プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Thrilled

      2024/08/02

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 14 minutes

( 堅めの使用場面では ) うれしい 

スーツ着用のビジネス場面にて。

  •  I’m thrilled to meet you.
  •  I’m thrilled to work with you.
  •  I’m thrilled to collaborate with you.
  •  I’m thrilled to be accepted.
  •  I’m thrilled to be here.
  •  I’m thrilled to be on your team.
  •  I’m thrilled by the opportunity.

よろしくお願いします


晴れ舞台
の発言として、いずれもよく見聞きする。

記者会見 囲み取材  にも出てくる  ” I’m thrilled – “。

これらの  ” thrilled ”  をどう訳すか。

  • 「 スリルがある 」
  • 「 わくわくする 」
  • 「 ぞくぞくする 」
  • 「 スリル満点 」

すべて、” thrill ” の語義に含まれる意味合い。

どれも、多少なりとも入り混じっている要素なのは確か。

しかし、初対面の相手に接する堅めの場において、
のほほんと口にできる日本語の言い回しだろうか。

  • 「 スリルがあります 」
  • 「 わくわくします 」
  • 「 ぞくぞくします 」
  • 「 スリル満点です 」

なんだか、ぶしつけ。

 


【発音】 
θríliŋ      【音節】  thrill-ing (2音節)

 

◆  ” thrill ” の和訳が一筋縄で行かないことは想像がつく。

加えて、発音も相当な曲者。

日本人の苦手とする子音( consonant )がぎゅうぎゅう詰め。

慣れないと聞き取りすら困難。

th ” から始まり、 直後に ” r ” と ” l ” が連なる。

1音節( one syllable )の短い単語にもかかわらず、
舌運びが大変せわしい。

【参照】  「 舌運び 」 を写真と図で解説するのが、
smooth out “、  ” hiatus “、  ” no need “。

 

◆  「 音節 」( syllable、シラブル )とは、 発音の最小単位。

日本語の場合、 原則として「 仮名一字が1音節 」。

平板で、均一なリズムが、 日本語の持ち味である。

【日】  3音節 「  –  – ル 
【英】  1音節

英語では、1音節。

上顎前歯に軽く触れた舌端を、 するっと瞬時に半回転。

【発音】  θríl  (1音節)

1音節なので、  腹の底から ゲロする 勢いで、 一息に発声する。

 「 音節 」 「 子音・母音 」 の比較、 ” integrity ” 

に詳述した ( 図入り、 動画入り )。

  ” th ” の発音は 2種類  

◇  有声の摩擦音「 ð
→  有声歯摩擦音 ( ゆうせい は まさつおん )

 無声の摩擦音「 θ
→  無声歯摩擦音 ( むせい は まさつおん )

※  「 θ 」 「 ð 」 の具体例は、 ” smooth out ” ( 図入り )

■  ” thrill ” は「 θ 」 →  無声歯摩擦音


無声歯摩擦音「 θ
  ( むせい は まさつおん )

舌先が上の前歯の裏側に軽く触れ、そのすき間から呼気
が押し出されて調音される。  その間声帯は振動しない。

新装版 英語音声学入門 CD付き 』  p. 94.
竹林 滋 (著)、 大修館書店、 2008年刊

発音時に声帯を使わないため、喉がぶるぶる震えない。

それゆえ、声帯振動なしの無声の摩擦音となる。

threshold “、” math “、” theory “、” thumb “、
thought “、 ” thing ”  と同じ。


◆  発音時の  声帯振動( 喉ぶるぶる ) の有無で、θ  と  ð に分かれる。

それが、 英語の  ” th “。

θ 」 も ð 」 も、 日本語には存在しない発音。

舌の先端と上顎前歯で、 隙間を作って発音する点は共通する。

” thrilled ”  の  ” th ”  は、「 θ 」 = 「 無声歯摩擦音 」

「 むせい まさつおん 」 と読む。

無声なので、 声帯振動がなく、 喉はぶるぶる震えない。

◇  ð 」も「 θ 」も、日本語には存在しない発音

◇  ð も θ も、舌先と上前歯で、隙間を作って発音
【 共通点 】 舌先 の基本位置は一緒
【 相違点 】 声帯 を使い発音するか


ð  も  θ も、 ” smooth out ”  で詳述した ( 図入り )。

ベロの基本位置は、 両者こんな感じ。

 θ 「 無声歯摩擦音 」

  声帯振動なし :  喉ごろごろ   

スリ
( 1音節 )

 

◆  おすすめ YouTuber  ( 下記 ) と学習上の着眼点は、 ” No need.

