざいているのだ。

1889年(明治22年)創業  の  老舗 企業ですぞ。

甚だ  ” out of date ”  な感があるのは、 私が日本人ゆえか。



◆  ともかく、 ここで 最も重要なことは、 例文が示すように、

  ” household name ” の対象は、 人間だけでない。

上掲 ” OALD10 ”  及び  ” Longman Business English Dictionary
の語釈通り、適用範囲は幅広い。

  •  a person, thing or name
    ( OALD10 )
  •   a product, company etc 
    Longman Business English Dictionary


◆  さらなる英英辞書で補足すると、

household name or household word

a person or thing that is very well known.
Collins English Dictionary, 12th Edition

a household name,  a household word

a famous person or organization.
Cambridge Academic Content Dictionary

※  ハイライトは引用者


人間以外にも適用できることは、黄ハイライトより明らか。

例えば、

  •  製品
  •  会社
  •  物品
  •  組織



◆  ” household name ” は < 2語ワンセット > で名詞扱い。

初出は「 1862年 」と 語原サイト には書かれている。

先の  ” Longman Business English Dictionary ”  が記すように、

  •  “n”  →  ” noun ”  = 「 名詞 」
  •  [C]  →  ” countable ”  = 「 可算 」

したがって、 ” household name ” は可算名詞。

本稿でご紹介した英英辞書でも、 異論は見られない。

可算名詞なので、 基礎英文法に従って、 冠詞は “a” が基本。

既記の ” LDOCE6 ”  及び  ” Cambridge Academic Content
Dictionary
” は、 冠詞付きで記載する。


◆  可算名詞  ” household name ”  の意味を把握した
ところで、 ” household ” について検討してみる。

語原は、 中期英語 「 所有すること 」 ( houshold )。

見た目から意味合いを推測できるかもしれない。

  •  名詞  ” house ” ( 家 )
  •  動詞  ” hold ” ( 所有する )

平板で、均一なリズムの日本語では、” house ”  は、

3音節の 「 –  」 。

英語では 「 1音節 ( one syllable )」。

【発音】  háus
【音節】  house  (1音節)

腹の底から ゲロする 迫力で、 一息に発声する。

「 音節 」 ( syllable、シラブル )とは、発音の最小単位。

「 1音節 」の場合、 「 発音の最小単位 」 に切れ目がないため、

ゲロ  の凄みが出る。

日英の 「 音節 」 については、” integrity ” で深掘りしている
( 図入り )。

 

◆  ” household ” には、名詞と形容詞がある。

両者の重要度と頻出度は同等。

すなわち、

◇  名詞・形容詞  ” household ” 

  • 重要:<3001~6000語以内>
  • 書き言葉頻出:3000語圏外
  • 話し言葉頻出:3000語圏外

    【発音】  háushòuld
    【音節】  house-hold  (2音節)


英単語全体の立ち位置は、そこそこのポジション。

基本的意味は、

  •  名詞  ” household ”

    ・  家族、家庭
    ・  世帯、所帯「 世帯主
    ・  head of household
    ・  householder
    ・  head of a household
    ・  head of the household
  •  形容詞  ” household ”

    ・  家族の、家庭の
    ・  一家の
    ・  ありふれた、おなじみの

※  ハイライト・赤字は引用者


「 家 」中心の語義の中、 赤字の形容詞が異彩を放つ。

” a household name ” は、これに該当する。

家庭とは < 日常 > そのもので、慣れ親しんだ平凡な場。

  取り立てて特色がないから、「 ありふれた 」「 おなじみの 」。

こんな流れで展開した語義である。

さらに可算名詞の ” name “( 名前、 名称 ) を加えると、
” household name ” は 「 おなじみの名 」の意味をなす。

  おなじみ【 御馴染み 】

■  「 なじみ 」を丁寧にいう語。
( 大辞林 第四版 )

  おなじみ【 御馴染(み) 】

1. 「 なじんでいること 」を言う敬語。
2.  その店をひいきにしてよく来るお客。
( 岩波 国語辞典 第八版 )

  おなじみ【 お馴染み 】

1. 「 なじんでいること 」「 よく知っていること 」
の尊敬語・美化語。
2. 「 いつも来る客 」の尊敬語。
( ⇔ 一見)
( 三省堂国語辞典 第八版 )

※  ハイライトは引用者


なぜか 3大学習英英辞典( EFL辞典 )の 形容詞 ” household ”
には、 この語義が明記されていない。

3辞書とも、形容詞は「 家族の 」「 家庭の 」に焦点を当てている。

◆  以下、代表的用法。

  •  household goods
    ( 家財道具 )
  •  household products
  •  household items
    ( 家庭用品 )
  •  household appliances
    ( 家電製品 )
  •  household chores
  •  household duties
    ( 家事 )
  •  household use
    ( 家庭用 )
  •  household income
    ( 世帯収入 )
  •  household  /  personal effects
    ( 家財・身の回り品 )
    ※  米税関 の使用用語

