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No strings attached.

      2024/07/26

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条件なしで

申し出の際に出てくる 「 3語ワンセット 」 の常套句。

付随する条件( 付帯条件 )がないことを表す。

通常は副詞的に使うが、 名詞などを飾る場合は、
ハイフン入りの  複合形容詞compound adjective )、

no-strings-attached


で用いるのが基本。

意味合いは同じなので、本稿ではハイフンなしの
副詞用法中心に見ていく。

仕事関連の堅い場面ではもちろんのこと、
気のおけない友人との遊びでも使える。

私たちは英語学習者であるから、 ハイフンの基礎知識 は
押さえておきたい。

【発音】  háifn
【音節】  hy-phen (2音節)

 

◆  ざっくり公私に分けて、典型的な用途を挙げると、

【公】  仕事のオファー、支援、協定、借金
【私】  飲食のもてなし、物品貸し借り、肉体関係

< 趣旨 >
付帯条件はない」旨を告げる

「 ちょうどそれだけ 」 と限定する意。


no strings attached ”  の直訳は、
「 付帯条件が付属しない 」。

  • 形容詞   ” no “( ~ ない )
  • 可算名詞   ” strings “( 付帯条件 )
  • 形容詞   ” attached “( ~ 付属する )

” no ” を頭に置く「 文否定 」で、文全体を否定


「 語否定 」 の ” Strings are not attached. ” に比べ、

否定の度合いが強く、 迫力が増す。

 【参照】

「 条件なし 」といったインパクトが常套句らしい。

成り立ち・意味合い・ ニュアンス・使用場面のすべてが、
日本語の名詞 「 ひもつき 」 にかなり似通っている。

そのため、 イメージは把握しやすい。


ひもつき【 紐付き 】

3. 見返り条件がついて、人の言動や物の機能が制約
をうけていること。
( 大辞林 第四版 )

  ひもつき【紐付】

名詞
4. 金銭その他の援助を受けるとき、ある条件を
つけられること。また、そのような援助。
( 精選版 日本国語大辞典 )

  ひもつき【紐付き】

4. 転じて、背後によくない条件がついていること。
( 広辞苑 第七版 )

 

◆  この表現のポイントは  ” strings “。

可算名詞  ” string ” の複数形である。

語源は、古英語「 ひも 」( streng )。

【発音】  stríŋ  (1音節)

名詞以外にも、 形容詞・他動詞・自動詞がある。

非常に多義だが、基本的意味は「 ひも 」つながり。

–  名詞 「 ひも 」「 弦楽器 」「 一連の
–  形容詞 「 弦楽器の 」「 ひも(製)の 」
–  他動詞 「(ひもを)張る 」「 通す 」「 連なる 」
–  自動詞 「 一続きになる 」「 糸になる 」

表題では名詞だが、 基本的意味には入らない。

なぜなら、「 ひも 」「 弦楽器 」に比べれば、
重要度も頻出度も劣る用途だからである。

” strings ” =「 付帯条件 」  が使われるのは、
上掲黄枠にある通り、 提案・支援などの特殊な状況。

しかも、 次の3パターンが確立している。

  1. no strings attached
  2. no strings
  3. strings attached


この3つ以外で、 起用される機会はまれ。

< 例外 >を挙げると、

  • “I won’t accept this if there are strings.”
    (条件があるなら、受け取りません。)

英英辞書の語釈でも 「 → 」 または 「 = 」 で
同一視するものが多い。

または、 上の赤枠のいずれかで項目立てしている。

 

◆  3大学習英英辞典( EFL辞典 )の ” string ” は、


” string “

■  3.  →  no strings (attached)
( LDOCE6、ロングマン )

■  8. string [plural]
special conditions or restrictions.
( OALD9、オックスフォード )

■  stringsattached     ※  後掲
( CALD4、ケンブリッジ )

【発音】  stríŋ  (1音節)


” strings
  を独自に説明しているのは、OALD9のみ。

ハイライトの ” plura l”( plúərəl )とは、
” plural noun  ” の略で「 複数単語 」を指す。

単数形では使われず、 複数扱いが原則。

【例】
doldrums “、 ” grounds “、 ” leftovers “、
odds “、 ” belongings ”、 ” clothes

つまり、「 付帯条件 」の使い道では、 単数形 ” string ”
にならない。

OALD9の語釈  ” special conditions or restrictions”
はすっきり簡潔で分かりやすい。

念のため、英語ネイティブ用辞典に援軍を頼もう。


” string “

■  11. strings plural
a. contingent condition or obligations
b. control or obligations
Merriam-Webster