で解き明かした ( 図入り )。

さしあたり、

発音記号や音節を考えずに、 興味本位でじっと眺めてみる。

画面を戻して、 とことん観察 ( rewind and rewatch )。

必要に応じて、 コマ送りにする。

▼ TH

 

▼ F

▼ L


▲  焼肉しゃぶっているよう

日本語を話す時、 このようになりますか。

一瞬たりともないと思います。

なぜなら、 日本語の発音には不用な動きだからです。

 

日英の音は、 舌・唇・歯・呼吸間の相互作用が
まったく違います

  英   語 「 息の音 」
  日本語 「 声の音 」

実際に声を出してみないと、 英語の発音はできるようにならないです。

日本語とは完全異質だから、 耳で聞くだけでは、 口から出てこない。

どんなにリスニングをしても、 自ら発声しない限り

いつまでも話せない。

 

ごく自然に習得できるよう
「 人間の本能 」 に組み込まれた
第一言語 ( 母語 ) と違う点

 

根底からして異質な言語がお安く口から出るって、 結構なホラー話。

映画 「 エクソシスト 」 ( 1973年公開 ) の世界です。

適切な訓練なくして、 現実的にはあり得ないことに気づきましょう。

 

ご自分のお口

を 動かしましょう

 


Joce’s YouTube “  より


Joce Bedardカナダ人女性    推しの YouTuber


日本語母語話者にとって、

英語の発音は動物の鳴き声に近い。

日本語で表記しがたいのは言うもおろか。

犬猫の声と一緒で、 そもそも日本語では書き起こし

きれないのに、 英語音を無理くり邦文で表現しようとする。

等しく不条理だからアプローチを変える。

口周りをまじまじと見据えて、 模倣する。

 

👄 唇をよく見て 🫦

※  やり方は、 ” integrity ”  へ  ( 図入り、 動画入り )

【参考】    ※  外部サイト

 

◆  動詞  ” thrill ”  の語源は、 古英語 「 突き刺す 」( thyrlian )。

突き刺す「 恐怖 」と「 興奮 」から、 「 ぞくぞく 」「 わくわく 」に。

「 恐怖 」 か 「 興奮 」 かあいまいなのだが、 どの語源辞典を
調べても、 ” shiver ” と ” excite “、  または各同義語ばかり。

※  活用形・変化形も含む

  • shiver    身震いする( 自動詞・他動詞・名詞 )
    【発音】   ʃívər
    【音節】   shiv-er  (2音節)

  • excite    興奮する( 他動詞・自動詞 )
    【発音】   iksáit
    【音節】   ex-cite  (2音節)

吊り橋効果 」( the suspension bridge effect )にも似通う感触。


普通に考えれば、

  •  突き刺される側は、「 恐怖 」 によるネガティブ感情
  •  突き刺す側には、「 期待感 」 や 「 喜び 」 もありうる

擬態語 「 ぞくぞく 」「 わくわく 」 も、ネガポジ両様 を表現する。

どちらも  ” thrill ” の定訳に近い。


ぞくぞく

1.  寒さや胸部で、肌が粟立つような震えや冷気を感じるさま。
2.  期待や快い興奮で気持が高ぶるさま。わくわく。

( 広辞苑  第七版 )

1.  発熱のために寒けを感じるさま。
2.  喜び・期待・恐怖などのために緊張・興奮して震えそうになるさま。

( 大辞林  第4版 )

わくわく

1.  期待・喜び・興奮などで心がはずむさま。落ち着かないさま。
どきどき。
2.  寒さ・恐怖などで体が小刻みに震えるさま。ぶるぶる。

( 広辞苑  第七版 )

