Scam
2021/02/16
詐欺
「詐欺」と言えば、” fraud ” が基本。
【発音】 frɔ́ːd (1音節)
語源は、ラテン語「 詐欺 」(fraudem)。
生まれからして、立派。
早くも14世紀から、法律英語として確立している。
- bank fraud (銀行詐欺)
- check fraud (小切手詐欺)
抽象的な「詐欺」の意味では、不可算名詞 である。
個別具体的な「詐欺行為」の場合、可算名詞となる。
■ fraud → 名詞のみ で、動詞はない
“fraud” 及びその派生語の形容詞 “fraudulent” は、
関係法令や手順にも正式採用されている。
【発音】 frɔ́dʒələnt
【音節】 fraud-u-lent (3音節)
- fraudulent election (不正選挙)
- voter fraud (不正投票)
専門知識のない一般人が認識できる「詐欺」の総称。
オレオレ詐欺 → ” telephone scams ” の 一種
–
–
◆ 一方の “scam”。
【発音】 skǽm (1音節)
こちらも「詐欺」全般を意味する。
■ scam → 名詞 に加えて、動詞もある
– 他動詞 「だまし取る」
– 自動詞 「詐欺を働く」
【活用形】 scam – scammed – scammed – scamming
いずれも、可算名詞。
- “Cyberscammers : Pay Up or We’ll Infect Your Family With Coronavirus”
(サイバー詐欺師 : 支払わなければ、ご家族をコロナに感染させます)
2020年4月29日付 The Daily Beast
D– - “Feds Suspect Vast Fraud Network Is Targeting
U.S. Unemployment Systems”
(米失業保険制度を狙う大規模詐欺ネットワークを
連邦捜査局が疑う)
2020年5月16日付 The New York Times
– - “Unemployment claims are the latest target
for coronavirus fraudsters”
(コロナウイルス詐欺師の最新の標的は失業保険申請)
2020年5月18日付 The Washington Post–
–
本稿では、名詞の “scam” を取り上げる。
–
◆ “fraud” も “scam” も、日常英語 (everyday English words)である。
ー
中学生以上の平均的な英語ネイティブであれば、
難なく認識できるレベル。
最大の違いは、法律用語としての信用度
“scam” は、法律辞典にまともに取り上げられていない(後述)。
その上、”scam” は、”fraud” に比べて「英単語」としても非正式。
“informal” と表記があるのが “scam“
“informal” とは、「くだけた表現」「非正式」。
“formal“(堅めの表現、正式)の対をなす、
英語辞書の凡例用語である。
“fraud” が、ラテン語「詐欺」(fraudem)由来であり、
いわば正統派の英単語なのは、既述の通り。
それに引き換え、”scam” の出自は、なんだか怪しい。
< ”scam” 初出と語源 >
1963。もとはカーニバル隠語。
一説には “scheme” の転化。
(ランダムハウス英和大辞典 第2版)
◇ “scheme” = 策謀(可算名詞)
◆ アメリカには、有力な法律辞典が存在する。
“Black’s Law Dictionary”
=『ブラックス法律辞典』
–
(Amazon Japan / Amazon US)–
–
1891年に発刊され、100年以上の歴史を誇る。
判例などに最も引用される辞典である。
英米法を学ぶ学生で知らない者は皆無レベルの存在感。
本稿の初稿時点(2017年8月)における最新版
(第10版、2014年刊)では、”fraud” の解説に
2ページ以上を割いていた。
こんな具合。
ところが、この「第10版」(2014年刊)には、
“scam” の項目はない。
正式扱いされていないと考えられる。
◇ どちらも「詐欺」を表す日常語
■ fraud:正式な法律用語
■ scam:正式な法律用語に満たない
にもかかわらず、名詞 “scam” の方を表題に掲げた
理由は、日本で学ぶ機会が少ないと考えるからである。
◆ 次いで、2019年に発行された「第11版」も確認してみた。
–
(Amazon Japan / Amazon US)
‐
“Black’s Law Dictionary, 11th Edition”
p. 802 – 805 (Thomson Reuters 2019)
“fraud” と “fraudulent” の説明に顕著な改訂はない。
そして、相変わらず、
“scam” の項目はない。
埋め合わせに、世界最大の英語辞典 “OED” 記載の
“scam” を、本稿末尾に全文掲載した。–
–
◆ “scam” は、インターネットに日々飛び交う言葉。
日常的には “fraud” 同然 に使われている
事件の規模は関係なく、被害が金銭中心の詐欺事件では、
“scam” が好まれる傾向が若干見られるくらい。
錚々たるメディアでも、以下の表現は年中見かける。
例えば、経済誌 “Forbes” や “The Economist“、さらに高級紙
とされる “The New York Time” や “The Times“。
- financial scam
(金融詐欺)
– - Internet scam
(インターネット詐欺)
– - insurance scam
(保険金詐欺)
–
- imposer scam
- impersonation scam
(なりすまし詐欺)
– - investment scam
(投資詐欺)
– - lottery scam
(宝くじ詐欺)
– - tax scam
(税金詐欺)
–
- marriage scam
(結婚詐欺)
–
- romance scam
(恋愛詐欺)
–
- job offer scam
(就職あっせん詐欺)–
–
- social media scam
(ソーシャルメディア詐欺)
–
- credit card scam
(クレジットカード詐欺)
–
- charity scam
(義援金詐欺)
–
- ticket scam
(チケット詐欺)
– - government grant scam
(給付金詐欺)
– - housing scam
(不動産詐欺)
– - upfront fee scam
- advance fee scam
(前金詐欺、手付金詐欺)
– - timeshare scam
- upfront fee scam
(タイムシェア詐欺)
– - offshore scam
(オフショア詐欺)
–
- phishing scam
(フィッシング詐欺)
– - student loan scam
(学生ローン詐欺)
–
- Nigerian Scam
(ナイジェリア詐欺)
– - scam site
(詐欺サイト)
– - employment scam
(雇用詐欺)
– - online job scam
(オンライン求人詐欺)
– - online dating scam
(出会い系サイト詐欺)
– - college admissions scam
- college admissions cheating scam
(大学入試詐欺)–– ※ 裏口入学の一種
–
––<例>
・ 2019 college admissions scam
・ Everything We Know About the College Admissions Scam
・ 14 Days Behind Bars in Admissions Scam
【参照】
- “Common Scams and Frauds“
(「よくある詐欺」 米国政府の公式サイト)
– - Business Email Compromise(BEC)
(ビジネスメール詐欺)
詐欺注意!