※  contingent  /kənˈtɪn.dʒənt/  偶然の( 形容詞 )

■  8. [Informal] a condition, limitation, or proviso, 
typically an undesirable one, attached to a plan, 
offer, donations, etc.:usually used in plural.
Collins English Dictionary 12th Edition

※  proviso  /prəˈvaɪ.zoʊ/  ただし書き( 名詞 )

【発音】  stríŋ(1音節)


ネイティブ用辞書の語釈は、EFL辞書に比べて概して難しい。

しかし、中級学習者 であれば、案外いける。

引用目的のひとつは、この気づきと自信を促したいから。

上記 ” Collins ” には”、 ” informal “( 非正式・くだけた表現 )とある。

今回調べた9点の英英辞典のうち、唯一の ” informal ” 表記。

その他の8点にはなかったので、有力説ではなかろう。

後述の例文を見れば、正式場面でも不自然でないことは分かる。

いずれにせよ、” strings ” の和訳は、大抵5つのいずれか。

  •  付帯条件
  •  条件
  •  制限
  •  制約
  •  ひも

◆  複数名詞  ” strings ”  = 「 付帯条件 」を踏まえ、
表題を3大EFL辞典でチェックすると、
先の赤枠3パターンが出揃う。


■  no strings (attached)

having no special conditions or limits on
an agreement, relationship etc.
( LDOCE6、ロングマン )

■  No strings attached. “

※  ” springs ” 語釈の例文に、解説なしで挿入。
( OALD9、オックスフォード )

■  ” strings attached “

If something such as an agreement has string
attached, it involves special demands or limits.
( CALD4、ケンブリッジ )


LDOCE6のカッコ内部は、 あってもなくてもよい。

すなわち、” no strings attached ” と ” no strings
のいずれも可ということ。

最後の CALD4  ” strings attached ” が示すことは、
否定しない「 ひもつき 」のままでも使えること。

前掲の国語辞典3点を思い出していただきたい。

  • “All job offers came with strings attached.”
    (受けた仕事のオファーは、すべて条件つきだった。)
  • “Her ‘favors‘ always come with strings attached.”
    (彼女の「親切心」はいつも条件つきなのさ。)
  • There is no free lunch.   There are strings attached.”
    (ただで手に入るものはない。 条件はついて回るもの。)

このように「 条件つき 」も普通に使える。

だが実際には、” no strings (attached) ” として、

「 条件なし 」で使われる需要の方が高い

印象がある。

◆  販売促進・マーケティングの文言でも、 そんな感じ。

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◆  ところで、「 条件なし 」はよいことかどうか。

それは、立場や状況次第であり、 一概には言えない。

例えば「  無条件降伏( unconditional  surrender ) 」
は、 条件を出さずに一切を敵に委ねる。

降伏する側にとって、 屈辱の伴う行為であろう。

殊に、 ” no strings attached ”  を用いる場合は、
好意の「 条件なし 」が目立つ。

とりわけ、 提示側が 「 条件なしでいいですよ 」
と申し出る意図で使う。

  • “I will work for you, no strings attached.”
    (条件なしであなたのもとで働きます。)
  • “I will donate 1 million yen, no strings attached.”
    (100万円寄付いたします。条件なしです。)
  • “They offered us no-string-attached funding.”
    (無条件で使える資金を彼らは提供してくれた。)
  • “It was no-string-attached sex.”
  • “We had sex with no strings attached.”
    (あれは恋愛感情抜きのセックスだった。)
  • “Our relationship was with no strings attached.”
    (私たちの関係は、割り切ったものだった。)
    (私たちは単なるセフレだった。)
  • “She lend me her car with no strings attached.”
    (彼女は条件なしで車を貸してくれた。)
  • “The subsidy is given with no strings attached.”
    (その補助金は条件なしで交付される。)
  • “I offered her the job with no strings attached.”
    (条件なしでその職を彼女に提示した。)
  • “Give it a try, no strings attached.”
    (これをお試しください。条件はございません。)
  • “The cash handout has no strings attached.”
    (この給付金に付帯条件はありません。)

 

 

 

 

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