1.  これからの喜びや楽しみを期待して、心がおちつかないようす。
2.  [古風]心配などで、心がおちつかないようす。

( 三省堂国語辞典  第八版 )

  ぎたいご 【擬態語】

視覚・触覚など聴覚以外の感覚印象を言語音で表現した語。

( 広辞苑  第七版 )

身ぶりや状態を、もし音が聞こえたらこんな感じだろうと、
それらしくあらわしたことば。

( 三省堂国語辞典  第八版 )

  英語で   ” a mimetic word “。

【参照】  “ tingling sensation (ASMR) ”、  “ ring a bell

 


問題は、2つとも  “ thrill ”  の和訳に適さない場合が珍しくないこと。

大半の英和辞典で筆頭に挙がる「 定訳 」なのに、しっくりこない。

冒頭の7つの発言が好例である。

「 使いづらい定訳 」として、弊サイトで詳説したものには、

などがある。

 

◆  正式な場で用いる  ” I’m thrilled ”  は、「 私はうれしい 」。

ここは「 うれしい 」くらいに訳すのが無難であろう。

先の7文であれば、 こういう具合。

  •  I’m thrilled to meet you.
    お会いできてうれしいです。)

  •  I’m thrilled to work with you.
    ( 一緒に働けてうれしいです。)
  • I’m thrilled to collaborate with you.
    ( コラボできてうれしいです。)

  •  I’m thrilled to be accepted.
    ( 合格できてうれしいです。)
    ( 入社できてうれしいです。)

  •  I’m thrilled to be here.
    ( ご一緒できてうれしいです。)
    ( ご招待されてうれしいです。)

  •  I’m thrilled to be on your team.
    ( チーム入りできてうれしいです。)

  •  I’m thrilled by the opportunity.
    ( このような機会を恵まれ、うれしく思います。)


喜びにあふれる上気した面持ちが目に見えるよう。

気が浮き立つ ” excite ” すなわち興奮 」が伝わってくる。

だが 「 興奮している 」 と記すと、 フォーマル場面では
どことなく無作法な格好となり、 そぐわない。

これは、” We are very excited to – ”  でも述べたこと。

日本語の 「 興奮 」は、 ビジネスにふさわしい表現とは言いかねる。

時に 「 コーフン 」 と表記することからも連想できるように、
むやみやたらと感情の高まる印象が強い。

以下の通り、実は生物学的な専門用語としても 確立した 語。
片や日常的には、めちゃくちゃ気分が高ぶる姿が思い浮かぶ。


こうふん【興奮】

1.  感情の高まること。
2.  [生] 刺激によって細胞や生体が休止状態から活動状態
へ変化すること。感覚細胞や神経細胞では、活動電位が発生
することと同じ。個々の細胞の興奮は、物質代謝の変化、筋収縮、
分泌などを伴い、全身的な活動状態へと導かれる。
3. 精神活動がある限度をこえること。精神病者や飲酒の際などに
見られる。

( 広辞苑  第七版 )

  こうふん【興奮(昂奮・亢奮)】

1.  刺激を受けて感情がたかぶること。
2.  刺激を受けて肉体の組織・器官の活動が活発になること。

( 明鏡国語辞典  第三版 )


語釈「 2 」が専門的な「 興奮 」で、世間一般には疎遠と考えられる。

感情がハイになる様子が、通常の「 興奮 」。

したがって、 感情をあらわにできる場でない限り、
「 興奮 」 を用いるには勇気がいるかもしれない。

「 スリル 」 「 わくわく 」 「 ぞくぞく 」 と重なる弱みで、
格式ばった状況では違和感が生じがち。

とりわけ 「 興奮 」 の語感は際どい。

かすかに エロい 匂い を放つからである。

エロい
《形》
(「 エロ 」の形容詞化 )
好色である。  官能的である。


『 広辞苑 第七版 』
新村 出(編) 岩波書店、  2018年刊
( ロゴヴィスタ  アプリ版 )


第七版( 2018年1月発行 )に 初登場

 

◆  エロい語感つながりで、” thrill ” に無関係ながらも、
憂わしい誤用例を1点ご指摘申し上げたい。

  性癖 」という名詞


本来エロスと無関係なのに、昨今、まかり通っているのが、

「 性的な嗜好 」 の意。

最初は冗談かと思った。

ところが、 一部メディアでも、 こうした捉え方をしていたので驚いた。

ここでの「 」は、「 性格 」「 性能 」「 特性 」「 性状 」 と同質。

先天的な性質 」のことで、 呉音では「 しょう 」 と読む。

※  「 呉音( ごおん )」 =  日本における漢字音のひとつ

◆  漢和辞典3点をご案内する。



漢和中辞典 』  p. 417.