 

家庭ごみ禁止


◆  ところが、表題の場合、「 家族の 」「 家庭の 」では埒が明かない。

ここは、英語ネイティブ向けの辞書にご登場願おう。

” household “

  1.   of a household or home; domestic 
  2.   a)  common;  ordinary
      b)  known to almost everyone; very familiar

    Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition

※  ハイライトは引用者

【発音】  háushòuld
【音節】  house-hold  (2音節)


形容詞のみ引用したが、 簡潔明快の見事な語釈だと思う。

日本人学習者に対し、 弊サイトがお勧めするネイティブ用
英英辞書の筆頭に挙げているのがこちら。

AP通信  の公式辞書( ” The official dictionary ” )で、
最新の 「 第5版 」 は、 2018年6月発売。

iOS版 は、 2018年7月発売。

tapped out ” にて、 この辞書の持ち味を写真入りで詳述した。

ご興味のある方にご覧いただければ幸い。


◆  以上、 ” household name ”  の大略を述べた。

良否不問で、 有名人はもちろん、 ありとあらゆる
名だたる
事物をカバーする可算名詞


これがポイント。

果たして、 個人が  ” a household name ”  になることはよいことなのか。

有名になりたがる ( seek publicity ; seek attention ) 言動はどうか。

本稿の結びに、 考察してみたい。

既に触れたように、 恥さらしな場面でも使う表現である。

日本語の「 有名 」も、両用可能である点は、国語辞典で
確認してきた。

「 有名人 」 になることの是非を問うことは、 そう単純でない。

それでも、 一般人がやたらと名をさらすのは、 リスクが大きい
と私は考える。

「 プライバシー 」 は、 不可逆的な性質  を帯びる。

喪失後、 初めて価値に気づく類の財産に他ならない。


プライバシーというのは、いったん失えば二度と取り戻す
ことはできないという際立った特徴を持つ貴重かつ希少な
資産だ。

( 中略 )

芸能人やスポーツ選手など、プライバシーの放棄が前提
となる職業が高額の報酬に値するのは、成功の代償として
失うものがあまりにも大きいからだ。


雨の降る日曜は幸福について考えよう
橘 玲(著)、 幻冬舎、 2004年刊

※  ハイライト・太字・下線は引用者


平穏で、 マイペースな個人生活を維持したいのであれば、
相応の見返りなくして、 自ら放棄するには代償が大きい。

下線の 「 成功の代償 」 は 「 有名税 」 と称される。

  ゆうめいぜい【有名税】

■  プライバシーの侵害など、有名であるがために
ある程度は我慢しなければならない不快な出来事。

( 広辞苑 第七版 )

■  有名であるがゆえに払わなければならない代償を、
税にたとえていう。

( 精選版 日本国語大辞典 )

■  有名人であるがゆえに、余計な経費がかかったり、
名前を利用されて迷惑を受けたりすることを、税金
に見立てていう語。

( 大辞林 第四版 )


英語では、” the price of fame ” が一般的な言い回し。

直訳は「 名声の価格 」。

「 有名税を 払う 」なら、” pay the price of fame “。

橘玲氏の説く、


プライバシーというのは、

いったん失えば二度と取り戻すことはできない


上記のくだりで、 匿名性の大切さが 胸に染みる

有名になる反面、 不自由も生じる。

もし本当だとすれば、 自他の個人情報の取り扱いには、
細心の注意を払おう、 と意を強くしたくもなる。

SNS全盛の昨今、 変に目立つ行動を控え、 他人の関心を引かないようにする。

派手な振る舞いを慎み、 不要な注目を回避する気構えが大事。

こうした姿勢こそ、 一般人が我が身と家族を守る上で 不可欠である
と感じる。

この世には、 いろんな人がいますから …

私自身、 従業員と自営業、 どちらも欠かせない職なので、
とにかく 有名にならぬよう、 普段から気をつけている。

下手に目立ってしまうと、 思わぬ厄難を引き寄せるのが、 世の理。

それなりに自己実現できていれば、 過剰な承認要求に苦しまない。

I don’t feel the  need for  constant attention from everybody.

【参照】   辞書の「自炊」と辞書アプリ

 


All fame is dangerous:
Good, bringeth Envy;  Bad,  Shame.

( 名声はどれも危険。 良いことでは妬まれ、悪いことでは汚名を被る。)

Thomas Fuller  ( 1608-1661 )
トーマス・フラー
英国の牧師・歴史家

※  ” bringeth ”
→  ” bring ” の古語 「 三人称単数現在形直説法 」
archaic third-person singular simple present
indicative form of  ” bring ” )

  • Fame and fortune are both a blessing and a curse.”
    ( 名声と富は、恵みであると同時に呪いでもある。)
  • ” Beauty is both a blessing and a curse.”
    ( 美貌は、恵みであると同時に呪いでもある。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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