【出典】 https://www.fbi.gov/image-
【参考記事】 ※ 外部サイト
・ 世界のビジネスメール詐欺(BEC)の損失額、5年弱で125億ドルに
—2018年7月17日付
–
・ 巧妙すぎて防げるわけがない! ビジネスメール詐欺はここまで来た
—2019年8月21日付
【PDF】
・『ビジネスメール詐欺「BEC」に関する事例と注意喚起』
ーー独立行政法人情報処理推進機構、2017年刊、全27頁、8MB
一般人にとっては、堅苦しい専門用語よりも、
発音しやすい同義語の方が親しみやすかったりする。
専門家でないため、正確性は二の次
こうして、語感や字面重視で普及することは珍しくない。
ー
世間一般においては、こんな流れの方が、むしろ
自然に定着したりする。
結果的に、非公式の言葉が目立つことになる。
ー
“scam” はその好例。
ー
◆ 片や “fraud” は、れっきとした法律用語。
歴史もはるかに長く、使用頻度は上回る。
正式には、やはり “fraud” なのである。
<使用頻度>
fraud トップ 10,000語以内 / scam 30,000語以内
https://www.collinsdictionary.
https://www.collinsdictionary.
LDOCE6(ロングマン)の指標比較
■ 名詞 “fraud”
- 重要度:<6001~9000語以内>
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
【発音】 frɔ́ːd (1音節)
■ 名詞 “scam”
- 重要度:9000語圏外
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
【発音】 skǽm (1音節)
2語とも、「詐欺」関連では欠かせないものの、
英単語全体から見れば、さほど重要でも頻出でもない。
ー
◆ なお、“scum”(浮きかす) と混同しない ことは大切。
俗語としては、「精液」「人間のくず・かす」を指す。
“scam” と重なる、ネガティブイメージ。
スペルも酷似し、平板で、均一なリズムのカタカナ発音「ス-カ-ム」
(3音節)では、一緒に聞こえてしまいがち。
英語では、両方とも「1音節(one syllable)」。
腹の底から ゲロする 勢いで、「スカム」と一気に吐き出す。
「音節」(syllable、シラブル)とは、発音の最小単位。
日本語の場合、原則として「仮名一字が1音節」。
そのため、音節を意識する機会は乏しい。
“scum” も、日常的に見聞きする。
しかし、品格がぐっと下がる。
卑語でも禁忌語でもないが、”scam” と異なり、
上記メディアには、めったに出てこない。
ー
推して知るべし。
【関連表現】
ー
“deceptive”
https://mickeyweb.info/archives/8375
(1)人をだまそうとする (2)誤解を招く
–
「詐欺師」
-
-
- “fraudster“
- “scammer” ※ 口語的
- “confidence man”
→ 略して “con man” ※ 口語的 - “con artist” ※ 口語的
- “swindler“
-
◆ “The Oxford English Dictionary” の “scam” 全文がこちら。
“Scam.” The Oxford English Dictionary. 2nd ed. 1989.
–
初出は「1963年」とある。
前記の『ランダムハウス英和大辞典 第2版』と合致する。
既に挙げた “fraud” との相違点を繰り返すと、
■ fraud → 名詞のみで、動詞はない
■ scam → 名詞に加えて、動詞もある
名詞 “sb.“(substantive)も、動詞 “v.“(verb)も、
まず “slang” (スラング)と明示されている。
◇ “sb.” = “substantive”
「実質的な」「かなりの」に加え、文法用語としては、
「名詞の」「名詞的な」を意味する形容詞。
これまで何度も強調してきた通り、由緒正しい “fraud”
よりは、格下の位置づけであることを裏打ちする印象。
–
◆ “The Oxford English Dictionary” (オックスフォード英語辞典)は、
“OED“ (オーイーディー)の略称で有名。
–[公式サイト] → http://www.oed.com/
1884年にイギリスで刊行が始まり、最新版の第2版は1989年刊。
全20巻、2万1730頁、29万1500の見出し語、
世界最大の英語辞典である。
語義の配列は、頻出順ではなく、発生順の「歴史主義」。
成り立ちを、系統的にたどれる利点がある。
–[両方入手済み] → 辞書の「自炊」と辞書アプリ–
“OED” 編集主幹の James Murray 博士 (1837-1915)
については、”in place” で触れている(写真入り)。