赤塚 忠、阿部 吉雄(編)、旺文社、1977年刊

 


全訳 漢辞海 第四版

三省堂(アプリ版)

 


角川新字源 改訂新版

KADOKAWA(アプリ版)


※  傍線は引用者


こうして、漢和辞典の紙幅に占める割合から考慮しても、
セクシャル( sexual、性的 )な語意はマイナー用法と言える。

◆  名詞「 性癖 」の主な英訳は、可算名詞  ” tendency

【発音】   téndənsi
【音節】   ten-den-cy  (3音節)

「 傾向 」「 性向 」「 風潮 」の意。


tendency

物・人が性質上また意識して一定方向を志向していること。
社会や集団を一定方向に動かす原動力。

『 ランダムハウス英和大辞典  第2版 』
小学館、1993年刊 ( アプリ版 )
…  ” tendency ” の「 類語 」より

【発音】   téndənsi
【音節】   ten-den-cy  (3音節)


自動詞  ” tend “( ~ しがち、 ~ する傾向がある)
が名詞化されたもの。

【発音】  ténd  (1音節)

この成り立ちからも、くせのある「 性質 」そのもの
を指すことが分かり、「 性癖 」の定訳として適格。

◆  一体、次のどこが 性的 なのか。


せいへき【性癖】

  • 性質のかたより。 くせ。
    ( 広辞苑  第七版 )
  • 性質の片寄り。 くせ。
    ( 大辞林  第四版 )
  • 人の性質にみられるかたより。
    性質上のくせ。
    ( 明鏡国語辞典  第三版 )


3辞書それぞれ全文である。

見事なまでに、 色気皆無。

There’s nothing  sexual  about them at all.

さらに、誤りと明記する辞書もある。

  せいへき【性癖】

1.  くせ。
2. [あやまって] 性的な嗜好。


『 三省堂国語辞典  第七版 』
見坊 豪紀 ほか(編集)三省堂書店、  2014年刊
( 物書堂  アプリ版 )


▼  2021年刊の「 第八版 」で、
「 俗語 」 に格上げ !


  せいへき【性癖】

1.  くせ。
2. ] 性的な嗜好。


『 三省堂国語辞典  第八版 』
見坊 豪紀 ほか(編集)三省堂書店、  2021年刊
( 物書堂  アプリ版 )
<三省堂HP>


※  ハイライトは引用者


もどかしくてたまらない。

日本最大の国語辞典  と名高い 『 日国 』 の指南を請う。

全14巻( 全13巻+別巻 )。



日本国語大辞典 第二版 』 第7巻、 p. 1252.

小学館( 2001年刊 )より転載

※  傍線は引用者


以上が全文。

漱石 『 吾輩は猫である 』 が引用されている( 緑線 )。

綺羅( きら )」  とは、美しい衣服。
陋策( ろうさく )」  とは、 浅はかなはかりごと。

「  女性が美しい衣服で着飾る 性癖 は、生まれつき
の醜さを隠すための、浅はかな企みに基づくもの  」


このような内容。

出所は、 最終章「 十一 」。

登場人物の苦沙弥先生が、プロータスの言葉として紹介した、
女性全般への悪口の一節。

ひどい言い草だが、 エロくはない。

この箇所の 「 性癖 」が「 性的な嗜好 」 を指すとすれば、

とんだお笑い草である。


◆  結論として、「 性癖 」の本領に官能的要素はない。

上掲の漢和辞典3点と国語辞典5点が、 その証左。

しかし、 辞書とは裏腹に、 今や「 性的嗜好 」が巣くった模様。

挙句の果て、 うかつに言えない言葉になってしまった。

うっかり口にすると、「 変態 」扱いされてしまう。

1990年代までは、 職場 でも通用したのに。

今や、 職場が凍る。

ああ、 嘆かわしい。

もう、 けちいまいましい。

なんでこうなったのか。

 

 エロい 

 

 

◆  「 性癖 」 の話は、 ” threshold ”  でも取り上げている。

国語辞典の 「 敷居が高い 」 の解釈をめぐる流れで触れた。

言語の世界は、 理論と運用の一致しない場面が少なくない。

高い素養を積んだ学者の説を、 大衆が打ち破る事例もあり、
「 世間一般の影響力はすさまじい 」 「 痛快 」 と書いた。

◆  なお、 エロい 「 性癖 」 なら、 ” sexual propensity “。

【発音】   prəpénsəti
【音節】   pro-pen-si-ty  (4音節)


” sexual orientation ”  は、 自分の恋愛感情や性的関心の対象
にする性別を表す「 性的指向 」  →  「 性的好 」 ではない

【発音】   iɔ̀rientéiʃən
【音節】   o-ri-en-ta-tion  (5音節)


名詞 「 変態 」 は、 ” pervert “。

【発音】   pə́ːrvəːrt
【音節】   per-vert (2音節)


動詞  ” pervert ” ( 他動詞 ・ 自動詞 ) は発音が異なる。

第2音節にアクセントを置く( 強勢、 stress )。

【発音】   rvə́ːrt
【音節】   per-vert (2音節)

” pervert ” の語源は、 ラテン語 「 ひっくり返す 」( pervertere )。

略して  ” perv “。

【発音】   pəːv
【音節】   perv (1音節)

可算名詞 「 変態 」 の省略で目立つものの、  ” perv ” は動詞でも使う。

 


◆  表題  ” thrilled ” に戻る。

語源は、既記のように、古英語「 突き刺す 」( thyrlian )。

それから、” shiver “( 身震いする )と ” excite “( 興奮する )が生じ、
突き刺す「 恐怖 」と「 興奮 」から「 ぞくぞく 」「 わくわく 」に。

「 興奮 」 「 ぞくぞく 」 「 わくわく 」は、国語辞典で確認してきた。

情動 ( emotions ) の描写は各人各様であるものの、 気持ちが高ぶり、
落ち着かない  心状が共通点。

” thrill ”  の本質が、まさにこの通りであることは、
これまで見てきた成り立ちから理解できる。

カタカナ 「 スリル 」 も、この本質をしっかり押さえている。


スリル【thrill】

恐怖や興奮でぞくぞくしたり、はらはらしたりするような緊張感。
戦慄。

( 大辞林  第四版 )

さし迫る危険の中に感ずる楽しさ。 ひやひやする気持。
ぞっとする感じ。

( 広辞苑  第七版 )

《名》(形動)それ自体不快ではなく、むしろ楽しみの対象と
なるような恐怖感・不安感。また、それに付随して起こる緊張感。
そのような感覚を生じさせるさまにもいう。
[ モダン用語辞典(1930)]

( 精選版  日本国語大辞典 )


「 形動 」とは、「 形容動詞 」の略。
形容詞と異なり、「 スリル である 」と表現できる。

日本語の形容詞と形容動詞の違いは、 ” conclusive
で詳らかにしている ( 図入り )。

◆  ” thrill ” の意味合いを確かめたところで、冒頭7つを振り返る。

既に記したように、正式な場で用いる ” I’m thrilled ” は、

私はうれしい 」が妥当な線であろう。

語源「 突き刺す 」由来の ” shiver “、” excite “、そして「 恐怖 」、
興奮 」、「 ぞくぞく 」、「 わくわく 」。

これらに比べ、 堅い場面に似つかわしく穏当な「 うれしい 」。

気分が高揚しているに違いはないが、とんでもない方向に
話を導いてくれた、先ほどのエロい興奮には結びつかない。

その上、「 ぞくぞく 」「 わくわく 」 といった擬態語が帯びがちの、
明け透けな雰囲気とも無縁。


うれしい【嬉しい】

《形》
1. はればれと喜ばしい。ここちよく楽しい。
2. ありがたい。かたじけない。
3.(俗に)かわいい。にくめない。

( 広辞苑  第七版 )

《形》
1.(望ましい事態が実現して)心がうきうきとして楽しい。
心が晴れ晴れとして喜ばしい。
2. 満足して、相手に感謝する気持ちになるさま。
ありがたい。かたじけない。

( 大辞林  第四版 )

《形》
1. いいことがあって、心が明るくなる気持ちだ。
2. 都合がいい。ためになる。

( 三省堂国語辞典  第八版 )


至って真っ当な感情の高ぶりであり、みだらな要素はない。

こみ上げる健全な喜びに包まれている。

晴れの場所に堂々適用できる興奮表現が「 うれしい 」。

平易であると同時に手堅く、 使い勝手がよい形容詞である。

◆  とは申せ、 漢字で書くと、 ほんのり艶めかしい。



法務省「 戸籍統一文字情報 」より
http://houmukyoku.moj.go.jp/KOSEKIMOJIDB/M01.html
※  2022年2月19日アクセス


「 会意形声文字 」であり、 意味と音を表す文字を組み合わせた「 形声 」
と意味を組み合わせた「 会意 」の特徴が合体したのが、 漢字の 「 」。

以下の黄色い傍線には、 「 女性とあそびたのしむ意を表す 」 と書いてある。

つまり、 「 女 」 が 「 喜 」ぶのではなく、 「 女 」 「 喜 」ぶ。

”  to play and have fun with girl(s)  “   ということ。

日本語の単複が不明確ゆえ、 複数語尾は兼用の  (s) 


旺文社 漢字典  第二版
( アプリ版 )

※  傍線は引用者

力士言葉の 「 首投 」 に似通う。

どう見ても、 いやらしい。

やっぱり、 こっちもエロいかも。

常用漢字表 ( 平成22年内閣告示第2号 )から外れているため、
通常はひらがな表記なのが救いか。

※  人名用漢字 には該当する

本稿は、意図せずして、最後まで じゃらじゃら となってしまった。

◆  結びは、4大学習英英辞典( EFL辞典 )の威光をお借りして、
びしっと決めたい。

キーワードには ハイライト。


■  名詞  ” thrill

  • 重要度:<3001~6000語以内>
  • 書き言葉の頻出度:3000語圏外
  • 話し言葉の頻出度:3000語圏外
    ( LDOCE6 )


[ countable ]
a sudden strong feeling of excitement and pleasure,
or the thing that makes you feel this.
( LDOCE6、ロングマン )

[ 表記なし ]
1.  a strong feeling of excitement or pleasure;
an experience that gives you this feeling.
2.  a sudden strong feeling that produces a physical effect.
( OALD9、オックスフォード )

[ countable ]
a feeling of extreme excitement, usually caused by

something pleasant.
( CALD4、ケンブリッジ )

[ countable, usually singular ]
If something gives you a thrill, it gives you a sudden feeling

of great excitement, pleasure, or fear.
( COBUILD9、コウビルド )

【発音】   θríl  (1音節)


可算名詞( countable noun )である。

COBUILD9 の示す ” usually singular ” とは、「 通常、 単数名詞 」。

「 単数名詞 」( singular noun )とは、
単数形で使われるのが一般的な名詞

英英辞書では “ S ” または “ sing”  と略記されたりする。

 

■  動詞  ” thrill

  • 重要度:<3001~6000語以内>
  • 書き言葉の頻出度:3000語圏外
  • 話し言葉の頻出度:3000語圏外
    ( LDOCE6 の表記による )
    ※  名詞と同等


[ transitive ]
to make someone feel excited and happy
.
( LDOCE6、ロングマン )

[ 表記なし ]
to excite or please somebody very much.
( OALD9、オックスフォード )

[ intransitive or transitive ]
to make someone feel very excited and pleased
.
( CALD4、ケンブリッジ )

[ 表記なし ]
If something thrills you, or if you thrill at it, it gives you a
feeling of great pleasure and excitement.
( COBUILD9、コウビルド )

【発音】   θríl(1音節)

【活用形】  thrills – thrilled – thrilled – thrilling


自動詞( intransitive )と他動詞( transitive )を兼ねる。

LDOCE6 に、 自動詞の記載がないことが示唆する通り、
動詞は他動詞が優勢。

 

◇   ” I’m thrilled ” では、  形容詞  ” thrilled “


ここまで述べてきた ” thrill ” のニュアンスをそのまま引き継ぐため、あえて
言及しなかったのだが、中級学習者 の実力があれば、きっと分かるはず。

形容詞 ” thrilled ” は、名詞を直接修飾する限定用法ではなく、
自らが「 文の要素 」となる 叙述用法で用いられる。

すなわち、叙述形容詞( predicative  adjective )である。

状態を表す形容詞なので、「 be動詞 」に続くのが基本パターン。

なぜ「 be動詞 」に続くのかは、同じく叙述用法の形容詞  ” aware
で事細かに考察した。

  • 英語の形容詞の用法は2つ
    →  「 限定的用法 」と「 叙述的用法 」
  • 日本語の形容詞の用法は3つ
    →  「 限定的用法 」と「 叙述的用法 」と「 副詞的用法

※  「 用法 」の直前の「 的 」が抜けても同義

 

■  形容詞  ” thrilled “

  • 重要度:<3001~6000語以内>
  • 書き言葉の頻出度:3000語圏外
  • 話し言葉の頻出度:3000語圏外
    ( LDOCE6 の表記による )
    ※  名詞・動詞と同等


very excited, happy, and pleased.

( LDOCE6、ロングマン )

very excited and pleased.
( OALD9、オックスフォード )

extremely pleased.
( CALD4、ケンブリッジ )

If someone is thrilled, they are extremely pleased about something.
( COBUILD9、コウビルド )

【発音】   θrɪld  (1音節)


” thrilled ” は 「 1音節 」。

” thrill ” と 変わらない。

舌先を半回転戻す動きが加わるので、 ” thrill ” にも増して急ピッチな感。

ぺろん」みたいな勢いで、一気に息を吐き出して発声。

” thrilled ”  が 発音できるようになれば、自信がつく。

【発音】   θrɪld  (1音節)

日英の 「 音声 」 「 音節 」 については、” integrity ” で深掘りしている。
( 図入り )

 

◆  うれしくない心境を 婉曲的 に表現するのに役立つのが、

not thrilled “。

否定の副詞 ” not ” を添えて、 気乗りしない心を品よく表す。

  • “The managers were not thrilled to see me.”
    ( マネージャーたちは私に会いたくなかった。)
  • “I was not thrilled to come back to work. ”
    ( 仕事に戻るのが楽しみではなかった。)
  • “Many people are not thrilled to go to the dentist.”
    ( 歯医者に行くのを嫌がる人は大勢いる。)

not a big fan of ”  や  ” not too fond of  ”  と同様、

実は  嫌で嫌で、 胸の中がむしゃくしゃしている。

その否定的感情を理性的に遠回しに表出するフレーズ。

 

◆  例の7文を転用した和訳例は、

  •  I’m not thrilled to meet you.
    お会いしたくなかったです。)

  •  I’m not thrilled to work with you.
    ( 本当は一緒に働きたくないです。)

  •  I’m not thrilled to collaborate with you.
    ( コラボなんかしたくないんです。)


  •  I’m not thrilled to be accepted.
    ( 合格できたけど、うれしくないです。)
    ( 本当は入社したくないんです。)

  •  I’m not thrilled to be here.
    ( ご一緒したくなかったです。)
    ( 来たくなかったです。)

  •  I’m not thrilled to be on your team.
    ( チーム入りしたくないです。)

  •  I’m not thrilled by the opportunity.
    ( こんなの迷惑なんです。)


うんざりした本音がこぼれ出る。

言い振りは下品でないが、 中身はネガティブすぎて悪印象。

こちらの格言は至言。


If you don’t have something nice to say,
don’t say anything at all.
( 褒めるところがなければ、 なにも言うな。)

沈黙は金なり。

Silence is golden.
Silence is gold.

Some things are better left unsaid.

( 言わない方がいいこともある。)

All truths are not to be told.

( すべての真実を語るべきではない。)

 

 

 

 

 

 

 

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